
SRAM、UCIを独占禁止法違反で提訴 ギア比制限は「イノベーションを阻害し、不公平」

Bicycle Club編集部
- 2025年09月20日
大手自転車コンポーネントメーカーのSRAMは2025年9月12日、国際自転車競技連合(UCI)が導入したギア比制限(Maximum Gearing Protocol)に対し、ベルギー競争当局(BCA)に正式な不服申し立てを行ったことを発表した。SRAMは、この制限がイノベーションを阻害し、ライダーの選択肢を狭め、SRAMを使用する選手やチームに不当な不利益を与えるとして、EUおよびベルギーの競争法(独占禁止法)に違反すると主張している。
SRAM製品を事実上排除するギア比制限
問題となっているのは、UCIが一部のレースで試験的に導入したギア比制限だ。これは、ペダル1回転あたりに進む距離を最大10.46メートルに制限するもので、ギアの組み合わせで言えば「54x11T」に相当する。
しかし、SRAMの最新トップグレードコンポーネント「RED AXS」は、トップギアが「54x10T」の構成を多くのプロチームが採用しており、この制限を超過してしまう。これにより、現在主要なコンポーネントメーカーの中で、SRAM製品だけがこの新しいUCI規則によって事実上レースから排除される状況となっている。
SRAMは、この規則についてUCIと何度も対話を試みたが、「規則の妥当性や根拠に関する有意義な対話は拒否された」としており、透明性と協力の欠如から、法的措置が唯一残された道だったと説明している。
「安全性への寄与は不明確、イノベーションの阻害だ」
SRAMのCEOであるケン・ラウスバーグ氏は、「このプロトコルはイノベーションを罰し、思いとどまらせるものであり、我々のライダーとチームを競争上の不利益に陥れるものです」と強く批判。「我々は、統括団体が現在そして未来のライダーの利益のために、イノベーションを奨励する環境を育むことを期待しています」と述べた。
UCIはこの制限を「安全性向上のための試験」と位置付けているが、SRAMは「その主張を裏付ける証拠は提示されていない」と反論。2025年ツール・ド・フランスの落車データを独自に分析した結果、ギア比の大きさと落車リスクの間に相関関係は見られなかったとしている。「選手たちが求めているのは、より安全なコース設計などであり、我々だけが提供するギアの選択肢を恣意的に制限することは、根本的に不公平だ」とラウスバーグ氏は訴える。
SRAMは、10年近くを費やして、小さなトップギア(10T)を前提とした革新的なドライブトレインを開発してきた。UCIの制限に従うには、この思想を根本から覆す再設計が必要となり、技術的な後退を余儀なくされるという。
即時差し止めと、より透明性の高い意思決定プロセスを要求
SRAMは今回の申し立てにおいて、直ちに差し止めによる救済を求め、UCIワールドツアーのツアー・オブ・広西をはじめとする今後のレースでのギア比制限の停止を要求。
さらに、機材に関する規則を決定する理事会に機材メーカーの代表を加えることや、将来のUCIの規制がEU競争法を遵守することを保証するための内部手続きの確立も求めている。
ラウスバーグ氏は、「今日のUCIの行動は、SRAMのライダーとSRAMを不当に罰するものです。しかし、ハンドル幅、リムハイト、最近のトランスポンダーの問題…靴下の高さに至るまで、統括団体の意思決定のやり方を考えれば、将来誰が影響を受けるかわかりません」と、今回のような問題がSRAM一社にとどまらない可能性を示唆。このプロセスを通じて、より透明で協力的な環境が生まれ、最終的により良い、より安全なスポーツにつながることを期待すると締めくくった。
ベルギー競争当局はSRAMの申し立てを受理し、9月17日より正式な独占禁止法違反に関する調査手続きを開始している。コンポーネントメーカーが競技統括団体を提訴するという異例の事態は、今後の自転車ロードレース界のルールメイキングのあり方に大きな一石を投じることになりそうだ。
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