
【スペシャルインタビュー】星野リゾート代表・星野佳路|テーマは「インバウンドは私たちになにをもたらすのか」
PEAKS 編集部
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テーマはずばり、「インバウンドは私たちになにをもたらすのか」。
コロナ禍以前を上回ったといわれる訪日外国人の急増を、私たちはどう捉え、どう考えるべきなのか。
それを確かめるうえでの適任者に、忌憚のない質問をぶつけてみた。
編集◉PEAKS編集部
文◉寺倉 力
写真◉原田賢能
星野佳路さんは、国内外で70を超えるホテルやリゾートを運営する企業のトップであり、おまけに日本経済の一翼を担う観光業界のオピニオンリーダーとして、各方面から引く手あまたな方。それでも、自他共に認める根っからのスキー好きで、スキーに関する取材となれば、いつでも快く応じてくれる。多忙なスケジュールの合間を縫って颯爽とスキー場に現れ、ひとしきり滑っては、また次の予定へと移動していく。どんな天気でも楽しそうに滑る星野さんのバイブスが伝わってくるようで、気づけば「今日もいい一日だった」と思えてくるから不思議だ。
そんな星野さんの取材は2月末の北海道「星野リゾート トマム」で行なわれた。今回、星野さんに伺いたかったのは、ずばり「インバウンドは私たちになにをもたらすのか」についてだ。すでにコロナ禍以前を上回ったといわれる訪日外国人の急増を、私たちはどう捉え、どう考えるべきなのか。ニセコや富士山の例を挙げるまでもなく、インバウンドに対してはネガティブな意見も少なくない。だが本当にそうなのだろうか。その真偽を確かめるうえで、星野さんほどの適任者はいない。
ニセコはバブルの可能性が高いと思います。’80年代のリゾートブームと同じです。
ーーインバウンドの増加は、私たちになにをもたらしますか?
星野:スキーに関していえば、一番のメリットは、外国からのお客様が増えることで利益が増加し、設備投資できる体力がつくことです。わかりやすい例を挙げれば、世界のスキー場の設備は年々進化していて、10人乗りのゴンドラや、ヒーター付きのクワッドリフトなどは、いまや当たり前。その点、日本のスキー場は、設備面で圧倒的な差をつけられてしまっているのが現状なんです。
ーーインバウンドで賑わうスキー場では設備投資が話題ですね。
星野:そうなんです。大きなスキー場では相次いで最新型の索道設備への架け替えが始まり、今後も多く計画されています。その原資はインバウンド需要からきています。もちろん、これまでどおり日本人のお客様による需要も大事ですが、インバウンドがなければ、こうした大型投資は実現しなかったでしょう。そのおかげで、私たち日本人も新しく快適になったゴンドラや暖かなクワッドリフトに乗って、スキーやスノーボードを楽しめるようになってくるのです。
ーーその一方で、いまだに30年前のクワッドリフトが故障を繰り返しているスキー場もあります。
星野:そうですね。インバウンドが来ているスキー場と、そうでないスキー場の間で、業績の格差が広がっている。それが、いまの日本の現状だと思います。
ーー全体的な傾向としては、スキーとスノーボードの人気は依然として低迷しているのでしょうか?
星野:昨年、実態調査を行なったのですが、日本人のスキー・スノーボード人口は、下げ止まったままの状態です。若い世代の人口が減っていますし、費用のかかるスポーツに対する心理的な抵抗感も感じられました。それに比べて、インバウンドの増加は目立ちますよね。日本の雪が世界中で注目されているのは事実なんです。とはいえ、日本にはまだまだ多くのスキー場があり、そこにはすばらしい雪があることを知らない人が多い。そのため、どうしてもニセコや白馬といったブランドスキー場に人気が集中してしまうんです。
ーーニセコのブームはまだまだ続くということですね。
星野:ただ、ニセコにしても白馬にしても、夏が課題なんです。リゾートというのは通年稼働してこそ、本当の意味で定住人口や雇用を創出できるし、そこで働く人たちの年収も確保できます。だから、ニセコはビジネスモデル的にいえば「リゾート業」ではなく、「不動産開発と売却」に近いです。別荘やコンドミニアムを建てて売る。つまり、夏にお客さんが来なくてもかまわない。
ーーどこかで聞いたような話です。
星野: ’80年代バブル期のリゾートマンションブームと同じです。僕はいまのニセコの状況は、不動産投資バブルである可能性が高いと見ています。自分で使うために買うのならば良いのです。でも、「使わないけれど値上がりするから買う」という投機目的だとどこかで限界がきます。みんな、いつか売り抜けることを前提に買っている。ババ抜きのようなもので、最後にだれかがババを引くことになる可能性があります。
ーーこれは星野さんに訊きにくい質問ですが、なぜリフト券は年々値上がりしているのでしょうか?
星野:それは単純に、需要と供給の関係です。べつに、スキー場の体験価値が上がったわけではないのですが、値段を上げてもお客様が来るからです。
ーー資材や燃料・電気代などの高騰は関係ありますか?
星野:まったく関係ないです。それで値上げできるくらいなら、とっくの昔に上げています。需要がついてこなければ、コストがどんなに高くなっても値段は上げられません。それによってお客様が減ってしまったら、意味がないですから。つまり、値上げしても来場者数が維持できるときに値上げすることができるのです。
ーーなるほど。
星野:それに関して、ひとつお伝えしたい話があります。たとえば、アメリカの人気スキーリゾートでは、ハイシーズンの1日券が300ドル近くしますが、同じエリアのローカルなスキー場なら70ドル前後で滑れるんです。だから地元の人や子どもたちはそちらに滑りに行く。ニセコのリフト券が高くなれば、地元の人たちを中心に運営しているスキー場にとっては、むしろ集客を伸ばすチャンスが生まれます。日本には400を超えるスキー場がありますが、それぞれ違ったビジネスモデルの可能性が出てきます。
ーーインバウンド向け価格とは別に、安価な地元価格を設定してほしいという声もよく聞きます。
星野:たとえば、シーズン券や25時間券などが、まさに地元向けの価格帯ですね。海外から来る人の多くは1、2週間の滞在ですから、その期間では割に合わない価格にしておけば、自然とインバウンド客は買いません。
ーー長く通う人ほど安くする、という考え方ですね。
星野:そうです。地元の住民でなくても、たとえ外国人であっても、その地域に部屋を借りて「この冬は3カ月滞在する」という人がいれば、そうしたチケットを買ってもらえばいいと思います。
ーーそのほうがフェアですね。
星野:僕は国籍や人種によってあからさまに値段を変えることには抵抗感があります。私たちが海外旅行に行って、「日本人はこの値段です」と言われたら、その国の印象が悪くなりますよね。長期的に日本のイメージを保つためにも、「外国人だから高い」という価格設定は避けたほうがいいと考えています。


