
山と人をつなぐ場所 ー安曇野で出会ったTREKVOGELの歩みー
宇宙HIKE
- 2026年08月27日
長野県安曇野市の穂高駅近くにある「TREKVOGEL(トレックフォーゲル)」。山へ向かうためのギアを選ぶ場所でありながら、そこには道具だけではない、山を楽しむきっかけが集まっている。今回は、TREKVOGELが生まれた背景や、店づくりをとおして大切にしていること、そしてこの先広がっていく景色についてたどってみた。
北アルプスのふもとで見つけた居場所

安曇野に移住して1年。私の登山活動はまだ本格化していないのに、ギアだけは着々とアップデートされている。というより、すっかり沼にはまっている(笑)。
安曇野を訪れて北アルプスを歩く人や、観光でこの地を訪れた人なら、きっと一度は目にしたことがあるだろう。雑誌やSNSでも紹介されることの多い「TREKVOGEL」。『ランドネ』で知って、気になっていたという方もいるかもしれない。いまではギア選びだけでなく、私の写真の活動でもお世話になっているこの場所。何度も足を運ぶうちに、ふと気になることが増えていった。
「どうしてこのショップを始めたんだろう」
「どんなことを大切にしながら、この場所をつくっているんだろう」
今回は、これまでさまざまなメディアで紹介されてきたTREKVOGELについて、私自身が聞いてみたかったことをたどりながら、その歩みや背景にある想いをうかがってみた。
好きな山と長く関わるために

「作り手の志や背景を知って、それを必要としている人につなぐ。その経験はいまの仕事にも生きています」
そう話してくれたのは、TREKVOGELの小林秀行さん。会社勤めを終えたあとの生活、自分が好きな山と、これから先も長く関わっていくにはどうしたらいいのかを考えたという。そこで思い浮かんだのが、これまでの仕事で培ってきた経験だった。メーカーでセールスとして働いていたころから、人とモノをつなぐだけでなく、人と人をつなぐことが好きだった。作り手の想いやこだわりを知り、それを必要とする人へ届けること。そして、お客さんが感じた魅力や声を、今度は作り手へ届けること。
その経験を生かし、自分自身の目で選んだギアの魅力を伝え、山の楽しさを共有できる場所をつくることへとつながっていった。

「自分が良いと思ったものの魅力を、ただ伝えたいんです。メーカーさんを応援してあげよう、という感覚ではなくて、本当にすてきだと思うからお客さんに話したい。POP UPイベントを開催するのも、作り手の方に直接、お客さんの笑顔や反応を届けたいからなんです」
その言葉から感じたのは、売る側と買う側という関係ではなく、作り手と使い手、そして山を楽しむ人同士をつなぐ場所としての距離感だった。作り手の想いやこだわりを伝え、使う人の声をまた作り手へ届ける。TREKVOGELという名前のとおり、山やものづくりにまつわる想いを運ぶ“渡り鳥”のような役割を、いまも大切にしている。
人が集まる場所をつくる

「登山で出会う人って、気持ちのよい人が多いんですよね。そして山でしか聞けない、その人ならではの物語がある」
そう語るのは、奥さんの小林美音さん。山を歩くことは、ただ景色を見るだけではない。人との出会いや、その人の半生に触れる時間でもある。そんな山の魅力を感じてきたからこそ、山で生まれた出会いや会話が、山を下りたあとも続いていく場所を持ちたいという想いにつながったそうだ。

また、ショップを構えることには、秀行さん自身、会社員時代とは違う働き方への期待もあったという。夫婦でひとつの場をつくるということは、おなじ方向を見て進むだけではなく、それぞれの価値観を持ち寄り、ときには違いをすり合わせながら育てていくことでもある。その過程も含めて、おもしろい挑戦になるのではないかと感じていたそうだ。
実際にTREKVOGELを訪れると、ギアの話だけで終わることは少ない。「この前どこの山に行ったんですか?」。そんなひと言から、おすすめの山の話になったり、いま見頃の花の話になったり、だれかの山行の思い出話が始まったりする。気づけば初対面のお客さん同士で会話が弾んでいることも珍しくない。私自身も、ギアを見に立ち寄ったつもりが、山やグルメの情報交換をしたり、次に歩いてみたい山の話をしたりしているうちに、気づけば「もうこんな時間?!」と思うくらい、いつもあっという間に時間がすぎてしまう(笑)。もちろんギアの話も楽しい。
「こんなすてきな機能があってね」「この生地が、この形がいいんです」
そんな話を聞いているうちに、気づけばホクホクした気持ちで、そのアイテムを連れて帰っている。そして、そのギアを身につけて山へ出かけたり、だれかに見てもらったりする日を楽しみにしている自分がいる。
山と地域にできること

