
2050年、AIロボットがツール・ド・フランス総合優勝⁉ その可能性は!
山崎健一
- 2026年07月13日
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ツール・ド・フランス2026が開催中ですが、AIはどこまで自転車競技に影響をおよぼしているのか? トップチームのデータ活用、人間コーチの危機、若手選手発掘への影響、ドーピング検査の進化まで——スポーツの未来とAIとの距離感をUCI(世界自転車競技連合)公認代理人の山崎健一氏が深掘りしてみました。
UCI(世界自転車競技連合)もAIに乗っ取られる日が来るのか?
筆者(50代)が初めてAIという存在を意識したのは、1984年公開の映画『ターミネーター』でした。そこに登場するAI機械軍「スカイネット」は、人類が生み出したAIが自己進化した末に、人間を不要と判断し、世界を支配しようとするSFです。
2001年には、敬愛するスティーブン・スピルバーグ監督の『A.I.』が公開され、人間と同じ感情を持つAIロボットが描かれました。当時のAIの捉われ方は、タイムマシンやワープ航法と同じような、あくまでも「いつか実現するかも⁉、しないかもしれない夢物語」の域でした。
2026年、AIは「未来」ではなく「現在」になった
ところが2026年。ChatGPTやClaudeをはじめとする生成AIは、文章作成、翻訳、画像制作、データ分析などで驚くほどの能力を発揮し、すでに誰もが日常的に使うツールとなっています。
さらに心配なのは、AI企業の大手である米アンソロピック社(Claudeを開発・運営)が論文を発表し、「AIが自己進化できる段階に達し、それを野放しにすると制御不能になる」と警鐘を鳴らしたことです。
「スカイネットって、本当にあり得るんじゃないか?」
私を含め、そんなことを考える人も決して少なくないはずです。そして今、その波は自転車ロードレース界にも確実に押し寄せています。
2050年には、「AIロボット選手のUCI(世界自転車競技連合)登録を認めるべきか?」という議論が本気で行われているかもしれません。といいますか、議論どころか、AIに支配されたUCIが勝手に決めているかもしれません……
AIはすでにロードレース界に侵入している
実は、自転車界へのAI導入は昨日今日始まった話ではありません。
2020年頃には、ツール・ド・フランス公式データパートナーのNTTデータが「AI Predictor(AIレース予想)」を提供しており、テレビ中継では「この逃げは成功確率37%」といった予測が表示されていたのを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。
ちなみに、この動きは2015年にNTTデータの子会社であるダイメンションデータ社(チームも保有していました)が、ツール・ド・フランス主催者のASO社とテクノロジーパートナーシップを結んだことから始まりました。よって、自転車界へのAI進出元年は2015年と言えるでしょう。とはいえ、ロードレースは天候、風向き、落車、補給、チーム戦術、選手の体調など、変数が多すぎる競技です。AI予想は外れることのほうが多く、どちらかと言えば「ネタ要素」として楽しむ程度でした。
しかし、自転車AI元年とも言える2015年から、たった10年ほどしか経っていない現在、その状況はかなり変わってきています……
世界トップチームはすでにAI活用競争へ

現在のUCIワールドツアーチームは、皆さんの想像以上にAIを活用しています。コースプロフィール、風向き、気温、路面状況、選手のパワーデータ、過去のレース結果など膨大なデータをAIが分析し、
- どこでアタックするべきか
- 逃げの成功確率
- 補給タイミング
- アシストの消耗計画
- 集団分裂のリスク
までシミュレーションしているチームも存在(しているらしい)。
近年は、
- ネットカンパニー・イネオス
- ヴィズマ・リースアバイク
- UAEチームエミレーツXRG
などがAI企業との提携を強化し、チームは可能な限り多くのデータを集め、AIに戦略や選手のケア方法を考えさせます。なお、そのデータとは従来の様な選手のパワーデータだけではありません。
得意・不得意、コンディションの推移、ストレス、過去の対戦成績(レースでの出場選手構成)、使用言語、過去の居住地域、チームメートとの相性、プライベートでの趣味、トラブル事例まで、とにかくデータは多いほど有利。
さらに近い将来、現行のスーパーコンピューターを遥かに凌駕すると云われる量子コンピューターが実用化されれば、その分析能力は飛躍的に高まるでしょう。
レースに出場した選手の組み合わせや年齢、言語圏、過去のチーム歴など、膨大な条件を一瞬で分析し、人間では考えつかない答えを導き出す可能性があります。
実際、ワールドチームで監督を務める欧米人の友人はこう話します。
「例えば逃げに(世界王者経験者)マチュー・ファン・デル・プールが乗れば、大集団が本気で追うことくらいは誰でも分かる。でも最近のAIは、俺たちプロの監督でも『なるほど』と思う答えを返してくる。特に頭の固い古い人間には無い発想を提供してくるので、参考にはなる。個人的にはAIを信用したくないし使いたくないけど、5年後、10年後になると間違いなく無視できない存在になると思う。」
ちなみに本人は、いわゆる”昭和気質”のハイテク嫌いです(笑)。スポーツの魅力は、人間だからこそ起きる失敗や偶然、そして予想外のドラマ。一方で、勝利を求められるチームは、不確実性をできるだけ減らし、勝率を上げようとします。AIは、その両者の間でまさに諸刃の剣になりつつあるのです。
AIが人間コーチを失業させ、若い芽を摘む?

