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「なんかおもしろい」。スタイリスト池田尚輝がハマる、大人の知的な山遊び | Life × Nature あの人の「スタイル」vol.7

道具は「スタイル」の象徴だ。アウトドアとの向き合い方と、日々の暮らしが溶け合うあの人のスタイルを探り、愛用品を紹介する本連載。

第7回は、キャンプから岩峰登頂へ。アウトドアライフの変遷を軽やかに楽しむスタイリストの池田尚輝さんに話を聞いた。

編集◉宮﨑真里江
写真◉大志摩徹(スタジオ)

本場のBBQが出発点。やがて「人任せ」から自発的な山歩きへ

▲2年前、甲斐駒ヶ岳を登る池田さん。この日は悪天により登頂を断念したため、山仲間と再挑戦を計画中。写真:本人提供

広告や雑誌の撮影から著名人のスタイリングまで、20年以上にわたり、ファッションの第一線で活躍するスタイリストの池田尚輝さん。長野県出身ながら、上京前は登山とは無縁だったという彼が本格的に山へと足を踏み入れたのは数年前、40代を迎えてからだ。

「実家の家族が登山やアウトドアを嗜む人でもなかった。だから長野に住んでいたころは、山は近くにあっていつも見えてはいるけれど、趣味で登るなんて発想はまったくありませんでした」

そんな池田さんがアウトドアの魅力に開眼したきっかけは、2005年から数年間をすごしたアメリカ・ニューヨークでの体験だ。

「現地の友人に振る舞ってもらったスモークド・バーベキューがとにかくおいしくて。前日から肉を仕込んで、当日の朝に火をつけて、低温でじっくりと数時間掛けて焼くんです。帰国後も都内の自宅の屋上などでバーベキューを楽しんでいたのですが、堂々と火を使いたいと思うようになり、キャンプ場へ行きはじめたのがアウトドアの出発点かもしれません」

山麓のキャンプ場へ通うようになると、自然のなかで食事をとり、外で眠ることの心地良さを知った。さらに、そこから一歩進んで山を登ることにも興味が湧き、夫人とともに都内近郊の軽登山に出かけるようになったという。

【池田さんの愛用品①】サウスツーウエストエイトのキャップ。「セレクトショップの『ネペンテス』が展開する、釣りをベースにしたアウトドアブランド。レインウエアなどは登山ブランドのしっかりしたものを使用するけれど、本格的な機能がなくても事足りるアイテムはデザイン重視で選びたい。このキャップは形も色も好みで、山でよく被っています」
【池田さんの愛用品②】ストーンマスターのロングパンツ。「『グラミチ』の創業者マイク・グラハムによるブランド。少しワイドなシルエットが好みで、山でも街でも履いています。綿混の生地感もよくて、汗や水に濡れても乾きが速いところもいい」

「最初のころは、旅行好きな妻が立ててくれた計画についていくスタイルでした。もちろん山では自分も歩くし、登るけれども、自発的にルートや所要時間を調べることがなくて、受け身の楽しみ方を何年か続けていましたね」

アウトドアライフに転機が訪れたのは、公私ともに20年来の付き合いのヘアメイクアップアーティスト、AMANOさんからの誘いだった。

AMANOさんは、20代のころに北岳登山で予定時間に下りて来られなかった苦い思い出があって、その経緯から、当時登頂を断念した友人との間で『40代で改めて挑戦したいね』という話が持ち上がったらしい。そんなときに、僕にもたまたまお誘いの声がかかったんです」

▲こもれび山荘にて山仲間と。池田さんいわく「いい歳した大人が集まってトランプするとか、いい時間だなと」。写真:本人提供
【池田さんの愛用品③】サーマレストのZシート。「山歩きの途中に腰を下ろしたいときにはクッションとして使えるし、山小屋泊では枕代わりにも。コンパクトで軽くて、持ち運びも苦にならないし、結構便利だなと思っています」

こうして池田さんとAMANOさん、学生時代に山岳部に所属していた経験者や別チームで登山経験のあるメンバーで構成される同年代の登山チームがゆるく結成されたという。

「まずは登りやすい低山あたりから行こうよとか、夏の登頂を目指すなら春頃には脚作りを始めないと間に合わないよね、なんてみんなで計画を立てるようになって。気づけば仲間との一体感が生まれ、いっしょに山に登る頻度が増えていったんです」

だれかに連れて行ってもらう楽しみ方から、仲間との縁に導かれるようにして自発的な山歩きへ。池田さんの登山ライフは、周りの熱量と調和しながら、ごく自然な流れで新しいステージへと移り変わっていった。

▲「山を歩きながら、落ちている枝や葉の香りを確認するのが好き。周辺の空気の特徴を感じられる気がします」。池田さんのお気に入りは針葉樹。写真:本人提供

「計画遂行」の醍醐味。都会生活にはない山歩きの思考プロセス

目標に向かって仲間と登る一方で、自主的にソロでも山へ足を延ばすように。事前に計画を立てて行動することを重ねるなかで、池田さんは山のおもしろさの本質に出合う。

「以前は山登り=体力勝負だと思っていた。でも自分でルートを調べ、ソロでも登るようになり、僕は計画を遂行することが楽しいのだなと気づきました。例えば、比較的身近な裏高尾のルートを歩くにしても、登山口に向かう1時間に12本のバスにちゃんと乗り、帰りも『何時までに下山してこないと駅まで歩くハメになるぞ』と計算して行動する。都会で暮らしていたら意識しないような注意を払って、行動を組み立ててやり遂げる、そのプロセスがおもしろいですね」

