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都市は“移動することで”見えてくる 建築家・千葉学氏と巡った、Brompton Urban Explorer Ride & Talk

建築家・千葉学氏とともに、折りたたみ自転車「ブロンプトン(Brompton)」で東京の街を巡った「Urban Explorer Ride & Talk」(5月24日開催)をレポート。渋谷川の暗渠や谷と台地、土木遺産を辿りながら、“移動することで都市を読む”という視点を深掘りする。ライド後のトークショーでは、自転車を「都市を知るための道具」と捉える千葉氏の思想や、東京という街の魅力について語られた。

東京という街は、不思議だ。

毎日歩き、通勤し、買い物をしているはずなのに、ほんの少し移動の仕方を変えるだけで、まったく別の表情を見せる。大通りの裏側にひっそり残る階段。高層ビルの谷間に突然現れる古い墓地。暗渠となった川の痕暗跡。台地と谷が複雑に入り組んだ地形。都市は平面的な地図では決して分からない、立体的な身体感覚によって成り立っている。

そんな“都市を移動によって読み解く”という体験をテーマに開催されたのが、Brompton Japanによる「Urban Explorer Ride & Talk」だ。建築家でありサイクリストでもある千葉学氏をゲストに迎え、東京の街をブロンプトンで巡り、その後トークセッションが行われた。イベントは、ブロンプトンの限定モデル「P Line Urban Explorer」の発売を記念して企画されたものだ。

今回のライドの案内人 千葉学氏 建築家/サイクリスト。都市と建築、そして移動の関係性を横断的に捉え、国内外で活動。自転車を通じた都市の再発見や、人のスケールで捉える空間体験を探求している。

今回のイベントで印象的だったのは、単なる“街乗りライドイベント”では終わらなかったことだ。むしろ主役だったのは、都市の中に積み重なった時間や痕跡をどう感じ取るか、という視点だった。そして、その視点を最も鮮やかに浮かび上がらせたのが、千葉学氏によるトークだった。

ライドのスタートは、千葉さんの設計事務所もある「代官山ヒルサイドテラス」。1969年から数十年にわたり、地元地主である朝倉家(朝倉不動産)と、世界的な建築家の槇文彦の共同で開発した低層複合施設。現在の洗練された代官山の街並みと文化を作った建築として知られる

「車の時代」に作られた都市を、もう一度見直す

20世紀の都市とモビリティ。近代建築や近代都市計画が生まれた時代は、“車が世界を変える”と本気で信じられていた時代だったと千葉氏は語る。道路は拡幅され、高速道路が整備され、都市構造そのものがモータリゼーションを前提に組み立てられていった。

『a+u』2021年1月号 特集: バイシクル・アーバニズム 千葉氏が特別編集としてまとめ上げた、自転車と都市を語るには外せない伝説の一冊

しかし、現代は大きく状況が変わりつつある。「車社会が本当にこのまま続くのか。そういう問いが今、世界中で生まれている」千葉氏はそう語る。

都市部では車を持たない人も増え、自動運転技術も現実味を帯び始めた。もし完全な自動運転社会が実現したら、今ほど広い道路は必要なくなるかもしれない。つまり、道路という巨大な都市インフラの意味そのものが変わる可能性があるということだ。

その中で、自転車という存在を千葉氏は“非常に息の長いモビリティ”だと位置づける。災害時にも機能し、人の身体感覚と強く結びつき、都市を細やかに観察できる乗り物。だからこそ今、自転車の視点から都市を捉え直すことに意味があるのではないか。そうした問題意識から、千葉氏は「バイシクル・アーバニズム」というテーマに取り組んだという。

「都市を消費するだけ」でいいのか?

千葉氏の話は、単なる都市論には留まらなかった。20世紀型の社会は、あらゆるものを“消費”へ変えていったという。公共サービスですら商品化され、人々は都市生活者である以前に「消費者」になっていった。

だが、本当にそれだけでいいのか。「いくら建築のデザインを変えても、生活が変わらない限り社会は変わらない」。だから千葉氏は、建築作品だけではなく、“生活そのもの”を問い直すようなプロジェクトへと関心を広げていった。都市の中に残された余白や、近代化の中で切り捨てられてきたものに目を向けるようになった。それは、今回のライドルートにも色濃く反映されていた。

谷と台地を繰り返す東京

今回のライドは、渋谷川水系と三田用水の流れを辿るように構成されていた。地図だけを見ると複雑に蛇行するルートだが、実際に走ると意味が分かる。東京は平坦な都市ではない。台地を上り、谷へ下り、また上る。その繰り返しによって街が形成されている。

そして谷には、かつて必ず川が流れていた。今は暗渠となり道路の下に隠れているが、水は今も流れている。松濤の鍋島公園に残る湧水池や、麻布十番にある宮村池の水源など、東京には太古から続く水の痕跡が点在している。

千葉氏は、「自転車で走ることで、その地形を身体的に感じ取れる」と話した。

実際、ブロンプトンで坂を上り下りしていると、地図では分からない“土地の呼吸”のようなものが見えてくる。谷底の湿った空気、坂を上がった瞬間に開ける視界、突然現れる細い路地。都市が“地形の上に存在している”ことを、身体が理解し始める。

