
ツール・ド・おきなわ 岡篤志が最終盤の4名スプリントを制覇 市民200kmは大前翔が劇的勝利
せいちゃん
- 2025年11月10日
ヤンバルの激坂と灼熱の太陽が、今年も最強の男たちを選び出した。国内ロードレースシーズンのフィナーレを飾る「ツール・ド・おきなわ」が11月9日に開催され、UCI男子チャンピオンレース(200km)は、最終盤のサバイバルを生き残った岡篤志(Astemo宇都宮ブリッツェン)が緊迫のゴールスプリントを制して初優勝。ホビーレーサー最高峰の市民200kmは、高岡亮寛(Roppongi Express)の神がかり的なアシストを受けた大前翔(Roppongi Express)が、強豪ひしめくスプリントバトルを制した。
【UCIチャンピオンレース】7名の逃げとスワットクラブの支配、そして羽地の攻防

夜明け直後の名護市をスタートした200kmの長旅。序盤は例年通り、活発なアタック合戦から幕を開けた。各チームがエースを温存させつつ、レースを有利に運ぶための逃げに選手を送り込もうと動く。約1時間半の攻防の末、谷順成(Astemo宇都宮ブリッツェン)、孫崎大樹(ヴィクトワール広島)、山本元喜(キナンレーシングチーム)、横塚浩平(VC福岡)、ユリアン・ボレッシュ(レンべ・ラドネット、ドイツ)、リー・ティンウェイ(台湾なショナスチーム)、そして現役ラストレースとなる入部正太朗(シマノレーシング)という7名の逃げグループが形成され、メイン集団に対して最大3分ほどのリードを築いた。
Astemo宇都宮ブリッツェンは谷を逃げに乗せることで、集団内で岡らエースが脚を温存する理想的な展開に持ち込む。一方、ヴィクトワール広島の孫崎はKOM(山岳賞)を狙い、2度の山岳ポイントをいずれも1位通過。見事、山岳賞ジャージを獲得する働きを見せた。

しかし、この日のメイン集団はイタリアのクラブチーム「ASDスワットクラブ」が鉄の意志でコントロール。普久川ダムへの2度の登りを経て集団の人数が絞られても、彼らは組織的な牽引を緩めず、勝負どころの東海岸アップダウン区間を前に逃げグループを完全に射程圏内に捉える。そして、残り65km地点でレースは振り出しに戻った。
集団が一つになると、今度はトマ・ルバ(キナンレーシングチーム、フランス)が山本大喜(チームUKYO)と共にアタック。再びレースを動かすが、これもスワットクラブを中心とした追走により、残り25kmで吸収。勝負に絡める選手は30名ほどに絞られ、最終局面へと突入した。
勝負が動いたのは、全ての選手が疲労困憊となる最終盤、名護市街地へと戻る最後の難関「羽地への登り」だった。ここで牙を剥いたのは、これがヴィクトワール広島で走る最後のレースとなるベンジャミン・ダイボール。オーストラリア人クライマーの強烈なアタックに、集団は一瞬にして崩壊。この動きに反応できたのは、好調を維持する岡、粘り強い走りを見せるジャコモ・ガラヴァリア(ASDスワットクラブ、イタリア)、そしてチョン・ウホ(ソウルサイクリング、韓国)のみ。優勝争いはこの4名に絞られた。

4名は互いにアタックを打ち合うも決定的な差は生まれず、勝負はゴール前のスプリントへ。極度の緊張感が支配する中、残り200mで静寂を切り裂いたのは岡だった。「この中で一番のスプリント力があるのは自分だと思っていた。最後は展開にも恵まれた」という岡のスプリントは、ライバルたちをわずかな差で退けた。今シーズン、キャリア最高の輝きを放つ男が、沖縄の地でその強さを改めて証明した。

このレースを最後に引退する入部は、最後まで戦い抜き13位でフィニッシュ。その勇姿は、多くのファンの目に焼き付いただろう。
【市民200km】役者が揃った最終局面 高岡亮寛の奇襲が大前翔を勝利へ導く

