
登っても登らなくても、山は私の一部――鈴木みきさん|だから、私は山へ行く#36
ランドネ 編集部
- 2026年07月09日
山に関するコミックエッセイを数多く発表し、近年は「更年期」についての本も上梓したイラストレーターの鈴木みきさん。「登っても登らなくても、山との関わりは続いていく」そう話すみきさんに聞く、山と創作と人生のこと。
山と出合い、山に暮らす
鈴木みきさんの作品を読んでいると、ふらりと山に行きたくなる。さらりとしたタッチのイラストと自然体の言葉たちが親しみやすく、山好きの友人と話しているような気分になるからだ。けれど、軽やかに綴られた作品を読んでいると、そこに、山への誠実さや、人への優しさがあることにも気づく。だから、みきさんの作品は多くの人に愛されているのだと思う。
山のイラストレーター・漫画家として活躍し、多くの著作を発表してきたみきさん。彼女が山を好きになったのは、24歳のころに友人と訪れたカナディアンロッキーのトレイルがきっかけだった。
「あれほどのスケールの山を見るのは人生で初めてのこと。『でか〜っ』というのが最初の印象でした(笑)。とにかく『なんでこうなった?』『山のなかにはなにがあるんだろう?』と驚いたし、感動しました。それは、私にとっていまも変わらない山のおもしろさ。地球の営みを感じられるような、大きな地形が大好きなんです」
「山小屋で働いているうちに登山にも興味が湧いてきて、少しずつ山を登るようになりました。ただ、当時は『女の子ひとりで来ちゃ危ないよ』とか『そんな格好じゃダメ』と、怒られたりすることも。だから、コソコソ登りながら、自分なりの登山を試していました」

▲カナダの友人とともにバックパックを背負ってカナディアンロッキーへ。このときの感動が、みきさんを山の世界にいざなうきっかけになったという。「大自然のなかに自分がぽつんという感覚に感動!日本の山もすばらしいけれど、海外の山の放任的なおおらかさも大好きです」
山への一歩をあと押ししたい
みきさんは、いつしか「いろんな山に登ってみたい」「山と関われる仕事は?」と考えるように。ときどき読者モデルを務めていた山岳雑誌の編集者に「イラストも描けます!」とアピールし、小さな挿絵の仕事からイラストレーターとしての道を歩き始める。
〝好き〞に導かれて山のイラストレーターになったみきさんが、初めての著書『悩んだときは山に行け!女子のための登山入門』(平凡社)を上梓したのは、2009年。時代は〝山ガール〞という言葉が注目され始めたころだった。山の魅力だけでなく、山に向かうときの不安や失敗などを等身大で表現する作品は多くのファンを生み、みきさん自身も女性登山ブームの火付け役として注目されるようになった。みきさんはどんな思いで、作品を描いてきたのか。
「自分がそうだったように、最初の一歩を踏み出せれば、山はいろいろな楽しさを見せてくれる。だから『怖くて行けない』とか『なにから始めれば』という方に向けて『やっちゃいなよ!』と背中を押したい気持ちがずっとあります。いっぽうで、経験や知識が不足したまま山に来る人を見るたびに『大丈夫かな?』『ケガしないかな?』という〝おせっかい〞な心配も(笑)。山はやればやるほど怖い世界だし、大切な仲間や若い友人を山で失うこともある。登山で一番大事なのは、とにかく生きて帰ってくること。だから、楽しさを伝えることと、安全の大切について描くこと。その両方をずっと意識してきました」
作品を描きながら、国内外の山歩きツアーを引率したり、山梨県や北海道に移住して山の近くに暮らしたり……。みきさんは、30代〜40代の時間を、山と関わりながらすごす。そんな日々に変化が生まれたのが、50代を目前にしたころ。コロナ禍や母の介護、更年期の不調などが重なり、山から足が遠のいてしまったという。
▲白馬八方池山荘でアルバイトしていた29歳のころ。「30歳前後は、夏は山小屋、冬はスキー場、春と秋は東京のアパレルショップで働く生活」
▲50歳のときには大雪山の白雲岳避難小屋で働いた。「昔からアルバイトが大好き。コロナ禍で仕事がなくなったから、山で働くチャンスだ! って」

▲道標の写真などをつい撮ってしまうのは職業病。「楽しいことがあると、だれかに伝えたくなるタイプ。だから本を描くことは天職です」
山に行きたくない日も
「人によって更年期の不調は異なるけれど、私の場合は軽い鬱のような状態になりました。『山に行きたい』だけじゃなく、『映画に行きたい』とか『なにを食べようかな』という気持ちもなくなってしまって。ただ、じつは山に行けない焦りはそれほどなかったんです。長いあいだ、山と関わっていると結婚や出産、子育てで山から離れる女性をたくさん見てきているし、そのたびに『いつでも戻ってきてね。私が待っているから』と思っていました。だから、今度は自分の番なんだなって」
最新作『アラフィフ山女子、不調と向き合う コミックエッセイ 更年期の歩き方』(講談社)は、みきさん自身が学び、経験した更年期のメカニズムや対処法などがていねいに描かれた作品だ。そのなかに、印象的な一節がある。
『好きだったことっていつまでも待っててくれるんだよ。』
「この本を執筆しているあいだに更年期の不調はピークアウトして、久しぶりに山に行ったときに『おかえり』と言われている気がしたんです。もちろん、母の介護もあるので、昔のように好きなときに行けるわけじゃない。でも、それでいいと思うんです。山に登っても登れなくても、山は私の一部。そのつながりはずっと変わらないから」
〝好き〞を原動力に、自身の道を切り拓いてきたみきさん。その言葉には、山を愛する人を勇気づけてくれる強さと温かさがある。

鈴木みきさん
1972年東京生まれ。イラストレーター・漫画家・防災士・ウィメンズヘルスアドバイザー。山岳雑誌の読者モデルや山小屋でのアルバイトを経て、山のイラストレーターとして活動。登山ツアーの企画・ガイドや講演なども行なう。『知っている山からはじめよう!大人の日帰り登山』、『アラフィフ山女子、不調と向き合う コミックエッセイ 更年期の歩き方』(ともに講談社)など著書多数
https://www.instagram.com/mt.suzukimiki/
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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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