
八海山麓MTBパークを作る男・五十嵐哲也——20年携わり続けたローカルディガーが語るコース作りの哲学
Bicycle Club編集部
- 2026年06月27日
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SHIMANO ENS 2026第2戦の舞台となった八海山麓MTBパーク(サンロク)。ステージごとに明確なストーリーを持つコースを設計したのが、同パークの代表でありディガーの五十嵐哲也さんだ。高校時代に選手としてこの地に魅了され、以来20年にわたってコースを作り続けてきた職人が、フィールドへの向き合い方と、ENSというレースに見る日本MTBシーンの可能性を語った。
高校生で出会い、20年。選手から作り手へ
五十嵐さんの出身は、八海山麓から100kmほど離れた新潟市。この場所との縁は高校時代にさかのぼる。
「高校生のときに、すでにあったこのパークへ遊びに来て、大会にも出ていました。それでめちゃくちゃ好きになって……」。当時から全日本やJシリーズといった全国大会にも出場していたという、根っからのライダーだ。 もっとも、本人は当時を「趣味の延長」と振り返る。
「そこまでアスリートという感じではなかったんです。一番上のクラスまではいかなかったし。ただ、自転車に乗るのが本当に好きで。いろんなコースを回れたことが経験になりました」。この経験こそが、後にコース作りの土台になっていく。 八海山麓の代名詞といえばデュアルスラローム。五十嵐さんがディガーへと足を踏み入れたのも、このコースがきっかけだった。「昔はただ旗が立っているだけのコースだったんですけど、だんだん土をしっかり盛って作り込むようになって。手伝っているうちに、コースを作るのが楽しいなと思うようになったんです」。
経験は大事、でも一番は「想像力」

マウンテンバイクのコースは、経験のない人間には作れないものか——そんな問いを投げると、五十嵐さんは少し考えてからこう答えた。
「経験はすべて大事です。でも、それ以上に想像力が大事かもしれません」。 頭の中にストックされた無数の記憶、ビデオで見たライン、かつて走って気持ちよかったコーナー。そうした引き出しがなければ、コースは形にできないと五十嵐さんは言う。「走ったときに『あのコーナーが楽しかった』とか、そういうものが頭にないと形にできない。それを自分で実現できるのが面白いんです」。
選手として全国のコースを走った蓄積が、そのまま作り手としての引き出しになっているのだ。 興味深いのは、コースの「仕上げ」に対する考え方だ。五十嵐さんは、あえて完璧に整えないことを信条としている。「プロが作るものに比べたら、僕のコースはクオリティが低いかもしれません。でも、逆にそれがマウンテンバイクらしくていいかなと思っているんです。あんまり綺麗にすると、荒れた路面に対応できる人が減ってしまう。そうじゃないだろう、と。岩があったり、木の根っこがあったり。そういうものをあえて残して、リアルなダウンヒルで行こうと思っています」。整えすぎず、自然の地形を活かす。野性味を残すことこそが、八海山麓の個性なのだ。 「登りも含めて、夕方にふらっと遊べるようなコースにしたいんです」。五十嵐さんがいま増やしていきたいと考えているのが、里山のトレイルだ。タイムを競うレースコースだけでなく、純粋に自然のなかを走る楽しさ。それも八海山麓が大切にしている価値観である。
冬は全面リセット。毎年生まれ変わるコース
「スキー場なので、冬は全部真っ平らにするのが借りる条件なんです」。八海山麓ならではの制約もあり、雪が解ける3〜4月から準備を始め、4月末のオープンに間に合わせる。コース作りに使える時間は、決して長くない。 しかし、一見ハンディキャップにも思えるこの制約を、五十嵐さんは前向きに捉えている。
「毎年やっていれば技術もつくし、レイアウトを変えれば飽きもこない。マンネリ化しないんです」。デュアルスラロームの造成にかかる時間は「実質2週間くらい」とのこと。重機や転圧機を駆使することで、短期間での造成を可能にしているのだという。
ENSという「紳士的なレース」

選手として、そして運営側として、両方の立場からMTBシーンを見てきた五十嵐さんに、ENSというレースの魅力を聞いた。 「運営としては、すごくやりやすいんです」と五十嵐さん。
一般的なダウンヒルのレースでは選手の搬送がメインの負担になるが、エンデューロはある程度自力で登ってもらう競技だ。「その分、搬送に手を入れなくていい。継続しやすいんじゃないかと思います」。運営面だけではない。五十嵐さんが何より評価するのは、参加者たちの姿勢だ。
「みんながそれなりのルールを守っているんです。コケたら次の人を行かせて、お互い譲り合う。すごく紳士的なレースだと思います」。
スピードを競い合う熱さの一方で、参加者同士が互いを思いやる。その空気こそがENSの魅力だと語る。 クロスカントリーもダウンヒルも、突き詰める人がどんどん先鋭化していくなかで、「もう少しマウンテンバイクを楽しくできたらいいよね」という揺り戻しが、いまENSにはある。五十嵐さんはそう分析する。だからこそ、レースだけでなく前夜祭やイベントを通じた交流も大切にしているのだ。
「自転車だけだと自転車乗りしか集まらない。いろんなジャンルが集まれるようにすると、ファンが増えるのかなと思います」。
南魚沼から、もっとフレンドリーな未来へ

現在、五十嵐さんは個人事業としてパークを運営しながら、地域おこし協力隊としても活動している。
元々はこのパークを仕事にするために前職を辞め、クラウドファンディングで重機を購入して設備を整えてきた。南魚沼市が自転車を軸とした街づくりに力を入れていることもあり、活動の幅は少しずつ広がっている。「自転車をメインにした街づくりのシンポジウムに呼ばれることもあって。ここはマウンテンバイクが特色なので、それが武器になるかなと思っています」。
最後に来年の展望を尋ねると、答えはシンプルだった。「もっとフレンドリーな大会にしたいですね。新しい人が来られるような感じにして、みんなのつながりが増えるような大会に」。 登りも下りも、レースも遊びも。技術と野性、そして人と人とのつながり——八海山麓のコースには、五十嵐さんが20年かけて育ててきた哲学が、土の一盛りずつに込められている。次に訪れたとき、このフィールドはまた新しい表情で私たちを迎えてくれるはずだ。
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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