
灼熱の鈴鹿に刻んだ40年目の伝説―シマノ鈴鹿ロード、シマノレーシングの中井唯晶が劇的な連覇を達成

せいちゃん
- 2025年09月01日
日本のサイクルスポーツシーンを40年にわたり彩ってきた真夏の祭典「第40回シマノ鈴鹿ロード」が、2025年8月30日、31日の両日、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットで開催された。日本列島が記録的な猛暑に見舞われる中、全国から集った約8000人のサイクリストが聖地を舞台に熱戦を繰り広げた。
大会の最高峰レース「シマノ鈴鹿ロードレースクラシック」男子エリート部門では、ホストチーム・シマノレーシングが見事なチーム戦略を展開。エーススプリンターの中井唯晶が最終局面でライバルを圧倒し、昨年に続く大会2連覇という偉業を成し遂げた。また、今大会は血液の難病と闘い、約1年ぶりにレースに復帰した小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)の姿が多くのファンに感動を与え、会場は温かい拍手に包まれた。
【完璧な組織力で掴んだ栄光】シマノ鈴鹿ロードレースクラシック 男子エリート

気温35度を超え、路面温度は50度に迫る過酷なコンディション。大会最終日のハイライト、10周58.1kmで争われる男子エリートレースは、スタートの号砲と同時に激しい火花を散らした。
アタック合戦と強力な逃げ集団の形成
レースが動いたのは1周目。小山貴大(群馬グリフィンレーシングチーム)がファーストアタックを仕掛けると、これをきっかけに各チームのエース級が即座に反応。風間翔眞(シマノレーシング)や山本大喜(チームUKYO)らもアタックをかけ、2周目には有力選手による逃げ集団が形成される。

この動きに、シマノレーシングは入部正太朗、風間、渡邉和貴の3名、チームUKYOは増田成幸と小石祐馬の2名、宇都宮ブリッツェンは谷順成と武山晃輔の2名、愛三工業レーシングチームも岡本隼と南和人の2名と、主要チームが軒並み選手を送り込み、レースは序盤から緊迫した展開に。最終的に上記のメンバーに加えて橋本英也(キナンレーシングチーム)、河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング)、石井雄悟(VC VELOCE)、池谷隆太(稲城FIETSクラスアクト)という13名からなる強力な逃げ集団が先行し、メイン集団との差を広げ始めた。
追走とタイム差の攻防、揺れ動く集団心理
逃げ集団に選手を送り込めなかったスパークルおおいたレーシングチームやヴィクトワール広島などがメイン集団を牽引し、必死の追走を見せる。タイム差は一時1分以上にまで開くが、メイン集団もペースを上げ、逃げ切りを許さないという強い意志を示す。
一方、先行する13名の逃げ集団内でも駆け引きが始まる。シマノレーシングは数的有利を活かし、風間が再三アタックを仕掛ける。これは、スプリント力のあるライバルをふるい落とすとともに、チームメイトの足を温存させるための戦略的な動きだった。この揺さぶりに逃げ集団は一時分裂するも、再び一つの集団に戻るなど、息の詰まる攻防が続いた。
シマノレーシングの戦術と圧巻のスプリント
勝負は最終盤、残り2周回で大きく動いた。後方から、シマノレーシングの中井唯晶や石原悠希、レオネル・キンテロ(ヴィクトワール広島)らを含む追走グループが猛追。逃げ集団と合流し、勝負の行方は数十人の集団スプリントに持ち込まれるかに思われた。

しかし、ここでシマノレーシングの真骨頂が発揮される。集団の主導権を完全に掌握すると、5名の選手が隊列(トレイン)を形成。風間らが身を挺してペースを作り、最終コーナーを抜け、ゴールまでの数百メートルをエーススプリンターの中井のために完璧にお膳立てした。

最高の形で発射された中井は、爆発的なスプリントでライバルたちを一蹴。ゴールライン手前で勝利を確信すると、力強く両腕を突き上げ、2年連続となる栄光のフィニッシュを飾った。

