
大会屈指の大スケール!「鳥海山 SEA TO SUMMIT 2025」大会に参戦!大会出場レポート

PEAKS 編集部
- 2025年09月18日
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2025年8月23・24日に開催されたアウトドアブランド・モンベル特別協賛の「鳥海山SEA TO SUMMIT 2025」大会。本会場エリアにルーツをもつライター・阿部と、新潟県佐渡島在住のアメリカ人・アリサがPEAKSチームとして参戦。本シリーズ屈指のスケールと過酷さを誇る大会だが、果たして完走できるのか……? 全身全霊をかけた大会出場レポートをお届け!
文◉阿部 静
写真◉宇佐美博之
最大標高差2,160m。日本海から鳥海山山頂へと登り詰める、本シリーズでもっとも過酷な大会へ挑む
2011年から始まり開催13回目となる「鳥海山シートゥーサミット」大会。海抜0mの日本海からスタートし、鳥海山山頂付近の大物忌神社がゴールとなる本大会の高低差は、なんと2,160m。本シリーズ屈指のスケールを誇り、もっとも過酷だといわれている。
なかでも「里のステージ」であるバイクセクションは地図を見るかぎりもっとも過酷だ。海岸から鳥海山登山口までの約21㎞を自転車で登るわけだが、そのコースの9割がた登りと見受けられる。果たして漕ぎきれるのだろうか……。延々と続くヒルクライムを想像しただけでゾッとする。しかし「鳥海山・飛鳥ジオパーク」に指定される美しい日本海をカヤックで漕ぎ、その海岸線から延びる鳥海山までのロードを人力でつなぎ、名峰・鳥海山の頂に立つ行程には、ただならぬロマンを感じる。そこにはダイナミックなフィールドを3つのアクティビティでつなぐ魅力があり、過酷だからこそ自然への没入感と達成感もひとしおだと思うのだ。
また、父の故郷が山形県酒田市であり、祖父の故郷が秋田県にかほ市であることから、子どものころ訪れていた懐かしい地域でもある。そんな個人的なルーツも相まって、ゆかりのある日本海と鳥海山を自分の足でつないでみたいという、私の内なる想いは高まっていた。
開会式で参加者の士気が一気に高まる
大会はアクティビティを行なう前日から始まる。私たちは8月23日に開催される開会式に参加すべく、前日の夜から出発した。東京圏から鳥海山へ向かうには、なかなか遠いのだ。
大会受付を済ませ、開会式会場の「鳥海温泉 湯楽里」へ。スタートから熱気に満ちていた。モンベルグループ代表・辰野勇さんによる気合の入った掛け声に合わせてこぶしを突き上げる参加者一同。一気に士気が高まる。イベントを作り上げる関係者と参加者による”シートゥーサミット愛”、そこから醸し出されるアットホームな空気が伝わってくる。開催13回目となる歴史ある大会だからこそなのかもしれないが、モンベル関係者や地域の人、地元の参加者や遠方から毎年のようにやってくる参加者など、それぞれがこの大会に思い入れがあるのだと感じる。またモンベルが今年50周年を迎え、記念すべき年を祝うべく、いつも以上に会場が華やいでいたのかもしれない。しかしながら、このイベントは開会式から参加してこそ十二分に楽しめるのだと思う。
鳥海山をとりまく自然とジオパークについて考える環境シンポジウム
開会式に続き、環境シンポジウムが開催された。テーマは「日本海と大地がつくる水と命の循環~鳥海山はジオパーク~」。講演してくれたのは大野希一さん。多くの火山噴火の調査研究に携わり、現在は鳥海山・
ジオパークとは「ジオ=大地」の「パーク=公園」であり、自然のダイナミズムなど価値ある地形や地質遺産を保護し、観光資源として地域の新たなかたちづくりを目指し、次世代につないでいけるようにサステナブルに活用していくことを目的としている。鳥海山とそれを取り巻く自然もジオパークであり、地質学的な角度から見る鳥海山の魅力や、翌日大会の最中見られるであろう地形や植物の話など、大野さんが教えてくれた一歩踏み込んだ自然の魅力にそそられる。翌日実際にその地を自分の足で歩き、自分の目でたしかめられるのだ。よりいっそう大会が楽しみで仕方なくなってしまった。