暗渠、Y字路、歩道橋……東京の「痕跡」を巡る

ライド中には、普段見過ごしてしまう都市構造物も次々と現れた。役目を終えつつある鉄橋「猿楽橋」。古い歩道橋と代替として作られた新しい歩道橋。

バス転換期に作られた広大なバス停スペース。東横線高架の柱跡。どれも単なる“古い構造物”ではない。それぞれの時代が、何を便利と考え、何を未来だと信じていたかの痕跡ともいえる。

印象的だったのは、Y字路についての話だった。近代都市計画では、Y字路は合理的ではない。信号設計もしづらく、危険でもあるので作ってはいけないもの。だから新しい街には存在しない。しかし東京には、地形や川筋、歴史の積層によって生まれた不思議なY字路が数多く残っている。

そこには、“合理性だけでは説明できない都市の面白さ”がある。実際、ブロンプトンで細い路地へ入り込み、Y字路に差しかかる瞬間には、「どちらへ行こうか」という探検的な感覚が自然と生まれる。都市を効率よく通過するのではなく、都市の中へ“入り込んでいく”感覚だ。

六本木ヒルズの裏に残る「谷の墓地」

ライドのハイライトのひとつが、麻布十番近くの谷地形だった。古い寺の墓地の向こうに、六本木ヒルズのレジデンス群がそびえ立つ風景。巨大資本による再開発と、昔ながらの都市の痕跡が、わずか数十メートルの距離で共存している。

千葉氏は、東京という街の魅力は「微細なスケールで山の手と下町が混ざり合っていること」だと語った。大規模開発は、しばしばそうした地形や歴史の文脈を均質化してしまう。

しかし、東京にはまだ、谷と台地、聖域と繁華街、墓地と高層ビルが隣接する“極端な対比”が残されている。その対比を身体で感じ取ることこそ、都市を深く理解する入口なのかもしれない。

自転車は「都市を読むための道具」

トーク後半で、話題は“道具”へと移っていく。

千葉氏は、建築も本来は「地球を相手にした道具」だと語る。そして人類は、自然と向き合うために数え切れないほどの道具を生み出してきた。包丁、農具、波乗りの板(千葉さんは若い頃サーファーでもあった)。そして自転車。

「都市生活者にとって、自転車はかろうじて残っている唯一の道具かもしれない」その言葉が印象的だった。スマートフォンやパソコンは便利だ。しかしそれらは、身体を通じて世界を知る道具ではない。指先だけで完結してしまう。

一方、自転車は違う。坂の傾斜。路面の粗さ。湿度。風向き。匂い。音。身体全体で都市を受け取りながら移動する。その時、人は普段見えていなかった情報を大量に受け取る。

千葉氏は「自転車に乗っている時が、最も情報が入ってくる」と語った。確かに、車では見落としてしまう小さな店や路地が、自転車だと急に立ち上がって見えてくる。自転車だと路肩の側溝とアスファルトの段差が気になったりする。その情報量の多さが、都市を走る自転車の魅力といえる。

ブロンプトンは「アーミーナイフ的な自転車」

そして話題は、今回の相棒であるブロンプトンへ。千葉氏は普段ロードバイクにも乗るが、今回のルートをロードバイクで走った下見では、「なんて不便なんだろうと思った」という。

細い路地、頻繁な停止、急な方向転換。都市探検的なライドには、ロードバイクは“刺身包丁で全部やろうとしている”ような感覚だったという。

その一方で、ブロンプトンについては「アーミーナイフ的な自転車」と表現した。
万能ではない。ロードバイクほど速くもないし、MTBほど悪路に強いわけでもない。しかし、どこへでも持って行ける。

折りたたみ、輪行し、気になった場所で止まり、歩き、また走り出す。都市との距離感が非常に柔らかい。今回のライドでも、その特性は際立っていた。

階段脇で立ち止まり、歩道橋を押し歩きし、裏路地へ入り込み、時には神社の参道へも静かに溶け込む。ブロンプトンは“移動手段”というより、都市を探索するためのインターフェースのようにも感じられた。

「東京を、もっと解像度高く見る」

イベント終盤、千葉氏はこう語った。「東京は自分にとって生まれ故郷。だから、もっと解像度高く見たいし、面白い場所は面白いと言い続けたい」その言葉には、東京という都市への深い愛情が込められていた。

千葉氏と、建築にも造詣の深いブロンプトンジャパン合田氏。建築と自転車を愛する2人のコラボが生んだ興味深い都市探検だった

都市は、ただ効率的に移動するためだけの場所ではない。そこには、時間の積層があり、忘れられた水路があり、役目を終えた構造物があり、人々の生活の痕跡がある。

そして、それらを感じ取るには、自分の身体で都市の中へ入り込まなければならない。今回の「Urban Explorer Ride & Talk」は、まさにその感覚を思い出させてくれるイベントだった。

問:BROMPTON JAPAN https://jp.brompton.com/

 

 

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