
カナダ・スコーミッシュのコブラクラック、最後のトライ|筆とまなざし#435

成瀬洋平
- 2025年09月24日
コブラクラックへ。帰国前にふたたびのトライ
スコーミッシュにはフィンガークラックがたくさんあって、登りすぎだろうか、帰国の1週間前に指を痛めてしまった。そんなこともあり、ふたたびコブラクラックを訪れたのは旅も終わりに近づいたころだった。
その日は少し気温が下がり、岩の状態はそれまででもっとも良かった。うまくいかなかったレストポイントからの3手目が止まり、右足を上げることができた。まだまだ工夫の余地があるが、とりあえず突破の糸口を掴めたように感じた。とはいえ、核心はここから先。道のりは遥かに遠い。
テーピングを巻くと指が太くなってクラックにうまく入らないため、テーピングをせずに登っていると、案の定、数回のジャミングで指皮が抉れた。テーピングをグルグル巻きにするが、さっきまでできていたことがまったくできなくなってしまった。もはやこれまで。明確な終了の合図とともに、コブラクラックをあとにした。
結局、今回の旅では5日間コブラクラックを訪れた。そのうち1日が雨。2日はクラックが濡れていて、乾いていたのは2日だけだった。コンディションを掴むのも難しいが、そもそも、トップロープでムーブ練習をしている時点でこのクラックをトライする資格がないと思った。もしもまた訪れることがあるのなら、すべてリードで取り組もう。
スコーミッシュでのたくさんの出会いに感謝を込めて
スコーミッシュでのひと月はあっという間だった。彼の地のクライミング文化にも触れることができたし、ここでの生活にもすっかり慣れた。そしてなんといってもいちばんは、この街に住む人たちと知り合えたこと。数年ぶりに再会したかがやんは結婚し、ビジネス的にも大成していた。ワーホリで訪れているあんちゃんやガイくん、カメラマンの天平さん、カナダ永住を考えているかな子さんからはカナダの社会事情をたくさん教えてもらった。クライミングショップで働くケイコさん、タイソン、セブ。カナダを代表するクライマーのイーサンに描いてもらったコブラクラックの図はこの旅の宝物である。自身が不在にも関わらず洗濯機を貸してくれたウェンディー、みんなを家に招いてくれたニック。ここにもまた、再会したい友人ができた。日本から近いし、なんといってもスコーミッシュの夏は爽やかだ。酷暑の日本から脱出し、毎夏訪れたくなってしまうのはぼくだけではないだろう。
ふたたび訪れるその日まで。ありがとう、スコーミッシュで出会ったすべてのものに感謝を込めて。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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