
マルコ・ファバロさんがイタリアからお届け!トスカーナを行く「エロイカ・モンタルチーノ」リポート
Bicycle Club編集部
- 2026年06月10日
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スポーツジャーナリストであり、海外スポーツ選手の通訳も務めるイタリア人、マルコ・ファバロさん。前回の「ジロ・デ・イタリア」観戦レポートに続き、現地イタリアでサポートを務めた「エロイカ・モンタルチーノ」のイベントレポートを届けてくれた。
前回の「ジロ・デ・イタリア」
観戦レポート
世界中から何千人ものサイクリストが集まるイベント「エロイカ・モンタルチーノ」

サイクリングイベントには、タイムや順位を意識して走るものがある。そしてもう一つ、「体験する」ためのイベントがある。エロイカ・モンタルチーノは、間違いなく後者に属するイベントだ。
エロイカ・ファミリーの一員として開催されるこのイベントには、毎年世界中から何千人ものサイクリストが集まる。参加者たちはヴィンテージバイクやクラシックスタイルの自転車に乗り、トスカーナの白い未舗装路「ストラーデ・ビアンケ」を走る。
競うことをやめ、サイクリング文化を取り戻そう

その目的は競技成績を競うことではない。より人間らしく、本物で、仲間との交流を大切にするサイクリング文化を取り戻すことにある。エロイカの原点である「L’Eroica (レロイカ)」は、「英雄の大会」を意味し、1997年にイタリア人ジャーナリストのジャンカルロ・ブロッチによって創設され、今年の秋に29周年を迎える。
一方、エロイカ・モンタルチーノは今年で10周年を迎えた。私にとって特別な意味を持つ節目でもある。というのも、私が房総半島で主催するサイクリングイベント「FERRO Mari e Monti」も2026年に10周年を迎えたからだ。

今年は、日本人サイクリストのグループを案内し、彼らにとって初めてとなるイタリアでのエロイカ体験を2日間サポートする機会に恵まれた。多くの参加者にとって、それは長年の夢が叶う瞬間だった。そして私自身にとっても、快晴の空とモンタルチーノを囲む素晴らしい景色のおかげで、忘れられない経験となった。
町全体がフェスティバルになる週末

エロイカ・モンタルチーノは毎年5月末、トスカーナを代表する絶景地帯であるクレーテ・セネージとブルネッロの丘陵地帯で開催された。イベント期間中、モンタルチーノの町はまるで別の顔を見せる。

歴史地区から車は姿を消し、代わりに自転車、音楽、そして笑顔があふれる。中世の城壁に囲まれた町を歩くと、自転車マーケット、写真展、文化イベント、ダンスパフォーマンス、DJブース、賑わうレストラン、そして世界中から集まった家族連れに出会う。その雰囲気は、スポーツイベントというよりも大規模な音楽フェスティバルそのものだ。町全体が一つの祝祭に参加しているかのような感覚になる。
クラシック自転車ファンの楽園

イベントの中でも特に魅力的なのがマーケットエリアだ。ここには年代も国もさまざまなヴィンテージバイクが並ぶ。歴史的なフレーム、ホイール、日本ではなかなか手に入らないカンパニョーロ製のパーツ、ウールジャージ、そして膨大な数のスペアパーツが販売されている。愛好家にとっては単なる市場ではない。自転車文化の歴史を展示する屋外博物館のような場所なのだ。

絵葉書の中を走るようなサイクリング

コースはイタリアでも屈指の美しい道を通る。広大なブドウ畑、お城のようなワイナリー、糸杉並木、石造りの農家、なだらかな丘陵地帯。まるで絵葉書の中を走っているような景色が続く。コースは初心者から上級者まで楽しめるよう複数用意されているが、決して油断はできない。

トスカーナのストラーデ・ビアンケには15%を超える急勾配が珍しくなく、一部では20%近い区間もある。さらにクラシックバイクやヴィンテージバイクで走る場合、難易度は一段と上がる。ギア比は重く、車体は重く、ブレーキ性能も現代のロードバイクほど高くない。苦しさは本物だ。しかし、その苦しさを参加者全員で共有するからこそ、ゴールした瞬間の感動は格別なのだ。

