
手紙のいきさつ。上高地で暮らし、働くことを選んだ私が見つけたもの
宇宙HIKE
- 2026年01月12日
30代半ば、ふと始めた登山が思いもよらず人生を変え、一時は会社勤めを離れて短い期間ながらも上高地で働くことに。同時に山を通じ出会えたフォトグラファー松本茜さんの言葉に『世界の在り方を見つめる自分の眼差しに向き合う道としての写真』を見つけ、グループ展や宇宙HIKEに参加。思いのかたちを編む表現としての詩と写真に心を傾ける今、そっとその道を振り返る。
人の生きた足跡と記憶のかけらを拾うように、カメラと旅をした

元々は、お寺と仏像が好き。人の生きた足跡と記憶のかけらを拾うように、カメラと旅をした。そうして、とうとう念願の一眼レフを手にした私を、山好きの叔父が笑って誘う。
「良い写真が撮りたいなら、山に行ってごらんよ」
正確には、バスで登って降りれば良いよという冗談みたいなひと言だったけれど、登山もアウトドアも縁のなかった私によくぞすすめてくれたもので。そのひと言がカメラと山に向き合うきっかけになり、その先には上高地での季節が待っていた。
憧れながらもどこか遠くに感じていたはずなのに。気がつけばその上高地で暮らし、働くことを選ぶなんて。きっと誰も思わなかったはず。一緒に冬の上高地を歩きながら「今、働く人募集中だよね」と口にした仲間でさえ。
忘れない光景

忘れない光景がある。雨上がり、冷たい風がざわざわと流れ、夜の河童橋を渡る私の頬を掠めた。劇場の幕が上がる前のような静けさと、高揚が入り混じって。明日はきっと何かある。そんな予感が胸を占める。
翌朝、いそいそと橋に向かい見上げた景色は、一夜で紅葉から雪景色へ。眩しくて、あんまりにも鮮やかで。言葉の代わりに白い息がこぼれた、喉の奥の冷たさを今も思い出す。
どんな時も本当に美しかったけれど、上高地での時間は決して特別ばかりではなく。外で友達と食べるご飯の美味しさや、霜のおりた朝の橋の上で滑って転げての大笑い。夏のピークにはせっせと働き、重いザックの登山客の背中を羨ましく見送る。そこには、確かに暮らしがあり、喜びがあった。
手紙のいきさつ

旅も、日常も、人も自然も。一つの輪の中にある。流れた時間が、包んでくれた光と影が、そう教えてくれてた。そのあるがままの呼吸を感じ、まっさらな心で世界と向き合うことは、まだ顔も知らない誰かにいつか出会い、手を重ね微笑み合うのに似てる。同じ思いでなくても、特別な意味も、奇跡だって、なくていい。
ただ、あなたに触れてみたい。伝えてみたい。願いがこぼれ、あふれる様に。いつしか写真と言葉は寄り添った。そこに詩という名前をつけるのは、なんだか照れてしまうから。私はそれを、宛先を知らぬ短い手紙と呼んでいる。何気なく、ある日ひらりと届いてくれます様に。そう願いながら。

写真&テキスト◎たかはし あゆみ(宇宙HIKE)
https://www.instagram.com/ayumi_furueru.sekai/?hl=ja
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PROFILE
宇宙HIKE
Photographer 松本茜主催、山と写真のコミュニティー。 宇宙を旅するように山へ登り、旅や写真を使って「自分」にフォーカスする。 ユーモア溢れるメンバーが集まり、日々楽しみながらいろんなフィールドで活動を続けている。
Photographer 松本茜主催、山と写真のコミュニティー。 宇宙を旅するように山へ登り、旅や写真を使って「自分」にフォーカスする。 ユーモア溢れるメンバーが集まり、日々楽しみながらいろんなフィールドで活動を続けている。



















