
“撮る”+“歩く”で広がる世界【後編】|TORUKUを楽しむふたりの視点
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“撮る”と“歩く”を組み合わせる楽しみを提唱するTORUKUプロジェクトについて、前編では、発起人のひとりであるOMデジタルソリューションズの菅野幸男さんへのインタビューをお届けした。
後編では、実際に撮る&歩くを楽しんでいる菅野さんと、アウトドアスタイル・クリエイターの四角友里さんがクロストークを展開。
ふたりが考える、“撮る”+“歩く”の魅力、カメラがあるからこそ気付けることなど、TORUKUにまつわるあれこれをお届けする。
心が動いた瞬間を忘れないために
――四角さんは、なにか大きな目標に向かって歩くというよりは、途中の行程や出合いを楽しんでいるイメージがあります。写真にもそれが現れている気がするのですが、ご自身ではそういったことを意識されていますか?
四角 それは、山登りを始めたころの体験が影響しているかもしれません。私は小さいころからアウトドアとは無縁で、さらに運動が苦手だったこともあり、頭の中で山登りはスポーツだと思ってたんですよね。大人になって自然のなかに行くようになり、それから山を好きになったんですが、その理由って身体を動かすことじゃなくて、心が動く瞬間が多いなと感じたからなんです。
心の動きが積み重なった先に目的地がある。そのゴールも山頂とは限らなくて、花との出合い、夕焼け、友達の笑顔、自分の感情のピークなど、本当にさまざま。そういう心を動かすひとつずつの行為こそが山歩きだと感じています。

カメラに関しては、最初は体力がなくて歩くのも遅いから、写真なんて撮っていられなかったんですよね。でも、自分が山歩きの過程をのんびり楽しむのが好きだというのがはっきりしてきて、そこにカメラを組み合わせたら、すごく心地が良かったんです。
小さな一歩一歩を積み重ねながら、ときに立ち止まり、シャッターを切る。いつしかこれが自分のリズムになり、ゆっくり歩く理由にもなっていきました。
カメラがあることで、心の動きに敏感になるし、景色がさらに輝いて見える気がします。
――具体的には、どういった瞬間にシャッターを切りたくなりますか?
四角 山に行くとき、とくにひとりのときって、「自然とおしゃべりしに行く」っていう感覚なんです。そうやって歩いていて、なにかを「いいな」と感じたり、ときめいたりしたときに、気が付いたらシャッターを切っているかもしれません。そんな瞬間を写真に収めることで、自分のなかにグッと深く、愛おしく残っていくんだろうなって思うんです。
圧倒的な絶景などは、後からでも鮮明に思い出すことはできると思うんですけど、私はそこに至るまでに積み重ねてきた、すぐに忘れてしまうかもしれないくらいのささやかな瞬間こそ好きだし、大切にしたいんですよね。
そんな、小さなさざ波みたいなものが撮れたら、カメラを持っていてすごくよかったなって感じられる。そのようなものが、1日、ひいては自分の人生を構成するかけがえのない要素になっていくから、それらを忘れないためにカメラや写真って大事だと思うんです。

菅野 それは、TORUKUの根底にも通じるものです。なにかに出合っても、写真を撮らないと意外と記憶からは抜けちゃうものなんですよね。でも写真で撮ったものって、「なんとなくあのときに、このあたりで撮ったあれがあったよね」って覚えているもので、私もそれが大切だと思っているんです。
写真を撮らなかったら自分の記憶からもなくなってしまうかもしれなくて、カメラってそれをしっかり記憶していくためのツールであり、撮影はその行為だと思うんですね。ゆっくり歩きながら、そうやって、忘れるかもしれない大事なものを残してほしい、という想いがTORUKUを立ち上げた背景のひとつにあります。

撮るという行為を通じて、歩きの瞬間が深まる
四角 カメラとともに歩くことによって、心の腐葉土が熟成するというか、感性が豊かになる気がします。より五感を使って歩けているかなと。
――五感を使って歩く、撮ることで、心と身体、両方の記憶に残る気がしますよね。あと、写真があることで、その記憶や感情がよみがえるという感覚もあると思いますが、写真はよく見返しますか?
四角 チェックマークを付けて終えるように山を消費するという感覚でなく、その後、写真があることで一回の山歩きを何度も楽しむことができている気がします。頻繁に山に行けなくても、振り返って余韻を味わう独特の時間や感情は、カメラがくれるものですよね。
菅野 そうですね。後から写真を見返したとき、だいたい「あのときこれがあって」というのは覚えているじゃないですか。それはつまり、撮るという行為を通じて、歩く瞬間がすごく深くなっていると思うんですよね。
四角 動かない状態で撮るよりも、身体とつながるというか、一歩一歩の歩みと結びついているのがおもしろいですよね。
菅野 歩いていたらいろいろな出合いがありますが、写真を撮ろうっていう意識がないと、すっと通り過ぎちゃう気がするんです。でもカメラを持っていると、水たまりに映っている景色だったり、小さい花の色だったり、かすかなものに目が留まって、写真でそれが残っていると「あのときこうだったな」って思い出せる。
四角 きっとすてきな瞬間って、じつはいくつも散らばっていて、それに気付けるか、気付けないかってすごく大きい。それを見逃さず、すくい取れるほうがやっぱり豊かじゃないですか。カメラはそのきっかけのひとつになってくれる気がします。

