
フィジーク・サドルの新たなる潮流。EVAパッド採用の新生「R1ライト」の実力を問う|fi‘zi:k
Bicycle Club編集部
- 2026年03月13日
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ロードバイクのサドルにおいて、近年大きな話題を呼んだ3Dプリント技術。それに続く次なるパラダイムシフトとして注目を集めているのが「EVAパッド」の採用だ。イタリアのフィジークが中核モデルであるR1シリーズを全面刷新し、表皮を持たない単一素材のEVAパッドモデル「R1 Light(R1ライト)」を世に送り出した。
大幅な軽量化とダイレクトな乗り味を手に入れたというこの新たな潮流は、実際のペダリングにどのような変化をもたらすのか。自転車ジャーナリストの安井行生と菅洋介が、新旧・グレード・形状ごとの比較試乗を通して、その真価を徹底的に紐解く。
サドルの進化と新たな潮流

スチールフレームからアルミを経てカーボンフレームへ、リムブレーキからディスクブレーキへ、丸チューブから空力の時代へ……とロードバイクが節々で劇的な進化を遂げたように、サドルもその時々で一気に進化する。古い話だと革サドルから樹脂ベースという素材の転換。ベースやレールのカーボン化による軽量化。痛みを解消する穴あきサドルの登場。目的・体型別の細分化、などなど。
近年では、発泡ウレタン+合皮カバーという作りだったパッドを3Dプリント樹脂に置き換えることによって、場所ごとに最適な硬さに調整した3Dプリントサドルが登場し、市場を賑わせている。2020年に世界初となる3Dプリントサドル「アダプティブ」を発売したのがイタリアのフィジークであり、2024年には計測データを基にオーダーで3Dプリントサドルを制作する「One-to-Oneプログラム」を稼働させている。
それに続くように、新たな潮流が生まれている。EVAパッドである。
少々ややこしい? フィジークのラインナップを整理する

その前に、フィジークのラインナップの説明を。このメーカーの商品構成は「全てのサイクリストに最適なサドルを提供する」ことを真面目に考えたが故に、少々ややこしい。
まず、フラットで前後に長い形状が特徴のアリオネ、エアロポジションが取りやすいショートノーズサドルのアルゴ、カーブした座面が特徴でしっかりと腰を据えてペダリングするライダーに適するアリアンテ、オーソドックスな形状で万人に合いやすいアンタレスという形状違いによるモデルがある。
そして、これらの製品群をヴェントとテンポという2種類に分けている。ヴェントはレーシーに走るライダー向け。テンポはエンデュランス志向でロングライド向けだ。商品名の前にこの「ヴェント」や「テンポ」という接頭語を付けることで、目的別に選びやすくしたのである。
さらに、各モデルにグレード分けが存在する。R1(カーボンレールのハイエンドモデル)、R3(フィジーク独自の軽量金属レール採用モデル)、R5(スチール合金レールモデル)という3段階で、アルゴとアンタレスには00というスペシャルな軽量モデルが用意される。

さらにさらに、各モデルには数種類のサイズラインナップがあり、それに加えて各モデルに3Dプリント製の「アダプティブ」バージョンがある。かように商品数は膨大であり、売る側としては在庫が大変だろう。
“新たな潮流”が採用されたのは、R1である。2026年初頭、フィジークはR1シリーズを全面刷新し、「R1ライト」へと進化させた。ポイントはEVAパッドの採用だ。
3Dプリントサドルを除き、これまでのサドルはほぼ全て発泡ウレタン+合皮カバーという作りのフォームパッドだった。フィジークも、R1、R3、R5は全てフォームパッドを採用していた。しかし、新型のR1ライトはフォームパッドではなく、EVAパッドとなる。
カバーを持たない単一素材「EVAパッド」とは

EVAとはエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(Ethylene-Vinyl Acetate Copolymer)の略で、軽量でありながら柔軟性、弾力性、耐久性に富む樹脂素材のこと。原料の配合を変更することで目的にあった物性を持たせることができる。スニーカーのソールに採用されているのがこのEVAだ。
フィジークはR1ライトシリーズで、パッドをこのEVAに置き換えた。従来のフォームパッドは発泡ウレタンを合皮のカバーで覆った二層構造だったが、EVAパッドは単一素材となり、カバーは存在しない。
EVAパッドのメリットは、軽量であることに加え、「快適性を維持したままライドのパフォーマンスを上げる」ことだという。やや曖昧な表現なので分かりづらいが、パッドをコシのあるEVAにすることで、しっかりと腰を落ち着けて力強く効率のいいペダリングができるようになる、ということらしい。また、表面の摩擦もサドルに最適になるようチューニングされているという。
R1ライトのさらに上位となる00に採用されるEVAパッドは、00専用にチューニングされたもの。R1ライトも00もカーボンレールだが、R1ライトが別体のカーボンレールをベースに差し込んである構造になっているのに対し、00はカーボンベースに直接カーボンレールを接着する作りとなっており、より軽量になっている。
なお、シェルの素材はR1ライトからR5まで同じ(柔軟性と耐久性に優れたカーボン強化ナイロンシェル)だが、00は軽さを重視してカーボンシェルとなる。

