
「仲間」という引力。フォトグラファー河津達成のクライミングライフ | Life × Nature あの人の「スタイル」
VINAVIS 編集部
- 2026年04月13日
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道具は「スタイル」の象徴だ。アウトドアとの向き合い方と、日々の暮らしが溶け合うあの人のスタイルを探り、愛用品を紹介する本連載。
第3回は、ファッションフォトグラファーとして第一線で活躍しながら、クライミングの虜となっている河津達成さんに話を聞いた。
編集◉宮﨑真里江 Edit by Marie Miyazaki
写真◉熊原美惠(スタジオ)
30代、「運動」の文字もなかった空白からの転換
「30代は本当に、たぶん1秒も運動してなかったんじゃないかな」
そう言って照れくさそうに笑う河津達成さん。大学卒業後に写真の世界へ。アシスタントを経て独立後は、ファッション撮影をメインフィールドに忙しなく30代を駆け抜けた。気づけば、体を動かすこととは無縁の生活。ひと駅の距離すらマイカーで移動し、体重はいまより20kg以上重かったという。

転機は、40歳を迎えたさなかのコロナ禍だった。外出自粛要請で撮影現場が止まり、自宅で酒とゲームに明け暮れる怠惰な日々。そんな生活が1カ月ほど続いたとき、ふと「これ、人としてまずくないか」という思いが頭をよぎった。湧き上がった焦燥感のままに購入した一台のロードバイク。それが、河津さんを外の世界へと連れ出すきっかけとなった。
日常にサイクリングを取り入れると、サイクルショップのスタッフやツーリング仲間といった、新たな人との出会いが生まれていった。自らの足で移動し、風を切る。体を動かすことの根源的な気持ちよさを知ったころ、ある現場でスタイリストの金子夏子さんと出会う。

キーパーソンとの出会い。25年ぶりにスキーを再開
ファッション業界屈指の山好きとして知られる金子さんに、河津さんは「山に興味があるんです」と胸の内を明かした。季節は冬。彼女から「じゃあ、スキーいっしょに行く?」と誘われ、河津さんは「行きます!」と二つ返事で応じた。
「父に連れられ、中学生までは毎年スキーをしていました。でも当時は転ぶと痛いし、寒いし、正直あまり好きじゃなかった。でも金子さんに誘われたときは、ロードバイクに乗り始めて気持ちが前向きになっていたせいか、迷わずに乗っかれたんです」
金子さんと共に向かったのは長野県・白馬。河津さんにとっては、約25年ぶりの雪山だったが、滑ってみると驚くほど体は覚えていた。「思ったより滑れる」。その小さな手応えが着火剤となり、河津さんのアウトドアライフは一気に加速していく。


インスタの投稿から、未知なる「壁」の世界へ
雪山の高揚感も冷めやらぬ約3年前。金子さんとの親交が続くなかで、河津さんはついにクライミングとの出合いを果たす。きっかけは、彼女がSNSにアップしたクライミングジムの投稿だった。
「連れて行ってください」。興味を惹かれた河津さんは、すぐさまメッセージを送った。最初に向かったのは、埼玉県入間にあるロープクライミングのジム。1回目で直感的に「楽しい」と感じ、そこから月に1、2回のペースで通い始めた。
「そうこうするうちに、ロープなしで壁を登るボルダリングにも興味が湧いて。知人のヘアスタイリストがやっていると聞き、彼を自分の撮影にキャスティングしたんです。現場を共にした勢いで『連れて行ってよ』とお願いして、その翌日にはもうジムにいました(笑)」
そんなふうに、気になったらすぐに行動に移してしまうのが河津さんの性分だ。ジムだけでなく、屋外の岩場──「外岩(そといわ)」へも出かけるようになると、同じ趣味をもつ仲間が瞬く間に増えていった。

