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峠の肖像 #6 車坂峠・コマクサ峠(長野)物静かな標高2000mへ

サイクリストだけがこの峠に「人の営み」をみる

車坂峠を越えて西に林道を進むと、そこはコマクサ峠へのグラベルである。車坂峠以上に体力を奪われ、高い標高に呼吸が追いつかなくなる。せめてもの救いは、乗用車も通るためにグラベルが比較的フラットでスムーズなこと。脚とテクニックがあれば天空のグラベルは至福の時間となる

日本のラルプデュエズ?

「日本の〇〇」と謳われているものが、本家より傑出することはほとんどない。表層をなぞっただけの呼称は、時としてその本質を見失わせる。長野・群馬県境にある車坂峠を登りながら、ツール・ド・フランスの夏の熱狂を思い返すことはできるだろうか?

この登坂は、誰が呼んだか「日本のラルプデュエズ」として知られている。あろうことか、世界最大のレースの、最も象徴的な登坂の名前を冠しているのだから、それ相応の格が求められるというものだ。だが、山頂までたどり着いてみると、あの華やかなスキーリゾートタウンが広がるアルプスの登坂に比べ、ここは静まり返っている。冷涼で乾いた空気が標高2000m地点であることを物語るほかに、この峠の特質を伝えるものは何もないようにすら思える。……いや、ひとつだけある。ここまで酷使され、切れたように痛む脚はこの峠が容易いものではないことを証している。小諸の市街地からは20km近い登坂だった。

人の跡に乏しい峠

この車坂峠は、長野県小諸市と群馬県嬬恋村を結ぶ林道として、昭和30年代に舗装路として開通したが、その本懐は山頂のスキー場や登山客を見込んだ観光道路であった。古くから人々の往来があった歴史の道ではなく、あくまで人為的な、効率よく山上へ至るための道だということだ。ここを走る者を歓迎も拒絶もしない無関心さは、ここに起因するのだろう。人の営みと峠の佇まいが一体となっていない。

そんな無機質さを緩和するためか、昭和の終わりになって地元はこの峠に24の歌碑を置いた。それぞれに縁の歌人による歌が刻み込まれている。峠の南麓、小諸は文人に愛された町であることを思い起こさせる。また、峠の半分を越えると九十九折が出現しだすが、その道路脇には数多くの桜が植えられている。春には桜の名所として訪れる者を楽しませるというが、石碑に植樹とどこまでも人工的な峠でもある。この桜にちなんで、小諸側の登坂にはチェリーパークラインという呼称がつけられており、日本の山岳地帯の観光道路にありがちな、素頓狂なカタカナ語の例をここに見ることができる。

コーナーに、人の営みを見る

もしかしたら、人の営みをこの峠に見つけることができるのはサイクリストだけかもしれない。平均勾配8%で10km以上続く急登を、ほとんど止まりそうな自転車の速度で走っていると、路面に幾筋も走る黒い線が視界に入ってくる。コーナーを蛇行するように流れるこの黒い線は、主にクルマがつけたものだろう。道路に定着したその入れ墨の上を走ると、タイヤの匂いがむせ返ってくるようだ。決して美しい曲線とは言えないが、無機的な峠道の途上にあって、その痕跡はこの峠に人の感情を伴う往来があったことを示してくれる。車坂峠という名前の登坂を象徴するものは、クルマのタイヤ痕であることもどこか寓話的だ。

物言わぬが雄弁なタイヤ痕。車坂峠の激坂に挑む者はこの黒い筋に幾度となく対面することになる。人気のない静かな峠のなかで、異様に人為を感じさせるもの。この峠が車坂と呼ばれるのも故あることと思われる

ラルプデュエズの路面には、7月の観衆によって塗り込まれた数々の選手の名前が定着している。その意味では確かに、この峠を日本のラルプデュエズと呼んでもいいのかもしれない。不当に背負わされた重い看板を外せば、車坂峠は標高2000mに至る、そして「坂の町」小諸の真髄を見せてくれる、寡黙で実直な好峠である。それに、ここのKOMを持っているのが、留目夕陽というワールドツアー選手であることも、ラルプデュエズに近からずも遠からずと思わせてくれる。

高山植物が咲き乱れる天空のグラベルへ

1973mの峠の頂上に至ったら、県境を越えて群馬側の嬬恋村へ北に下るのは自然なことだ。西へ進んでも嬬恋へと下りることができるが、勇気がいる。その道は砂利に覆われているからだ。パスハンターたちなら喜ぶグラベルの林道だが、ながらくロードサイクリストがこの道を選ぶことは少なかった。しかし今日、太いタイヤを履くことのできるバイクがサイクリストをこの砂利道に導く。

コマクサ峠へのグラベルは、車坂峠を登った後だけにより過酷なものとなる。しかし天空のグラベルは、一度は走る価値がある

スムーズなこのグラベルをしばらく下ると、登りに転じる。グラベルバイクなら恰好のロケーションだが、ロードバイクでも十分に走ることができる。天空のグラベルといった趣のこの坂を、先ほどまでの車坂峠で足に溜まった乳酸と折り合いをつけながら登っていくと、山頂で未舗装路が終わる。そこにはコマクサ峠という名前がつけられている。

峠には登山客の鳴らす熊鈴が涼しい音を響かせていた。コマクサを見るために、このグラベルを越えてくる乗用車も多い。だからこそ、走りやすいグラベルが保たれているともいえる。高山植物であるコマクサは通常、標高3000m帯に分布するが、この峠では例外的に標高2000m周辺にも咲くという。峠の名前はこの花にちなむが、岩陰に咲く小輪に頼らざるを得ないほど、取り立てて何もない峠でもある。そのまま舗装路を下ると、今度は地蔵峠という名前の峠に突き当たる。ここから長野側の東御に下っても、群馬側の嬬恋に下ってもいい。ラルプデュエズは言いすぎだとしても、この3つの峠をつなぐループは、季節を変えて走りたくなる魅力がある。車坂峠は冬場でも閉鎖しない数少ない2000m級の登坂であるから、あえて冬に走りに来てもいいかもしれない。刻々と変わる路面状況は、挑戦するに値するものだ。

眼下に小諸の町並みを望む。小諸は坂の町として知られるが、車坂峠の山頂に至ればその理由が体感できるというものだ。そしてこの坂が多くの文人に親しまれたことも忘れられない。おそらく、古今で坂は人を内省的にさせる

スペシャライズド・Sワークス ルーベで走る車坂峠&コマクサ峠

車坂峠へのヒルクライム、そしてコマクサ峠のグラベルを走りきったスペシャライズド・Sワークス ルーベ。長距離や荒れ地など、挑戦的なライドを支えてくれる一台だった。車坂峠・コマクサ峠での機材レビュー記事も合わせてチェックしよう。

未だ見ぬ地平へ飛び込むためのバイク|Specialized S-Works Roubaix SL8

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2024年07月19日

 

※この記事はBicycle Club[No.457・2024年9月号 ]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
※誌面との連載Noとは異なります。

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PROFILE

小俣 雄風太

小俣 雄風太

アウトドアスポーツメディアの編集長を経てフリーランスへ。その土地の風土を体感できる方法として釣りと自転車の可能性に魅せられ、現在「バイク&フィッシュ」のジャーナルメディアを製作中。@yufta

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