
日本初開催のアジアパラ愛知・名古屋2026へJPC懇談会 公平なクラス分けと選手を守る新体制
Bicycle Club編集部
- 2026年09月03日
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2026年10月18日に開幕を迎える「愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会」。日本初開催となるアジア最高峰のパラスポーツの祭典まで残り1カ月半と迫った9月2日、東京都港区の会場にて公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)および日本パラリンピック委員会(JPC)による記者懇談会が開催された。半世紀前に日本で誕生した「フェスピック」から受け継ぐ大会の意義をはじめ、パラサイクリング等でも勝敗を分ける「クラス分け」の最新事情、SNS時代の選手保護体制、そして三坂洋行団長と谷本歩実副団長による対談まで、アスリートたちが最高のパフォーマンスを発揮するための新たな環境づくりが語られた。
フェスピックから半世紀 原点たる日本へ戻るアジア最高峰の舞台
アジアの45の国と地域からトップパラアスリートが集う「愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会」。全18競技が繰り広げられる本大会だが、日本国内での開催は史上初となる。
実は、この大会のルーツを辿ると半世紀前の日本へと行き着く。1975年に大分県で開催された「第1回極東・南太平洋身体障害者スポーツ大会(フェスピック大会)」だ。「日本パラリンピックの父」と称され、社会福祉法人「太陽の家」を創設した中村裕医師の尽力によって生まれたこの国際大会こそが、現在のアジアパラ競技大会の原点である。

冒頭、挨拶に立ったJPSA/JPC企画広報部の君原嘉朗部長は、「日本は大会の歴史や理念を築いてきた国。半世紀を経て、その原点ともいえる大会が日本で初開催されることは非常に大きな意義を持ちます」と語った。
かつてはリハビリテーションや福祉の文脈で捉えられることが多かったパラスポーツだが、近年は極限のスピードやパワー、戦術を競い合う世界最高峰のエンターテインメント・競技スポーツへと完全に昇華した。パラサイクリングをはじめ、研ぎ澄まされたギアとアスリートの肉体が一体となる熱狂の舞台が、いよいよ日本へ帰ってくる。

パラスポーツの中枢神経系 公平性を担保する「クラス分け」のメカニズム
パラスポーツの中枢神経系 公平性を担保する「クラス分け」のメカニズム パラサイクリングのリザルトを見ていると、「C1〜5」「H1〜5」「T1〜2」「B」といった表記を目にすることがある。一般的な二輪車で競うC(Cycle)、ハンドサイクルを使用するH(Handcycle)、三輪車で競うT(Tricycle)、そして視覚障害の選手がパイロットとともにタンデム自転車で走るB(Blind/Tandem)。それぞれのカテゴリーには障害が競技へ与える影響に応じた競技クラスが設けられている。そんなパラスポーツの公平性を支える根幹の仕組みが「クラス分け」だ。JPCクラス分けマネージャーの井土祐樹氏は、この制度をIPC(国際パラリンピック委員会)が「パラリンピック・ムーブメントの中枢神経系」と位置付けていることを紹介し、その役割を解説した。

国際パラリンピック委員会(IPC)は、クラス分けを「パラリンピック・ムーブメントの中枢神経系」と位置付けている。参加資格の確認だけでなく、障害が競技パフォーマンスに与える影響度を科学的に評価し、公平な競争グループを設定するための極めて重要なプロセスだ。
井土氏が強調したのは、「クラス分けは単なる障害の重さそのものを比べるものではない」という点だ。
「評価の基準となるのは、その障害が“競技の動作にどう影響しているか”です。同じ障害であっても、競技特性によって影響の出方は全く異なります」
判定は、書類審査(原疾患アセスメント)に始まり、関節可動域や筋力、視力などを計測する機能評価、最小障害基準(MIC)のクリア確認、そして実際の競技動作や練習・試合中の動きの観察に至るまで、多段階にわたって厳格に実施される。
さらに、公平性を揺るがす最大の不正行為である「意図的不実表示(IM=自身の運動能力をわざと低く見せかける行為)」を排除するため、大会直前の観察評価によって競技クラスが取り消されるケースもあるという。アスリートたちがフェアに限界へ挑める舞台は、こうした厳密な判定システムの上に成り立っている。
AIと法務で選手を守る SNS時代の新たな支援体制
現代のスポーツシーンにおいて避けて通れない課題が、SNS上での誹謗中傷やプライバシー侵害だ。特に注目度が高まる国際総合大会では、心ない投稿がアスリートのメンタルや競技パフォーマンスに深刻な影響を与えるリスクを孕んでいる。
JOC・JPC誹謗中傷対策スタッフの千田美沙氏からは、愛知・名古屋大会期間中に導入される強固な選手保護体制が明かされた。