日常にもさまざまな変化や気付きがある
――四角さんからは、心が動いた瞬間にシャッターを押すという話がありましたが、菅野さんが写真を撮りたくなるのは、どんなときですか?
菅野 私は日々のルーティンがあるんですが、会社に行くときはいつも2駅分歩いて花など植物をいろいろ撮っているんです。「道端花壇」というテーマで個人インスタグラムでもアップしています。
自分の家の周りの風景がどんどん変化していくので、それを残しておきたいと思い撮り始めたんですが、いつも歩く道でもすごく変わるんですよね。なにもないような道でも雑草が伸びていたり、今日は咲いていなかった花が、翌日歩いたら咲いているとか。
あと、いまの季節はこの時間帯の光がいいとか、こういう影が出るとか、日が長くなるとこっちもいいなとか、毎日撮っていると本当にいろいろな発見があるんです。それをひとつずつ、摘んでいくのが楽しいんですよね。

四角 お花をひとつずつ心に摘んで、大きな花束になっていくみたいな。
菅野 そうです。同じところを歩いても写真を撮っているからそれを感じられるし、すごい得した気分になるんですよね。
もちろん山にもカメラを持って行くんですが、長く歩いていると、光の移ろい、風の抜け方、足元の植物、雲の動き、人との出会いなど、本当にいろいろな変化や発見があります。
ただ、撮りながら歩くとコースタイムがだいたい2倍になるんですよね(笑)。だから、歩くときは時間を調整するために早歩きになるんですが、私にとってはそれがいいんです。写真を撮るために立ち止まる時間と、次の景色に向かって歩く時間。そのリズムができると、山の楽しみ方が一段深くなる感じがあります。
視点が増えることで広がる世界
菅野 私自身、会社に入ったころは写真やカメラに対する知識もあまりなかったんですが、写真を撮り始めるようになり気付いたことも多かったです。そのひとつが、水たまりの反射でした。水たまりって普段通り過ぎちゃうと思うんですが、歩いているとどんどん角度が変わるじゃないですか。そのときカメラを持っていたので、「この反射ってこんなにきれいなんだ」と感じることができたんですよね。自分のなかではすごく印象的な出来事でした。
四角 同じような話でいうと、私はクモの巣ですね。クモの巣って忌み嫌われるものというか、汚れみたいなイメージじゃないですか。
昔、初めて山に泊まった日の朝、草原のなかに朝露に濡れたクモの巣がキラキラと輝いていて、すごく美しいと感じたんです。ちょっと人生が変わるくらいに胸を打たれてしまって。それが山に泊まることに魅了された朝だった気がします。
写真を撮るようになると、ひとつの美しいものや、うれしいものを、さまざまな方向から見られるようになる。新しい視点がもらえることで、同じ半径の中でも世界が広がる感覚がありますよね。

心を豊かにするツール
四角 もちろん壮大な風景が広がる場所で出合えるものは大きかったりするんですが、かならずしも冒険の大小に比例するものではないかなと思っています。それよりは、カメラを持つことで視点が増え、遠くに行かなくても身近なところでたくさんの発見に出合える気がしています。
あと、心に余裕がなくてテンションが低かったり、写真もイマイチだなと思ったりしていても、写真を撮っているうちに気持ちが乗ってくることも多いです。そういう意味では、カメラってただ写真を残すだけじゃなくて、気分や心の豊かさにもつながるものなのかもしれないですね。
菅野 私たちの企業理念には、その「心を豊かにする」という想いが込められているんですよね。カメラを持っていると心が豊かになる。自分が幸せになれるし、撮ってあげたら相手も幸せになれるツールだと思っているんです。
だから、私たちとしては、高性能なカメラを届けるだけじゃなくて、“撮る”と“歩く”という行為を組み合わせる魅力、つまり、歩きながらなにげないところを摘んで、切り撮っていくような行為をすることで自分が豊かになっていく――TORUKUを通じて、そのようなことを伝えていきたいと思っています。

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Photo/T.Takehisa 後藤武久
Text/N.Hijiya 泥谷範幸
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