
世界を知り、世界に挑む。2026シクロクロス世界選手権、日本代表の現在地
Bicycle Club編集部
- 2026年01月28日
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2026年1月29日から2月1日まで、オランダ・フルストにて「2026 UCIシクロクロス世界選手権」が開催される。今大会には、渡部春雅、柚木伸元をはじめとする8名の日本代表選手が出場。1月26日、選手団は羽田空港を出発し、世界最高峰の舞台へと向かった。ここでは例年以上に若い編成となった日本代表についてお伝えする。
若き挑戦者たちがオランダで刻む“一周一周”の意味

1月26日22時05分、選手団は羽田空港発の便で日本を出発した。世界最高峰の舞台へ向かう旅は、静かな緊張感の中で始まった。
1月29日から2月1日、オランダ・フルストで開催される「2026 UCI Cyclo-Cross World Championships」。エリートからジュニアまで、世界各国のトップライダーが集結する、シクロクロス競技における頂点の大会だ。
完走は目的ではない。 今年の日本代表は、例年にも増して若い。結果を求めるだけではない。”何を経験し、何を次につなげるか”を明確にした遠征である。
「完走」を、通過点に変えるために
女子ジュニア3選手の現在地
女子ジュニアに挑むのは、石川七海、日吉彩華、小林碧。立場や経験値は異なるが、3人に共通するのは「挑戦の立ち位置で、世界の基準を体で学ぶ」という姿勢だ。

2年連続出場の石川七海は、前回の経験を明確な改善課題へ落とし込んでいる。「前回は後半で垂れてしまった。今回は最後まで粘る走りを。 完走はマストですが、その中でも内容を良くしたいです」
コース研究は過去映像が中心。ラップの落差、轍の深まり方、他国選手のミスが出やすいセクションまで視線を細かく走らせる。機材は“備えすぎない、けれど不足しない”。バイク2台、路面に応じた複数のホイール、ブレーキパッドは2セット。特別扱いをしすぎない冷静な準備が、今回は心身の安定を生む。

初出場の日吉彩華は、目標を端的に語る。「完走を目指しています」 世界のスピードレンジと密なレース運び。国内では得にくい“肌感”をまずは全身で受け止め、走り切ることに集中する。

同じく初出場の小林碧は、事前情報の“厳しさ”を正面から受け止めつつ、スタート直後のトラクションと流れに乗ることを鍵に据える。「かなり難しいコースだと聞いています。不安はありますが目標は完走。 スタートでしっかりトラクションをかけて、流れに乗りたいです」
レースの先の小さな楽しみも、3人の表情を和らげる。石川は「マヨネーズたっぷりのフリッツ」をレース後のご褒美に。日吉は「他カテゴリーの現地観戦」で動きと判断を学ぶ時間を楽しみにしている。小林は「ボンボン付きの帽子を買うこと」、そして「スイス合宿で一緒だった選手との再会」。厳しい舞台に立ちながらも背負い過ぎない心の置き方は、走りの強さとも地続きだ。
万全だが最小限

女子エリート・渡部春雅の挑戦作法
渡部春雅は、日本からただ一人、エリートカテゴリーで挑む。拠点はオランダだが、その事実を過信しない。「オランダにいること自体は、正直あまり関係ないですね。 コースもワールドカップの映像を見たくらいです」
準備は“万全だが最小限”。予備フレーム1式、チューブラーは4セット、ブレーキパッドは4~5個。ホイールは段ボールに入るだけ持ち込む。 遠征の現実と向き合いながら、走りに集中できる範囲での最適解を選ぶ。
「コースはかなり難しいと聞いています。なので今回は“挑戦する立ち位置”。結果よりも、ここでしっかり経験を積むことを大事にしたいです」
若いチームを自然とまとめる存在として、「今年は特にいいメンバー。みんなで協力して戦えたら。……荷物は持たせます(笑)」と肩の力を抜く一言も。レースの外の楽しみは、「チームで過ごす時間そのもの」。移動、食事、ピット前の段取り確認──若い面々と視線を合わせる時間は、レース運びと同じくらい価値のある“現地学習”になる。
数字と現実感のあいだで

男子ジュニア、海外で試される総合力
男子ジュニアは三上将醐と山田駿太郎。海外遠征は走力だけでなく、準備・運用・判断の総合競技でもある。
三上はホイール4セット、ブレーキパッドは8台分を持参。山田もホイール4セット、パッドは4台分と必要十分の構成だ。最高峰のコースゆえに“経験値の積分”が問われる舞台で、三上は「トップと3分差以内、20位以内」という具体数値を掲げる。山田はまず「安全に走り切る」ことを最優先に置き、その先に順位の上積みを見据える。

