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山には、心が震えるような感動がある――松本 茜さん|だから、私は山へ行く#33

山が見せてくれる一瞬の表情を切り撮った作品を発表するいっぽうで、山と写真のコミュニティ「宇宙HIKE」を主宰する松本茜さん。いつも“いま”を生きていたい―――。そう話す茜さんが、山へ行く理由。

「だから、私は山へ行く」
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宇宙の光が照らす奇跡のような〝いま〟をフィルムに焼きつけたい

写真家であり、山と写真を楽しむコミュニティ「宇宙HIKE」の主宰者でもある松本茜さん。彼女が切り撮る山の表情を見ていると、岩や花、霧や水に降り注ぐ光の美しさに目を奪われる。その作品を前にして、ふと思い出す。太陽から地球に光が届くまで、約8分19秒。私たちの眼の前にある〝いま〞は、1億4960万㎞の宇宙を旅してきた光が映し出すものだ、と。茜さんの写真には、そんな光を慈しむような空気感がある。

いまを、生きる

▲さまざまな出会いに導かれて、山の世界に入ったという茜さん。自然体で、前向きで、軽やかな人柄が、きっと周りの人を魅了するのだ。

茜さんが山を撮るようになるまでの道のりは、不思議な縁に彩られている。幼いころから本格的にピアノに打ち込んでいた彼女がフォトグラファーとして歩み始めたのは、28歳のころ。当初ファッションフォトグラファーのもとでアシスタントをしていた茜さんは、ふとしたきっかけで上高地の嘉門次小屋を訪れることになる。

「アシスタント時代は忙しくて、休みが取れるのは師匠が海外休暇に行っている2週間だけ。厳しい現実から逃げたくて、当時の自分が知る限りの〝日本の果て〞に行こうと思ったんです」

残雪期の上高地。茜さんは、嘉門次小屋でクライマーの女性と同室になる。

「興味津々で話を聞いていたら、彼女はこのあと、穂高連峰に登りに行くというんです。最果てだと思っていた上高地のさらに奥があるなんて知らなかったし、彼女が見せてくれた雪山の写真がきれいで。それで、翌朝彼女を見送っていたら『茜ちゃん、その格好だったら涸沢まで行けるからいっしょに行く?』と誘ってくれたんです」

一度は断った茜さんだったが、嘉門次小屋の方の「あなたの人生に雪山を登るチャンスは、この先訪れる?」というあと押しもあり、涸沢を目指すことに。

「彼女は白血病の研究者で、雪山を登っている8時間のあいだ、人間の細胞の話などをしてくださったんです。聞いている話も見える世界もまるで宇宙のことのように感じられて、ずっと涙が止まらない特別な旅になりました」

 

▲いまは「Mamiya c220」という二眼レフカメラで、ひとり山へ入ることが多いそう。「宇宙から届いた光をていねいにフィルムに落とすのがいちばん幸せです」

山に魅了された茜さんは、やがてファッションを離れてアウトドアの世界に飛び込む。ヨシキ& P2の吉野時男さんや山岳カメラマンの平賀淳さん、野口健さんなど、さまざまな出会いにも導かれ、より深く、自然を旅するようになる。

「大切な人たちが地球の美しさを見せてくれる。だから私もだれかの力になりたいと思えるんです」

きらきらと輝く瞳でそう話す茜さん。その言葉には、自分の人生を選び取ってきた人がもつ、たしかな響きがある。音楽からファッション、そして山の世界へ。軽やかに未知の領域にふみ込んできた茜さんの原動力とはなにか。

「過去でも未来でもなく、〝いま〞しかない。いつもそんな感覚でいたいんです。自分に正直に生きて、心が震えるような感動に出合うことが、人生の悦びだから」

山で写真を撮る理由

▲2019年には、平賀淳さんからの紹介で野口健登山隊にカメラマンとして同行。ヒマラヤの名峰マナスルの撮影を行なった。

「春に芽吹いた双葉が夏に輝いて、冬に枯れて、また雪から芽を出す。山を歩き、そんな自然の循環を見ていると、人間も地球の一部だと思えるし、社会のなかでは忘れてしまいがちな本来の自分に戻れるような感覚もある。だから、雨に降られているときも、体がぎゅっとなるくらい静かなときも。山にいるすべての瞬間が幸せです」

茜さんにとって、山で写真を撮ることは「いまの自分にフィットする表現のひとつ」だという。

「なにを選び、なにを選ばないのか。写真って、一瞬一瞬が選択のくり返しだと思います。だからこそ、自分のなかにある心の動きに、気づくことができる。決められた楽譜も、他者からの評価もない自然のなかで写真を撮るという表現に、救われているんだと思います」

▲山を始めたばかりのころ、兄妹誌『PEAKS』の企画でジャンダルムへ。撮影担当の平賀淳さんとの出会いにも大きな影響を受けたという。

宇宙HIKEの仲間と

茜さんは半年ほど前から写真家として山と写真のコミュニティ「宇宙HIKE」を主宰。仲間に伝えているのは細かい技術ではなく、その人にとって大切な写真を撮るための〝道〞のようなものだ。

「たとえ写真がブレていても、白飛びしていても、悦びをもって撮っているなら、それが正解。ただ、その悦びに気づくためには、自分自身と向き合う必要がある。ときに厳しい質問をしたり、心の変化に寄り添ったりしながら、その手伝いをしている感覚です」

▲嘉門次小屋での出会いをきっかけに訪れた残雪期の涸沢。この一枚が山岳フォトグラファーとしての第一歩になった。

「宇宙HIKE」の活動を通じて、学ぶことも多いという。

「山歩きの装備を選んだり、トレイルで足を置く場所を考えたり。山が好きな人って、選択する力が鍛えられていて、視野が広い。だから気づかされることがたくさんある。『宇宙HIKE』は、人や自然に対する愛情が深い人が多くて、とても心地よいグループ。未来のことを考えるのが得意じゃないけれど、この先、みんなといっしょに山に恩返しできるようなこともしていきたいです!」

山に身を置き、カメラという手段を使って、人生の悦びとていねいに向き合う。茜さんはきっとこれからも、彼女にしかできない表現を続けていく。

 

松本 茜さん
1984年生まれ。2005年大阪音楽大学短期大学部卒業。2015年から山をテーマに撮影を続け、岳人雑誌などで作品を発表。人生のアルバムに残したい写真をテーマに山と写真のコミュニティ「宇宙HIKE」を主宰し、講師として全国で撮影会を開催している。
Instagram: @matsumotoakane_photo

 

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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