
水生植物のトップ女優VS地下アイドル!「ヒツジグサ」と「コウホネ」│植物ライター・成清 陽のヤマノハナ手帖 #50
成清 陽
- 2025年11月12日
登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
連日30℃後半を記録した、今年の夏。アツイアツイ、と騒いでいたら、10月に入ったとたんに今度は超絶冷え込みとな。もはやジェットコースターの気象に、筆者は寝袋に足を突っ込んで原稿書きに励んでいる次第です(めちゃ眠くなるんだ、コレが)。さて今回は、そんな寒気を追いやるべく、暖かい時期を彩る水生植物をご紹介。真夏の太陽をイメージさせる美少女ふたりを思い起こして、心をポッカポカにしちゃいましょう~!
レアなネーミング「ひつじ」
名前の由来がまあまあ知られているからこそ、とある山の中でこんな会話が……。「『未(ひつじ)の刻』に咲くから、ヒツジグサっていうんだよね?」(ドヤ顔)。「でも、花が咲くのは午前かららしい」(ドヤドヤッ)。「そして未の刻はね、正確には午後2時を含む2時間のことだよっ♪」(ドヤドヤドヤッ)。……さすがにドン引きですな。それよりも注目したいのは、「たくさんの葉っぱがヒツジ雲に見える」!これ、由来の新説になりません?

Data
ヒツジグサ(スイレン科)
一般的な花期:7月~8月
主な生育場所:山地の池塘など
眠たい一族、のはずが……
ちなみに、ヒツジグサはスイレンのお仲間。スイレン=「睡蓮」だけに、“睡”眠大好き!と思いきや、夕方までお目々(花)がパッチリ開いている、スイレンたち。ヒツジグサも例外に漏れず、日中しっかりとハイカーを楽しませてくれます。ちなみに、よほどスイレンたちより早く眠たくなって、午後に花が閉じるのはハス(蓮)。こっちのほうが、おもしろい小ネタでしょ?ドヤ~ッ!!

平地でも出会えて、うれしさ倍増
ところでヒツジグサ、じつは山地の池塘(※雨水だけで成立する湿地の池)特有の植物というわけではなく、アメリカザリガニやブルーギルなどが放たれていない、低標高地の池にも生育します。そんなヒツジグサの醍醐味はいわずもがな清楚な花、そして真っ赤な紅葉。秋の尾瀬ヶ原、元ガール(=オバチャンハイカー)たちが「キャー、キレイ~」と黄色い声を上げるシーンは、もはや定番です。ちなみに私は今春、芽吹きの美しさにも「キャー、キレイ~」って叫びましたよ!

黄色い声、といえば!
黄色いといえば、そうそう忘れていました。今回ご紹介させていただくもうひとりの美少女のことを!元祖清純派女優・ヒツジグサ人気の影に隠れて、なかなか話題に上がらない、こちらのお花「コウホネ」です。名前の由来になったのは、「河骨」。根っこの塊である根茎が“白くて骨のように見えるから”というこのネーミング、これは失敗でしょう。だって、漢字から「河童のホネ」をイメージしちゃうじゃないですか!しかも、見えない根茎って……。

Data
コウホネ(スイレン科)
一般的な花期:7月~8月
主な生育場所:山地の池塘など
見た目はウェディングケーキ
名付け親に恵まれなかっただけでなく、コウホネさんは花がちっさくて、ジミな印象。そのためなかなか「ヒツジグサよりコウホネ推し!」という人は現れません。でも、もっともっと良く見て!花の中心部(柱頭盤)は、見るほどにウェディングケーキ。そして、オゼコウホネは、トナカイの鼻よろしく柱頭盤が赤くなったりと、コウホネ族は七変化に富むんです。玄人向けなら、やっぱりカノジョっしょ!!

フレーフレー、コ・ウ・ホ・ネ
玄人向け……と言いつつも、やはりヒツジグサ人気の足元には遠く及ばない、彼女たち。ふと池の中を見ると、今から花を咲かせようと健気にがんばるコウホネのつぼみが。ズブズブと闇落ちすることなく、必死にひと花咲かせようとする姿を見てつくづく感じたのは、水生植物代表として、少しでも人気が出てくれたら、という思い。がんばれ、がんばるんだ~、コウホネ!!

さてさて、今回ご紹介してきた、ヒツジグサとコウホネ。いかがでしたでしょうか?ここまで対象的な植物はいないと思うほど、光と影のようなコントラストを感じますね。ちなみに、花期はどちらも夏。平地なら初夏からが開花期で、いずれも寺院の池などに生育することが多いという、意外な共通点もあります。尾瀬といった池塘が多い山を目指すもヨシ、寺院を目指すもヨシ。来年こそはぜひ、ふたりとも愛でてくださいね!
それでは、また。
皆様のココロに、素敵な花が咲き誇りますように。
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