
【バックカントリー スキー入門】残雪の至仏山を滑りたい!入門者の目線でバックカントリースキー体験をレポート|PEAKS 2026年1月号
PEAKS 編集部
- 2026年01月08日
INDEX
雪山は登山のためだけにあるわけじゃない。
スキー歴およそ2年のフリーライター櫻井卓が、板を携え残雪の尾瀬・至仏山へ。
入門者の目線でバックカントリースキー体験をレポートします!
編集◉PEAKS編集部
文◉櫻井 卓(ルポ)、福瀧智子(コラム)
写真◉太田孝則
WAHT’S BACKCOUNTRY SKIING ?

バックカントリー(BC)とは
スキー場のように人工的に整備されていない、自然そのままの雪山を指す言葉。アクティビティとして「バックカントリースキー」「山スキー」などと呼ばれ、山の地形を生かした滑走が楽しい。深雪でない残雪シーズンは滑りやすく、また日も長いなど、安全面のメリットが多い。
バックカントリーガイドとは
バックカントリーで滑ることを目的に雪山を案内し、悪天候や雪崩といった危険から参加者の安全を確保しながら、滑走体験を提供する専門家のこと。豊富な知識と経験をもとに、参加者のレベルに合わせたツアーを企画・開催する。初心者はガイドツアーに参加するのがベスト。
プロフィール
フリーランスライター 櫻井 卓
趣味は国内外の国立公園巡り。アメリカの国立公園には毎年のように通い、ヨセミテには何度も訪れている。齢50を手前にして、バックカントリースキーデビューやトレイルランレースデビューなど初物続き。
「ちゃんと滑りはじめて2シーズン目です。スキーの実力的にはゲレンデだったら上級コースをなんとか下りてこられるくらいですが、コブコブになるとまったく手がでません。正直言って、「俺で大丈夫なの!?」という気もしましたが、なにごともチャレンジ! ということで、人生初のバックカントリースキーへ」

ジュンリナマウンテンサービス バックカントリーガイド 長井 淳
2010年に「ジュンリナマウンテンサービス」を設立。立山や上信越のバックカントリースキーガイドを得意とする。北米最高峰デナリ滑降や、南米最高峰アコンカグア登頂など、海外バックカントリー経験も多数。

