
会津駒ヶ岳のあたたかな夜と朝|まだ知らない尾瀬ストーリー#26
HagiwaraMai
- 2026年10月23日
“尾瀬”と聞くと思い描く景色はどんなものでしょうか?
「湿原と山と木道」という景色を思い浮かべる方が多いかもしれません。尾瀬はその景色があまりにも有名で、その成り立ちや歴史、その周辺地域のこと、そこに関わる人々のことはほとんど知られていません。じつは尾瀬には感動的なストーリーがいくつもあるのです。
尾瀬をこよなく愛するOze Nature Interpreterの私が、尾瀬のさまざまなストーリーをお届けします!
駒の小屋にファンが多い理由
前回の記事では会津駒ヶ岳の登山口〜中門岳のようすを。そして今回は、その会津駒ヶ岳にある「駒の小屋」ですごした夜と朝についてご紹介。
会津駒ヶ岳には、駒の小屋という宿泊可能な有人の小屋がある。この小屋は尾瀬国立公園の中で唯一、山の頂上付近にある有人小屋で、ファンが多い。夕食や朝食は自分自身で作る自炊小屋なのだが、みんなが通いたくなるその理由は、ここで一夜をすごし、みんなで朝を迎えるとよく理解できる。

仲間の作ってくれたおやつをものの数分でたいらげ、仲間と山小屋のご主人と常連さんと会話する。そうしていると、徐々に陽が傾き、それぞれの顔が傾いた陽の光で照らされる。

こうしてゆっくり太陽の傾きを意識しながら、仲間とご主人と今日初めて会った人と一緒に話すという、こんな穏やかな時間をすごしたのはもう、何カ月ぶりだろう……。いつもやることに追われて、「あぁ陽が沈むなぁ」とゆっくり感じる時間なんて、取れない人も多いかもしれない。けれど、山にいると不思議と、太陽の動きをみんなで意識する。

陽が傾いて辺りの景色がオレンジ色になっていることに気がつくと、気温も下がり始めてきていた。おやつをたいらげたばかりだけれど(笑)夕食の準備を、と思い自炊場に行くと、すでに仲間のひとりが食事の準備を進めてくれていた。本当に、感謝しかない。そして、その仲間の周りには今日この小屋で寝泊まりをともにする、宿泊のお客さんたちが集まり始めていた。賑やかな、小屋の夜が始まる。

この駒の小屋は相部屋での宿泊となる。今日は同室の女性が私を含めて8名。先ほど受付を済ませて部屋に入ったときに、すでに顔を合わせていた人たちが自炊場にもちらほら。自然と会話が始まる。

「今日は〜から登ってきました」「◯◯県から来てて」「駒の小屋は今年で◯回目です」など、山と尾瀬と会津駒と、駒の小屋好きたちの会話でみんなすっかり盛り上がる。

気がつくと窓の外は真っ暗になっていた。「そろそろ消灯の時間ですので〜」とご主人が自炊場に呼びかける。時計は20時近くを指していて、そろそろ歯を磨いて寝る準備を、と思って小屋の外に出ると雲間から星が広がっているのが見えた。
「わぁ!きれい……」
みんなそれを見て、歯磨きをさっさと済ませ、写真撮影の時間に。常連さんの撮った写真を見せてもらって、おなじ写真が撮れないかと挑戦したり、雲が晴れるのを待ってみたり、最近の携帯電話のカメラの性能にみんなで感動したり。

そうこうしていると、月が自分たちのいる山の下のほうから昇ってきた。なんて神秘的な夜なんだろう……。仲間のひとりが「生きていると、こんなにいいことがあるんだねぇ」と呟いた。その言葉を、いまでも忘れることができない。

ずーっと見ていられそう。だけど体が冷え切ってしまう前に、布団にくるまって休むことにする。明日は、どんな奇跡の景色を見せてくれるだろうか。
朝、目が覚めて、部屋の窓から青とオレンジ色の空が広がっているのが見えた。これは、きっとすばらしい朝になる。そう思って準備をして外に出ると、なんと霧が辺りを覆っていた。

「あぁ〜、さっきすごくキレイだったのに!」と、みんなのあいだで残念な空気が広がる。霧が晴れるのを待つあいだ、みんなは自炊場で朝食の準備を始めた。私はというと、仲間のひとりが朝食の準備をしてくれていることに甘えて、霧がいつ晴れるかと、外と自炊場を行ったり来たり。朝食には、なんと豚汁と栗ご飯を作ってくれるという。こんなに至れり尽くせりでいいのだろうか……。



何度言ったかわからない「ありがとう」を言いながら、朝ごはんができあがるのを待っていると、霧が晴れ始めた。駒の大池に会津駒が映る。至仏山や燧ヶ岳が見え始め、眼下には雲海が広がっていた。「わぁ〜、晴れたぁー!」と、小屋にいたみんなも外に出てくる。また写真撮影タイムが始まった。



目で見たままが一番美しいのを思い知らされるのは、こんなすばらしい景色が見られたとき。何枚写真を撮っても、なんか違う。でも、この瞬間を覚えておくために、できるだけたくさん写真を撮っておく。

ひととおり写真を撮り終えて、仲間が作ってくれていた朝食を、ありがたくいただく。そうしていると「富士山が見えたよ!」と、自炊場の引き戸を開けて報告があった。これは見に行くしかない!と、豚汁をひと口すすって急ぐ。

なんと富士山がきれいに見られるのは、トイレの一番奥の窓だという。「今日は忙しいなぁ〜」と、うれしい悲鳴を上げながら、窓から外を見ると、くっきりと富士山が見えた。またまた写真を撮る。うしろから「見えました?」と声をかけられた。みんな、富士山を見たいのだ。今日の富士山を見るための特等席である、駒の小屋のうしろに建つトイレの窓を譲って、また朝食をいただく。

なんてすばらしい、駒の小屋でのできごとだったんだろう。きっと、この2日間のことはこれからもずっと忘れないな、と思いながらおいしい朝食を完食。荷物をまとめ、玄関に行くとお土産を選ぶ人たちが。そう、駒の小屋はオリジナルのグッズもすてきで、どれを思い出の一品に選ぶのか悩んでしまう。

今回私が選んだのは、ホシガラズが描かれた手ぬぐいと風呂敷。ずっとほしかった駒の小屋グッズだったので、手に入れることができて、とてもうれしい。

こうして2日間を振り返ってみると、会津駒の山頂に行かずに駒の小屋に行く、という人たちがいる理由がわかる。この小屋の魅力は、小屋のご主人たちはもちろん、この小屋に集まった人たちと共有する時間にあるのだと思う。景色も現象も、とてもすばらしい。でも結局、偶然この日を選び、ここに集い、会話した人たちとのあたたかな夜と朝のあの時間を知ってしまったから。だから、必ずまた行こう、と思わせるのだと思う。

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PROFILE
ランドネ / Oze Nature Interpreter
HagiwaraMai
尾瀬高校自然環境科の卒業生であり、尾瀬のビジターセンターや山小屋、ガイド団体で働いた経歴をもつ。現在は、尾瀬をこよなく愛するOze Nature Interpreterとして尾瀬とその周辺地域の知られざるストーリーを伝える活動をしている。
尾瀬高校自然環境科の卒業生であり、尾瀬のビジターセンターや山小屋、ガイド団体で働いた経歴をもつ。現在は、尾瀬をこよなく愛するOze Nature Interpreterとして尾瀬とその周辺地域の知られざるストーリーを伝える活動をしている。
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