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歴代優勝者がすごい!39回続く伝統のヒルクライム、矢島カップMt.鳥海バイシクルクラシック

2026年8月1日と2日の2日間、秋田県由利本荘市にて「第39回矢島カップMt.鳥海バイシクルクラシック」が開催された。タイムトライアルとヒルクライムを組み合わせた伝統の2日間ステージレースに、全国から多くのサイクリストが集結。雨の中繰り広げられた激闘の末、地元秋田県の田村和音さん(コルノグランデ・AbutokuCC)が両ステージを制し、見事な完全優勝を達成した。全国の市民レーサーに愛され続ける伝統大会の魅力をお伝えする。

歴代優勝者に土井雪広さんも! 歴史と格式を誇る「矢島カップ」

2日間とも優勝し、矢島カップを獲得したのは田村和音さん(コルノグランデ・AbutokuCC)

「矢島カップMt.鳥海バイシクルクラシック」は、秋田県由利本荘市矢島町において毎年夏に開催される、日本屈指の歴史と格調を誇るヒルクライムイベントだ。そのルーツは1987年(昭和62年)にまで遡る。当時、大学の自転車競技部員らが旧矢島町を夏季合宿地として訪れ、鳥海山の豊かな自然環境と過酷な山岳ロードを活用して脚を競い合ったことが発端となった。

以降、年を追うごとに規模を拡大し、2026年の今年で堂々の第39回目を迎えた。日本の市民サイクリスト向けレースにおいて、本大会は「乗鞍ヒルクライム」や「ツール・ド・美ヶ原」などと並び、伝統的な山岳レースのパイオニアとして広く認知されている。歴代優勝者には、初回大会を制した大原満さん(当時信州大、後に愛三工業で活躍し、60代の現在もマスターズで活躍中)をはじめ、伝説のヒルクライマー・村山利男さん、日本人で初めてブエルタ・ア・エスパーニャを完走した土井雪広さん、バルセロナ五輪代表の藤田晃三さん、元グランフォンド年代別世界王者の高岡亮寛さんなど、日本自転車競技史を彩る錚々たる顔ぶれが名を連ねる。総合優勝者に授与される「矢島カップ」と「矢島クイーンカップ」のトロフィーには彼らの名が刻まれており、競技者にとって極めて高い権威と挑戦価値を有している。

トロフィーに刻まれた歴代の優勝者

多くの市民レースが、交通規制の煩雑さや運営コストの増加により単一開催へと縮小する昨今。本大会が第3回大会から現在まで「2日間のステージレース形式」を堅持できている背景には、当時の矢島町、そして2005年からは市町村合併で由利本荘市がはじめとする行政、地元関係団体、秋田県自転車競技連盟による強固な連携体制と、地域住民の深い理解があるのだ。

1stステージは珍しいタイムトライアル

矢島カップ上位常連の田崎友康さん(F(t)Racingマルシン食品)

矢島カップの最大の魅力は、性質の全く異なる2つのレースを総合タイムで競う点にある。純粋なパワーウェイトレシオだけでなく、エアロダイナミクス、絶対的な平坦出力、さらにはコーナリング技術や集団内の立ち回りなど、総合的なロードレーサーとしての適性が要求される。

大会初日の「1stステージ」は、長泥から木在に至る往復8.0kmの特設コースで開催される個人タイムトライアル(高低差60m)だ。緩やかなアップダウンを含む高速区間を単独で駆け抜け、純粋なスピードと空気抵抗削減能力を競う。トップ選手ともなれば10分台前半でフィニッシュするため、過酷な無酸素・有酸素のミックス領域の戦いとなる。

チャンピオンクラスで優勝した田村和音さん。2位の三原圭太さんとの差は3秒

近年では、タイムトライアル用バイクやエアロバー、ディープリムやディスクホイール、スキンスーツの導入など、機材セッティングの最適化が上位進出の絶対条件となっている。また、この日のスタート時間は13:30に設定されており、首都圏など遠方からの参加者が当日早朝に出発しても十分に間に合うという、主催者の細やかなスケジュール配慮も嬉しいポイントだ。同日には小学生を対象とした3.3kmのタイムトライアルも開催され、次世代の若手レーサー育成の場としても機能している。

