
ブエルタ2026開幕!ポガチャルが50km独走で圧勝、そしてインフルエンサー騒動の波紋
Bicycle Club編集部
- 2026年08月26日
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2026年ブエルタ・ア・エスパーニャが開幕。ポガチャルがモナコTTとアンドラ山岳で2勝し総合を独走する一方、公式インフルエンサーによるポガチャルへの性的発言が国際的な騒動に発展。スペインの女性ジャーナリストが声を上げた背景とは。ブエルタに関するスペインでの反応を、スペイン在住の對馬由佳理がお伝えする
ポガチャルが圧倒的支配力を見せつけた開幕4日間

2026年のブエルタ・ア・エスパーニャ(以下、ブエルタ)が8月22日に開幕した。舞台はモナコ。3大グランツールすべてのスタート地を務めた史上初の都市から、今年のブエルタは走り出した。初日の個人タイムトライアルからタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)がマイヨ・ロホを獲得し、第4ステージのアンドラ山岳では50km独走という圧巻の勝利。早くも総合争いに大差をつける展開となっている。
開幕ステージは、モナコの市街地を駆け抜ける9.4kmの個人タイムトライアル。F1モナコグランプリでおなじみのトンネルやピシーヌ通りも含まれ、最後の2km区間に大小20近いコーナーが連続する極めてテクニカルな設計となった。
ここで勝利したのはモナコに自宅を構えるポガチャル。平均速度51.5km/hで駆け抜け、自身初のグランツール開幕ステージ勝利を飾った。このあと、第3ステージが雹で中止となるなどのトラブルはあったものの、ポガチャルは第4ステージではさらに勝利を重ねた。

第3ステージの中止を受け、アンドラで行われた第4ステージが今大会最初の本格的な総合争いの舞台となった。コースはアンドラ・ラ・ベリャを発着する104.8km。短いが獲得標高は約2,800mと、1級山岳が3つ並ぶ凝縮された山岳ステージだ。
ポガチャルが動いたのは、残り50km地点のコリャダ・デ・ベシャリス(6.5km/平均8.5%)だった。急勾配の1級山岳でアタックを仕掛けると、唯一反応したフェリクス・ガル(デカトロンCMA CGMチーム)もすぐに脱落。そのまま単独で逃げ続け、続くコル・ドルディノの山頂では追走グループに約3分の差をつけた。
残り区間は2つの下りと短い3級山岳アルト・デ・ラ・コメリャのみ。後方のロハ獲得を狙う追走グループ(ロジッチ、マス、クス、オンリー、ガル)には詰める力は残されておらず、ポガチャルは2時間40分35秒で独走フィニッシュ。2位のヤルノ・ウィダール(ロット・インテルマルシェ)以下に2分39秒の大差をつけた。50kmに及ぶ独走は、ポガチャル自身のグランツール最長記録を更新するものだった。
こんなポガチャルにアタックしたインフルエンサーが騒動に

じつは今回のブエルタはスタート早々、大きな騒動を生み出すことになった。今年のブエルタのオフィシャルの中継者であるインフルエンサーのエロア・ジョーンズ氏が、第1ステージ終了後のタディ・ポカチャル選手に性的な発言をした瞬間がリアルタイムで世界中に配信されたのである。
この行為に対し、ブエルタ開催国のスペインではどのように伝えられているかが話題となっている。
何が第1ステージ終了後に起こったのか

事の起こりは、22日のブエルタ初日に開催された個人タイムトライアルのレース終了後に起こった。この日ステージ優勝したポカチャル選手に、今年のブエルタのオフィシャル中継者の一人である女性インフルエンサーのエロア・ジョーンズ氏が近づき、英語でポカチャル選手に性的意味の強い質問を連発した。この瞬間はブエルタのオフィシャルの配信を通じて、世界中にリアルタイムで発信されていた。
この行為に対し、ブエルタ開催国のスペインをはじめとする多くの国から、「世界トップレベルの選手に対して、非常に失礼な行為である」という声がSNSを通して表明された。
こうした多数の意見に対し、ブエルタのオーガナイザーであるユニパブリックは24日、「ブエルタはジョーンズ氏にジャーナリズムを求めているのではなく、エンタメを求めている」と表明。加えて同氏はブエルタの最後までオフィシャルの配信を続けることと、今後ブエルタで同氏は選手に接触をさせないことも明らかにした。
▼インフルエンサーのエロア・ジョーンズ氏が登場するブエルタ公式動画
スペイン国内の反応