そのEVAパッド、触ってみると決してフカフカではない。むしろサドルのパッドとしては硬いほうだ。「パッドが柔らかい=快適なサドル」と思われがちだが、柔らかすぎるパッドは体重をかけたときに底付きしてしまい、骨がベースに当たって逆効果になることもある。どっかりと座ってクルクルとペダルを回すママチャリとは違い、スポーツバイクはパワーをかけてペダルを踏むので、パッドには腰を安定させるコシも必要だ。一見硬そうに思えるEVAパッドだが、スポーツバイクらしいペダリングを前提とした最適の硬さにチューニングされているという。
今回は、EVAパッドを採用し一新されたR1ライトシリーズを中心に、2パターンの比較試乗を行い、R1ライトの真価を探る。担当するのは自転車ジャーナリストの菅洋介と安井行生。比較パターンは以下のとおり。
①同形状(アンタレス)における新旧/グレード比較

- 左 ヴェントアンタレスR1(フォームパッドの従来型、カバーがある)
- 中央 ヴェントアンタレスR1ライト(EVAパッド採用の新型)
- 右 ヴェントアンタレス00(EVAパッド採用で、カーボンベース・
カーボンレール採用のスペシャル軽量モデル)
②同グレード(R1ライト)における形状比較

- 左 テンポアリアンテR1ライト
- 中央 ヴェントアルゴR1ライト
- 右 ヴェントアンタレスR1ライト
インプレの前に:2人のライダーの好み

菅:自分は競技をやっていた頃の名残りで、サドルの前に恥骨を引っかけるようにしてペダリングをすることが多いんです。そのほうがハンドルを引いてパワーを出せるから。だから恥骨が引っ掛かりやすい湾曲したサドルが好みですね。あとは乗車位置を変えるので座面が長いほうが好きです。

安井:僕はシッティングで淡々と走るタイプで、よくヒルクライムをしていたこともあり、後ろ乗りで坐骨を固定させるタイプですね。昔に比べると前乗りにはなりましたが。
菅:じゃあ固定する場所が僕とはちょっと違いますね。
安井:だと思います。あとケイデンスが比較的高めなので、内腿の引っ掛かりがあると抵抗になると感じます。だからサドル前半の幅が狭いほうが好きですね。
アンタレス新旧比較:まるで低反発枕のような落ち着き

安井:ではまずヴェントアンタレスR1の新旧比較から。フォームパッドのヴェントアンタレスR1と、EVAパッドのヴェントアンタレスR1ライトを乗り比べました。
菅:形は全く一緒だけど、乗った感じは全然違いますね。
安井:です。面白いです。新型のEVAパッドって、触ってみると硬めですし、お尻を乗せた瞬間は「結構ハードだな」と感じるんですけど、ペダリングをしはじめると落ち着くんですよね。なんというか、低反発枕的な。
菅:そうそう。まさに低反発枕。
安井:ふわふわじゃなくてコシがあるから、坐骨がじわっと落ち着く。不思議な乗り味です。
菅:その「コシのある柔らかさ」に、表面のグリップが効いてかなり好みの乗り味です。
安井:表面の摩擦フィールも全然違うんですね。ちゃんとグリップするんだけど、全く滑らないわけじゃない。動かしたいときには動く。いい場所になるとそこでキュッっと止まってくれる。EVAパッドは表皮がなくて素材そのままですが、よく見ると表面の前後方向に細かい溝がある。おそらくこれは着座位置の調整のしやすさと、腰の落ち着けやすさを考えたものなんじゃないかと。

