
レトロでエモい港町、三崎をランドナーでうろつく|ひとりこぎ
ニシヤマ
- 2025年11月28日
神奈川県三浦半島。その先端に近い場所にある三崎。かつてマグロ漁船の港として栄えいまでもマグロの観光名所。近年はレトロな風情も再評価されている。

老後の移住先の候補として目を付けていた港町
長らくアトピー性皮膚炎を患っていて、乾燥した冬が体質的に苦手だ。東京がまだ冬が乾燥して寒かった十数年前(今は温暖化でさして寒くもない)、皮膚科の先生から「ニシヤマさんは、関東平野の冬が合わない。冬の間だけでも移住されたらどうか」と提案された。「例えば、どこへ?」と聞き返すと、先生は答えた「三浦半島とか」。
勝手に場所指定されて以来、移住先というインプットが心の中で反芻され、やがて三浦半島に親近感を抱くようになった。いまでは、移住先が終の棲家に脳内で格上げされている。老後は三浦半島のどこかで、ランドナーに乗って港をさまよい、サビキ釣りをしておかずを捕って、年金生活のたんぱく質の足しにするというような生活がいいなあ、みたいな憧れになっている。
三崎は、三浦半島の中でも好きな港だ。観光地としては「マグロ丼食って、以上」みたいな感じで長らく片づけられていた。ただ最近ではレトロな街並みが再注目され、若者たちが移住し古民家や古い商店がリノベーションされ新たなスポットとして生まれ変わりつつある。自分としては、サビれてるし、マグロ以外になにもないだろ、と思われているくらいの三崎が好きではあったのだが。

さて、そんな三崎のリノベーション物件のひとつにサイクリスト専用のクラブハウスがあることを最近知った「ヴェロ・スタシオン 三浦」だ。本格キッチンと自転車専用工具セットがあり2階の休憩スペースではゆっくり仮眠がとれる、らしい。運営元のショップ「葉山自転車市場」に問い合わせてみると、ぜひ使って体験してみてくださいとのこと。まさに憧れのプチ老後移住体験ではないか! とクルマにランドナーをくくりつけ三浦半島に向かったのだった。

レトロエモい港町のサイクリスト天国
ヴィンテージ自転車を扱う葉山自転車市場を営んでいる門脇大作さん。この人も、古いもの好きの琴線に触れる三崎が好きでこの物件に一目惚れしてしまったらしい。元は和食屋の店舗で、建築関連の腕もたしかなスタッフや建築系常連さんが半分くらい自力で改修を施したとか。
最近地方で増えてきたリノベ。どこに行っても同じ感じのおしゃれカフェ化が危惧される。昭和世代にはダサいほうが居心地がよかったりするわけだからだ。ヴェロ・スタシオンは、おしゃれになりすぎず古さを残している塩梅が良い。アンティークを知り尽くしている彼らならでは。

ショップはいずれ、葉山から三崎に移す計画という。三崎自転車市場になった折には、ここでヴィンテージ自転車をいじるバイトをして、夕まずめには釣りでたんぱく質をとるという老後スタイルにしようと勝手に決めた。
夕暮れの港、おかずを釣る人も何人かやってきた。バケツを見てみると釣果は悪くなさそう、次は竿を持って来よう。三崎の夜は、暗くなると姿を現す隠れ家的居酒屋もいいらしい。おススメを教えて貰ったが、人見知りなので盛り上がっている店内に入ることはできなかった。

それより、スタシオン2階のニューサイバックナンバーと対話することに。200号『ディレイラーコレクション81』をハンモックに揺られ、ビールとともに楽しむ一夜。ここは天国に近い場所かもと思いつつ、気分が良くなって飲みすぎた。

三浦の原風景これといって何もないのがいい
翌朝はテレビでもよく紹介されている、リノベ物件の朝ごはん屋さんに行くつもりだった。あいにく胃がムカムカしており、朝食を食べる気になれず。まあ、自転車にでも乗っていれば、昼前には回復するだろうと、ランドナーでうろうろする。

朝の三崎を改めて散策してみる。ひところよりサビれ加減はましになったものの、人のいなくなった家屋は、海風も影響して崩れるスピードも速そうだ。最近できたブルワリーのキラキラしたタンクと対照的だ。移住が町を救うか、廃墟化とのせめぎ合いという感じではある。

町の外に足を延ばしてみる。これといって何もない海と丘と畑。こういう自然といっても適度に人工的でもある三浦半島の風景が好きだ。気温も高くなってきたので、第1回三崎偵察は終了とする。次は季節を変えてまた来よう。

クルマに乗れば1時間ちょっとで戻ってこられるわけだが、三浦に来てオムライスだけを食べて帰るのもなんなので、お昼は海鮮を。目星をつけていたのは、6月サイクルキャンプをした時に帰りに寄った長居水産直売センター。ここのテイクアウトのアジ寿司をもう一度食べたい。ところがセンターの総菜コーナーに寿司はなし、イートコーナーも週末だけのようだ。海鮮をあきらめきれず、もっとも近い寿司屋に入る。地元の仕出しなども行っている店。海鮮ちらしを頼んだ。丁寧な仕事で、同じくらいの値段なら観光エリアの海鮮丼より、こちらのほうがいいと発見した。
帰って移住の話を妻にしてみるも、三浦半島に向かう横横道路の雰囲気が嫌いなのだとか。「あなたが三崎にいる間は、おてつたび(旅館など手伝いながら旅する)に出るから一人で行ってくれば」ということだった。
▼ニシヤマが旅したランドナーにつていはこちらの記事をご覧ください
※この記事はBicycle Club[2025年11月号 No.463]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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