
熊の暮らしと私たちの山歩き vol.02|尾瀬で熊に出会わないための歩き方
ランドネ 編集部
- 2026年10月21日
山には命が暮らしています。そこにおじゃまする私たちが、知っておきたい熊のこと。各地域の専門家をたずねて、話を聞く連載です。
尾瀬を歩くとき 熊が棲む森で守りたい距離がある


雪どけの水がまだ冷たい湿原に、白い明かりをともすようにミズバショウが咲く。尾瀬の春を代表する景色だ。あの白い部分は花びらではなく苞で、包まれた淡い黄緑の穂が、本当の花にあたる。
花が終わると苞は落ち、葉は驚くほど大きくなり、穂は果穂と呼ばれる実に育っていく。夏に向かってバナナほどの太さになり、重みでゆっくりと垂れ、やがてゼリーのようにとろける。可憐な姿しか知らないと、おなじ植物とは思えない変わりようだ。そして、それを食べに熊がやってくる。
4県にまたがる尾瀬は、ツキノワグマの暮らす森でもある。「熊がミズバショウを食べるのは全国的にもめずらしいそうで、専門家が学会で話すと驚かれるのだとか」と、尾瀬保護財団の深沢翔太さん。普通、ミズバショウの種は水に運ばれ、下流へと流れていく。ところが水の流れなどなさそうな山の斜面に、ぽつんと一株だけ生えていることがある。熊が果穂を食べ、そこでフンをした跡だと考えられている。尾瀬の景色は、熊の歩いた道の上にもできている。
熊を寄せつけないための、ミズバショウの果穂刈り
その果穂を、人の手で刈り取る作業がある。おなじ場所やエサに執着する熊を生まないためだ。「熟す前の6月下旬から7月中旬、環境省や地元自治体、尾瀬ボランティアの30人あまりが長靴で湿原に入り、ヒザ下まで泥に埋まりながら、中腰でひとつずつ手で刈り取り、木道から離れた場所へ運びます」。尾瀬は特別天然記念物で、本来は落葉・落枝1本でも採集できない場所だ。特別な許可を得て、汗を流しながら続けられている。熊が木道のそばで入山者と不意の遭遇をしないように。そうして守られている距離がある。
人を避ける熊であり続けるために
昨シーズンの熊の目撃は120件。2023年は164件、2024年は157件で、増えてはいない。しかも報告の多くは「人に気づいた瞬間、走って逃げた」というもの。ただし深沢さんは念を押す。「安全です、とは言えません」。人を避ける熊であり続けているのは、関係者が手をかけ続けてきた結果でもある。




尾瀬を歩くときに、できること
出会わないに越したことはない。笹で先が見とおせない場所やカーブでは、止まって手を叩く。熊鈴は高い音のものを選び、カバンなどに干渉せず鳴る位置につける。落とした行動食はカケラまで拾う。夕方と早朝の歩きはとくに周囲に気をつける。それでも見かけたら?「木道1枚は約4m。5枚分ほど離れていれば、騒がずに落ち着いて退避を。カメラは向けないでください」と深沢さん。レンズが目に見え、睨まれたと感じて防衛行動に出ることがあるそうだ。
ひとつずつ、できることをやっておく。それも熊との距離を守ることにつながる。
教えてくれたのは

公益財団法人尾瀬保護財団 企画課 主任
深沢翔太さん
「尾瀬での体験と感動を自然を守る力に変える」のミッションのもと、企画課主任として熊対策や外来植物の対策、尾瀬の魅力発信を担当する
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PROFILE
ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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