
イタリア・オルコでの生活。レスト日にはチェレゾーレレアーレの岩場へ向かう|筆とまなざし#437

成瀬洋平
- 2025年10月17日
オルコで一番の観光地には人気の岩場が点在する
2日登って1日レスト。レストの日は妻のクライミングのためにチェレゾーレレアーレの岩場へ向かいビレイする。それがオルコ生活のサイクルになった。
標高1600mのチェレゾーレレアーレは渓谷上流域にある町で、オルコで1番の観光地である。水力発電のためのダム湖が有名で、周辺にはハイキングトレイルや公園、レストランなどが建ち並ぶ。とはいえ、レストランは4軒、土産物屋が2軒ほどしかなく、ほかの山岳リゾートとは比べられないほど小ぢんまりとしている。天気の良い週末こそ賑わうものの平日はすっかり閑散としたものだ。
チェレゾーレレアーレには、オルコのシンボルでもあるサージェントの岩壁があり、ほかにもドロイデ、ダド、シッティングブルなど、人気の岩場が点在している。とくにシッティングブルエリアのシッティングブルはトポの表紙にもなっているルートである。前傾したフィンガークラックと上部のZ字型クラックが印象的な非常に美しいクラックだ。オルコでもっともすばらしいクラックの1本だと思う。
自然の岩をそのまま活かした建造物
シッティングブルへは民家の裏から続く道をたどる。最後の民家から標識に従って山道に入るのだが、この民家がとても素敵で、自然のボルダーをそのまま壁にして建てられている。なんと、外壁から岩の出っ張りが飛び出しているのである。遊び心と独創性と自然をそのまま活かす工夫が感じられて、前を通るたびにこんな家に住んでみたいなと思う。
オルコの森のなかには石造りの古い建物跡がいたるところに見られる。多くは家畜小屋らしいが、それらはルーフ状のボルダーを利用して作られていたりして、自然と人間の営みとの折り合いの付け方を垣間見ることができるのがおもしろい。
岩場は牧草地を登った先にある。点在するカラマツが作る木陰が心地よい。目の前には雪を抱いた山々が連なる。絶好のスケッチポイントである。木陰に腰を下ろして絵筆を走らせていると、乾いた牧草の芳しい香りが立ち上ってくる。ビレイの合間にここで絵を描くのが、今回の旅のたのしみのひとつであった。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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