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津軽富士「お岩木様」に登拝し、海辺に湧く絶景露天へ。岩木山と日本海の夕陽に染まる「金色の湯」|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.19

温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり!下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している小誌の連載、「下山後は湯ったりと」。
『PEAKS 2026年8月号(No.179)』では、津軽の名峰、岩木山へ。下山後の“山直温泉”は、黄金崎「不老ふ死温泉」を訪ねます。

“山直温泉”の記事・情報は
『PEAKS 2026年8月号(No.179)』の
「下山後は湯ったりと」にて!

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)

青空に浮かぶ、孤高の麗峰

津軽青森の至宝、標高1,624mの岩木山。青空に凜と映える孤高のシルエット、その気高い山容は古くから文人たちをも魅了してきた。
「十二単の裾を、銀杏の葉をさかさに立てたやうにぱらりとひらいて左右の均斉(きんせい)も正しく、静かに青空に浮んでいる」
小説『津軽』で、太宰治はこの山、津軽富士を優美な女衣にたとえた。

だが、優雅さの裏には荒ぶる火山の本性を隠している。山頂部に目をやると、「岩木、鳥海(ちょうかい)、巌鬼(がんき)」3つの峻険な頂が聳え立つ。これら三峰は、火口から噴出した粘性の高いマグマが積み重なることで形成された溶岩ドーム。周囲には無数の巨礫がひしめき、爆裂火口の痕跡を随所に残す。山麓には、嶽(だけ)、百沢(ひゃくざわ)、湯段(ゆだん)など温泉地がいくつも点在し、いまなお豊かな生命力を宿す「生きた火山」であることを教えてくれる。

▲左)9合目すぎから始まる岩場の急坂。中・右)巨岩奇岩とりまく急勾配の道「御坂(みさか)」が山頂まで続く、百沢登山道。

人々と霊峰を結ぶ「お山参詣」

古来「お岩木様」と親しまれてきた岩木山は、篤い信仰の山でもある。

その象徴が、五穀豊穣や家内安全を祈願し、岩木山へ登拝する伝統行事「お山参詣」だ。
「ヤマカゲ」とも呼ばれるこの習わしは、諸説あるが、鎌倉時代初期に始まり、江戸時代中期に今日のような形になったという。江戸時代、最大の山場である8月1日の登拝は、藩主のみに許される聖域の儀式だった。時代が変わり明治になると、広く一般に開放される。
その後、1984(昭和59)年に国の重要無形民俗文化財に指定され、いまなお津軽最大の秋祭りとして人々の暮らしのなかに息づいている。

現在の行事は3日間にわたり、日ごとその表情を変える。

「お山参詣」3日間の旅路

初日「向山(むかいやま)」
岩木山神社下居宮から山頂奥宮まで徒歩で登拝していた時代から続く、参拝者が各村を出発する日。現在は、神社周辺に多くの露店が並び、行事開催報告祭のほか、民謡ステージやカラオケ選手権なども催され、大いににぎわう。

2日目「宵山(よいやま)」
白装束の参拝者が岩木山神社で登拝安全の祈願をし、お祓いを受ける。参拝者はカンナガラと呼ばれる御幣や「岩木山大神」「岩木山神社」と敬書された幟(のぼり)を掲げ、街道を練り歩く。なかでも10mを超える幟を掲げる豪快な姿に拍手喝采が沸き起こる。笛と太鼓の登山囃子が響き渡るなか、「サイギサイギ……」の掛け声が飛び交う。

最終日「朔日山(ついたちやま)」
山頂奥宮に参拝、ご来光を拝む。旧暦八月朔日(1日)に行なわれる本行事のクライマックス。核心は、後述。

▲初日の向山。岩木山を背に参拝者が列を成す。道路交通法などの事情により、現在では貴重な光景(写真提供◉岩木山観光協会)。
▲向山の夜、カラオケ選手権や民謡ステージも祭を盛り上げる(写真提供◉岩木山神社)。
▲2日目の宵山。大きな幟や御幣を抱え、岩木山神社に人々が集まる(写真提供◉岩木山観光協会)。
▲左・右)各地区の人々が街道を進み、岩木山神社をめざす。中)神社に到着すると、安全祈願とともにお祓いを受ける(写真提供◉岩木山神社)。