獲得標高1,200m。戦略と総合力が試される「2ndステージ」

由利本荘市立矢島中学校の生徒がスタートまでのカウントパネルを出してくれる

大会2日目に開催される「2ndステージ」は、栩木田を起点とし、鳥海山5合目に位置する祓川至高点(標高約1,100m)を目指す全長27kmのマスドスタート方式の山岳レースだ。

コース上には平坦や下り区間もあるのが特徴。ロード男子Aで優勝した山口 旭(麻溝台高校)

このコースは、一定の勾配をひたすら上り続ける単調なヒルクライムとは一線を画す。スタートから2kmの平坦区間でハイスピードな集団が形成されたのち、最初の登坂区間へと突入し集団のセレクションが掛かる。特筆すべきは、10km〜12km地点にかけての約2kmと、19km〜20km地点にかけての約1kmに及ぶ「下り区間」の存在だ。ここでは時速が大幅に上昇し、集団の再編や位置取りの激しい攻防が発生する。

地元ボランティアによる補給が2か所あり、水分補給できるのもありがたいサービスだ

20km地点を過ぎるといよいよ森林限界へ向けて斜度が急激に増し、最大の難所を迎える。単純な標高差は1,100mだが、下り区間を含むため実際の獲得標高は約1,200mに達する。上りと下りの劇的な緩急に対する心肺の応答能力と、的確な変速・ペダリングスキル、そして最終盤の7kmを耐え抜く精神力が勝敗を分ける、真の総合力勝負のステージなのである。

ロード女子Aを走った相馬 歩さん(NICO-OZ)

地元期待の星、田村和音が圧巻の完全優勝!

フィニッシュ地点で北秋田の自転車仲間と記念撮影

猛暑の中で行われた今年の第39回大会。最高峰の「チャンピオンクラス」で主役となったのは、地元秋田県の田村和音(コルノグランデ・AbutokuCC)だった。初日の1stステージで見事なタイムを叩き出してトップに立つと、翌日の2ndステージでもトップフィニッシュ。両ステージを制覇する「完全優勝」で、歴史ある矢島カップを手にした。

「結構最初は緩かったですね。小村さんが飛び抜けていって、それを追う展開だったんです。ただ、みんな僕を見ていたので、様子を見ながら牽制し合うというお見合い的な感じでした。実は自分は行きたくてそわそわしていたんです。でもコースが長いので、2回目の下りが終わってからと考えていました。残り8km程度まで来ると、他の選手たちもちょっと踏み始めて、活性化してきました。第1ステージで2秒差で2位だった三原さんは体力を温存していたんだとおもおいます。自分が行ったタイミングから、彼が結構息苦しそうだったので『これはいけるな』と感じて、そこで仕掛けました。」と完全優勝を遂げた田村さん。

じつは初めての参加だという「一昨年は中止になってしまったので、やっと出場できました。地元秋田での優勝、素敵なことですね」と、地元での勝利に喜びの表情を見せた。

レース序盤から大きく先行した 小村知之さんは矢島カップの上位常連選手。「抜け出せたときにはいけるかも!と思いいましたが、みんな強かった」とのこと。

フィニッシュ地点で天気も回復、スイカも大振る舞い

標高1,100mの祓川フィニッシュ地点では、今年も地元農家やボランティアスタッフによって、よく冷えた地元特産のスイカが振る舞われた。限界までペダルを回し続けた選手たちが山頂で頬張るこのスイカの甘さと瑞々しさは、まさに格別だ。

青森といえばBLE BOSCOの皆さん。ちなみにチーム名はイタリア語で「青い森」という意味。「最近高齢化でなかなか集まれないのでこのレースでみんな集まっています」という
山形県、鶴岡市のプロショップ大滝輪店に集まる「クラブ二輪倶(ツーリング)」のみなさん。会長の大瀧豊和さん(写真右)はこの矢島カップに34回出場しており、その記録を更新した。
岩手県八幡平市から参加のハチマンタイガース、山本 裕貴さん、八角 寿さん、高橋 伸也さんの3人。チーム賞では上位に食い込んだ
「じつはトレランも楽しんでいて、これからトレランに行ってきます」とシューズを履き替えて、鳥海山を満喫した
30年間使っているアランのチタンとアルミの接着フレームで走っていた菊池徳武さん。