TREKVOGELではギアを扱うだけでなく、山や環境について考える活動にも取り組んでいる。関わるメーカーの自然への向き合い方や、ものづくりへの姿勢に触れるなかで、「自分もこうありたい」「自分たちにできることはなにか」と、考えるようになったという。
そのひとつが、残布をアップサイクルする取り組みや、登山道整備に関わる山守隊への必要な道具の一部寄付などだ。

大きなことを掲げるのではなく、日々の営業の中で無理なく続けられる形で山へ還元していく。そんな姿勢も、TREKVOGELらしい山との関わり方なのだと思う。また、ショップを構える穂高の商店街も大切な存在だ。
「この場所でショップを続けていくなら、地域が元気になることにも関わっていきたい」
安曇野・穂高という土地には、北アルプスを目指す人、里山を楽しむ人、観光で訪れる人など、さまざまな人が集まる。だからこそ、山の情報や人とのつながりが集まり、だれかの一歩をあと押しできるような場所になれたら。ただギアを選ぶだけではなく、この地域の山や自然を楽しむ入り口のような存在へ。そんな未来を思い描きながら、TREKVOGELは日々歩みを続けている。
歩くことから始まる山との付き合い方

靴を扱うようになったことで、足の健康や「歩くこと」の大切さを伝えることも、自分たちの役割のひとつだとより強く感じるようになったという。山を長く楽しむためには、高い山に登ることだけが山の楽しみではない。その人の体力や生活に合った形で、歩くことや自然に触れる時間を続けていくことも大切だ。そんな想いから、月に2回開催しているのが「ひがしやま山歩クラブ」。

北アルプスのような大きな山だけではなく、身近な里山を歩きながら、山の楽しさを感じてもらう場をつくっている。「山に行きたいけれど、なにから始めたらいいかわからない」。そんな人にも、一歩ふみ出すきっかけになるような活動だ。

ご縁の先に広がる景色

TREKVOGELは、山へ向かうためのギアを選ぶ場所であると同時に、山と人、人と人がつながる場所でもある。私自身、訪れるたびに感じるのは、この店にはギアだけではなく「ワクワクする気持ち」まで集まっているということだ。
今回話をうかがいながら印象的だったのは、TREKVOGELが最初から決まった未来図に向かって進んできたわけではないことだった。人との出会いやご縁、そのときどきで「なんだかおもしろそう」と感じたことを大切にしていたら、気づけばいまの景色につながっていた。メーカーの想いやプロダクトの良さを伝えること。山で出会う人の話に耳を傾けること。足の健康や歩くことの大切さを伝えること。地域や山との関わり方を考えること。
ひとつひとつは別々の活動に見えても、その根っこには「山を通じて人とつながりたい」という想いが流れているように感じる。決まったゴールに向かって進むというより、そのときどきでおもしろそうなほうへ、大切だと思うほうへ。目の前のご縁やできることに向き合いながら進んでいたら、気づけば景色が広がっていた。そんな歩み方は、どこか山歩きにも似ている気がする。
安曇野を訪れる機会があったら、ぜひ一度ふらりと立ち寄ってみてほしい。ギアとの出会いはもちろん、気づけばだれかと山の話をして、新しいワクワクが広がっていくかもしれない。いつかこの場所で、そんな楽しそうな表情のあなたを見つけられたら、私もうれしい。
TREKVOGEL
https://www.instagram.com/trekvogel_azumino
写真&テキスト◎佐藤 郁(宇宙HIKE)
https://www.instagram.com/iku_sato2014?igsh=eXg4bTYwd2o5ZXQ4&utm_source=qr
https://note.com/ikus2014
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PROFILE
宇宙HIKE
Photographer 松本茜主催、山と写真のコミュニティー。 宇宙を旅するように山へ登り、旅や写真を使って「自分」にフォーカスする。 ユーモア溢れるメンバーが集まり、日々楽しみながらいろんなフィールドで活動を続けている。
Photographer 松本茜主催、山と写真のコミュニティー。 宇宙を旅するように山へ登り、旅や写真を使って「自分」にフォーカスする。 ユーモア溢れるメンバーが集まり、日々楽しみながらいろんなフィールドで活動を続けている。
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