菅:そうだと思いますよ。どこのポイントでも腰の収まりがいいんですよね。今までのサドルって、いいポイントが決まったら、腰がそこからずれないように意識して固定する必要がありました。でもEVAパッドは、自分が腰を落ち着けたいと思った場所に勝手にピタッと落ち着く。だからある意味誰でも使いやすい。
安井:そうですね。こういう言い方をしていいのか分かりませんが、止めたいと思ったらどこでも止まってくれるから、セッティングは若干ラフでも座れちゃう。そういう意味でもこの素材はいいんじゃないかな。アンタレスの形状についてはどうですか。
菅:僕は恥骨を狭いところに固定して走るタイプですが、アンタレスはノーズの狭い部分が長いので、恥骨の置き場所がいっぱいある。だから「上りになってきたら少し前に座る」「下りでは腰を引いて安定させる」という調整がしやすいですね。このアンタレスの「ポジションの幅広さ」はいいですね。
新型アンタレスグレード比較:重量差は効くか

安井:ではEVAパッドの新型アンタレスの「R1ライト」と「00」の比較です。
菅:焦点は重量ですが、サドルの軽さって気にします?

安井:機材の軽さはあんまり気にしないタイプなんですが、サドルの重量は若干気にします。シッティングからダンシングに移行した瞬間のバイクの振りの軽さに影響するので。
菅:分かります。だから僕はサドルバッグは付けません。
安井:同じく。で、「R1ライト」と「00」はどちらもカーボンレールですが、00はベースまでフルカーボンになり、ベースとレールが直接接着される作りになり、118gと超軽量。といってもR1ライトでも122gと相当軽いので、数gしか違わない。乗って分かるかと言うと、ほぼ分からないレベル。なにがなんでも軽くしたい人が買えばいいと思います。
菅:そうですね。どちらも非常に軽いので、ダンシングの一振りめのバイクの動きがものすごく軽い。フォームパッドのアンタレスR1は161gなので、新旧では結構重量が違うんですね。
安井:そうなんですよ。この重量差は効くと思います。

ヴェントアルゴR1ライト:面で乗る安定感

安井:エアロフォームに最適化されたアルゴです。アンタレスに比べるとノーズまで幅が広いので、僕には骨格的にあんまり合いませんでしたが、でもEVAパッドのおかげで、合ってないのにそこそこちゃんと座れちゃう(笑)。これが普通の表皮だとたぶんダメなんですけど。
菅:自分も細身のところに点で恥骨を置くタイプなので、座面形状が広くフラットなアルゴは広すぎますね。「面に乗った感」があるので、腰を安定させながら乗るライダーに向いている形状だと思います。クッションのボリュームを感じるので、軽い負荷で走り続けるようなロングライドだったら、サドルにドカッと乗れちゃうアルゴはいいでしょう。逆に骨盤を大きく回すような走りをする人にはサドル幅が広すぎるので、アンタレスやアリアンテのほうが合うでしょうね。
安井:TTバイク的な前重心&深い前傾姿勢で走るならこのアルゴが合いますね。
テンポアリアンテR1ライト:絶妙な摩擦感と減衰感

安井:これはすごく好みでした。包み込んでくれる形状的なメリットに、EVA素材のよさが加わって、すごくフィットしました。EVA素材の摩擦感と減衰感が絶妙。
菅:アリアンテは昔から全体的に湾曲していて、真ん中が沈み込んでノーズが上がっている形状ですが、僕はそのノーズを「恥骨を引っ掛ける場所」として使ってたんです。今回のEVAパッドはグリップする素材ですよね。形状として引っ掛かるうえに素材としてグリップするので、ポジションがかっちり決まっている人にはすごくいい。腰の前後位置を動かすタイプの人ならノーズの長さが使えるアンタレス、座る場所が決まっている人はアリアンテがいい。
安井:ペダリングしたときの内腿の擦れによる抵抗も少ないので、スムーズにペダリングできます。
菅:そう。脚の摩擦が少ないこともアリアンテのメリットですね。
EVAパッド総論:サドルへの信頼がペダリングを変える

安井:いずれのモデルも、ベースがめちゃめちゃしなるタイプではないと思うんです。触ってみると結構硬い。でもそれが、このEVAという素材にすごく合ってます。
菅:そう。それによってEVAの独特な低反発性が際立ってます。ベースをあえて少し硬くすることで、EVAの性能を引き出してるんじゃないかな。EVA素材が作り出してくれる安定感、ホールド感がすごく心地いい。人は恥骨や坐骨をペダリングの支点として使っているわけですが、このEVAは恥骨・坐骨の安定感が抜群です。
安井:だからペダリングが安定しますね。そこがEVAパッドの一番の美点だと感じました。しかも、表面がちゃんとグリップしてくれるので、「腰をいい位置に固定しておく力」が必要ない。表面が滑りやすいサドルだと、ペダリングに適する位置に腰を固定しようと腕や腰が力むことがありますが、EVAはそれが全く要らない。
菅:そうそう。下りでは腰を後ろに引いたポジションにしますが、滑りやすいサドルだと腕に力を入れないといけない。でもEVAだと腰とサドル表面が噛み込んでくれて自然とホールドしてくれるので、どのポジションでも滑らず安定し、常に股間にフィットしてくれる。サドルに信頼を置いて走れる感覚がすごくよかった。
安井:3Dプリントサドルのような見た目上の分かりやすさはありませんが、サドルとしての総合性能が底上げされた印象です。
【製品情報】フィジーク R1 Lightシリーズ ラインアップ&スペック