作家・極地旅行家の角幡唯介さんの特別講演も行なわれた。『空白の五マイル』や『極夜行』など、数々の文学賞を受賞したノンフィクション作品が有名でアウトドア好きにファンが多いが、私もそのひとりだ。今回の講演テーマは「犬橇による旅と狩猟」ということで、まさに興味のある内容であることから、かなり楽しみにしていた。今回の参加者の多くもそうであったに違いない。
話の主題は角幡さんのグリーンランドでの犬橇旅での狩猟の話だが、すべてが興味深かった。エスキモーの犬橇狩猟をやる人口は年々減るいっぽうで、文化として途絶えようとしているようだ。角幡さんは文化を途絶えさせないために、その使命感を感じてやっていると語っていた。また、とても印象的だったのがジャコウウシの憤死の話。殺された仲間を前に憤死してしまったという。大義名分のもと狩猟をしているが、魂が揺さぶられ、その大義名分が吹き飛んでしまう瞬間だったと話す。それでも厳しい自然のなかで犬たちと旅をし、狩猟をする意味について。五感を揺さぶられ、考えさせられる時間だった。
日本海が目の前に広がる! モンベルにかほ店に行ってみた
講演会のあとはモンベルにかほ店へ。会場から車で20分ほど北上したところにあり、店の前に海が広がるすばらしいロケーションと聞いていたので訪れてみたかったのだ。
「NIKAHO OUTDOOR BASE」というアウトドア拠点施設のなかに昨年6月にオープンした真新しい店舗。2階建ての店内は広々としていて、なんとクライミングウォールまである。建物の外観もステキで、外観とともに海に沈む夕陽を眺めることができた。
翌日のアクティビティに意気込んで、大会Tシャツをばっちり着用し、水平線へと沈んでゆく夕陽を眺める。最近は山の上での夕陽ばかりだったけれど、やっぱり日本海に沈む夕陽も格別だ。
スタートは西浜海岸。いよいよアクティビティ開始!
8月24日の朝5時。スタート地点である西浜海岸に集合し、スタート式が行なわれた。まずは辰野勇代表による勢いのある大会開始の挨拶から。眠気眼も一気に覚めて全身に緊張感と気合が駆けめぐる。
選手宣誓の役を仰せつかった我らがPEAKSチーム。辰野代表の勢いをそのまま受け取り、気合を入れて選手宣誓!
そして、スタート! この大会はレースではないので順位を競わない。なので“走らない”が鉄則。呼ばれたチームから順番に出発し「海のステージ」へ。かわいらしく装備を整えた秋田犬くんも飼い主さんといっしょに参戦しているもよう。チームメンバーの人数に決まりもなく犬もOK。自由にアクティビティを楽しめるのが、この大会の魅力のひとつだ。
「海のステージ」で日本海を思いきり漕ぎ遊ぶ!
「海のステージ」であるパドルスポーツからシートゥーサミットは始まる。これぞシートゥーサミットの魅力! パドルスポーツとバイク、登山をかけ合わせたイベントなんて、ほかにはあまり存在しない。しかもカヤックだけじゃなくSUPもOKという自由度の高さ。パドルスポーツを愛する人にとって、こんなにステキな大会はなかなかないだろう。ふだんは登山雑誌に携わる私も、じつはパドルスポーツが大好きで、海から山まで余すことなく楽しめるこの大会が本当にステキだと思っている。パートナーとして来てくれたアリサも自艇をもつほどのカヤック好きで、ふたりしてもっと大海原に漕ぎだしたい気持ちを抑えつつ、うしろ髪ひかれながらも「里のステージ」へと向かった。
なんと辰野代表自ら大会に参戦! あらゆるアクティビティアイテムを網羅するモンベルの代表者なだけあり、シーカヤックを漕ぐ姿にも貫禄がみられる。
特別講演で登壇した角幡唯介さんもソロで参戦! 力強く漕ぐパドルフォームが美しい。さすが海から山まで、あらゆる環境を旅してきた極地旅行家だ。
「里のステージ」は自転車で約21㎞。鳥海山登山口までのロードを走る!