AIの影響は、プロチームだけの話ではありません。すでに一般サイクリスト向けのトレーニングサービスでは、
- FTP (1時間維持できる最大のパワー=ワット数)推定
- 疲労分析
- 回復予測
- 練習メニュー作成
といった機能をAIが高精度で行えるようになってきています。
これまで高額なコーチ契約が必要だった内容が、スマートフォン一つで手に入る時代になり始めました。さらに食事内容や心拍、HRV(心拍変動)などのデータを蓄積すればするほど、「今日は疲労が蓄積しているので回復走に変更」、「明後日のレースへ向けて糖質摂取量を増やしましょう」といった、ほぼリアルタイムのコーチングまで受けられます。
利用する側にとっては素晴らしいサービスですが、コーチ業の友人も居る自転車業界で仕事をする人間としては少々複雑です……とはいえ、トッププロを指導するレベルのコーチ陣がAIに置き換わる事はあり得ないハズ。というのも、優秀なコーチはデータだけでなく、選手の表情や声の調子、精神状態まで見ています。
「恋人とうまくいっていない」、「人間関係で気持ちが落ち込んでいる」そんなデータには表れない部分さえも含めて支えているからこそ、トップ選手の結果につながるのです。
問題は、その下の一般ユーザー層です。コーチの収入の大きな部分を支える一般アスリートが、「AIで十分」「AIのほうが信用できる⁉」と考え始めれば、コーチという職業そのものが大きな影響を受けるでしょう。
実際AIのほうが価格競争では優位に立っており、その兆候は、すでに見え始めているのが現実です。
選手移籍市場もAIが変える?
以前のロードレース界では2~3年契約が一般的でしたが、近年はスター選手を中心に長期契約、あるいは生涯契約とも言われる契約が増えており、その背景にはAIの影もちらほらと見え隠れします。
現在のトップUCIワールドチームは、選手のパワー、心拍、睡眠、栄養、疲労など膨大なデータを蓄積・分析しています。
その結果、故障やオーバートレーニングのリスクを以前より正確に把握できるようになり、かつてはよく見られた「レースに出し過ぎたことによるオーバーワークでの故障」も起こりにくくなっています。そのため、長期契約への不安が小さくなってきた可能性があります。
もう一つは「データ流出」です。
AI時代では、データそのものが重要な資産のため、選手が移籍すれば、その選手が持つデータやノウハウの一部も他チームへ渡ります。チームは選手だけでなく、情報も囲い込もうとしている様に見えるのは気のせいでしょうか……
ちなみにチーム選手&スタッフはチームとの契約時にもちろん秘密保持契約(NDA)を結びますが、その契約内容には明瞭に各種”選手データ”も機密事項として定義されています。さらに一部特定の超有名選手は、代理人+専属個人コーチとのみフィジカルデータを共有し、チームには一切見せない&握らせていない、というようなような噂もあります……
そして私が個人的に特に気になっているのは、若手選手の発掘に対するAIが及ぼす影響です。
現在、筆者が従事するエキップアサダ/RTA(https://www.cyclisme-japon.net/)で若い日本人選手を欧州へ送り出す活動をしている立場として、これが一番心配です……
かつては経験豊かな監督・コーチによる「この選手、化けるかもしれない」という人間の勘が選手育成には重要でしたが、AIがフィジカル能力を早い段階で数値化し、「プロでは通用しない」と判断する時代になる危険性が出てきました。
皆さんご存知の通り、ロードレースはフィジカルだけで決まる競技ではなく、メンタル、努力、そして少々”昭和”ですが「根性」も大いに武器になります。しかし、レースの現場は結果がすべて。AIの分析結果を前に、「プロでは無理」という判断が下されれば、それに関係者は耳を貸さざるを得なくなり、多かれ少なかれ選手選びに影響を与えてしまう可能性があります。