レースの先の小さな楽しみもそれぞれだ。三上は「日本で面識のある海外トップ選手に再会できること」。顔と名前が一致する関係性は、次の挑戦を現実的なものに変える。山田は「結果以上に、レースそのものを楽しむこと」。緊張と期待の狭間で、自分の走りに没頭する時間が、次の成長を呼び込む。
帰国後はお台場でのレース出場も視野に入れる。海外で得たものを、すぐ国内に還元する流れは、成功を点で終わらせない“線”づくりにもつながっていく。
現在地を知り、次を狙う

男子U23、短期決戦の世界選手権
U23の世界へ、今年も日本の若い力が踏み込む。出場は、世界選手権4回目の柚木伸元と、U23初挑戦の野嵜然新。ワンレースのみ──一発勝負の舞台で、二人はそれぞれ異なる角度から世界に向き合う。

柚木伸元は、装備で“持ちすぎない”を徹底する。ホイールは5セット(マッド3/オールラウンド2)。ブレーキパッドは1台につき2〜3セットに限定。「世界選手権だからといって、何でも持っていけばいいわけじゃない。限られた条件の中で、自分が走りに集中できるかがいちばん大事です」
コースは「日本に近いものはほぼない」。泥の質、アップダウンの連続、レイアウトの密度──野辺山に似た泥の感触も一部にはあるが、規模が違う。だからこそ、ここで走る意義は大きい。狙うのは、「これまでの4年間で、最も内容のあるレース」。スタートからオーバーペースに陥らず、要所でポジションを上げていく成熟のマネジメント。 BMXで育てた“縦の動き”が生きる区間は、本人にとっても楽しみだ。
野嵜然新は、世界のU23を初めて真正面から受け止める。「まずは、スピードの違いを体感して、今の自分の立ち位置を知る」ただ“やられる”だけで終わらせない。「ここでもやっていけるという手応えを持って帰りたい」そのためには、最後列から様子を見るのではなく、最初から前で勝負する姿勢が不可欠だ。
レースの先の小さな楽しみも、ふたりは大事にしている。柚木は、同会場での他カテゴリー観戦を挙げる。映像では拾い切れないリズムやライン取りを“空気ごと”吸い込む時間は、翌日の身体感覚を変える。野嵜は、ヨーロッパの“現地の空気”を味わうこと──観客の近さ、声援の密度、コース脇のざわめき。競技と文化が溶け合う空間に身を置くこと自体が、次の動機づけになる。
短期決戦の世界選手権は厳しい。しかし、世界を知ることは、それ自体が強化だ。この一戦は、ふたりにとって確実に“次へ進むための通過点”になる。
環境を途切れさせないために

竹之内悠監督が描く、日本シクロクロス強化の設計図
代表監督の竹之内悠が見据えるのは、目先の順位ではない。「世界選手権だけをゴールにしない。そこに至るプロセスを、できるだけ途切れさせないこと」
監督就任から3年。最初に手を付けたのは、トレーニングでも選考でもなく、現場のニーズと制度の“噛み合わせ”だった。制度が遅れれば、短期遠征や若年層派遣は続かない。一度途切れた導線を再接続するのは、何倍もの労力が要る。だからこそ、回り続ける仕組みを優先して整えた。
非五輪種目で、資源も露出も限られる。それでもシクロクロスには、ロードやMTBのトップが集う高強度の価値がある。スイス拠点を中心に、U17・U15から“本場”に触れる設計を続ける。泥、寒さ、観客の密度、テクニカルな設計。国内では再現困難な要素を、若いうちに“当たり前”にする。
「若いうちに世界を知っておくと、修正コストが小さく済む。その分、伸びしろは大きくなる」
年次目標を“固定しない”のも意図的だ。成熟速度は人それぞれ。短い世界選やワールドカップの期間にすべてを詰め込むのではなく、選手が自分で考え続けられる“視点”を渡す。短期活動は、あくまで長期育成の入口に過ぎない。
「一人の成功を点で終わらせない。同じ条件で次の世代が挑戦できる環境が残るかどうか。そこまで含めて強化だと思っています」
先行者の背中を線にし、やがて面に広げる。派手さはないが確実に続く設計。日本シクロクロスの地図は、静かに、しかし着実に書き換わりつつある。
23kgの壁、そして出国までの時間

――空港と、国内でつながる準備の風景
世界選手権に向かう遠征は、レース当日だけで完結するものではない。今回の日本代表にとって、その“前段”は、羽田空港と国内各地のコースから始まっていた。
出国当日の羽田空港。各選手に課された預け入れ荷物の上限は23kg。自転車、ホイール、シューズ、ウェア、工具、消耗品。海外でレースを成立させるために欠かせない装備を詰め込めば、決して余裕のある数字ではない。
今回はアンダーカテゴリーの選手が多い編成だったこともあり、空港には、荷物を持ってきた親御さんたちの姿もあった。チェックインカウンター周辺では、選手、スタッフ、保護者が入り混じり、預け入れが完了するまで、慌ただしい時間が流れる。