夜気を突く言霊と歓喜の舞い

「お山参詣」の圧巻は、最終日の「朔日山」。旧暦8月1日未明、「サイギサイギ……」の言霊(ことだま)が夜気を突き、白装束の参拝者が山頂へ向かう。厳しい岩場を登る足取りと唱文のリズムが次第に重なり、一歩進むごとに心身が浄化されてゆく。

山頂へ向かう松明(たいまつ)の灯りが、漆黒の闇にひと筋の軌跡を描く。松明がヘッドランプやハンドライトに変わったものの、人々が天へと導かれていくかのような光景は、昔もいまも変わらない。

山頂に到着し、東の空が白むころ、登山囃子が一斉に鳴り響く。参拝者は降りかかるご来光に手を合わせ、霊峰と一体になっていく。

「お山参詣登山囃子」とともに唱える唱文。その一語一語には、深い意味がある。

「お山参詣」の登山囃子唱文

サイギサイギ ドッコイサイギ
オヤマサハツダイ コウゴウドウサ
イーツニナノハイ ナムキンミョウチョウライ

 

懺悔懺悔 六根懺悔
御山八大 金剛道者
一々礼拝 南無帰命頂礼

懺悔懺悔:過去の罪過を悔い改めて神仏に告げ、これを謝す。
六根懺悔:人間の感覚器官の根源「眼耳舌身意(げんにびぜつしんに)」六根の迷いを捨て、汚れのない身になる。
御山八大:八大柱の神仏、「観音菩薩、弥勒菩薩、文殊菩薩、地蔵菩薩、普賢菩薩、不動明王、虚空蔵菩薩、金剛夜叉明王」のこと。
金剛道者:金剛石のように揺るぎない信仰をもつ巡礼者。
一々礼拝:八大柱の神仏を一柱ごとに礼拝する。
南無帰命頂礼:身命を捧げて仏菩薩に帰依し、神仏の戒めに従う。
*「柱」は、神仏を数える単位。

▲八甲田の山際から人々を照らすご来光。山頂奥宮(写真提供◉岩木山観光協会)。

登拝を無事終えると、静寂の祈りから一転、歓喜の酒盛りが始まる。「よいやまかけた、ついたちやまかけた、バダラ、バダラ、バダラヨー」と歌い踊り、みな愉悦の足取りでそれぞれ帰路につく。

バダラとは「跋折羅(ばさら)」と書く。サンスクリット語の「vajra(ヴァジュラ)」に由来する仏教用語で、直訳すると「金剛石(ダイヤモンド)、雷霆(激しい雷)、雷電、稲妻、堅固なもの」。密教では、あらゆる煩悩を打ち砕く法具「金剛杵(こんごうしょ)」を指す。
そこに「煩悩執着を離れ、神仏と一体になった喜びの爆発」といった意を重ね、転じて「自由奔放でハデな振る舞い」を意味するようになっていく。戦国時代の「バサラ大名」の語源でもある。

「お山参詣」の「バダラ」は、「おテンバ娘のようにはしゃぐ。おどける。はめをはずす」という解放的なニュアンスを帯びる。「バダラ踊り」は、霊峰岩木山に願いを届け、神通力を宿した喜びを爆発させたものだという。

静寂の祈りと躍動する歓喜、そこには津軽の人々の生命力が息づいている。

▲「バダラ、バダラ、バダラヨー」。歓喜の声が境内に響く(写真提供◉岩木山観光協会)。

心に根ざす、津軽青森の至宝

深田久弥は「日本百名山」を選ぶ際、山がもつ「品格、歴史、個性」を選定基準とした。霊峰岩木山は、そのすべてを魅せる。

「津軽の連中は、みなこのお山を見ながら育つ」
故郷の山をそう語った太宰は、冒頭の言葉にさらに続ける。
「決して高い山ではないが、けれども、なかなか、透きとおるくらいに嬋娟(せんけん)たる美女ではある」

