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服づくりと釣りを繋ぐ、PHIGVEL 東野英樹の道具愛 | Life × Nature あの人の「スタイル」

道具は「スタイル」の象徴だ。アウトドアとの向き合い方と、日々の暮らしが溶け合うあの人のスタイルを探り、愛用品を紹介する本連載。

第1回は、メンズファッションブランド、フィグベル(PHIGVEL)のディレクターであり、ここ数年フライフィッシングに熱中する東野英樹さんに話を聞いた。

編集◉宮﨑真里江 Edit by Marie Miyazaki
写真◉熊原美惠(スタジオ)、宮﨑真里江(取材写真) Photo by Yoshie Kumahara, Marie Miyazaki

服づくりの美学に通じるフライフィッシングの魅力

▲某河川にて。お目当てのお魚に出合えてうれしそうな東野さん。写真:本人提供

ワークやミリタリーなど普遍的な実用服を独自の視点で再編集し、上質な日常着に昇華するフィグベル。2002年のブランド設立から一貫し、東野さんのクリエイションの基盤には、「道具としての服」への好奇心がある。そんな東野さんがフライフィッシングに出合ったのは、約6・7年前。知人から偶然誘われたことがきっかけで、瞬く間にのめり込んでしまったという。

「40歳をすぎ、ちょうど仕事のペースに余白が生まれ始めたタイミングだった。ハマった一番の理由は、フライフィッシングが道具仕立てな遊びでおもしろかったから。僕はもともと、道具っぽい服やモノが好きなんです。背景にあるカルチャーも含めて深掘りしていくうちに、どっぷり浸かってしまいましたね」

「オンシーズンは3月~9月。薄着で済む夏がメインで、じつはフィッシングジャケットの出番は少ない。だからこそ、着られる日には絶対に着たい。’30~’40年代のヴィンテージで、数あるコレクションのなかでもとくに気に入っている一着です」

好きが高じた新拠点。カルチャーの発信地を目指して

▲三軒茶屋エリアの雑居ビルの一室。ドアの向こう側には、釣りから始まる外遊びの世界が広がる。

遊びに対する興味はさらに加速し、東野さんは今年、釣り仲間のパートナーと共にフライフィッシングをベースにしたショップ、The Chalet(シャレー)をオープンした。

「熱中するうちに、自分がフィールドで使いたいもの、作ってみたいものが次々と出てきた。20年以上続けてきた自身のブランドとは別軸で、僕個人がやりたいことを表現できる気軽な空間が欲しいと思ったんです」

シャレーは、いわゆる釣具店とは趣が異なる。専門的な道具も扱うが、古着のベストや街で着るようなオリジナルのプリントTシャツなど、機能性だけを追求しない、東野さんのスタイルを象徴するアイテムが並ぶ。

▲店内にはフライロッドの工房を併設。東野さんのパートナーが製作を担う。
▲パタゴニアなどの古着のベスト。釣りをせずとも、その佇まいに惹かれる。
▲本棚にはフィッシング分野を筆頭に、店内で読めるアウトドア書籍が並ぶ。

「本格的なウエアで全身を固めずとも、フライフィッシングは十分に楽しめます。ウェーダーとブーツさえしっかりしていれば、中に着るシャツはなんだっていい。ベストだって古着でいい。僕自身がそういうスタイルが好きだし、シャレーではそんな提案をしていきたい。フライフィッシングの世界は若い人が入りづらい印象を持たれがちですが、ここが入り口になり、カルチャーの発信地として育っていけば嬉しいですね」

フライフィッシングをしていなくてもスタイルに惹かれて訪れ、そこから自然へと繋がっていく。東野さんが提案するのは、日常と地続きにあるアウトドアの楽しみ方だ。

「パタゴニアの前身ブランドであるシュイナード・イクイップメントが、’70年代に発売した名品クライミングパック『クレイグ・デュー』。ずっと探していたモデルで、最近やっと状態の良いものに出合えました。デザインがシンプルで、単純に格好いい。僕は服もモノも使っちゃう派。貴重なモデルですが、車移動の際も自転車に乗るときも、街で愛用しています」