自宅で何度も計量し、「23kgに合わせてきたはず」のバッグが、空港の計量器では28kgを示す──そんな場面も実際に起きた。バッグはその場で開かれ、ウェアや工具、補給食が床に広げられる。
「このホイール、こっちに入ります」「じゃあ、この工具は僕が持ちます」選手同士で声を掛け合い、重量に余裕のあるケースの隙間へ荷物を入れ直す。一つが軽くなれば、別のものが重くなる。それでも最終的には、全員の荷物が規定内に収まるよう調整された。
預け入れが終わるまで続いたその“バタバタ”は、若い選手にとって、海外遠征の現実を体感する最初の時間でもある。レースの速さや順位の前に、こうした準備と段取りが競技を支えていることを、身体で学ぶ。

一方、出国前日の1月25日。 国内でも、静かな準備の時間が積み重ねられていた。
茨城シクロクロスでは、オーガナイザーの田辺隆文氏の呼びかけにより、世界選手権を見据えた壮行会が実施された。参加したのは、石川七海、山田駿太郎、小林碧。 海外渡航を控えたこの時期、無理な強度ではなく、リズムや感覚を確認するための走りが行われた。
こうした壮行会は、茨城に限らず、関西クロス、東海シクロクロスの各地域でも行われたという。派遣選手を送り出す側が、それぞれのフィールドで“送り出しの場”を用意する。地域とナショナルチームが、ゆるやかに、しかし確かにつながる瞬間だ。
空港での23kgの攻防。 国内各地での壮行会。そのどちらも、レース結果には直接残らない。だが、こうした積み重ねこそが、若い選手たちを世界のスタートラインへ送り出している。

世界を見据え、世界に挑む

結果は一瞬で決まる。だが、そこで得た経験は確実に積み上がる。挑戦の立ち位置を自覚し、背負いすぎず、しかし逃げず。オランダの泥で刻む一周一周が、次の一歩を形づくる。
帰国後の報告の場へ —— 経験を“次”につなぐ時間

世界選手権での挑戦を終えた日本代表選手たちは、帰国後の2月8日、「シクロクロス東京」会場にて報告会を行う予定だ。
現時点で参加が確定しているのは、山田駿太郎、三上将醐、野嵜然新、小林碧の4選手。そして、代表監督の竹之内悠が同席する。
海外という厳しい舞台で得たものを、結果だけでなく、自らの言葉で共有する。世界を走った記憶を国内の現場へ戻し、次の世代やファンとつなぐための時間でもある。
大会概要・スケジュール・日本代表
- 大会名:2026 UCI Cyclo-Cross World Championships
- 会期:2026年1月29日(木)〜2月1日(日)
- 開催地:オランダ・フルスト(Hulst)
- 日本代表派遣期間:1月26日(月)〜2月4日(水)
- 公式サイト:https://hulst2026.com/
レーススケジュール(日本チーム出場予定)
※時刻は現地時間/( )は日本時間
- 1月30日(金)
13:30(21:30) チームリレー【メンバー未確定】
- 1月31日(土)
11:00(19:00) 女子ジュニア【石川 七海/日吉 彩華/小林 碧】
13:00(21:00) 男子U23【柚木 伸元/野嵜 然新】
15:00(23:00) 女子エリート【渡部 春雅】
- 2月1日(日)
11:00(19:00) 男子ジュニア【山田 駿太郎/三上 将醐】
13:00(21:00) 女子U23
15:00(23:00) 男子エリート
日本代表派遣選手団
選手
- 渡部 春雅(Liv Racing Japan / OlandaBase / Watersley)
- 柚木 伸元(日本大学 / シマノレーシング)
- 野嵜 然新(桐光学園高等学校 / drawer THE RACING)
- 山田 駿太郎(竹園高等学校 / 弱虫ペダルサイクリングチーム)
- 三上 将醐(横浜立野高等学校 / ATHLETUNE CORAGGIO KAWANISHI U-19)
- 石川 七海(八千代松陰高等学校)
- 日吉 彩華(岐阜第一高等学校 / Asia Union TCS Racing Team)
- 小林 碧(並木中等教育学校 / AX Cyclocross team)
スタッフ
- 監督:竹之内 悠
- メカニック:市原 直弥/LAVENS Ranjit/VANOVERBERGHE Mark/AN SuiJs
- マッサー:COSEMANS Dominique
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- 編集:相原晴一朗/BicycleClub 文と写真:井上和隆
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