しなやかな山容とともに厳かな威光を放つ「お岩木様」。人々の心を惹きつけてやまぬ孤高の独立峰は、名峰ならぬ、まさに津軽青森の名宝と呼ぶにふさわしい。

▲慈愛に満ちた霊峰岩木山。太宰の故郷、津軽平野とそこに暮らす人々をいつも見守っている。

*2026年「お山参詣」のスケジュール(毎年、旧暦8月1日に「朔日山」を開催)
「向山」9月9日(水)、「宵山」9月10日(木)、「朔日山」9月11日(金)
*「日本百名山」の選定基準は、本連載Vol.16「この世の極楽」に登り、“ご神水の湯”で心を浄める。伊吹山と久瀬温泉「白龍の湯」を参照。

「お山参詣」に想いを馳せたプチ登拝

「お岩木様」へ登拝しよう。今回歩くのは「お山参詣」の参拝道、百沢登山道。山麓の岩木山神社から徒歩で登るのが本来だが、文明の利器、津軽岩木スカイラインを利用すれば一気に8合目までワープできる。さらにそこからリフトを乗り継ぐことも可能だ。

現代の「お岩木様」は、「水平志向」派にも慈悲深い門戸を開く。軟弱を承知で、ありがたくショートカット。だが、あいにくこの日はリフトの定休日。8合目の登山道入口から山頂をめざした。

前回同様、山行ルートをスポット写真とともに紹介したい。「山と自然ネットワーク コンパス」で作成したルートマップ(以下のマップ)と照らし合わせ、机上登拝をしていただければと思う。

▲青いラインが今回歩いたルート。「山と自然ネットワーク コンパス」では、オリジナルのルートマップ作成を始め、登山計画に必要不可欠な情報をフォーマットに従って入力できる。
▲左)津軽岩木スカイラインの終点「8合目ターミナル」。眺望抜群。津軽岩木スカイラインの営業期間は4月中旬~11月上旬、営業時間は8:00~最終入場16:00(道路閉鎖17:00)。変更の場合があるので要確認。右)左写真の中央部に目を凝らす。雪渓を抱く白神山地。
▲「8合目ターミナル」にある休憩所。自動販売機やトイレ、靴洗場(入口手前)などがある。
▲8合目のリフト乗り場。期間によって定休日(火曜・水曜)あり。要確認。右)リフト乗り場脇から登山道が始まる。
▲登山道入口から、クマザサに囲まれた道をまずは進む。クマ出没注意。中)5月下旬、斜面に雪渓が残る。この時季、軽アイゼン装着推奨。右)さらに上部に雪渓。ここを抜けるとまもなく9合目。
▲右)先の雪渓を越えると、一気に視界が開ける。写真右が岩木山山頂方面、左へ行くと9合目のリフト乗り場。中)9合目のリフト乗り場前、山頂が目の前。看板右下に鳥ノ海噴火口。左)1,600年、1845(弘化2)年に水蒸気噴火があったと推定されている鳥ノ海噴火口。雪に覆われていたが、火山の片鱗を垣間見る。
▲「一の御坂」途上から望む、日本海と鯵ヶ沢町。斜面が急なので、足元注意。
▲冬季登山の安全を祈願し、全国からの善意によって建てられた鳳鳴ヒュッテ。1964(昭和39)年に発生した遭難事故犠牲者への慰霊の意が込められている。合掌。
▲「お山参詣」の難所でもある「二の御坂」。急勾配の岩場が続く。写真上方左のふたつ並ぶ巨石は、二神岩(ふたがみいわ)。
▲山頂手前にでんとたたずむ御倉石(おぐらいし)。津軽の人々は亡くなると祖霊となってこの石に籠もる、とかつていわれていた。
▲「三の御坂」。ここを登り切れば、岩木山山頂。「サイギサイギ……」。
▲左)登頂記念に山頂の鐘を鳴らすが、ガスに覆われた真っ白な空に響く音が少々寂しい。「お山参詣」では、この周囲で登拝者がご来光を拝む。晴れていれば、八甲田山のあたりから日が昇る。右)標高1,624mの山頂から、八甲田の反対(西)側を見渡す。写真中ほど、やや左に「8合目ターミナル」がポツンと見える。
▲左)山頂避難小屋。ここに泊まり、ご来光を拝むのもまたよし。中)780(宝亀11)年、奈良時代に岩木山山頂に社殿を創建したのが起源とされる岩木山神社。現在は奥宮が山頂に建つ。右)山頂に設置された一等三角点。脇に大町桂月の歌碑が建つ。「四方(よも)八方の千万(ちよろず)の山を見下ろして 心にかかる雲もなきかな」。残念ながら、本日は雲ばかり。

