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夏の終わりとオン・ザ・ロードの始まり──ドライブマイカーVol.1

まさかカナダで、しかも左ハンドルのSUVを買うことになるとは思ってもみなかった。
ほぼペーパードライバーの私が、広大な北米の道に挑むなんて——
けれど、エンジンをかけた瞬間から恐怖のなかに少しずつ“自由”の味が混じりはじめた。
これは、運転下手の私がハンドルをつうじて世界を広げていく話だ。

文・写真◉寺井杏雛
編集◉PEAKS

クルマの傷が教えてくれたこと

▲スコーミッシュのダウンタウン・メインストリート。奥に見えるのはガルバルディ山。

5月、私は生まれて初めてマイカーを購入した。それもここカナダで。ほとんど運転経験のないままに。手にしたのは左ハンドルの大きなSUV。そしてカナダは右車線。日本での運転経験は片手で数えられるほどだ。不安いっぱいのなか、初めてカナダの道路に出た瞬間のことを思い返すと、いまでも背筋がゾクっとする。

家から職場までの5分の運転でさえ心がすり潰されそうになり、合流のたびにクルマの流れに乗れず、心臓は早鐘を打つ。駐車はいつも冷や汗をかき、カーブの先に広がる景色にも一瞬しか目を向けられなかった。極めつけは、バンクーバーの立体駐車場で車体の右側を擦ってしまったこと。幸い、塗装の剥がれとボディの凹みだけで済んだが、真っ白な擦り傷が「私は下手です」と告げているようだった。

さすがに放ってはおけず、自分でペイントし、クリアコートを塗り、遠目にはわからない程度にまで直した。この作業をとおして、私とクルマとの距離は縮まったように感じる。そして、同時に運転に対する恐怖心も少しずつ薄れていった。

▲駐車場で擦ってしまったクルマの傷。購入からわずか10分後ほどのことだった。

スコーミッシュで暮らしながら毎日のようにダウンタウンやハイウェイ、山道を走り、気がつけばいつの間にか、あれほど苦手だった運転も少しは板についてきた。海沿いの道を走ると気持ちのいい潮風を肌に感じ、ダウンタウンを走ればスコーミッシュの象徴的な岩山、Chief(チーフ)に見惚れ、山道を走れば木々の美しい緑に夏を感じた。この大きくて力強い乗り物に対して「怖い」という感情が薄れ始め、「楽しい」と感じる瞬間が増えていく。ドライブの楽しさと、好きなところへ自由に行ける喜びが重なり、知らない景色への期待が胸を満たしていった。

ドライブの喜びが思い起こさせた、私の夢

▲シートゥスカイハイウェイ。この道はバンクーバーからペンバートンまで約200km続いている。

それはそうと、私には「北米をロードトリップしてみたい」という夢がある。ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を読んだ高校生以来、胸に抱いていた憧れだ。いつか自分も自由に大地を走りまわりたいと願っていた。しかし、運転技術の未熟さがその夢の大きな障壁だった。カナダに来て必要に駆られながら運転するなかでようやく運転に自信がつき、夢への第一歩を踏み出せる状態になった。

そこで夏の終わる頃、ロッキー山脈の麓町、バンフに向かおうと決めた。そこに住む日本からの友人に会うためだ。ひさしぶりに会い、山々を眺めながら時間をすごす──それが今回の旅の一番の目的だった。運転になれてきたころ、心のどこかに小さな変化が生まれた。それは、ただ目的地に向かうだけではなく、途中で「寄り道」したくなる衝動が湧いたのだ。

▲ハンドルを握る私。ダートロードも気持ちよく走れる、自由を感じるひととき。

寄り道が、知らない景色や人々との出会いのきっかけを与えてくれる──そんな予感に胸を弾ませながら、この先に待つ物語を探しにハンドルを握った。これから、この寄り道によって出会った人々との出来事を語っていこうと思う。

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PROFILE

寺井杏雛

寺井杏雛

山で遊びながら育ち、そのままの想いで学生時代も自然のなかへ。クライミングにマウンテンバイク、ハイキング——気づけばいつも山が遊びの中心にあった。現在はカナダ・ブリティッシュコロンビア州スコーミッシュを拠点に、山とともにあるライフスタイルを楽しんでいる。

寺井杏雛の記事一覧

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