荒唐無稽で、我々を驚かせてくれる規格外の選手が生まれる余地までAIが奪ってしまうのなら、それはロードレースにとって大きな損失になるかもしれません。
ドーピングもAIで進化する

AI(ソフトウェア)と、将来実用化が期待される量子コンピューター(ハードウェア)の組み合わせは、自転車ロードレース&スポーツの天敵、ドーピングにも影響を与えるでしょう。現行のスーパーコンピューターよりも圧倒的に分析能力が勝る量子コンピューターにより分子シミュレーションが飛躍的に進めば、新しい薬剤や遺伝子ドーピングの開発スピードも速くなる可能性があります。もちろん恩恵を受けるのは、不正をする側だけではなく、摘発する側もAIを活用できます。
ちなみに世界アンチ・ドーピング機構(WADA)や関連研究機関の現時点での検出技術はピコグラム(1兆分の1グラム)レベル=俗に例えると「学校のプール一杯に小さじ20分の1杯の禁止薬物が混ざっていても検出できる」と例えられるほどです。それが将来的には、AIと量子コンピューターの発展によって、フェムトグラム(1000兆分の1グラム)レベル=「1000個のプールに小さじ20分の1」の検出も視野に入るそうです。もし実現すれば、「もう逃げようがない」と言える時代が訪れる可能性があります。
現在でもドーピング検査は驚くほど高精度ですが、AIの発達によってさらに微量な薬物まで検出できる時代が来るはず。結局のところ、ドーピングに関しては「最先端のドーピング」と「最先端のアンチ・ドーピング」の戦いが、これからも続いていく事になるのかも……
2050年、本当にAIロボットがツール・ド・フランスを制するのか?

では、最初の話に戻りますが、2050年、本当にAIロボットがツール・ド・フランスを制するのでしょうか⁉
すみません! それはないと思います(きっぱり)。……タイトルにインパクトが欲しくて、つい書いてしまいました(笑)。しかし、このままAIが競技へ深く入り込み続ければ、人間に必要とされるのは「筋肉」だけ。選手が何をするか、どう戦うかはAIが決める方向へ進み、2050年には選手が「AIロボット」と皮肉られる時代になる可能性は十分あり得ます。
もちろん、私はテクノロジーを否定しているわけではありません。実際、AIは競技の安全性向上や運営の効率化、選手育成など、役立つ分野が数多くあります。しかし、競技そのものへの介入については、UCI(世界自転車競技連合)や競技関係者によるルールやガイドラインの整備が必須です。もしAI活用を無制限に進めれば、「予測不能なドラマ」という最大の魅力が失われ、自転車ロードレースはますますニッチで、「機材を売るためのPRスポーツ」のようになってしまう気がします。
ガイドラインが必要な分野としては、
- レース中のリアルタイムAI戦術支援の制限
- 選手データ利用範囲のルール化
- AIロボット選手(笑)や半自律型機材の排除
などでしょうか。
2050年、ツール・ド・フランスでマイヨ・ジョーヌを着るのは、やはり人間のはずです。しかし、その人間を支配するのはAI、あるいは”スカイネット”だった……そんな時代になる可能性は十分あります。
そんな時代になって後戻りできなくなる前に、自転車界、そしてスポーツ界は、AIとの適切な距離感を見つけるべきだと思います。なんならAI全面禁止。あと昭和肌の筆者としては、個人的には電動変速機とディスクブレーキも禁止してほしいです(笑)。
……ちなみに、この文章も実はAIが書いているのかもしれませんので、ご注意ください(笑)。
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- CREDIT :
- PHOTO:LOOK Cycle
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