エイドステーションもまたお祭り

海外からの参加者が驚くポイントの一つがエイドステーションだ。コース沿いには、新鮮な果物、パン、ハチミツ、お菓子、地元料理が並ぶ。もちろん水も十分に用意されている。そして、イタリアらしくワインも欠かせない。ここは世界有数のワイン産地。

公式エイドでは大きなガラス瓶やワインボトルから自然にワインが振る舞われる。
さらに、地元住民が自主的に設置した非公式エイドも数多く存在する。無料で水を提供し、通過するサイクリストへ声援を送るその姿は、エロイカならではの温かいおもてなし文化を象徴している。
エロイカに向けた準備

日本人参加者の中には、エロイカを「のどかなトスカーナを走るサイクリングイベント」と考える方もいる。しかし実際には、それなりの準備が必要。長い未舗装路の登坂、初夏の暑さ、そしてクラシックバイク特有の操作感は、体力的にも精神的にも大きな負担となる。

事前のトレーニングはもちろん、未舗装路の走行に慣れておくことや、クラシックバイクの扱いに慣れておくことが大切だ。ゴール後の疲労は避けられない。しかし、その疲れはすぐに大きな達成感へと変わる。

日本のイベントとの違い

日本から参加する方にとって、いくつか知っておきたい違いがある。まず、コース上のトイレは日本ほど多くない。また、トイレットペーパーがない場合もあるので、少量を携帯することをおすすめ。さらに、エントリー時にはスポーツ用健康診断書が必要だ。これはイタリアのサイクリングイベントで義務付けられているからだ。しかし、最も大きな違いは別のところにある。

エロイカは単なるヴィンテージバイクのイベントではない。自転車は、ゆっくりとした、人間らしい、本物のライフスタイルを思い出すための手段に過ぎない。参加者は互いに助け合い、励まし合いながら走る。苦しさも笑顔も物語も共有する。それまで会ったことのない人同士が、何十キロも一緒に走ることも珍しくない。そしてゴールでは、タイムに関係なく大きな拍手で迎えられる。その瞬間こそ、多くの人がエロイカの本当の意味を理解するのだ。

ゴールの後も続く物語

エロイカの魅力は、ゴールしたら終わりではない。広場には音楽が流れ続け、人々は一緒に食事をし、乾杯し、その日の思い出を語り合う。誰も急いで帰ろうとはしない。現代のスポーツイベントではなかなか味わえない、一体感と共同体意識がそこにはある。これこそが、エロイカが長年愛され続ける理由なのかもしれない。

国籍も言葉も、自転車の種類も関係ない。一日だけでも、参加者全員が同じ道を走り、同じ苦しさを味わい、同じ喜びを分かち合う。そして、モンタルチーノが訪れる人々に残してくれる最高の思い出は、美しい景色や自転車そのものではなく、その「人間らしさ」なのだ。
エロイカ・モンタルチーノに持っていきたいもの

これまで多くの日本人参加者を案内してきた経験から、初参加の方にいくつか実践的なアドバイスがある。まず、少し大きめのスーツケースを用意することをおすすめする。公式グッズや記念ジャージ、地元の特産品、自転車マーケットで購入したパーツなど、帰国時には荷物が大幅に増えていることがよくある。

ライド中は日焼け止め、ミネラル補給用タブレット、ティッシュペーパー、そして少量のトイレットペーパーがあると便利。5月末のトスカーナの日差しは予想以上に強く、空気も乾燥している。また、日本から参加する方には予備のボトルを一本持参することをおすすめする。エイドは充実しているが、暑い日には余裕のある給水体制が安心。
自転車については、レンタルという選択肢も非常に魅力的だ。飛行機での輸送費や破損リスクを避けることができ、エロイカのコースに適した整備済みの車両を利用できる。今回私たちは、エロイカで長年活躍するメカニックのカルベ氏のサービスを利用したが、期間中を通してトラブルは一切なかった。

最後に、最も大切なのは装備ではなく心構えだ。好奇心を持ち、新しい人との出会いを楽しみ、普段のサイクリングイベントとは違う体験を受け入れる気持ちを持って参加してください。帰りのスーツケースの中で最も大きな場所を占めるのは、きっとそんな思い出なのだ。
リンク集
エロイカ・モンタルチーノ:https://www.eroica.cc/en/events/eroica-montalcino/
ボンドトラベルツアー:https://www.bondtravel.club
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