
津軽富士「お岩木様」に登拝し、海辺に湧く絶景露天へ。岩木山と日本海の夕陽に染まる「金色の湯」|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.19
山本 晃市
- 2026年06月15日
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温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり!下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している小誌の連載、「下山後は湯ったりと」。
『PEAKS 2026年8月号(No.179)』では、津軽の名峰、岩木山へ。下山後の“山直温泉”は、黄金崎「不老ふ死温泉」を訪ねます。
“山直温泉”の記事・情報は
『PEAKS 2026年8月号(No.179)』の
「下山後は湯ったりと」にて!
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)
青空に浮かぶ、孤高の麗峰
津軽青森の至宝、標高1,624mの岩木山。青空に凜と映える孤高のシルエット、その気高い山容は古くから文人たちをも魅了してきた。
「十二単の裾を、銀杏の葉をさかさに立てたやうにぱらりとひらいて左右の均斉(きんせい)も正しく、静かに青空に浮んでいる」
小説『津軽』で、太宰治はこの山、津軽富士を優美な女衣にたとえた。
だが、優雅さの裏には荒ぶる火山の本性を隠している。山頂部に目をやると、「岩木、鳥海(ちょうかい)、巌鬼(がんき)」3つの峻険な頂が聳え立つ。これら三峰は、火口から噴出した粘性の高いマグマが積み重なることで形成された溶岩ドーム。周囲には無数の巨礫がひしめき、爆裂火口の痕跡を随所に残す。山麓には、嶽(だけ)、百沢(ひゃくざわ)、湯段(ゆだん)など温泉地がいくつも点在し、いまなお豊かな生命力を宿す「生きた火山」であることを教えてくれる。

人々と霊峰を結ぶ「お山参詣」
古来「お岩木様」と親しまれてきた岩木山は、篤い信仰の山でもある。
その象徴が、五穀豊穣や家内安全を祈願し、岩木山へ登拝する伝統行事「お山参詣」だ。
「ヤマカゲ」とも呼ばれるこの習わしは、諸説あるが、鎌倉時代初期に始まり、江戸時代中期に今日のような形になったという。江戸時代、最大の山場である8月1日の登拝は、藩主のみに許される聖域の儀式だった。時代が変わり明治になると、広く一般に開放される。
その後、1984(昭和59)年に国の重要無形民俗文化財に指定され、いまなお津軽最大の秋祭りとして人々の暮らしのなかに息づいている。
現在の行事は3日間にわたり、日ごとその表情を変える。
「お山参詣」3日間の旅路
初日「向山(むかいやま)」
岩木山神社下居宮から山頂奥宮まで徒歩で登拝していた時代から続く、参拝者が各村を出発する日。現在は、神社周辺に多くの露店が並び、行事開催報告祭のほか、民謡ステージやカラオケ選手権なども催され、大いににぎわう。
2日目「宵山(よいやま)」
白装束の参拝者が岩木山神社で登拝安全の祈願をし、お祓いを受ける。参拝者はカンナガラと呼ばれる御幣や「岩木山大神」「岩木山神社」と敬書された幟(のぼり)を掲げ、街道を練り歩く。なかでも10mを超える幟を掲げる豪快な姿に拍手喝采が沸き起こる。笛と太鼓の登山囃子が響き渡るなか、「サイギサイギ……」の掛け声が飛び交う。
最終日「朔日山(ついたちやま)」
山頂奥宮に参拝、ご来光を拝む。旧暦八月朔日(1日)に行なわれる本行事のクライマックス。核心は、後述。




夜気を突く言霊と歓喜の舞い
「お山参詣」の圧巻は、最終日の「朔日山」。旧暦8月1日未明、「サイギサイギ……」の言霊(ことだま)が夜気を突き、白装束の参拝者が山頂へ向かう。厳しい岩場を登る足取りと唱文のリズムが次第に重なり、一歩進むごとに心身が浄化されてゆく。
山頂へ向かう松明(たいまつ)の灯りが、漆黒の闇にひと筋の軌跡を描く。松明がヘッドランプやハンドライトに変わったものの、人々が天へと導かれていくかのような光景は、昔もいまも変わらない。
山頂に到着し、東の空が白むころ、登山囃子が一斉に鳴り響く。参拝者は降りかかるご来光に手を合わせ、霊峰と一体になっていく。
「お山参詣登山囃子」とともに唱える唱文。その一語一語には、深い意味がある。
「お山参詣」の登山囃子唱文
サイギサイギ ドッコイサイギ
オヤマサハツダイ コウゴウドウサ
イーツニナノハイ ナムキンミョウチョウライ
懺悔懺悔 六根懺悔
御山八大 金剛道者
一々礼拝 南無帰命頂礼
懺悔懺悔:過去の罪過を悔い改めて神仏に告げ、これを謝す。
六根懺悔:人間の感覚器官の根源「眼耳舌身意(げんにびぜつしんに)」六根の迷いを捨て、汚れのない身になる。
御山八大:八大柱の神仏、「観音菩薩、弥勒菩薩、文殊菩薩、地蔵菩薩、普賢菩薩、不動明王、虚空蔵菩薩、金剛夜叉明王」のこと。
金剛道者:金剛石のように揺るぎない信仰をもつ巡礼者。
一々礼拝:八大柱の神仏を一柱ごとに礼拝する。
南無帰命頂礼:身命を捧げて仏菩薩に帰依し、神仏の戒めに従う。
*「柱」は、神仏を数える単位。