対談の中でも語られた通り、フィジークのサドルラインアップの中核を担う「R1」グレードがモデルチェンジを果たし、新たに「R1 Light」シリーズとして生まれ変わった。最大のトピックは表皮(カバー)を廃した「インジェクテッドEVAパディング」の採用であり、これによって従来のR1モデルと比較して約17%もの軽量化を実現している。
低密度のEVAフォームは薄型でありながら優れたクッション性と反応性を兼ね備えており、ペダリングパワーを逃さないダイレクトなフィーリングを生み出す。表面には滑りにくい仕上げが施されており、激しい動きの中でも高い安定感を発揮するよう設計されている。
ベースとなるシェルにはカーボン強化ナイロンを、レールには7x9mmの超高剛性カーボンレールを組み合わせる「カーボン・チューンド・アーキテクチャー」を採用。グラム単位で無駄を削ぎ落としつつ、レースやハードなトレーニングに耐えうる耐久性と剛性を確保している。展開される3つのモデルは以下の通り。ハイエンドに迫るスペックながら、導入しやすい価格設定も魅力の一つだ。
VENTO ANTARES R1 LIGHT(ヴェント アンタレス R1 ライト)
価格:36,910円(税込)

プロに選ばれる万能レーシングモデル。ノーズからウイングにかけてわずかにウェーブした形状が特徴で、あらゆるポジションで効率的なペダリングが可能。前後の移動が容易なフラットかつワイドなノーズ形状がパワー伝達をサポートする。医学的見地から開発されたエルゴノミクスカットアウトを備え、深い前傾姿勢でも血流を阻害しない快適性を確保している。
- サドル長:268mm
- サドル幅:140mm、150mm
- 重量:122g(140mm)、128g(150mm)
- 75mm幅部分の高さ:46mm
- ノーズ先端から75mm幅までの長さ:147mm
- レール:7x9mmカーボン
- シェル:カーボン強化ナイロン
- パッド:インジェクテッドEVAパッド
VENTO ARGO R1 LIGHT(ヴェント アルゴ R1 ライト)
価格:36,910円(税込)

安定性とエアロポジションを両立するショートノーズデザイン。よりアグレッシブなエアロポジションを長時間維持できるよう設計されており、ドロップノーズ形状が恥骨枝をサポート。骨盤を前傾させた際もパワーを出しやすい。中央には大きなカットアウトが設けられ、軟部組織への圧迫を軽減。レースバイクの鋭い挙動に対応するダイレクト感と長時間の快適性を両立。
- サドル長:265mm
- サドル幅:140mm、150mm
- 重量:149g(140mm)、154g(150mm)
- 75mm幅部分の高さ:42mm
- ノーズ先端から75mm幅までの長さ:114mm
- レール:7x9mmカーボン
- シェル:カーボン強化ナイロン
- パッド:インジェクテッドEVAパッド
TEMPO ALIANTE R1 LIGHT(テンポ アリアンテ R1 ライト)
価格:36,910円(税込)

”ソファ”のような快適性で愛されてきたエンデュランスモデル。ウイングからノーズにかけての緩やかなウェーブプロファイルが特徴で、坐骨を支えるエリアが広く、優れた荷重分散性能を誇る。インジェクテッドEVAパッドが必要な厚みを損なうことなくサポートし、145mm幅で144gとエンデュランスモデルとしては極めて軽量に仕上がっている。
- サドル長:277mm
- サドル幅:145mm、155mm
- 重量:144g(145mm)、148g(155mm)
- 75mm幅部分の高さ:44mm
- ノーズ先端から75mm幅までの長さ:141mm(145mm)、138mm(155mm)
- レール:7x9mmカーボン
- シェル:カーボン強化ナイロン
- パッド:インジェクテッドEVAパッド
問:カワシマサイクルサプライ https://www.riogrande.co.jp/
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Bicycle Club編集部
ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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