旅する写真家、竹沢うるまが山を歩く理由について

これまで150を超える国と地域を旅し、数々の作品を発表してきた写真家の竹沢うるまさん。写真を撮るという行為を通じて世界と向き合う写真家が、ひとりでテントを背負い、山を歩く理由とは。

“大地”を求めて、世界を旅する

1021日におよぶ長い旅を記録した『Walkabout』や、インドやネパールなどのチベット文化圏を追った『Kor la』、国境や人種、宗教などの“境界”をテーマにした『Boundary | 境界』など、これまで多くの写真集を発表してきた竹沢うるまさん。その作品は、ときに力強く躍動し、ときに荘厳な凄みをもって、世界の広さと多様性、美しさを教えてくれる。

アマゾンの密林を進み、ヒマラヤの峠を越え、アイスランドの荒野を行く……。世界を旅する写真家が追い求めている被写体は、“大地”だという。

「自然の風景と、その一部として生きる人間の営みを含めて、僕は“大地”と呼んでいます。人間が『生きる』や『祈る』といった純粋な行為を通じて自然とつながったとき、僕は世界が過不足なく調和した“大地”の美しさを感じるのです」

山を歩くことで、自分の軸を思い出す

人間もまた自然の一部である―――。そんな感覚は、山を愛する人ならきっとわかるだろう。もちろん、うるまさん自身もこれまで数多くの山を幾度も歩いてきた人だ。世界を旅するうるまさんにとって、山の魅力とは？

「やはり、無心になれることですね。都市で生活しているといろいろな出来事があって、ときどき自分の軸を見失ってしまいそうになることがある。そんなときに山へ行くと、余分なものが洗い流されて、自分の中心にあるものがはっきりとする。一歩一歩、山を歩くという行為には、どこか瞑想にも通じる感覚があると思います」

ひとりでテントを背負って山を旅することが多い、うるまさん。近年、印象に残っている場所のひとつが屋久島だという。

「梅雨時を狙って屋久島の花山歩道を歩いたのですが、とにかくすごい雨で……。ずぶ濡れになるし、ヒルも多くて大変でしたが、朝方には雲の切れ間から太陽がわっと差し込む瞬間もあって、本当にきれいでした。雨によって森の生命力が活性化することを肌で感じられたし、年経た巨木を『御神木』と呼ぶ感覚がよくわかって、とても良い旅でした」

うるまさんは山にいるとき、どんな瞬間にシャッターを切るのだろう？

「たとえば『白神岳の山頂まで行ってみよう』など、計画段階ではなにかしら目的を設定することが多いですね。ただ、それが本当のゴールかといえば、そうではない。山を歩いていると、意図しない光景や想像を超えた瞬間と出合うことがある。それをていねいに感じ取って、シャッターを切ることが大切だと思っています。そうすることで、予定調和ではない自分だけの写真になると思うから」

４年ぶりとなる新作写真展「Boundary | 中心」を開催

12月９日から開催される写真展「Boundary | 中心」は、前作「Boundary | 境界」から続くシリーズ最新作。

「4年前の『Boundary | 境界』は、僕にとってひとつの転換点でした。それまでは、旅を通じて生まれる自分自身の内側にある衝動や心の動きを表現することに必死だったけれど、『Boundary | 境界』以降は、旅で感じた問いを外に向けて提示したいと考えるようになったのです」。

撮影地は、インドネシアやインド、ベナン共和国、日本……など。いわゆる“僻地”にいながら土地に根ざした伝統とともに生きる人々の姿を捉えた写真は、「世界の中心は、どこにあるのだろう？」という疑問を、見る者に提示する。同タイトルの写真集が青幻舎より発売が予定されている。

会場・会期

キヤノンギャラリー銀座
開催期間：2025/12/09~12/24
休館日：日、月、祝日
10:30-18:30 | 入場無料

キヤノンギャラリー大阪
開催期間：2026/02/17-02/28
休館日：日、月、祝日
10:00-18:00 | 入場無料

ギャラリートーク

キヤノンギャラリー銀座
2025/12/13　14:00-14:45 先着50名
2025/12/20  14:00-14:45 先着50名

profile

竹沢うるま
1977年生まれ。写真家。
出版社スタッフフォトグラファーを経て、2004年独立。2010年から2012年にかけて1021日103カ国を巡る旅を敢行し、写真集「Walkabout」（小学館）と旅行記「The Songlines」（小学館）を発表。雑誌や広告の撮影をしながら、写真集と写真展において自身の作品発表を継続的に行っている。第三回ナショナルジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。大阪芸術大学客員教授。https://uruma-photo.com/