
地域の公民館で開催する展覧会準備のためにアトリエ小屋へ|筆とまなざし#452
成瀬洋平
- 2026年02月11日
雪の降ったあとに残る生きものの気配
まとまった雪が降った朝、アトリエ小屋に向かう小径には先行者の足跡が付いていた。少し開いた2本の足と横に並んだ2本の足は、ウサギではなくリスだろう。もうひとつはイヌのような足跡である。そういえば、子どものころはよく見かけた野良犬だが最近はすっかり見かけなくなった。ああ、そうかと思った。昨夜、小屋の近くでタヌキを見かけたのだった。
10年近く前、小屋の近くに頻繁に姿を現すタヌキがいた。みんなで「タヌキのタンタン」と名前を付けた。タンタンはもうこの世にはいないだろう。けれど、その後も度々タヌキは現れることがあって、勝手にタンタンの子どもだろうと思っていた。ひさしぶりに昨夜出会ったタヌキはタンタンの孫だろうか。いまもタンタン一族がこの土地に暮らしているのが嬉しくなった。
昼をすぎると雪は見る見る溶け始め、足跡の窪みには落ち葉が顔を出した。足型もすっかり朧げになり、昨夜のできごとが夢のように思えてくる。太陽の暖かさで消えてゆく足跡を眺めながら、猛スピードで変化する人の世とは別の時間がすぐ隣にあるという当たり前のことに、どこか心の安らぎを覚えるのだった。
タイトルは「旅の風景」。地域の人たちに親しみやすい展示にしたい
アトリエに向かったのは、今週土曜日から地域の公民館で始まる展覧会の準備をするためだった。展示する絵を選び、額装する。キャプションに使える材料がどれだけ残っているかを確認する。
さて、今回の展示ではどんな絵を飾ろう。地元の絵が良いだろうか。展覧会の最終日、3月8日には講演会があり、ぼくがどのようにしていまの仕事を始め、続けてきたかということをお話しする予定だ。それならば、地元の絵よりもこれまであちこち旅して描いた絵のほうが良さそうだ。タイトルはシンプルに「旅の風景」にしよう。遠い異国の風景だけれど、地域のおじいちゃんおばあちゃん、子どもたちにも親しみやすい展示にしたい。
登山を意識したのは中学生のころ。絵や文章を描いて生きていきたいと思ったのは高校生のときである。そんな年ごろの子どもたちになにか小さなきっかけになることができればと思っている。講演当日には水彩画教室も企画している。地域の公民館でこうした催しを行なわせていただけることに、嬉しさとともに温かさを感じる。
講演、水彩画教室ともに、市外の方でも参加できるので、ご興味のある方はぜひお越しいただければ嬉しい。
詳しくはこちらをご覧ください。→https://www.city.nakatsugawa.lg.jp/soshikikarasagasu/agi/info/37574.html
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。

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