一般的に登山の魅力として挙げられる、眺望のすばらしさや自然のなかで得られるリフレッシュ効果といったものは、池田さんにとっては、無事に歩きとおしたあとに付いてくるうれしいおまけにすぎない。

「仕事だと時間の制約や求められていることが必ずあって、それは絶対やらなきゃいけないこと。でも、登山は極端な話、途中でやめてもいい。とくにひとりで行くときはだれかとの約束でもないし、責務でもない。それなのに、わざわざ山に登り、計画に沿って歩く。それで無事に帰宅したときには、今日も結構おもしろかったよなと毎度思うんです」

休日には山梨の乾徳山などを訪れ、標準コースタイムを意識しながら歩くことで着実に脚力を培う。さらに天気図を読み解き、高気圧の配置から山行中のコンディションまで考慮する。仲間から教わった「天気予報のテロップではなく、天気図を見ろ」という助言も愚直に実践する。はたから見れば少し面倒にも思えるステップすらも、池田さんにとっては山を楽しむための心地よい助走なのだ。

ヒリつく岩峰へ。初めての北アルプスで深まった山への感覚

▲2026年6月、西穂高岳にて。AMANOさん(写真中央)と歩いた朝の稜線。遠くには焼岳や乗鞍岳をとらえることができた。写真:本人提供

今年6月、池田さんはAMANOさんとふたりで、1泊2日の山小屋泊で西穂高岳へと足を延ばした。当初予定していた南アルプスの天候悪化を直前に読み取り、晴れ間が広がる北アルプスへと急遽目的地を変更して実現した、自身初となる北アルプスへの山行だ。

「独標を超えてから山頂までの岩場は本当に緊張感がありました。師匠のような存在の山仲間からも日頃言われているのですが、やっぱり山を舐めてはいけない。足場が悪いところも多くて、『これは手足を置く場所を意識しないと本当に危ない』と気が引き締まりました」

無事に登頂を果たした瞬間、計画遂行とはまた異なる、これまでにない達成感を感じたという池田さん。

「僕にとって眺望は登山のメイン目的ではないのだけど、いざ山の上から見渡したときには、これがいままで下界で眺めてたあの山脈なんだと感じ、じわりとくるものがあった。自分でリスクをコントロールしながら目標の山頂に立つ。体験を重ねるごとに、山に対する感覚がまたひとつ深まっていくというか、西穂高岳の山行は少し特別な感覚を得られたように思います」

「めんどくさい、だけど最高」。控えめで熱い、等身大の山歩き

山登りに対し「やる気があるのかないのか自分でも分からない」と、どこか照れくさそうに話す池田さん。

「いまも登山が好きで好きでしょうがないわけではないんです。でも、うまく説明できないのですが、山を登ることってなんかおもしろくて、時間があれば行きたいって思っちゃう。早起きしたり、緻密に計画を立てたり、正直言えばめんどくさい部分もたくさんある。でも、行けばやっぱり最高なんですよね」

【池田さんの愛用品④】ハイパーライトマウンテンギアのポッズ(9L)。「こちらはウエア類を入れるスタッフサック。特徴的な形をしていて、バックパックの底面にきれいに収まるから、パッキングが気持ちいいんです」

ひとりでじっくり計画を遂行するソロ登山も好きだが、気の置けない仲間と歩く時間が一番好きだと語る。「昔やってみたら荷物がめちゃくちゃ重くて……」と苦笑いするテント泊も、いつか再挑戦してみたいと意欲をのぞかせる。

【池田さんの愛用品⑤】ビッグスカイインターナショナルのインシュライト。「仲間たちはドリンクは山小屋で買う派だけど、僕は山でも好みのクラフトビールを飲みたいから自分で担いで登る。冷えたビールやコーラを入れるのに重宝しています」

「この夏は、かねてから仲間内で候補に挙がっている甲斐駒ヶ岳に登りたい。あとは、先日AMANOさんといっしょに登山系のYouTubeを見ていて『うわー、ここ行きたいね!』なんて盛り上がった奥穂高岳にも挑戦できたらと思っています」

準備の面倒くささすら愛おしい「計画遂行」のプロセス。自分のペースで山と向き合い、仲間とともに少しずつ世界を広げていく池田さんの姿は、大人の趣味の楽しみ方としてどこか羨ましく、これからどんな挑戦が続いていくのか、こちらまで楽しみになってくる。

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VINAVIS 編集部

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アウトドアフィールドへ誘うメディア、そして自然のなかにいるような心地よさと冒険心をもって生きる人々を応援する新メディア。厳しい自然環境で磨かれた「機能美」や「哲学」を、都市生活というフィールドにマッチするシーンにを訴求します。またアウトドアで使われる機能やアイテムに触れることで、意識せずに自然とフィールドへと近づいていく気運を醸成します。

VINAVIS 編集部の記事一覧

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