
変わらないものと変わりゆくもの。現代の消費社会に思うこと|筆とまなざし#466
成瀬洋平
- 2025年12月24日
1年半ぶりにパタゴニア名古屋店へ
秋晴れの続く季節は終わり、冬のどんよりとした鉛色の雲が垂れ込む日が多くなった。もう年の瀬である。
週末に予定していたクライミング講習の仕事は雨で中止となったため、しばらくぶりに名古屋の街へ出かけた。ショルダーベルトの付け根がほつれてきたバックパックを修理に出すため、パタゴニア名古屋ストアに行きたかったのである。
パタゴニアのアセンジョニスト55Lを使い始めてちょうど2年になる。購入してからは講習でも自分のクライミングでも使っていて、少なくとも週に2日、多いときには週7という使用頻度である。カムを満載したバックパックは縦走装備よりもはるかに重い。これだけ酷使していれば、ほつれてくるのも止むなしだと思える。ほかには別段トラブルはなく、生地の破れもまったくない。強いていえば色がだいぶ褪せてきたくらいである。
名古屋へ行くのはいつぶりだろう? ああ、そうだ。足の治療が終わったその足でパタゴニアストアに顔を出したから、ちょうど1年半ぶりである。お店の開店時間に合わせて向かい、友人スタッフにバックパックとついでにフリースの修理を依頼。年末年始用に日本酒「やまもり」と「繁土」を購入し、近況を話し合って店を出た。
コンパルのカツサンド
せっかく都会に来たので登山用品店めぐりをし、昼食に老舗喫茶店コンパルへ立ち寄った。コンパルにはちょっとした思い入れがある。子どものころ、家族で名古屋へ出かけた際に度々立ち寄るお店で、プリンのついた「ワイワイカーニバル」や「カツサンド」が好きだった。「コンパルのカツサンド」。この言葉は成瀬家の人間にはちょっとしたノスタルジーを感じさせるのだ。
迷いなくポークカツサンドとアイスコーヒー(街歩きは暖房の効いた場所が多くて汗をかく)を注文する。父曰く「コンパルのコーヒーはカチッとしている」。名古屋の喫茶店のコーヒーは濃いめなのが特徴で、コンパルはその典型。アイスコーヒーはさらに濃いめに淹れられた熱々のコーヒーを自分で氷に注ぐもので、老舗喫茶店のこだわりを感じさせた。甘辛ソースとたっぷりのキャベツ、焼き目のついたパン、そしてジューシーなカツ。10年以上ぶり?で食べたカツサンドは、記憶の味そのままであった。
現代の消費社会に思うこと
腹ごしらえをして向かったのはヨドバシカメラ。来年の旅にはカメラもぜひ持っていきたいと思っていて、タイミングを見つけては大型カメラ店でミラーレス一眼を物色しているのである。カメラの話はまた別の機会に譲ることにして、最後にパルコにある画材屋・世界堂へ。年末の土曜日ということもあってか、パルコは若者でごった返していた。ものすごくひさしぶりに訪れたのだが、客層と並んだ商品を見て、自分も年をとったなぁと、これまではなかった世代差を感じずにはいられなかった。
スケッチブックと新しい色の絵具をいくつか買った。いつもオンライン通販ばかりなので、こうして実際に手に取ってみると新しい発見があっておもしろい。それにしても日本で販売されている絵具は安くて助かる。国産メーカーのホルベインは1本400円ほどだし、英国ウィンザー&ニュートンだって700円〜1000円(それでも20年前と比べたら倍)。バンクーバーで買ったものが3000円近いから(容量はホルベインの2倍だが)、メーカーによる価格差や為替レートを加味しても物価の違いは歴然である。国内で物価高が叫ばれているが、こんなにも物価が安い国はなかなかない。
ひさしぶりに都会を訪れて感じたのは、消費物があまりに多いことである。溢れんばかりの商品も、数年後にはゴミとして捨てられる運命にある。そんなものが毎日大量に生産され消費されているのかと思うと、人類滅亡の日も近いと思わずにはいられない。人間とは本当に罪な生きものである。自戒を込めて。修理から返ってきたバックパックはできるだけ長く使おう。そう心に決めたのだった。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。

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