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山の帆布工房・山下ショオン&レイナ夫婦|低山トラベラー、偏愛ハイカーに会いに行く #16

山の愛し方は人それぞれ、とはいうけれど。十人十色の偏愛ワールドを覗いてみれば、これからの山の愛し方とその先の未来が見えてくる、かもね。

これまでの連載はこちらから

今回の偏愛さん

山下ショオンさんとレイナさん
ふたりで始めたバンライフで日本各地を旅し、ニュージーランドでは600kmのロングトレイルを踏破。アウトドアギアブランド「山の帆布工房」を立ち上げ、夫婦で製作・運営に奮闘中
YouTubeチャンネル:「山下の登山LIFE | Sean & Lena
Instagram:@yamahanpu
Instagram:@seansliiiife

出会いと出合いに導かれる人生!対照的な夫婦が歩む、オンリーワンのものづくり道

山歩きをしていると、どこかで〝分かれ道〞に出くわすものなのだ。分岐が出現するたびに、どちらに進むかの判断をしなければならない。まるで人生そのもの。その決断は山行の思い出に大きく影響するに違いない。分岐と判断の連続は、つまるところその後の人生を作るといっても過言ではない。なぜなら、そのとき選んだ道で出会う人や出合う体験は、別の道に進んでいたら得られないことなのだから。僕らはつねに、自ら選択した方向へと進んでいるのだ。

いっぽうで、ふたつの異なる道や川が交わるポイントを〝出合(であい)〞と呼ぶ。山を歩いていると、しばしば特定の場所などの名称として目にすることがあるだろう。とくに風水においては、ふたつの川の合流地点の内側に自然のエネルギーが集中するとされ、気のよい場所として尊ばれる。たしかに川の出合は水も空気もよどみなく流れるし、すこぶる気持ちがいい。あっちから見れば分かれ道で、こっちから見ると合流する道。見方によって分岐は出合でもあるのだから、おもしろいものだ。どこか教訓めいていて、ドラマチックでもある。

16人目の偏愛ハイカー「山下夫婦」こと、ショオンくんとレイナさんの人生もまた、分岐、出合い、出会いの数々を経ていまに至る。その歩みは物語的で、やっぱりドラマチックだった。

▲ULに目覚め、会社を辞め、家を手放して、バンライフをスタート!

▲1)つねに動き回って目が離せない幼少期。2)小学校6年生〜20代前半のアイドル時代、青春はすべてエンターテイメントでした。3)会社員時代の趣味はもっぱらバイク!サーキットを走っていました。4)両親に旅の楽しさを教えてもらいました。5)学生時代はチェロに熱中。クラシックと洋楽に魅せられた。6)乗馬クラブに就職。上司は人間、同僚は馬。社会勉強の日々でした

クラシカルで重そうな帆布の印象を覆す、現代的でタフで超軽い山道具!

ショオンくんとレイナさんは、帆布による山道具の製作と販売、「山の帆布工房」を営むとともに、YouTubeチャンネル「山下の登山LIFE | Sean & Lena」を運営する夫婦ユニット。2年前に埼玉県の大宮で行なわれたハイカーズフリーマーケットで初対面したときには、まだ活動を始めて間もないタイミングだったと記憶している。このコーナーに登場してくれた柳原さんの営む山旅旅ブースの手伝いに入りながら、自身で手がける帆布製の山道具を販売していた。

帆布は、綿や麻を素材とした丈夫な布地だ。僕は古着屋でアルバイトをしていた高校生のころに、厚手のデニムやワークウエア、軍モノといったタフな衣類を好んで着ていたことがあって、昔から帆布の風合いがとても好き。折り畳みチェアやトートバッグといった古めかしい自前のコレクションに、いまでは山の帆布工房の熊鈴とNOBISHIROサコッシュが加わった。驚くことに、山の帆布工房のアイテムはどれも見た目以上に軽い。いや、めっちゃ軽い。デザインはクラシカルで質感があり、しかしながら軽くて丈夫、そしてどこか現代的なのがよい。熊鈴は山のEDC(毎日持ち歩くもの)として、NOBISHIROサコッシュはカメラバッグとして取材で大活躍している。とても使いやすくてお気に入りだ。

ブランドのコンセプトは「クラシックな育てる道具」である。ホームページには「この道具はまだ未完成です。あなたとともに旅をすることで味わいが増し、徐々に完成してゆきます」と。使うほどに味わいが増す。エイジングこそ、帆布製品の真骨頂。使い込む過程を楽しみながら自分の手で完成させていく山道具、それが山の帆布工房のめざす道だ。

▲雨も急登も最大の渡渉も苦しかった。すべてが報われた忘れられない瞬間。

▲雨具がずぶ濡れになるほどの雨のロングトレイル。渡渉中にツルッ!