登拝を無事終えると、静寂の祈りから一転、歓喜の酒盛りが始まる。「よいやまかけた、ついたちやまかけた、バダラ、バダラ、バダラヨー」と歌い踊り、みな愉悦の足取りでそれぞれ帰路につく。
バダラとは「跋折羅(ばさら)」と書く。サンスクリット語の「vajra(ヴァジュラ)」に由来する仏教用語で、直訳すると「金剛石(ダイヤモンド)、雷霆(激しい雷)、雷電、稲妻、堅固なもの」。密教では、あらゆる煩悩を打ち砕く法具「金剛杵(こんごうしょ)」を指す。
そこに「煩悩執着を離れ、神仏と一体になった喜びの爆発」といった意を重ね、転じて「自由奔放でハデな振る舞い」を意味するようになっていく。戦国時代の「バサラ大名」の語源でもある。
「お山参詣」の「バダラ」は、「おテンバ娘のようにはしゃぐ。おどける。はめをはずす」という解放的なニュアンスを帯びる。「バダラ踊り」は、霊峰岩木山に願いを届け、神通力を宿した喜びを爆発させたものだという。
静寂の祈りと躍動する歓喜、そこには津軽の人々の生命力が息づいている。

心に根ざす、津軽青森の至宝
深田久弥は「日本百名山」を選ぶ際、山がもつ「品格、歴史、個性」を選定基準とした。霊峰岩木山は、そのすべてを魅せる。
「津軽の連中は、みなこのお山を見ながら育つ」
故郷の山をそう語った太宰は、冒頭の言葉にさらに続ける。
「決して高い山ではないが、けれども、なかなか、透きとおるくらいに嬋娟(せんけん)たる美女ではある」
しなやかな山容とともに厳かな威光を放つ「お岩木様」。人々の心を惹きつけてやまぬ孤高の独立峰は、名峰ならぬ、まさに津軽青森の名宝と呼ぶにふさわしい。

*2026年「お山参詣」のスケジュール(毎年、旧暦8月1日に「朔日山」を開催)
「向山」9月9日(水)、「宵山」9月10日(木)、「朔日山」9月11日(金)
*「日本百名山」の選定基準は、本連載Vol.16「この世の極楽」に登り、“ご神水の湯”で心を浄める。伊吹山と久瀬温泉「白龍の湯」を参照。
「お山参詣」に想いを馳せたプチ登拝
「お岩木様」へ登拝しよう。今回歩くのは「お山参詣」の参拝道、百沢登山道。山麓の岩木山神社から徒歩で登るのが本来だが、文明の利器、津軽岩木スカイラインを利用すれば一気に8合目までワープできる。さらにそこからリフトを乗り継ぐことも可能だ。
現代の「お岩木様」は、「水平志向」派にも慈悲深い門戸を開く。軟弱を承知で、ありがたくショートカット。だが、あいにくこの日はリフトの定休日。8合目の登山道入口から山頂をめざした。
前回同様、山行ルートをスポット写真とともに紹介したい。「山と自然ネットワーク コンパス」で作成したルートマップ(以下のマップ)と照らし合わせ、机上登拝をしていただければと思う。













無事登拝、「お岩木様」に改めて感謝。
文明の利器を使ってもなお、霊峰津軽富士の霊気は少しも薄れない。
「よいやまかけた、ついたち(ではないけど)やまかけた、バダラ、バダラ、バダラヨー」――心のなかで「バダラ踊り」を舞いつつ、山直温泉へ向かうとしよう。
夕陽に染まる絶景露天“黄金の湯”
下山後、日本海に面する黄金崎(こがねざき)へ。「日本の夕陽百選」の地に湧く「不老ふ死温泉」が今回の目的地。
ここには趣の異なる3つの浴場がある。
大海原を眼下に見下ろす「不老ふ死の湯」、熱湯とぬる湯を楽しめる「黄金の湯」、そして日本海の波濤が押し寄せる「海辺の露天風呂」。そして、さらに……。
霊峰岩木山を仰ぎつつ、母なる海へ。夕陽が沈む前に到着すべく、足早に向かった。
※温泉の詳細は、『PEAKS 2026年8月号(No.179)』まで。




山行&温泉data
コースデータ 岩木山
コース:津軽岩木スカイライン8合目ターミナル~鳳鳴ヒュッテ~御倉石~岩木山~山頂避難小屋・岩木山神社奥宮~岩木山~御倉石~鳳鳴ヒュッテ~津軽岩木スカイライン8合目ターミナル
コースタイム:約2時間30分
標高:1,624m
距離:約2.5km
下山後のおすすめの温泉 黄金崎「不老ふ死温泉」
- 青森県西津軽郡深浦町大字舮作字下清滝15
- TEL.0173-74-3500
- 入浴時間(日帰り/海辺の露天風呂):9:00~16:00(受付15:30まで。繁忙期は8:00受付開始。混雑時、入場制限あり。宿泊者は日の出から日没まで利用可)
※3つの入浴施設は、それぞれ利用時間が異なる。公式Web要確認 - 営業期間:無休
- 入浴料(日帰り):大人¥1,000/小人¥500
- 泉質:含鉄-ナトリウム-塩化物強塩泉
- アクセス:津軽岩木スカイライン8合目ターミナルより車で約2時間
- 公式Web:https://www.furofushi.com
記事・情報は
『PEAKS 2026年8月号(No.179)』の「下山後は湯ったりと」にて!
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PROFILE
PEAKS / 編集者・ライター
山本 晃市
山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。
山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。




















