
名門はなぜ生まれ変わったのか 春日井カントリークラブ60年目の決断|タクミのカクゲンより
EVEN 編集部
- 2026年01月15日
ゴルファーのために活躍するゴルフ界の匠から、それぞれの仕事に賭けた誇り高き言葉を頂く連載企画。今回は、コース全面改修を決断した創業家の継承者が登場。
春日井開発株式会社 取締役 松岡茂将
愛知県春日井市の春日井カントリークラブは、2025年11月10日にメディア向けの説明会を開催した。この日付は、春日井カントリークラブが開場60周年記念事業と銘打ち、東西2コースのうち東コースを全面改修後にリニューアルオープンさせた、2024年10月23日からほぼ1年後に当たる。

東コース全面改修の開場60周年記念事業
名門と呼ばれるコースが約1年の休場を要した取り組みのインパクトは、いまだに記憶に新しい。ゆえにリニューアルオープンから時間が空いたとはいえ、語るほうも聞くほうも、その説明に大きな価値を見出せるのだろう。
コース設計を名匠の井上誠一に託し、愛知県で5番目のゴルフ場として1964年に開場。その後、1969年・日本プロゴルフ選手権、1975年・日本オープンゴルフ選手権、1980年・日本女子オープンゴルフ選手権の開催地となり、東海地方を代表するコースとしての地位を確立した。
以上の沿革を持つクラブが実施した東コース全面改修プロジェクトの軸は、大きく二つあった。一つは、1グリーンへの回帰や効果的なバンカー配置への転換など、井上誠一のオリジナルプランを尊重した戦略性の再構築だ。これは、アメリカのゴルフコース設計会社のゴルフプランが担当した。CEOのデイビッド・M・デールは、説明会のために来日したという。
もう一つは、持続可能性の追求。最新灌漑システムや無人芝刈り機の導入、カートパスの拡張やコース内に乗り入れ可能な2人乗りカートの採用などは、将来的に不可避な人手不足問題の対策だ。
「それらすべてを60周年で実行し、グローバル基準に仕上げ直したコースで再出発を図る」

自分自身が納得できるカッコ良いコースに!
それが全面改修に携わった全員の目的と語ったのは、プロジェクトの中心メンバーとなった松岡茂将だ。その日午後からの説明会にも出席した彼の役職は、春日井カントリークラブを含む5コースの運営を行っている、春日井開発株式会社の取締役である。

「リニューアルのきっかけは、コース内の散水設備の老朽化でした。コースの地下に埋めてある散水設備を完全に直すには、コース全面の掘り返し以外にありません。長期間を要する工事を、メンバーを始めとするお客様たちにご納得いただけるか。そこは大いに心配でした」
そんな松岡の不安は、ゴルフビジネスのアドバイザーを主業務とし、後にリニューアルプロジェクトのマネージャーに就任する大矢隆司らのサポートによって、解消から別次元へと移行していった。
「親切な説明をしてくださったおかげで、コース自体も全面的に改修すべき時期が来ている事実が理解できました。であれば、60周年という節目で然るべき投資を行ったほうが良い。何よりも、次の節目を見据えた上で、自分自身が納得できるカッコ良いコースにすることが、私にとって最大のモチベーションになると考えたのです」
個人の壮大な決意をもって臨まなければならなかったのは、家業を継ぐ者に強いられる宿命かもしれない。創業者が祖父の彼は、要するに三代目。現在38歳という若さ以上に、前職を知って驚いた。弁護士を経てゴルフ場経営に参加するなんて、聞いた覚えがなかったからだ。
「この場所にグローバル基準のコースをつくりたい」
「祖父が亡くなったのを機に、2020年に春日井開発に入りました。その段階で目の前にあったのが、老朽化したコース。現実問題として直面したのは、実のところ改修か売却かの判断でした」
早稲田大学法科大学院法務研究科を卒業。2016年に弁護士登録を果たし、静岡の事務所で弁護士活動を行うことになった。
「それでも、頭の片隅から家業が離れませんでした。おそらく、代を継承する家庭には『息子が継がないわけがない』という暗黙の了解があるんじゃないでしょうか。自分もそれを感じていましたし、弁護士仲間も疑問に思ったみたいです。家業があるのになぜここにいるのかと」
そうして三代目候補は密かに悩んだが、先代たちはゴルフ場経営に関する教育を一切行ってこなかったそうだ。
「結果的に祖父が興した会社に入るのですが、家業を支えてくれた人々によって自分が生かされてきた事実は揺るがないし、この家業を継続させる責務が自分にあるように思えてきたんです。意図してもせずとも、それが二代目以降の人生の縛りなんでしょうね」
当初は弁護士と二足のわらじを検討したが、片手間でできるほど経営が簡単ではないと判断し、弁護士登録のみ残して春日井に戻った。それにしても、法務関連ならともかく、いきなり一企業の取締役はあまりにも重責だったのではないだろうか。
「周囲の助力が大きかったですね。特に大矢さん。ゴルフ場の現状がどうなっているのか、利益回収ができているコースとはどんなものか。実際にその目で見てほしいと、日本に留まらず海外まで誘ってくれました。何も知らなかった私に手を差し伸べてくれた人たちが、皆ポジティブでした。その中でリニューアルのビジョンが明確になったからこそ、東コースの全面改修に取り掛かれたのです」
松岡と別で話した大矢は、こんな逸話を教えてくれた。
「私も春日井出身で、かつてここにあったファミリー向けゴルフ場でコースデビューした思い出があるんです。今回のお話には運命を感じました。だからなおさら、この場所にグローバル基準のインターナショナルなコースをつくるお手伝いをしたいと……」
再び松岡。改めて、リニューアルプロジェクトの特徴をたずねた。
「プロジェクトの二本柱は、持続可能性と戦略性です。前者は、従業員への負担軽減などを目的とし、後者はお客様への満足度向上と、トーナメントを実施できるポテンシャルの双方を実現するためのものです。将来的な課題として、やはり人材減少の備えは外せませんでした。新たに設けたスタートハウスは、近い内にキャディなしの乗り入れカートで休場日にプレーしていただく際の窓口を想定していますし、コース管理でも数値定量化できる作業は機械とマニュアルで皆が共有できる仕組みを導入しました。いずれにしても、国内の個人経営ゴルフ場では規模が大きいほうですから、持続可能性を高める投資をしていくモデルケースとして、多くの方と前に進んでいけたらと思っています」
春日井カントリークラブの東コースは、2026年9月に行われるアジア競技大会のゴルフ競技会場に決定している。これまでの60年間、国内メジャー大会の開催地に選ばれるなどして先代たちが実感してきた誇りを、今後は自分もコース経営者として感じ取れることを楽しみにしているという。






SHARE
PROFILE
EVEN 編集部
スタイリッシュでアスリートなゴルファーのためにつくられたマガジン。最旬のゴルフファッション、ギア、レッスン、海外ゴルフトリップまで、独自目線でゴルフの魅力をお届け。
スタイリッシュでアスリートなゴルファーのためにつくられたマガジン。最旬のゴルフファッション、ギア、レッスン、海外ゴルフトリップまで、独自目線でゴルフの魅力をお届け。



