▲人生最大級の心身の疲労。とりあえず無心で栄養補給。

▲夢だったニュージーランドのロングトレイル、Te Araroa。起床→歩く→食べる→寝るのみのシンプルな暮らしが心を豊かにしてくれました。

▲衣食住を背負い歩いた2カ月間、夢のようなハイカー生活。

芸能活動に磨かれた夫と、自然と音楽に育まれた妻。そんなふたりがつくり出す世界観

ものづくりをしない僕にとって、なにかをつくる人はリスペクトでしかない。ショオンくんは職人だ。ジャニーズ事務所に所属して芸能活動をしていたという異色の経歴をもつ。幼少期にステージで光り輝く存在を目の当たりにし、自らもそうなろうと志願した。その一歩が、すでにリスペクトである。紆余曲折あり、道半ばにして異なる仕事に就いたいま、あのときの経験がすべてつながっていると語る。人を笑顔にする喜び、限られた人にしかできない方法、得難いチャンス。ショオンくんの控えめな立ち居振る舞いには、どこか「魅せる」しぐさやオーラがある。芸能経験を含めて、並々ならぬ苦労で経たことと得たものの大きさは計り知れないに違いない。

柔らかな空気をまとうレイナさんは、しかしながら静かな意思の強さを感じさせる眼力と研ぎ澄まされた感性の持ち主だ。そのギャップの源泉は、幼少期から学んできた音楽の影響が大きい。合唱団やオーケストラといった特別な経験を経て、いまでも音楽から〝前に出る勇気〞をもらっていると話す。発する言葉の一つひとつがていねいで、じわりとした力強さがある。自分が信じるものを、自分の言葉で表現できる人。広報担当として、彼女の経験とセンスが活きている。

僕は折に触れてクラシックコンサートやミュージカルを観にいく。文章と同様に音楽にも起承転結があり、その緩急や音色に刺激されて、イメージや風景が浮かぶ瞬間がよくある。レイナさんと話していると、僕の脳内にはそのときとおなじような現象がたびたび起こった。彼女の言葉が音楽の調べのようにスッと入ってきたのは、そうした音楽の素養を身に着けている人だからかもしれない。

僕が出会った当初は似た者同士なのかなと思いきや、意外と対照的なふたりでもある。でもきっと、根っこに秘められたものはいっしょなのだろう。異なる静かさと、おなじ熱さを、それぞれ併せもつ夫婦ユニット。清澄白河にある山旅旅のショップ「山と旅の道具 山旅旅」の店頭には、不定期ながらショオンくんが立つ。山の帆布工房の製品も手にすることができるし、購入も可能。夫婦で仕事を作る姿勢にピンときたら、ぜひ会いに行ってほしい。

▲人生の師、山旅の柳原さんとの初登山は白峰三山縦走でした。きつかった……笑

▲山の帆布工房の道具達はすべて私たちふたりで製作しています。

▲会社員時代、中間管理職として奮闘するなか、焚火の魅力に目覚めました。

 

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PROFILE

大内征

ランドネ / 低山トラベラー、山旅文筆家

大内征

歴史や文化をたどって日本各地の低山を歩き、ローカルハイクの魅力を探究。NHKラジオ深夜便、LuckyFM茨城放送に出演中。著書に『低山トラベル』など。ライフワークは熊野古道。

大内征の記事一覧

歴史や文化をたどって日本各地の低山を歩き、ローカルハイクの魅力を探究。NHKラジオ深夜便、LuckyFM茨城放送に出演中。著書に『低山トラベル』など。ライフワークは熊野古道。

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