
すりおろされた心を整える。カメラと歩く山で見つけた一輪のひかり
宇宙HIKE
- 2026年05月28日
「はぁ。今日も、何も終わらなかった……」
毎朝、散歩をしてデスクを整え、真っ新な気持ちで自分に喝を入れる。 「今日から私は変わるんだ。やれる、今日こそ自分に勝つぞ」 そう誓って書き出すToDoリスト。けれど、始業とともに届く絶え間ない通知や電話に、私の時間は無惨に細切れにされていく。
一歩進もうとするたびに別のタスクに引きずり出され、朝にあれほど整えたやる気は、夕暮れには形も残らないほど「すりおろされて」いる。ふと思った。最後に心から笑ったのはいつだったろう、と……。
「一点」しか映し出せないカメラ

そんな私を救ってくれたのは、所属しているフォトコミュニティ「宇宙HIKE」での時間だった。
「カメラはね、ただ一点しか写真に撮れないんだよ」
主宰者・カメラマンの松本茜さんにそう教わってから、ファインダー越しに被写体と対話する時間は必死で、スマホを取り出す隙も、仕事の不安を思い出す余裕もない。

せわしない日々とは正反対の、心地よい没頭。あの「すりおろされる感覚」が、不思議と消えてしまう時間なのだ。
一度にたくさんのことをこなせない自分に、どこか引け目を感じていたけれど、レンズを覗いているあいだだけは、その「一点しか見つめられない」ことが、これがいいんだ、これが正解なんだと背中を押してくれる。
数万本に一輪、幸せを運ぶ「白いカタクリ」の奇跡

久しぶりに心から笑う日が訪れた。宇宙HIKEの仲間と行った、新潟県・角田山への山旅だ。直前まで参加を迷うほど沈んでいた心も、快晴の空の下、みんなで写真を撮りながら歩くうちに、驚くほどのスピードで自然体になっていった。

「数万本に一輪、幸せを運ぶ白いカタクリが咲いているかもしれないよ」そう聞いて、私は夢中で足元を見つめた。じつは、カタクリは私が大好きな花だ。発芽から開花まで7〜9年もの時間を地中ですごすらしい。長い時間を経てようやく春の光に花びらを反らせる姿は、儚くも力強い。その生涯を思うと、まだ花を咲かせられずにいる自分にも「いつかは」という勇気がもらえるのだ。
もうすぐカタクリの群生地を抜けてしまうなと思っていたとき、紫の絨毯の中に、ポツンと光り輝く一輪の「白」が。

「見つけたー!」と大きな声で叫んでいた。
なんだか停滞していたいまの自分に、幸せの始まりを掴み取った気がしてうれしかった。駆け寄って夢中でシャッターを切るメンバーの姿を見ていると、私でも、だれかに幸せを届けられた気がする。自信をなくしていた心に、じんわりと歩み出す力がみなぎってくるのがわかった。
「つながらない時間」が、私を整える

角田山から帰ってからも、あの白いカタクリの姿が、私の中に温かな力を届け続けている。そして、メンバーが撮ってくれた一枚の写真に目が留まった。そこには、本当に楽しそうに笑う私自身の姿が。
長い時間を経てたった一輪を咲かせるカタクリのように、一点を見つめ続ければ、私もきっと、いつか花を咲かせられる。

カメラを首にかけて山に入ると、私はファインダーから一点だけを見つめる。通知も電話も届かない山のなかで、ただひとつのことに集中する時間。その時間が、すりおろされた心をそっと整えてくれる。

そして、ふと気づいた。日常だっておなじかもしれない。次々と届く通知をいったん手放して、目の前のひとつに向き合えれば、私はちゃんと前に進める。
なんだ、私はダメな人間なんかじゃなかった。大丈夫、こんなに生き生きとした自分はまだ私の中にちゃんと残っている。よし、またカメラと一緒に山に小さな「幸せ」を探しに行こう。今度はどんな「一点」に出会えるだろうか。

写真&テキスト◎朝比奈 杏咲美(宇宙HIKE)
https://www.instagram.com/sami_yama.tabi
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PROFILE
宇宙HIKE
Photographer 松本茜主催、山と写真のコミュニティー。 宇宙を旅するように山へ登り、旅や写真を使って「自分」にフォーカスする。 ユーモア溢れるメンバーが集まり、日々楽しみながらいろんなフィールドで活動を続けている。
Photographer 松本茜主催、山と写真のコミュニティー。 宇宙を旅するように山へ登り、旅や写真を使って「自分」にフォーカスする。 ユーモア溢れるメンバーが集まり、日々楽しみながらいろんなフィールドで活動を続けている。



