シーカヤックからロードバイクに乗り換えて「里のステージ」へ。このステージが今回もっとも長く、約21㎞もある。しかも、ほぼ登り坂だ。序盤は気持ちよく走り出し、いい笑顔をしているが、果たしていつまでもつのだろうか……。
この大会はバイクのセクションもパドルと同様、自転車であればロードでもマウンテンでもグラベルでも、なんでもOK。しかもE-バイクもアリなのだ。自転車が得意な人やE-バイクの人に抜かされたりするが、声をかけてくれたり、声援を送ってくれたり、みなさんとってもやさしい。声をかけてくれると、こちらも声援を送り返したくなるし、おたがい笑顔になり、元気になれる。バイクセクションはもっともつらいけど、つらいからこそ参加者とコミュニケーションを取りながらがんばろうと思えるパートかもしれない。
角幡さんも笑顔でカメラに手を振ってくれた! 通りすぎる参加者それぞれが、いいカメラ目線をくださいました。みなさん、意外と余裕な感じ……!?
パートナーのアリサはふだんからロードバイクのレースにも出るほどのロードバイク好きで坂道でも余裕の安定走行。私はというとアドベンチャーレースでマウンテンバイクに乗るぐらいなのでロードバイクにも坂道にも不慣れ。アリサに付いていくだけでも必死だ。ギリギリ笑顔を保っているが、すでにけっこうバテている(笑)。
中間地点のチェックポイント「駒止」で小休止。掛水を頭や首、腕にかけてクールダウン。身体中が火照っているため水が本当に気持ちよく、つかの間のオアシスだ。
標高550mまで上がってきた。ここまできて、やっと半分。思いきり疲れ果てた顔をしているが、まだまだ終わらない。むしろ、ここから先がもっとつらいのである。つづら折りの坂道を、あと500mも登らなければならないのだ。
私の表情で一目瞭然だろうが、もうヘトヘトだ。しかし走らなければ登山口にはたどり着かない。おたがいに励まし合い、気合を入れなおして再スタートだ。
長くてつらい坂道を登り続け、ようやく下り坂になったときの爽快感はたまらない。風が汗をさらい、火照った身体を冷やしてくれる。里のステージもあとわずか。ラストスパートを颯爽と駆け抜ける。
チェックポイントである鉾立駐車場でバイクから登山装備にチェンジ。「山のステージ」に入る前にちょっと休憩。水を飲み、しっかりと行動食を食べておこう。
名峰・鳥海山へと登る「山のステージ」
「山のステージ」は鳥海山登山口へとつながる鉾立駐車場からはじまる。バイクで走り疲れた身体を癒しつつ、山の散策を楽しみながらも、一応制限時間も設定されているのであんまりのんびりはしていられない。気を引き締めつつもハイクを存分に楽しもう。
登山の途中でめずらしい鳥を見かけた。アオバトだ。若草色が美しいハトの仲間で森林や海岸近くで見かけることができる。しかし個体数が減ってきている鳥なのでなかなかお目にかかれない。貴重な鳥だ。
また登山道沿いにはチョウカイアザミがたくさん咲いていた。鳥海山特産の高山植物で、ここでしか見ることができない貴重な植物だ。一般的なアザミより赤色が強い紅紫色で、ぽってりとした頭を垂れ下げている。前日のシンポジウムで大野さんが教えてくれた鳥海山にしかない植物のひとつで、ぜひ見てみたいと思っていた。ほかにもチョウカイフスマなどの固有種も探したが、時期がズレているのか今回は見ることはかなわなかった。
雄大な景色が広がる愛宕坂を下る。花の時期には登山道の両脇が花畑になる美しいスポットだ。今回はチングルマやウメバチソウなどの高山植物は終わりかけていてガスがかかっていたので少々残念ではあったが、石段が続く、とても気持ちのいいトレイルだ。
