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日常の小さな旅へ【TORUKU STORY of 四角友里 #1】

人生の一部となった“歩く”に加えて、最近は“撮る”の世界に一歩ずつ、着実に足を踏み入れているアウトドアスタイル・クリエイターの四角友里さん。

盛夏を迎える前のある日、花の時期を迎えたあじさいに呼ばれるように「OM SYSTEM OM-3」を手に、地元・鎌倉の小さな旅へ。

歩くたびに移ろう景色に心を動かされながら、次第に“撮る”をめぐる脳内の旅もスタート。

パラレルな旅が行き着いた先とは――。

向き合うほどに変化していく感情

仕事に悩殺される出来事が続き、なんだか前に進んでいないような日々だった。

6月最後の日。カメラを片手に、自分が住む鎌倉のまちへと繰り出すことした。

選んだのは単焦点レンズ。

この日は、ズームレンズをつけ、どういうふうに撮ろう……などと頭で考えたくはなかった。見たものを、さっとそのまま撮りたい気分だったのだ。

いつも駅までの通り道となっている場所だけれど、自然と歩みがゆっくりとなる。

 

街を彩る鎌倉のあじさいたち。

――そうか、もうそんな季節。

忙しい日々の中で、自分のうえを季節が通り過ぎてしまっていることに気づく。おもむろにシャッターを切ることで、季節に手をのばし、ぎゅっとつかんだ気持ちになった。

ガクアジサイの花びらの真ん中には小さな花が。

おしべとめしべもあり、こちらが本物の花で、大きな花びらにみえるものは萼(がく)だったと思い出す。

すると今度は、花の蕾が目に飛び込むようになり、まだ咲いていないあじさいを見つけた。

好奇心がするすると動いていく。

まじまじと観察してみると、萼のなかに存在する色のグラデーションがきれい。

花脈や花を支える軸の、なんともいえぬ繊細な色に見入った。

 

 

――花びらの上を蟻が横切っていった。

 

梅雨の晴れ間の強い日差しの下で、一匹の蟻はとても健気。この姿を見られただけで、今日、カメラを持って出かけてよかった、とすら思った。

だってきっと私は、そのうちこの出来事を忘れてしまうだろう。

このささやかな出会いは、目を瞑って蘇るような、人生を彩る素晴らしい景色ではないから。それでも、ガラクタを拾い集めるように、「あぁいいなぁ」と思った瞬間を、心に残したい。

写真を撮るということ

通りかかる地元のひとたちが、足を止め、神社に一礼をして、また歩き出す。

日常の流れをとめて、氏神様に心を傾けるひととき。

その句読点を打つような数秒が、私にとって、カメラを携えてシャッターを切る瞬間に少し似ている気がした。

絵馬の先に登山口。

鎌倉はこのギャップがおもしろく、このまま山頂に行くことにした。

山桜の実の赤い果柄が、線香花火の燃え殻のよう。梅雨の雨風で落ち、朽ちたのだろう。

ガムテープで貼られた山の名と小さな標高に、愛おしさがこみ上げる。

 

尾根を歩き、少し考えごとをしてしまう。

途端にシャッターを押す回数が減った。なんと正直なもの。

でも、それはそれ。シャッターを押したくないときには押さない。

こころが動いたときにだけ。

 

SNSにあがる写真を見るたび、「こんなふうに素敵に私にも写真が撮れたらいいのに」と思うのに、実際に自分が撮ったものをみると、少しがっかりする。

それでも、目にした光景を「美しい」とか「愛おしい」とか、なにかを感じた心の揺れを留めたくて、シャッターを押す。

(だれかに評価されたいわけでもないし)もうその気持ちだけで十分かなと、半ばあきらめの心境。

でも今日も、カメラを通して見た世界は、すこしキラキラしていて、近ごろ閉じてしまっていた心が、パッと開いたように、見過ごしていたものが視界に飛び込んでくる。

これがスマートフォンだと、私にとってはなんだかうまくいかない。

 

カメラを手で下から支える。

ファインダーをのぞく。

そこに焦点をあわせる。

この、“瞬間”を手のひらに大切に包むような感覚。

カメラのシャッターが、自分の五感のスイッチとリンクする感じがあるのだ。

シダのやわらかさに惹かれ、写真に収めたあと、手のひらで触ってみた。

影を撮っていたら、なめくじを見つけた。休んでいたのに、のぞいちゃってごめんね。

想いと日常を浮き立たせる道具

妙本寺へと戻ると、境内の奥に歩いてきた山並みが。

歩くことで、自分の欠片を残してきたように、麓にいても、この景色と、つながっている気分。

山門をくぐり、さあ帰ろうと歩き出す。

そして今日、山の合間からみた立ち並ぶ家々の景色を思い出した。

いくつもの屋根の下にある生活。お腹をすかせたり、眠ったり、怒ったり、喜んだり、もがいたりしながら私たちが紡いでいる日常たち。

内側にいると見落としてしまいがちな、日常というものの尊さを想った。

私がカメラを携え歩くのは、自分の居場所へと、よりよく還るためなのかもしれない。

 

余談。

ふわふわとした気持ちで、まっすぐ家に帰るのがもったいないなくて、鎌倉のカフェで休んだ。

今日の締めの一枚のつもりだったが、どこか違和感が残り、電源を切って、しまっていたカメラをもう一度取り出した。

ああ、これって、“だれか”のためにきれいに映した、よそいきな自分だなと苦笑いしながら、空になったグラスを撮った。

――うん、こっちのほうが好き。

「いい1日だったな」という満たされた気持ちも、一気に食べ終えてしまった食いしん坊な自分も、そこに写っている気がした。

 


今回、四角さんは「OM-SYSTEM OM-3」に単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II」(35㎜判換算50㎜相当 )を装着して撮影。決まった画角での撮影はシンプルながら難しくもあり、発見も多い。これからも、この人間の視野に近い単焦点レンズを使い、日常と非日常を行き交う旅を記録していく。

<次回へ続く>

四角友里

山スカートを広めた、女子登山ブームの火付け役。講演や執筆、アウトドアウエア・ギアの企画開発を通し、自然に触れ合う魅力を発信。“自然と仲良くなるためのプロダクト”をコンセプトに、女性のためのアウトドアブランド「MOUNTAIN DAISY PRODUCTS」主宰。著書に『一歩ずつの山歩き入門』『山登り12ヵ月』など。
Instagram @yuri_yosumi

 

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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