「永遠に終わらない、楽しいゲーム」に没頭する日常
東京は、世界的に見てもボルダリングジムが密集する稀有な地域。主要駅の周辺にジムが点在し、深夜まで営業していることもめずらしくない。
「撮影の仕事が終わったら行く、打ち合わせが終わったら行く、もちろん休みの日も行く。いまは、短時間でも空けば、とりあえずジムへというサイクル。ボルダリングのジムは、外岩を登るためのトレーニングにもなるので、週4・5回のペースで通っています」
フォトグラファーという不規則なスケジュールの合間に、パッと熱中できる場所がある。そんな身軽な環境がライフスタイルにうまくフィットした。しかし、単に「通いやすい」だけでは心は掴まれない。クライミングの魅力を、河津さんは「ゲームの感覚に似ている」と話す。一つひとつの課題(ルート)を攻略していくプロセスが、クリアを目指す高揚感に重なるのだ。
「指の痛みや高さへの恐怖もありますが、特定のルートをクリアすると、また別の目標に向かえる。目標が次々に設定できるから、『楽しい』が永遠に終わらない。何回もトライして登り切れたときのアドレナリンは、ほかでは味わえないものです」

明確な目標は、日々の暮らしも整えた。「あの岩を登りたい」という目的のために体を鍛え、食事にも気を配る。それはストイックな節制ではなく、登るために体が自然と求める健やかなサイクルだ。
そして、河津さんのクライミングへの熱量は、仲間とのさらなる冒険へと繋がっていく。昨秋にはスペインへ遠征。3週間、ヨーロッパに暮らすクライミング仲間たちと岩に向き合った。しかし、目的は攻略だけではない。
「外岩は自然の空気が気持ちいい。森のなかをみんなで重い荷物を背負って歩き、岩の下でしゃべったり昼寝をしたり。そんなチルな時間を含めて、仲間とワイワイしている感じが好きなんです」


自分が動けば、繋がりが広がり、景色も変わる
アウトドアを始めてから、肩書きを超えて深く繋がれる人が増えた。共通の目的をもって遊び、同じ景色を共有する。そんな広がりが、河津さんの人生を鮮やかに塗り替えた。
「クライミングにハマっている一番の理由は、『仲間』だと思います。僕の周りは、『今度登りに行くからスケジュールを空けておいてよ』『いいよ!』というノリの人が多い。誘ってくれるし、こっちからも誘う。その循環が心地いい。それが、アウトドアを始めてよかったなと思うことです」

いま、河津さんの心境には新たな変化が生まれている。これまでは登ることに熱中するあまり、カメラを持参しても一度もシャッターを切らない日もあった。しかし、この豊かな体験をフォトグラファーとして残したいという欲求が少しずつ芽生えてきた。
「クライミングは季節や天気で、同じ場所でも表情がまったく違う。いまは好きが高じて、国内も海外もいろんな場所に足を運び、いろんな人に出会う。その一期一会の空気感を、写真という目線で作品として残してみたいと思っています」

いつか、彼が仲間と共に切り取った「岩の景色」を目にできる日が来るかもしれない。自ら動き、手に入れた新しい「仲間」と「視点」。河津さんのスタイルは、壁を登るたびに、より強く、しなやかに更新されていく。
- フォトグラファー 河津達成
公式サイト:http://tatsunarikawazu.com
Instagram:@kawazutatsunari
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PROFILE
VINAVIS 編集部
アウトドアフィールドへ誘うメディア、そして自然のなかにいるような心地よさと冒険心をもって生きる人々を応援する新メディア。厳しい自然環境で磨かれた「機能美」や「哲学」を、都市生活というフィールドにマッチするシーンにを訴求します。またアウトドアで使われる機能やアイテムに触れることで、意識せずに自然とフィールドへと近づいていく気運を醸成します。
アウトドアフィールドへ誘うメディア、そして自然のなかにいるような心地よさと冒険心をもって生きる人々を応援する新メディア。厳しい自然環境で磨かれた「機能美」や「哲学」を、都市生活というフィールドにマッチするシーンにを訴求します。またアウトドアで使われる機能やアイテムに触れることで、意識せずに自然とフィールドへと近づいていく気運を醸成します。



