レース後、中井は「チーム一丸となって取れた勝利。逃げに乗ってくれた風間さんや、最後のアシストをしてくれたチームメイトのおかげです」と、チームの組織力を勝因に挙げた。また、レースを荒らし続けた風間も「自分の勝ちパターンを狙いつつ、集団を疲弊させる動きができた。それが中井の勝利に繋がったと思う」と、作戦通りの展開だったことを明かした。
小野寺玲、感動の復帰戦
今大会、勝者の歓喜とともに会場を温かい感動で満たしたのが、小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)の復帰だった。血液の難病である再生不良性貧血と闘うため、約1年間レースから離れていた小野寺。多くのファンが心配する中、彼が復帰の地に選んだのがこの鈴鹿だった。
レース前、「正直、完走できるかもわからない。でも、優勝経験のある思い出のレースに帰ってこられて良かった。自分の現在地を確かめたい」と静かに語った小野寺。その走る姿は、同じプロ選手やファンに大きな勇気を与え、ゴール後にはチームの垣根を越えて多くの選手から健闘を称えられた。
【各カテゴリーで繰り広げられた熱戦譜】女子エリートから小学生まで
男子エリートレース以外にも、各カテゴリーで記憶に残る名勝負が繰り広げられた。
女子エリートクラシック:田中麗奈が圧巻のスプリント
5周29.05kmで争われた女子エリートクラシックでは、終始集団でのレースとなったが、最終局面で田中麗奈(ベルマーレウィメンズレーシングチーム)が圧巻の走りを見せた。全身を使ったパワフルなスプリントで後続を大きく引き離し、見事優勝を果たした。2位には川上唯(ORCA CYCLING TEAM)、3位には森本保乃花が入った。
5ステージ・スズカ:Nerebaniが総合力見せつけ、ジュニア勢も躍動
2日間で5つのステージを戦う過酷なステージレース「5ステージスズカ」では、チーム「Nerebani」が圧倒的な総合力を見せつけた。特に勝負の分かれ目となったチームタイムトライアルでは、2位に1分以上の差をつける圧勝で、個人・団体ともに総合首位に躍り出た。 最終的に、個人総合時間は中司大輔(Nerebani)が、団体総合時間もNerebaniが制した。
また、将来を期待されるジュニア選手たちの活躍も光った。最終第5ステージでは、佐野凌麻(teamMAUVE)が、ライバルの倉谷侠俐(名古屋たちばな高等学校)とのゴール前の激しいスプリントを制してステージ優勝。この勝利でジュニア総合優勝の座も掴み取った。
チームタイムトライアル:プロチームの次元違う走り
プロチームが威信をかけて戦う初日に行われた「チームタイムトライアル JCF登録の部」では、シマノレーシングが他を寄せ付けない走りを見せた。4周23.24kmを平均時速50.25kmで駆け抜け、27分41秒99という驚異的なタイムで優勝。2位のチームUKYO、3位の愛三工業レーシングチームに大差をつけた。特に後半にかけてペースを上げる走りは、王者の貫禄を見せつけた。
エンデュランス:それぞれの目標に向かって
大会のもう一つの主役である一般参加者が輝きを放ったのがエンデュランス種目だ。2日目の2時間エンデュランス・ソロの部では、船戸瑛太(カンピオーネ)と福井慎(瀬田工業高校)が長時間にわたり2人で逃げ続け、最後は船戸が単独でゴールに飛び込み優勝。
また、30分エンデュランスにはSKE48の荒野姫香さんも出走。多くの参加者が、チームで襷を繋いだり、個人の限界に挑戦したりと、それぞれのスタイルで鈴鹿サーキットを駆け抜けた。
【華を添えるゲストと会場の熱気】40周年の祝祭
40周年の記念大会は、SKE48の荒野姫香さんという華やかなゲストを迎えた。自身も「弱虫ペダルがきっかけでロードバイクに乗り始め、今ではヒルクライムが好き」と語るほどの自転車愛好家。トークショーでは熱い自転車トークを繰り広げ、体験走行イベントではファンと共にサーキットを走り、スタートの号砲やチェッカーフラッグを振る大役も見事にこなし、大会を大いに盛り上げた。
会場では、40周年にふさわしい様々な催しが行われた。特に来場者を驚かせたのは、人工雪を降らせる「スノーシャワー」。灼熱のサーキットに舞う雪に、子どもたちは大はしゃぎで暑さを忘れ楽しんだ。
また、自転車博物館による特別展示では、ローラン・フィニオンやジャニー・ブーニョといった伝説的選手が実際に使用した貴重な自転車が並び、長年のファンを唸らせた。
プロのメカニックによるテクニカルサポートや、元プロ選手による初心者講習会も充実。小学生からベテランまで、誰もがそれぞれのレベルで自転車を楽しめる懐の深さこそが、この大会が40年間愛され続けてきた理由だろう。
2日間にわたる灼熱のドラマは、今年も多くの感動と興奮を生み出して幕を閉じた。プロの戦術、アマチュアの情熱、そして子どもたちの笑顔。シマノ鈴鹿ロードは、世代やレベルを超えて人々を繋ぐ自転車文化の象徴として、来年もまたこの聖地で多くのサイクリストを待っている。
シマノ鈴鹿ロードレースクラシック 男子 リザルト
1位 中井唯晶(シマノレーシング) 1時間16分7秒
2位 岡篤志(宇都宮ブリッツェン)
3位 當原隼人(愛三工業レーシングチーム)
4位 石原悠希(シマノレーシング)
5位 橋本英也(キナンレーシングチーム)
6位 増田成幸(チームUKYO) +1秒
7位 谷順成(宇都宮ブリッツェン) +2秒
8位 入部正太朗(シマノレーシング) +3秒
9位 河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング) +4秒
10位 武山晃輔(宇都宮ブリッツェン) +10秒
- BRAND :
- Bicycle Club
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PROFILE

稲城FIETSクラスアクト所属のJプロツアーレーサー。レースを走る傍ら、国内外のレースや選手情報などを追っている。愛称は「せいちゃん」のほか「セイペディア」と呼ばれている