インバウンド需要を分散させるためにも、日本に35ある国立公園に注目です。
ーー話は変わりますが、星野リゾートの山岳関連施設の、現在と今後の展望を教えてください。
星野:まず「OMO7旭川」では「旭川、スキー都市宣言」と題して、さまざまなサービスを展開しています。その成果がコロナ禍以降に表れ始めていて、’24-’25シーズンは好調でした。旭川全体でもっと盛り上げていく必要があると思っていて、今後は周辺のホテルも含めて内容を充実させてもらえるといいなと思っています。大雪山旭岳だけではなく、旭川エリアには多くのスキー場があるので全体で盛り上がってほしいですね。
ーーカムイなどは以前と比べて相当賑わっているようですね。
星野:混雑して不便を感じることもあるかもしれませんが、集客が増えれば設備投資ができますから。そうなれば、輸送キャパも増え、また快適な環境に生まれ変わっていくはずです。スキー場は、課題が顕在化すると投資できる環境が整い進化につながります。
ーーふたつのスキー場がつながったネコママウンテンは?
星野:アルツ磐梯スキー場と猫魔スキー場を連結させるプロジェクトには多くの時間がかかりました。でも、時間をかけたおかげで、周辺の自治体や事業者のみなさんとの協力関係が強くなっています。いまは、磐梯町、北塩原村、会津若松市、喜多方市と協力し合って、年間を通して観光需要を上げていく活動を始めています。たとえば、北海道との違いは、やはり日本文化なんです。いい日本酒があって、会津若松のお城があって、サムライ文化があり、日本三大ラーメンのひとつがある。これらを「会津ブランド」の体験価値として、冬はスキー・スノーボードを中心に、日本文化を楽しみながら滞在していただける場所として提案しています。
ーー星野さんはいつも地域を巻き込む発展を意識されています。
星野:地域全体が良くなると、当然、私たちの業績も良くなるんですよ。いまは成長のためにはインバウンド需要が欠かせないときですから、世界に向けて情報発信をしなければなりません。国内からのお客様であれば、ひとつの施設で満足してもらえるかもしれません。でも、遠い海外から来られるお客様にとっては、「せっかくだから、周辺も楽しもう」となるわけです。だからこそ、世界に向けて情報を発信できるコンテンツを揃えていく。それには、資金もネットワークも含めて、地域全体がまとまらないと実現は難しい。これが、いま日本の観光に起きている大きな変化だと思っています。
ーー3年目に入った谷川岳の「Mt.T/谷川岳ヨッホby星野リゾート」はいかがでしょう?
星野:いま日本には、年間およそ4000万人程度の外国人観光客が訪れていますが、そのうち約80%が5つの都道府県に集中し、残りの42県が、わずか20%を分け合っている。日本政府は2030年にインバウンド数を年間6000万人にする目標を掲げていますが、このままだといま集中している場所でオーバーツーリズムの問題が悪化していきます。そこで必要なのが、観光需要の地域分散です。日本は文化観光が強いのでインバウンド需要が大都市に集中するのですが、自然観光を強めることができるとそれは地方に分散していきます。注目は、日本に35ある国立公園。谷川岳ヨッホはまさに国立公園の体験価値を高めるプロジェクトです。冬ももちろん大事ですが、夏や秋にロープウェイを活用して、山頂まで登らなくても周辺の自然を楽しめるようなルートを設定しようとしています。もうひとつ取り組んでいるのが尾瀬国立公園の山小屋を改築する「LUCY尾瀬鳩待」です。
ーーちなみに、相変わらず年間滑走日数の目標は60日ですか?
星野:いまは80日です。2024年5月にアイスランドに行きまして、そこでのスキーが本当にすばらしかった。5月にベストシーズンという場所を見つけてしまったのは、僕にとって大発見でした。これでさらに滑走日数を稼げますからね(笑)。



profile:星野佳路(ほしの・よしはる)
1960年生まれ。米国コーネル大学ホテル経営大学院で学び、現在、トマムやネコママウンテンなどのスキー場を含むリゾート施設とホテルを国内外70カ所以上で運営。生粋のスキー好きでもある。

取材協力◉星野リゾート トマム
TEL.0167-58-1111
https://www.snowtomamu.jp/
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文◉寺倉 力
写真◉原田賢能
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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