自然と向き合うことで変わった、仕事と暮らしの価値観

秋田の高校を卒業後に上京。25歳でフィグベルを始めてからは、仕事一辺倒だった東野さん。しかし、フライフィッシングをとおして自然に触れることで価値観は大きく変化した。

「歳を重ねるにつれ、ごく普通に自然の良さを知り、山の景色や花をきれいだと感じられるようになった。海外ばかり見ていた視点が国内に向き、故郷についても『実家のそばでこんな釣りができるんだ』と再発見することも。いまはシンプルに、自然のなかにいる時間が心地いい。自分でも驚くほどの思考の変化に少し戸惑いつつも、そんな自分を『いいな』と思えているんです」

「’70~’80年代に活躍した、魚をモチーフにした木彫作品を手掛けていたアーティストによるもので、渋谷のHOOKED VINTAGEで購入。東京にいる時も釣りの世界を身近に感じていたくて、職場のアトリエに置いています」

価値観の変化は仕事の在り方にも及んでいる。

「以前は時間の際限なく仕事にのめり込んでいたけれど、いまはバランスを取り、メリハリをつけながら向き合えるようになってきました。大袈裟に言えば、今後の人生をどう生きるか。不思議なもので、フライフィッシングのおかげで、そんな深い部分まで考えるようになりました」

「普段ハイテク素材はあまり着ないんです。でも4・5年前に購入したラブ(Rab)のこのレインジャケットは、フィールドにも必ず持って行くし、街でも使う。好きな理由を挙げるなら、色味かな。ただ、フィッシングベストの上から羽織るには少しタイトで。自分が心から納得できるレインウエアなんかも、今後シャレーで作っていけたらと考えています」

人生第二章の始まり。いまいちばんの夢は「山小屋」

ブランド設立から24年。多忙を極め、自分に時間を割く余裕のないまま走り続けてきた。「いまはチームが成熟してきたおかげで少しだけ手を離せる時間が増え、感謝しています」という東野さんは人生の新たなチャプターを描き始めている。

「僕は不器用だから、あれもこれもは難しい。自身のブランド以外にもう一度新しい分野で一年生になり、一から始める過程を自分自身のために楽しみたいんです」

▲鱒釣り‐アメリカ釣りエッセイ集(朔風社)、Anatomy of a Fisherman(Gibbs Smith)、パブロフの鱒(角川書店)、雨の日の釣り師のために 新装版(TBSブリタニカ)。

「冬の禁漁期間は、自宅で本を読みながら次のシーズンに思いを馳せます。地図を眺めて釣り場を探す時間も本当に楽しい。読書用に手にとる本は、すっかりアウトドア関連ばかりになりました」

そんな東野さんが見据える次なる夢は、フィールドのそばに拠点を持つことだ。

「仲間とフライフィッシングを楽しむための、小さな山小屋を作るのがいまの夢。以前の自分なら考えられなかったことですが、大人になって迎えたこの変化を、素直に楽しんでいきたい」

新拠点の店名のシャレーは、フランス語で「山小屋」を意味する。いつか本物の山の麓に自分たちの遊び場を築くための、それは都会のなかに現れた、人生第二章の最初の一歩なのだろう。

  • The Chalet(シャレー)
    Instagram:https://www.instagram.com/chalet_1113/
    東京都世田谷区太子堂1-1-13 佐々木ビル4階 B号室
    不定休 ※開店日時はInstagramで告知

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PROFILE

VINAVIS 編集部

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アウトドアフィールドへ誘うメディア、そして自然のなかにいるような心地よさと冒険心をもって生きる人々を応援する新メディア。厳しい自然環境で磨かれた「機能美」や「哲学」を、都市生活というフィールドにマッチするシーンにを訴求します。またアウトドアで使われる機能やアイテムに触れることで、意識せずに自然とフィールドへと近づいていく気運を醸成します。

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