齢50を前にして おじさん、初BCスキーへ行く
まさか、こんな日が来るとは。
夏の尾瀬には何度も来たことがある。歩きやすさと景色のすばらしさから、僕にとっての切り札的デートコースだ。狙ったアノ娘はだいたい連れてきている。
成功率は……、まあいいじゃないか。
そんな僕がいま、至仏山を滑り降りている。
この取材が決まるまで、自分が至仏山を滑るとは夢にも思っていなかった。そもそもゲレンデでのスキーだってはじめてわずか2シーズン目。滑走技術だってどシロウトにちょっとだけ毛が生えたようなものだ。
つまり、バックカントリースキーに関しては、産毛も生えていないつるっぱげ状態だったのだ。
そこに来て編集部からの「サクライさんって、まだバックカントリースキーってデビューしてないですよね? 興味、ありますよね? ね?」というメール。急ぎYouTubeなどを漁り、せめて産毛だけでも生やそうとがんばって迎えた当日。
何度も来て、見慣れたはずの鳩待(はとまち)峠だけど、雪の季節はまたぜんぜん別の顔だ。しかも足元にはスキー板。バックカントリースキー用だから、いつも使っている板よりもだいぶ長いし太い。
スキーを装着するのもひと苦労だ。テックビンディングというバックカントリースキー用のビンディングなんだけど、爪先を2本のピンで留めて、歩くときはカカトをフリーにするという仕組みだ。そのピンがまたえらく小さくてハマりにくい。何度もやり直してようやく装着。平地でこの体たらくなんだから、不安定な斜面でやるとなると……。不安だ。
尾瀬国立公園の至仏山は、春スキーのメッカ。事前にネットで調べてみたところ、山頂からの広大なオープンバーン(斜面)が魅力で、地形も素直で雪崩リスクの高い急斜面も比較的少ない。自然保護の観点から、例年3月下旬から5月中旬頃までの限定で、登山と滑走が許可されているエリアだという。国立公園の可能性を探ることをライフワークにしている自分としても、最高のデビューの場だ。
すでに嫌な汗をかきつつもなんとか準備を終え、初のシール歩行というものを開始するんだけど、変なところに力が入ってなかなかうまくいかない。登ろうとすると、登山のときのクセでどうしても前傾になりすぎてしまってズルズルと後退するのだ。
「スキー板全体を雪面に接地して。脚は上げずにすり足で」と、すかさず長井ガイドから的確なアドバイス。それだけでシールがガシッと雪面に食い付き、格段に登りやすくなる。しかも脚を上げる必要がないから、腿筋(たいきん)にも優しい。こりゃもうアイゼンには戻れないかもしれない……。しばらくするとシール歩行にもちょっとずつ慣れてきて、景色を眺める余裕も出てきた。
樹林帯を抜けると、眼下には尾瀬ヶ原、遠くには真っ白な燧(ひうち)ヶ岳の姿も見える。景色のよい場所で小休止を入れながら進んでいく。
「春スキーって、こういうのんびりとした時間も楽しめるのがよいですよね。厳冬期だとこうは
いかないですから」
長井ガイドが行動食を食べながら言う。たしかに、この日はまさに小春日和。なんだったらハイクアップのときは、半袖でもよいんじゃないかというくらい、気温も高く、風もない。でもこのあとの滑りを考えると、ビビりの虫が騒ぎだす。なんといっても初のバックカントリースキーなのだ。50手前にして新しいことに挑戦するには、けっこう勇気がいるのだ。ただ、心強いのが逞しい背中をこちらに向けて先行している長井ガイドの存在。スキーバムを経て「JUNRINA mountainservice」を立ち上げた経験豊富なバックカントリーガイドで、北米最高峰のデナリを滑走したこともある。この至仏山のガイディング経験も豊富だ。
長井ガイドは先ほどから、歩きつつチラチラと斜面のほうをチェックしている。
「どこをどう滑るのがコンディションがよさそうかなど、つねにいろんなことを考えながら登ってます」
地形、雪質、気温、そしてその山域特有の気候条件など、さまざまな要素を複合的に判断して、その日どの斜面が気持ちよく滑れるかを判断するのだという。同じ風景でも滑るという行為をプラスするだけで、こんなに見るべきものが増えるのだ。自然を相手に遊ばせてもらう、という意味でも、バックカントリースキーはそうとうに奥が深い。
想像していたよりも、かなり急な斜面も登っていけるシールの性能におどろいていると、長井ガイドが「滑るために登っているんで、腿を温存するために普段だったら直登はできるだけ避けるんですけど、ちょっと練習しましょうか」と、急斜面へと向かう。
来る前にYouTubeで動画を観て、できる気がしなかったキックターンだ。シール性能の限界を超えるくらいの急斜面では、トラバースを繰り返しながらジグザグに登って行くんだけど、その際に鋭角に方向転換する必要がある。そこで必須となってくるのが、このキックターン。今回の至仏山のルートで必要な場所はないが、本格的にやろうと思ったら避けてはとおれないテクニックだ。これがまた、えらく難しい。元来、身体が固い自分からすれば、ほぼまた裂き状態を繰り返す。汗だくになって上を見ると、長井ガイドがシュパーンとキックターンを決めている。「慣れれば難しくないですよ」と、長井ガイドは白い歯を見せるが、これは日常的なストレッチが必要だと痛感。体幹もヨワヨワだ。新しいことをはじめると、いろいろな課題も見えてくる。ただ、齢50にしてもまだまだ成長の可能性があると考えると、それはそれで悪くない。
そして僕にとっての第一関門が現れる。小至仏山直下のトラバース(斜面の水平移動)だ。断っておくけど、別にたいしたトラバースじゃない。トレースはしっかりと付いているし、ちょっと滑ったとしてもズルズルするくらいのものだ。頭ではわかっているけど、板の扱いに慣れていないから、これだけでも十分に怖いのだ。へっぴり腰(だから余計に疲れる)で滝汗をかきつつ、なんとかクリアすると至仏山山頂が見えてきた。


ついにこのときがきたドキドキMAX滑走タイム
この日は雲ひとつない晴天。正面には燧ヶ岳、遠くには日光連山や谷川連峰までくっきり見える。そして眼下には真っ白な尾瀬ヶ原。そこへ向けてドバーンと広がる白銀の斜面。美しい……。

でもちょっと、こ、怖いんですけど……。初心者の僕からすると、スキーを下に向けるだけでもビビリ散らかす急斜面(に見えちゃう)。しかも開けた斜面だから遥か彼方まで見わたせる。とんでもなくすばらしい景色なんだけど、同時に高度感もものすごいのだ。こ、これは、心の準備が必要だ。
そんな僕の心を知ってか知らずか、長井ガイドが「楽しみましょう!」と、ニッコニコの笑顔を残してダイナミックな滑りを披露してくれる。真っ白なバーンに、長井ガイドの軌跡が美しく刻まれていく。これがいわゆる〝自分だけのラインを描く〞というやつか。

そしてついに、腹を決めるときが来た。清水の舞台から飛び降りる心持ちで滑走開始……。
第一声は「どひゃー!」だ。いや、正直「ひっ!」と言ったまま声が出なかった。バーンが広すぎて速度感がおかしい。木や岩など目標物が少ないこともそのスピード感をあと押しする。滑り出し前は「後傾にならず、腕を下げず、きちんとストックを突くこと」とか、いろいろ考えていたんだけど、そんなものは全部ふっとんだ。無我夢中で数ターン繰り返すと、あっという間に長井ガイドが待つポイントだ。ゲレンデとはまったくの別モノ。息をするのも忘れるほどの没入感がある。
とはいえ、「はえー!」とか思っているのは自分だけだったりする。あとで動画で観てみるとびっくりするくらい安全滑走。転んだってなにほどのものでもない速度感なのだ。ちなみに、この日もひっそりと二度ほど転倒している。