こうした一連の出来事に対し、ブエルタ開催国のスペインからも、ジョーンズ氏と、同氏をブエルタ公式の配信者として契約したユニパブリックに対し、厳しい非難が続出した。
まず、もともとジョーンズ氏のブエルタへの起用に対し、「自転車レースを全く知らない人間をオフィシャルの配信を任せるのか」というスペインのマスコミからの反対意見があった。
しかし、それ以上に、女性であるジョーンズ氏が性的な表現を使ってポカチャル選手に質問をしたことに対し、スペイン国内から大きな批判があったのも事実である。
この時のジョーンズ氏の行為に対し、最も早く批判の声を上げたのが、スペインの女性自転車ジャーナリストであるラウラ・メセゲール氏であった。メセゲール氏はスペインのユーロスポーツの自転車番組でプレゼンターをしているジャーナリストである。
メセゲール氏は自身のインスタグラムを通じて、「多くの女性が自転車業界でジャーナリストとして働くために、長い時間戦ってきた。そんな女性たちが過去に逃れようとしてきたセクハラ発言をいまだに続ける自転車競技を全く知らない人間を雇うことは、深刻な間違いである。男性であっても女性であっても、相手を『もの』として扱うべきではない。」と指摘した。
このメセゲール氏の批判に対し、多くのジャーナリストが賛成を表明した。なお、メセゲール氏はこれと同様の意見を23日にスペイン全国紙のEl País紙に掲載している。
背景にある、スペインにおける女性の職業進出の歴史と自転車ジャーナリズム界
メセゲール氏の意見に対し、「インフルエンサーという新しいメディアが役割を広げていくことを、良く思わないオールドメディア」という形で批判する声もある。しかし、特にスペインの自転車界でニューメディアの進出に関して、反対している人は意外と少ない。
それよりも、今回のジョーンズ氏の行為は、男性社会の自転車業界で、先人の女性記者たちが今まで積み上げてきた活動の歴史に泥を塗る行為である、という意味でも強く批判されているのである。
1970年代後半まで続いていたスペインのフランコ独裁政権では、女性の社会進出がほとんど認められず、1980年になってやっと女性が家庭以外の場所で働くことができるようになった。そして、現在スペインのベテラン女性ジャーナリストは、この1980年代から働いている人がほとんどである。
1980年代の自転車業界は、今以上に女性は少数派であった。男性から女性記者が性的な発言をされることも決して少なくはなかっただろう。そうした心無い発言に対し非を唱えながらレースの現場に立ち続け、取材を続けて記事を送り、選手や関係者からの信頼を勝ち取ることで、自転車レースに女性ジャーナリストがいることを「当たり前の風景」に変えてきたのが、スペインのベテラン女性ジャーナリストたちなのである。
今ブエルタ・ア・エスパーニャのプレスルームで仕事をするジャーナリストの半分近くは女性である。こうしたことが当たり前になるまでに、スペインでは40年以上の時間が必要だったのである。
こうした背景があったため、メセゲール氏はジョーンズ氏の行為を強く非難したのである。ジョーンズ氏のポカチャル選手への行為は、いままで多くの女性ジャーナリストが受けてきた「女は自転車レースはわからない(だから、ポカチャル選手にレースについて質問できない)」あるいは「女に自転車の仕事はできない」といった心無い言葉を思い出させるものであり、同時にそうした言葉を配信を見ている人に強く印象付けるものであった。そのため、彼女の行いは、スペインで、女性が、自転車界で普通に働くことができるようになるまで積み重ねられた、40年間の努力に泥を塗る行為と判断されたのである。
今回のジョーンズ氏の件は、「ニューメディア」対「オールドメディア」の対立ではない。また、「男性」対「女性」の性別対立でもない。「競技への敬意」をどう考えるのか? ということではないだろうか。
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- CREDIT :
- PHOTO:A.S.O. TEXT:對馬由佳理
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