無事登拝、「お岩木様」に改めて感謝。
文明の利器を使ってもなお、霊峰津軽富士の霊気は少しも薄れない。
「よいやまかけた、ついたち(ではないけど)やまかけた、バダラ、バダラ、バダラヨー」――心のなかで「バダラ踊り」を舞いつつ、山直温泉へ向かうとしよう。

夕陽に染まる絶景露天“黄金の湯”

下山後、日本海に面する黄金崎(こがねざき)へ。「日本の夕陽百選」の地に湧く「不老ふ死温泉」が今回の目的地。

ここには趣の異なる3つの浴場がある。
大海原を眼下に見下ろす「不老ふ死の湯」、熱湯とぬる湯を楽しめる「黄金の湯」、そして日本海の波濤が押し寄せる「海辺の露天風呂」。そして、さらに……。

霊峰岩木山を仰ぎつつ、母なる海へ。夕陽が沈む前に到着すべく、足早に向かった。

※温泉の詳細は、『PEAKS 2026年8月号(No.179)』まで。

▲左)海辺に建つ温泉宿、黄金崎「不老ふ死温泉」。右)新鮮な海の幸を始め、地元の旬の食材を楽しめる(写真提供◉不老ふ死温泉)。
▲夕陽とともに日本海に溶け込む「海辺の露天風呂」。宿泊して、たっぷり夕陽に染まりたい(写真提供◉不老ふ死温泉)。
▲左)囲いで覆われた「海辺の露天風呂」。内側は、混浴と女性専用に仕切られている。湯浴み着の着用可。右)「海辺の露天風呂」の混浴湯。青い空と海とともに浸かる茶褐色の湯。唯一無二。
▲左)新館大浴場のパノラマ露天。右)新館大浴場の内湯からも日本海を一望。サウナ、水風呂もある(写真提供◉不老ふ死温泉)。

山行&温泉data

コースデータ 岩木山

コース:津軽岩木スカイライン8合目ターミナル~鳳鳴ヒュッテ~御倉石~岩木山~山頂避難小屋・岩木山神社奥宮~岩木山~御倉石~鳳鳴ヒュッテ~津軽岩木スカイライン8合目ターミナル
コースタイム:約2時間30分
標高:1,624m
距離:約2.5km

下山後のおすすめの温泉 黄金崎「不老ふ死温泉」

  • 青森県西津軽郡深浦町大字舮作字下清滝15
  • TEL.0173-74-3500
  • 入浴時間(日帰り/海辺の露天風呂):9:00~16:00(受付15:30まで。繁忙期は8:00受付開始。混雑時、入場制限あり。宿泊者は日の出から日没まで利用可)
    ※3つの入浴施設は、それぞれ利用時間が異なる。公式Web要確認
  • 営業期間:無休
  • 入浴料(日帰り):大人¥1,000/小人¥500
  • 泉質:含鉄-ナトリウム-塩化物強塩泉
  • アクセス:津軽岩木スカイライン8合目ターミナルより車で約2時間
  • 公式Web:https://www.furofushi.com

記事・情報は
『PEAKS 2026年8月号(No.179)』の「下山後は湯ったりと」にて!

▶「山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記」一覧はこちら

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PROFILE

山本 晃市

PEAKS / 編集者・ライター

山本 晃市

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

山本 晃市の記事一覧

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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