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リスクマネジメントに学ぶ雪山登山の安全対策。自分の身は自分で守る、登山の基本を改めて確認しよう。

登山を安全に楽しむために、雪山にはどんなリスクがあるか考えてみよう。雪崩、凍傷、低体温症、滑落、疲労凍死など、挙げれば切りがないほど出てくるリスクに対して、私たちはそれぞれに効果的な対策を考えて、安全に計画を全うしなければいけない。このとき、リスクと対策がジグソーパズルのピースのようにバラバラに散らばった状態でも問題ないのだが、できることなら頭のなかを整理して、なるべくスマートに考えたい。

そこで今回参考にしたのが、ビジネスにおけるリスクマネジメントの手法だ。従来から語られているリスクに対応する4つの方法を活用して、雪山登山におけるリスク対策をまとめてみた。

リスクに対応する方法には、「回避」「軽減」「転嫁」「受容」がある。別の言葉で語られることもあるが、意味することは変わらない。「回避」はリスクを発生させない考え方。「軽減」はリスクの影響を少なくする考え方。「転嫁」はリスクが発生したときの影響を第三者に移す考え方。「受容」はリスクを受け入れる考え方だ。

登山はビジネスと違うので、ここでは4つの方法の解釈を少しアレンジして活用してみた。指針がない状態より、どうやってリスク対策を行なえばいいか、知識を得ることで考えやすくなるはずだ。

【回避】リスクを避ける

 

リスクの要因を取り除き、発生させない考え方。いちばんの回避行動は山行の中止だが、そればかり選んでいると本末転倒になってしまう。そこで考えたいのが計画の練り直し。たとえば、積雪量が少ない、ひと気が多い、営業している山小屋があるなど、難易度の低い雪山を選ぶ。もしくは、危険と思われるルートを避けた行程にするといった対策が考えられる。

対策1:山行を中止する

悪天候が予想される場合、計画を白紙にすることはよくある話。直前に大雪が降った場合も、雪崩のリスクを考えて山行のタイミングをずらすことがある。中止にせず、行き先を変える対応もリスク回避に繋がる。

対策2:登る山を見直す

雪山経験のない人がいきなり、行程が長い、傾斜がきつい、山頂まで標高差がある、テクニカルな岩場が連なる山に向かったら、安全とはいえないだろう。まずは簡単といわれている山から経験を積むのが◎

対策3:ルートを変える

直前に予定のルート上で雪崩が発生した場合を考えてみよう。当日が絶好の登山日和でも、再び雪崩れる危険性を考えてルートを変更したほうがいいかもしれない。リスクを避けたルート取りを心がけよう。

【軽減】リスクを予防する

リスクを減らす、もしくはアクシデントが発生したときの影響を小さくする考え方。雪山登山においては、凍傷、低体温症といったリスクを予防するために、保温性の高いウエアを身につけて、ツエルトなどのビバーク用品を準備しておくことが考えられる。万が一雪崩に巻き込まれたときに備えてアバランチギアを携行することもリスク対策のひとつだ。

対策1:装備を整える

雪山用登山靴を履く。保温性の高いウエアを身に付ける。滑落に備えてアイスアックスやクランポンを持つ。適切な装備を用意することは、すべてがリスクの予防に結びつく。疎かにできない重要な安全策だ。

対策2:複数人のパーティで計画を立てる

単独で事故を起こして動けなくなったら、だれかに助けられるまでなす術がない。逆に、近くに仲間がいれば救助を要請してくれる可能性が高い。複数人でパーティを組んだほうがリスクを軽減できる。

対策3:講習会などで技術を学ぶ

適切な装備を持っていても、正しく扱えなければ意味がない。滑落停止やクランポン歩行がまさにそれ。雪崩が起きたときのビーコン捜索にも技術が要る。リスク対策において装備とスキルは両輪の関係と考えよう。

【転嫁】リスク対策を外部に頼る

たとえば、遭難したときに多額の捜索費用や救助費用が発生するリスクに備えて、山岳保険に入っておくのは転嫁のひとつ。雪山の経験がゼロの状態で、どんな危険が潜んでいるか具体的にイメージできない、どうしたら安全に行動できるか判断できない場合は、ツアーに参加して登山ガイドにリスク対策を委ねてもいい。ツアー登山から経験を積む方法もある。

対策1:保険に入る

山岳保険への加入はわかりやすい転嫁の一例。これから入る場合も、すでに加入済みの場合も、雪山登山が補償範囲に含まれているかきちんと確認しよう。山で遭難して発見に至らないと、捜索日数が長くなり、そのぶん費用も増加する。登山計画書の届け出も大切なリスク対策だ。

対策2:ツアーに参加する

ウエアを脱ぎ着する、クランポンを装着してアイスアックスを使って行動するなどのタイミング。安全なルート取り。行動時間の管理。あらゆる行動はリスク対策に通じており、自信をもって行なえないようならツアー登山を頼るのもアリ。安全に行動できるように導いてもらおう

【受容】リスクを受け入れる

そのままの意味で、リスクがあることを認めること。登山においてリスクをゼロにすることはできないので、登山者は少なからずリスクを受け入れて行動している。ただ、なにも対策をしないのではなく、あらゆる対策を実践した上で、リスクの発生確率を低減させているのが現実だ。経験を積むことでリスクを受容できる許容範囲が広がり、活動の幅が広がっていく。

【万が一の事態に陥ったら……】

助けを呼ぶ

もっとも運が良い状況は、意識があり、携帯電話の通信圏内で、すぐに救助を呼べること。ただ、山奥では都合よくいかないことのほうが多い。あらゆるケースに備えて対策を講じておきたい。

安全を確保した上でとどまる

助けを待つあいだ雪上で横になっていては低体温症に陥る可能性が非常に高い。風雪や寒さから身を守るために、ツエルトを被る、雪洞を掘って中に入るといった対応が生命維持に欠かせない。

 

※この記事はPEAKS[2026年1月号 No.176]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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