愛知・名古屋2026大会では、以下の「3つの柱」を軸にした総合対策が講じられる。
- SNSモニタリング・削除申請:AIツールと専門スタッフの目視を組み合わせ、24時間体制で悪質投稿を抽出。プラットフォーマーと連携して迅速な削除申請を行う。
- 法務支援:大会期間中、弁護士が常時駐在。法的観点からの助言や証拠保全を即座に行い、選手専用のLINE相談窓口も設置する。
- 選手団本部との連携:名古屋市内の村外拠点に対策チームを設置し、選手団本部とダイレクトに連携。現場での即時対応体制を敷く。

千田氏は、「AI検知ツールだけでは、文脈に潜む皮肉や隠語、画像内に埋め込まれた文字などを完璧に判別することはできません。そのため、専門スタッフによる人の目での確認が不可欠です。選手が安心して競技だけに集中できるよう、相談窓口やメンタルケアと一体となったサポートを提供します」と語った。
「障がいを克服した人」ではなく「トップアスリート」を見る時代へ
懇談会の後半では、愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会日本代表選手団の三坂洋行団長と、谷本歩実副団長による対談セッションが実施された。

三坂団長は、車いすラグビー日本代表としてアテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロと4大会連続でパラリンピックに出場し、指導者としてもチームを世界の頂点へと導いてきたパラスポーツ界のレジェンド。一方の谷本副団長は、アテネ・北京五輪の柔道女子63kg級で2連覇を達成したオリンピアンだ。
対談のなかで熱を帯びたのは、メディアや社会における「パラスポーツの捉え方」の変遷についてだった。東京2020大会を経て、選手たちを「障害を克服した感動の物語」としてではなく、純粋に高い技術とフィジカルを備えた「トップアスリート」としてリスペクトする視点が定着しつつある。
三坂団長は自身の競技人生を振り返りつつ、次のように言葉を紡いだ。
「勝敗やメダルの色といった結果だけに目を奪われるのではなく、選手たちがそこへ至るまでにどれほどの試行錯誤を重ね、どんな挑戦の道のりを歩んできたのか。その“過程の熱量”こそを伝えてほしいと思っています」
また、オリンピアンの視点からパラスポーツの強化と普及に携わる谷本副団長は、力強いメッセージを寄せた。
「『パラスポーツだから見る』と構えるのではなく、まず純粋な『スポーツ』として見てほしい。人間の限界に挑むアスリートのスピード、研ぎ澄まされた戦術、極限の駆け引きは、どの競技であっても見る人の心を揺さぶります」
障害の有無を超え、ひとりのアスリートとして自らの極限に挑む姿そのものに価値がある――両者の言葉からは、現代スポーツが目指すべき本質がまっすぐに伝わってきた。

10月18日開幕 パラスポーツの進化をその目で目撃せよ
愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会は、2026年10月18日(日)から24日(土)までの7日間にわたって開催される。開会式および閉会式は名古屋市瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)にて挙行され、開幕直前の9月29日(火)には東京都内のロイヤルパークホテルにて日本代表選手団結団式が執り行われる予定だ。
なお、サイクルファン注目のパラサイクリング競技は、伊豆ベロドロームや日本サイクルスポーツセンターを擁する静岡県で開催される。パリパラリンピックで躍動した日本代表選手たちが、2年後のロサンゼルス2028大会へのステップとしてどんな快走を見せてくれるか、早くも期待が高まる。
半世紀前の大分・フェスピックで蒔かれた種は、50年の時を経て大樹となり、日本初開催のアジアパラという形で結実しようとしている。公平性を守る厳格なクラス分け、SNSの誹謗中傷からアスリートを守る先進的なサポート体制、そして何より、真のアスリートとして戦う選手たちのプライド。
進化し続けるパラスポーツの「現在地」を証明する舞台の幕が上がるまで、残り1カ月半。熱い戦いのカウントダウンは、すでに始まっている。
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- CREDIT :
- 文と写真:井上和隆
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