後続の仲間たちが「めんつる〜」とか言いながら、気持ちよさそうに滑り降りてくる。人生初のバックカントリースキーは、もちろん爽快感はあった。けれど同時に、そこには一抹の悔しさもあった。なんといっても滑りがまだまだ未熟すぎるのだ。元来のビビリな性格もあいまって、楽しむというよりも、無我夢中で下りてきた感じだ。ただ、そのことが次のシーズンの練習モチベーションにつながるのも間違いない。これは、もっと鍛錬せねば……。
そこから先は、斜度の緩い樹林帯を抜けていく。樹林帯はアドベンチャー感あって、これはこれでとても楽しい。ビビらなくてよいしね。静寂に包まれた森のなかをときおり滑りながら歩く。
そうか、スキーは移動するための手段なのだ。そんな当たり前のことに気付く。例年だったら何度か徒渉があるらしいけど、このシーズンはたくさんの雪が降ったこともあり、最後までスキーを脱ぐことはなかった。登って、景色を楽しんで、滑って、降りてくる。
雪山まるごと楽しんだ! というのが人生初のバックカントリースキーを終えてみての率直な感想だ。まさに世界が拡がる、そんな経験。そうそうあるものではない。今回、事前にYouTubeなどで情報収集に勤しんだけど、今回のバックカントリースキーは、逆説的に自分の身体で体感することの大切さを学び直した気がする。やっぱり、実際にやってみないとわからないことが、この世にはあふれている。
滑走の高揚感を残したまま鳩待峠まで戻ってきて、思った。最近の自分がいかに新しいことにチャレンジしていなかったかを。正直言うと、この企画が来たときに真っ先に思ったのも「恥をかきそうだな」というものだった。そう、至仏山の山頂に着いたとき同様、ビビっていたのだ。楽しいか楽しくないか、合っているか、そうじゃないか。そんなのは飛び込んでみないとわからない。最初からうまくやる必要なんてこれっ
ぽっちもないのだ。
今年もスキーシーズンがやってくる。とりあえず初心に返って、転びまくって雪まみれになるところから、始めてみようと思う。
まさか、こんなことを言う日が来るとはね。


Know the BC ①
■バックカントリーツアー参加に必要な道具例
①クライミングスキン(シール)。②ヘルメット。③ショベル:硬い雪も掘ることができる金属製を推奨。④滑走用グローブ:予備も持つこと。⑤保温ボトル:別途飲み水も必要。⑥プローブ:3m前後のもの。⑦ヘッドランプ:万一の日没後の行動やビバークに備える。⑧アバランチビーコン。⑨ダウンなどの防寒具:休憩時だけでなく、滑走時の視界回復待ちにも必須。⑩サングラス:偏光や調光機能のほかUVカット機能も必須。⑪バックパック:1Dayツアー参加の場合は25 ~ 30ℓほど。⑫ゴーグル:地形が判断しやすい偏光やハイコントラストタイプを。予備もかならず持つ
★ … レンタルを実施しているツアーもあり

BC入門向けの最初のスキー板としては、しなやかなフレックスと軽さを備え、ゲレンデでもパウダーでも幅広く対応する、ツインロッカー形状のものがオススメだそう(写真のモデルはヴェクターグライド「MAKE BC」)。

Know the BC ②
■なぜスキーで斜面を登れるのか?
その秘密は「クライミングスキン(シール)」と呼ばれる毛の生えたシートにある。毛が斜面に対して逆向きに生えていて、板の裏に貼り付けることで登るときは雪を噛み、下ろうとする滑りを止めてくれる。シートの裏面の粘着剤(グルー)で板に密着させて使う。




ビンディングは一時的につま先だけを固定できるテックビンディング、ブーツは足首を動かせる「ウォークモード付き」を選ぶことによって、スキーを履いたまま快適に登れる。滑走時は通常モードに切り替えて使う。

スノーボーダーに人気上昇中の「スプリットボード」は、登りでは板を左右に分けてスキーのように歩け、滑走時は結合してボードになる。板を背負わず、ラクに距離を歩ける。
Know the BC ③
■バックカントリーツアーの安心感
ガイドは熟知したフィールドからその日もっとも条件のよいポイントを選び、行動中も雪質や斜面状況についてを随時共有してくれる。参加者は滑ることに集中できるのがツアー参加の最大の魅力だ。道具の選び方や使い方も参考になる場面が多く、利用するメリットは特大!

Know the BC ④
■スノーボード/テレマークスキーの魅力
カカトを固定しない「ヒールフリー」による高い機動力が山や雪原の移動に適している。足を前後に開いてバランスを取る独特なターンに中毒性のある楽しさを見いだす人が多い。

一枚の板で雪を捉えるスノーボードは浮力が高く、厳冬期の深雪に負けない自由な動きが快感。沢のような湾曲した地形を生かしたライン取りも得意で、自然地形を楽しく遊べるのも魅力だ。

※この記事はPEAKS[2026年1月号 No.176]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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