多彩なカテゴリーと、地域一体のおもてなし

矢島クイーンカップは向井 菜見子(EMU&フェロー)が獲得し、昨年の覇者正田 萌美(チームぼんじりさん)を逆転した

本大会が高い人気を誇る理由の一つに、広範なサイクリスト層を網羅する精巧なエントリー設計がある。両日参加(2ステージ)が10,000円という非常にコストパフォーマンスの高い参加料に設定されており、最も人気を集めている。また、カテゴリーも細分化されており、年齢不問の「チャンピオンクラス」、細かな年齢別クラスのほか、女子参加者の2日間総合最速者を決める「矢島クイーンカップ」が設けられている。

親子賞も獲得した長野から参加のチーム568のメンバー。

さらに注目すべきは「チーム賞」と「親子賞」だ。チーム賞はチャンピオンクラス所属者を除外するという条件を課すことで、実力が拮抗する一般アマチュア層のチームみんなで参加することを促進し、仲間同士で参加する大きなメリットとなっている。

スタート前には町内をまわるパレードがあり、選手たちは地元から暖かい声援を受けながらウォーミングアップする

そして、何よりも参加者の心を打つのが、地域住民との温かい結びつきだ。2ndステージのリアルスタート前に行われる町内パレード走行では、沿道に地元の小中学生や高齢者を含む地域住民が集まり、大きな声援を送ってくれる。この温かな歓迎ムードが、レース前の極度の緊張を和らげ、「地域に迎えられている」という多幸感を生み出している。

極上の温泉とグルメ。鳥海山麓がサイクリストを癒す

「今年は涼しかったこもあり、走りやすかった。2025年の1時間48分24秒から今年は1時間35分28秒へ、約13分ものタイムアップでき、おかげでスイカもおいしく食べられました」と満足のバイシクルクラブ編集長山口。

「30歳代の若かったころはレースで1時間5分代で走り、順位を競うのが楽しかったが、50歳を超えたいまではゆっくりでも自分の今の健康状態を確かめつつ、毎年東北のみなさんと交流できる場として楽しんでいます」と、改めて矢島カップの魅力を楽しんだ。

2日間のステージレースは、鳥海高原を楽しむ機会だ。標高約500mに位置する「花立コテージ」は会場まで車で約20分という好立地にあり、テント設営や自炊を楽しむ家族連れやチームに大人気だ。また、本荘由利市街地のビジネスホテル群もバックアップとして機能している。

今回、編集部は「休養宿泊施設 鳥海荘」に宿泊した。レース前日、身体を優しく包み込んでくれたのは、ぬるぬるとした湯ざわりが特徴の弱ナトリウム性アルカリ泉の温泉だ。湯上がりには秋田の山の幸や海の幸がふんだんに使われた豪華な夕食に舌鼓を打ち、最高のリカバリーと心身の充電を行うことができた。「ホテルフォレスタ鳥海」や「湯の沢温泉 ホテルまさか」など、温泉完備の充実した施設が点在しているのも、矢島カップの大きな魅力と言えよう。

限界に挑む厳しいコースレイアウトと、それを包み込むような地元住民の温かいホスピタリティ。矢島カップMt.鳥海バイシクルクラシックは、これからも日本の市民レーサーたちにとって「ひと夏の最高の挑戦」として、その輝きを放ち続けるだろう。来年の第40回という記念すべき節目に向け、鳥海山は早くも次なるチャレンジャーを待ちわびている。

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PROFILE

せいちゃん

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稲城FIETSクラスアクト所属のJプロツアーレーサー。レースを走る傍ら、国内外のレースや選手情報などを追っている。愛称は「せいちゃん」のほか「セイペディア」と呼ばれている

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