愛宕坂を登り返し御浜小屋へと向かう途中、モンベルスタッフのおふたりといっしょになった。前日に訪れた、にかほ店と、よくお世話になる南町田のグランベリーパーク店の方だった。モンベルのスタッフさんたちは遠く離れた他店舗同士で仲がいい。和気あいあいと会話しながら、つかぬ間いっしょに歩かせてもらった。
御浜小屋を越えたあたり。ルート上に雪渓が残る箇所もあり、滑らないように慎重に歩く。さすが東北の山、鳥海山。8月後半でも雪渓がたくさん残っているのだ。登山道からはさまざまに雪形が残る景色が眺められ、美しい。
雪渓の隙間から顔を覗かせたのは、登山者のアイドル、オコジョ。好奇心旺盛な性格で、見つめる登山者に興味津々。雪渓から出たり入ったり、ちょろちょろと動き回りながら何度も姿を見せてくれた。
ガスがかっていた空が少しずつ抜けはじめ、やっと山が見えた。私たちが目指す鳥海山山頂だ。柔らかく雄大な山容が美しい。しかし、なかなかの登りである。目指すべき山頂が明確になったが、まだまだ続く登り坂も明るみになった。嬉しさ半分、つらさ半分。最後までがんばろう。
ガスがかかったり抜けたりを繰り返すなか、私たちはひたすら登る。すでに山頂に到達して折り返す人や一般登山者のみなさんからもすれ違いざまにエールをもらう。その声援に元気が出る。
ラストスパートの登り坂にさしかかる。ゴールは目前だ。
そして山頂御本社の前にて、ふたりそろってフィニッシュ! 朝5時半からスタートし、総距離32㎞をすべて人力でつなぎ約6時間後に無事完走できた。達成感でいっぱいだ。
雄大な自然のなかで思いきり遊べたという満足感と、チャレンジすることで自分を奮い立たせ、達成することで自身の体力や技術面、自然への対応力の自信が得られる。これがシートゥーサミットの最大の魅力だと思う。もしかしたら新たなアクティビティを始めるきっかけにもなるかもしれない。かくいう私も7年前に参加したシートゥーサミットがきっかけでシーカヤックが好きになり、アドベンチャーレースに興味をもったのだから。
今回は大好きな日本海と鳥海山をつなぐことができて達成感を得られ、私なりに新たな気づきもあった。本シリーズに初めて参加したパートナーのアリサも、海・里・山をつないで丸ごと楽しめるこの大会のおもしろさを感じてくれたようだ。
まだ参加したことがない人は、ぜひ参加してみてほしい。参加することで新しいアウトドアの扉が開かれるかもしれない。
閉会式こそシートゥーサミットの醍醐味!?
レース後には閉会式が行なわれ、大抽選会が開催される。シートゥーサミットは順位もなにもない大会なので、みんな平等。がんばった参加者全員にチャンスがあるのだ。今回私たちは時間の関係で参加できなかったが閉会式まで参加することこそ醍醐味だ。次回こそは参加したい!
抽選会では豪華景品が当たるチャンスも。「日本航空賞」として国内往復航空券が当たったり、「ゴアテックス賞」としてモンベルのゴアテックス製品であるテンペストジャケットがもらえるなど、当たればかなりラッキー。そのほか協賛団体より提供のアイテムが当たるチャンスがあるので閉会式は大盛り上がりだ。
2日間、大いに楽しめた「鳥海山シートゥーサミット2025」大会。それぞれの達成感と充実感、来年への課題を胸に無事閉幕した。また来年も海・里・山をつなぐフィールドを駆けめぐろう!
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PROFILE

PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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