ホビーレーサー日本一の称号をかけた市民200kmもまた、最後の最後まで目が離せない展開となった。レース終盤まで少しずつ集団の人数を減らしながら進行したが、チャンピオンレース同様、勝負どころは最後の登坂区間。前回大会覇者覇者の井上亮(Magellan Systems Japan)が仕掛けたペースアップで、集団は10名ほどにまで絞り込まれる。メンバーは井上をはじめ、石井雄悟(MAS X SAURUS)、大前翔、そして通算7勝を誇る高岡亮寛(共にRoppongi Express)など、予想通りの実力者たちが顔を揃えた。
そして井上はそのままハイペースで登りをこなし、最終的に着いていけたのは畝原尚太郎(チームGINRIN熊本)のみ。しかし、下りで続々と選手が追いつき、そのままゴールスプリントかと思われた矢先、レースを劇的に動かしたのは”皇帝”高岡だった。一度は登りで遅れたものの、5kmに及ぶダウンヒル区間で単独で先頭集団に追いつくと、その勢いのままカウンターアタックを敢行。この動きは、ライバルたちに追走の脚を使わせる大前への完璧なアシストとなった。
高岡が吸収された直後の最終局面。最初にスプリントを開始したのは前回覇者の井上、そして自分のタイミングで満を持してスプリントを開始したのは大前翔だった。ニセコクラシックでは石井雄悟に敗れたが、今回はその雪辱を果たす完璧な走り。Roppongi Expressが見せた組織的な走りが、個の力を凌駕した瞬間だった。
シーズンの終わりを告げるにふさわしい、力と知略が交錯したそれぞれの熱戦。選手たちはヤンバルの森にそれぞれの思いを残し、また来年の再会を誓った。
リザルト
UCI男子チャンピオンレース(200km)
1位 岡篤志(Astemo宇都宮ブリッツェン) 4時間42分38秒
2位 ジャコモ・ガラヴァリア(ASDスワットクラブ、イタリア)
3位 チョン・ウホ(ソウルサイクリング、韓国)
4位 ベンジャミン・ダイボール(ヴィクトワール広島、オーストラリア)
5位 増田成幸(チームUKYO) +26秒
6位 ケイン・リチャーズ(ルージャイ・インシュアランス、オーストラリア) +52秒
7位 ベンジャミ・プラデス(VC福岡、スペイン)
8位 新城雄大(キナンレーシングチーム)
9位 トマ・ルバ(キナンレーシングチーム、フランス) +55秒
10位 山本大喜(チームUKYO) +1分4秒
U23最優秀選手賞
松井丈治(愛三工業レーシングチーム)
山岳賞
孫崎大樹(ヴィクトワール広島)
特別賞(市町村長賞)
今帰仁村・本部町長賞:カスパー・アンデルセン(ASDスワットクラブ、デンマーク)
国頭村・大宜味村長賞:ユリアン・ボレッシュ(レンべ・ラドネット、ドイツ)
名護市・東村長賞:トマ・ルバ(キナンレーシングチーム、フランス)
市民レース200km
1位 大前翔(Roppongi Express) 5時間16分37秒
2位 石井雄悟(MAS X SAURUS)
3位 畝原尚太郎(チームGINRIN熊本)
4位 岩間来空(Team Aniki)
5位 井上亮(Magellan Systems Japan)
6位 古谷朋一(内房レーシングクラブ) +6秒
7位 池谷隆太(PARK) +14秒
8位 高岡亮寛(Roppongi Express) +31秒
9位 中司大輔(堀場製作所自転車倶楽部) +2分12秒
10位 布田直也(MiNERVA-asahi) +2分16秒
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PROFILE
稲城FIETSクラスアクト所属のJプロツアーレーサー。レースを走る傍ら、国内外のレースや選手情報などを追っている。愛称は「せいちゃん」のほか「セイペディア」と呼ばれている



















