
万珍醸造 (MANGOSTEEN BREWING LAB)/山梨県|山とクラフトビール〜ブルワーを訪ねて、特急で!〜
オガサワラガク
- 2025年11月20日
下山後の一杯はどんな飲みものでもおいしい。とくにシュワっとする、地元ならではのクラフトビールは格別です。そんな特別なビールを作っているブリュワーさんを訪ねて、そのおいしさ、魅力をちょっとだけ深く紹介します。
餃子超人、山に登らずマンゴスチンに立つ
万珍醸造 ヘッドブルワー
栗原 稔さん


万珍酒店 / MANGOSTEEN
- 住所:東京都世田谷区代沢4-29-14
- 電話番号:03-6413-8819
- 営業時間:14:00~22:00
- Instagram:@mangosteen_liquors
いつも編集部の山﨑さんから届く工程表は、もはや“指令書”に近い。私のことをまったく信頼していないようで、私の最寄り駅の出発時刻から、新宿で乗るべき特急あずさの時刻、降りる駅までが分刻みで記されている。情けない。ただ、今回の工程表には異変があった。「山登り」の文字がない!
じつは山﨑さんがアルプスでヒザを負傷されたそうで、予定していた登山は中止に。もちろん心配だ。心配なのだが……その知らせを聞いた瞬間、ほんの1ミリ、いや0.5ミリだけ山登りを回避したことに「やったぁ」と思ってしまった。この小さな邪心が天に見透かされたのか、私はあずさの特急券を取りそびれ、小淵沢まで2時間の立ちっぱなしを余儀なくされた。山に登らずして脚がパンパン。神様、やっぱり見てたんですね。私は足をガタガタならし、目から涙を流しながらおにぎりを噛み締めるのであった。(全席指定のあずさの特急券は売り切れることが多いので、必ず前日までに手配しよう!)
そんなこんなでたどり着いたのが、明野にある【MANGOSTEEN BREWING LAB(万珍醸造)】。元はカメラ三脚の工場だったという建物は天井が高く、開放感たっぷり。中に入ると、ビールのタンクとアート、レコード、音響機器、そして餃子の香りが交錯する、まさに〝カルチャーの実験場〞だ。

お話を伺った栗原さんは、最近はビールの仕込みに忙しく、山には登っていないということだが、元々、中学山岳部出身。中学生にして南アルプスに挑み、高校卒業後はバックパッカーとして世界の山々をめぐったという、登山界隈では相当な強者である。
そんな彼がヘッドブルワーを務める万珍醸造には、“クラフトビール”という言葉だけでは括れない熱量がある。「うちは“地ビール2.0”を目指してるんです。地元の野菜や果物を使って、仲間といっしょに、ビールをカルチャーとして発信していきたい」
実際この日も、地元野菜「増富きゅうり」を漬け込んだ「キューカンバーエール」の仕込みが行なわれていた。増富きゅうりは、かつてこの地域で親しまれていた在来種。数年前、地元でキューカンバーエールを造ろうと考えた栗原さんが農家を訪ね歩くなかで、「昔の種を持っているおじいちゃんがいるらしい」という噂を聞きつけ、そこ
からプロジェクトが始動した。いまでは、その貴重な種から育てた増富きゅうりをビールに漬け込んでいる。まさに“種から始まったビール”だ。
そして、ビールといえばやっぱり餃子。そんな発想から生まれたのが、ブルワリーに併設された中華料理店「万珍包」だ。使用済みの麦芽(バグス)を乾燥させて粉にし、皮に混ぜ込んだオリジナルレシピ。もっちり香ばしく、ビールとともに頬張れば、そこはもう幸せの頂上。しかも、万珍醸造のタップビールをその場でいっしょに楽しめ
るのも最高のポイント。餃子以外も、どれも手間と魂がこもったすばらしい料理の数々だった。

さらにこの場所の奥深さは、ビールと餃子だけにとどまらない。マンゴスチン酒造では、音楽ライブやアート展示、ビアフェスなども積極的に開催されている。これまでには、水曜日のカンパネラのコムアイさんやトミー・ゲレロといった個性派アーティストがこの場所に登場しており、訪れるたびに新しいなにかが発酵しているような、そ
んな空気に満ちている。
「地ビール2.0」という言葉どおり、ここにはただ飲んで終わりではなく、土地と人とカルチャーが混ざり合う魅力がある。仲間たちがそれぞれの“やりたい”を持ち寄って生まれたこの場所は、ブルワリーであり、ギャラリーであり、ライブハウスであり、餃子屋でもある。山のふもとで、カルチャーと餃子とビールが、今日も静かに、そして力強く発酵しています。
下山後の一杯は……

SUN DANCE PEACH WHEAT ALE
- 946円(税込)
- スタイル:ウィートエール
- アルコール度数:5.5%
- サイズ:365㎖
200㎏の桃をすべて手作業で仕込んだ、果実味たっぷりの桃ビール。甘さや苦みはなく、桃そのものの香りがふわりと鼻に抜けていく。感動的においしい!
おすすめの山

甲斐駒ヶ岳
「甲斐駒ヶ岳ですかね。中学生のときに登った思い出が心に残っているのもあるのですが、ここから毎日見ていて、やっぱり、きれいだなって。とくに雪がかかった甲斐駒ヶ岳はいいな、登りたいって思うんです。ここで醸造を始めてから忙しくて、登れていないんですけどね」
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