
雨と40分の中断を越え結実した京産大の総力戦 渡辺一気が独走で第81回男子インカレロード制覇
Bicycle Club編集部
- 2026年09月07日
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大学自転車界の頂点を決する「文部科学大臣杯 第81回全日本大学対抗選手権自転車競技大会(インカレ)」。その最終日を飾る男子個人ロードレースが9月6日、群馬県利根郡みなかみ町の群馬サイクルスポーツセンター(6kmサーキット)で行われた。時折強い雨が降りしきる過酷なコンディション、スタート直後に決まった8人の逃げ、そして中盤14周目に発生した大規模落車による約40分間のレース中断と1周回減の短縮。激動の展開となった144kmのサバイバルレースを制したのは、京都産業大学のエース渡辺一気だった。チーム全員で追走の足並みを揃え、最後に解き放たれたエースが独走勝利。個人の脚力のみならず、揺るぎないチームの結束力で学生日本一のタイトルをもぎ取った。
雨の群馬CSCに集結した146名 スタート直後に8名の強力な逃げが形成
千葉JPFドームで行われたトラック競技を終え、舞台をロードレースの聖地・群馬サイクルスポーツセンターへと移した第81回インカレ。雨雲が立ち込め、ウェットなアスファルトが光る厳しいコンディションのなか、男子個人ロードレースには全国から146名が出走した。当初の規定周回数は1周6kmのコースを25周する150km。学生最高峰の栄誉と、大学対抗総合順位を決定づける最終戦が午前8時30分に号砲を迎えた。


レースは号砲直後、1周目からいきなり動いた。激しいアタック合戦の末、登坂区間を抜けてバックストレートへと向かう下りで8名が先行集団を形成する。
【序盤の先頭逃げグループ 8名】
- 大室佑(中央大学)
- 髙橋駿斗(中央大学)
- 新宮颯太(日本大学)
- 沢田虹太郎(日本大学)
- 鈴木澪(明治大学)
- 杉野翔一(鹿屋体育大学)
- 河村元(鹿屋体育大学)
- 行田弦士(明星大学)


中央大学、日本大学、鹿屋体育大学という強豪校がそれぞれ2名ずつを送り込み、さらに力のある鈴木(明治大)、行田(明星大)が加わったこの逃げは、驚くほど高い協調体制を保ちながら周回を重ねていく。タイム差は1周ごとに広がり、2分、3分、そして中盤には最大で約5分近い大差へと拡大。「中央大や日大が逃げ切りを視野に入れて支配する展開」という空気がプロトンを支配し始めた。


メイン集団も有力校を中心に追撃のペースアップを試みるものの、前線に複数人を送り込んでいるチームが蓋をする形となり、決定的な追走パックを組織できない。


この状況を打破すべく、後方からは日本体育大学の小林海斗が単独で集団を飛び出した。4分以上前を行く先頭グループへの孤独なブリッジを試みる小林の果敢な走りは、序盤のレースの見どころの一つとなった。しかし、統率のとれた8名の逃げ集団はびくともせず、淡々と、しかし確実にリードを維持していった。


14周目の大落車と40分の中断 レースを分断したニュートラリゼーション
膠着したレースの均衡が突如として破られたのは、レース中盤の14周目終盤だった。
ホームストレートまで残り約500m、下りから最終コーナーへと差し掛かるハイスピード区間で、およそ8台のマシンが激しく絡み合う大規模な落車事故が発生。濡れた路面で滑った選手たちが折り重なるように倒れ込み、コースは完全に封鎖された。
選手の安全確保と負傷者の救護活動を最優先するため、競技役員(コミッセール)は即座に「ニュートラリゼーション」の発令を決断。15周目(積算約82km地点)の残り2km地点で先頭の逃げグループを停止させ、後続の単独追走者、そしてメイン集団も順次安全にストップさせた。

全グループはスタッフの誘導によってバックストレートへと集結。中断時のタイム差を計測・保全した状態で再スタートの準備が進められた。しかし、救急搬送とコースクリアを伴う救護活動には時間を要し、停止から再整列、そして再スタートが切られるまで、実に約40分間もの中断を余儀なくされた。


この不測の事態に対し、大会本部は「安全確保のため周回数を1周回減じ、総距離144km(24周)としてレースを再開する」との決定を下す(公式リザルトの走行距離は143.5km表示)。

冷たい雨のなか、止まった身体を温め直し、中断時のタイム差をそのまま背負って走り出す変則的な“第二のレース”。この40分間の空白が、各校の戦略と思惑を大きく揺さぶることとなった。
新宮颯太の覚悟のロングソロ 雨を切り裂く6周の独走劇
タイム差を維持したローリングスタートを経てレースが再開されると、先頭グループは再びペースを上げて逃げ切りを狙う。しかし、後方のメイン集団も短縮された残りの距離を見据え、各校が追走のローテーションを開始。差は確実に縮小傾向へと転じていた。


逃げグループ内の人数が削られ始めた残り6周前後、先頭集団から意を決して飛び出したのが新宮颯太(日本大学)だった。
「最初からああいう逃げ切りを狙っていました。自分がいけると思ったところで仕掛けて、残り6周は単独で行こうと決めていました」


新宮は雨煙を巻き上げながら、単身でペダルを踏み込み続ける。全身を濡らす冷雨、重くのしかかる乳酸、迫り来る後続の足音。残り4周、残り3周と周回を消化するごとに追走集団とのタイム差は40秒、30秒、そして20秒台へと削り取られていったが、新宮は決して前を見据える視線をブラさなかった。

一方、序盤の逃げに杉野翔一と河村元を送り込んでいた鹿屋体育大学も、レースを動かすべく終盤に杉野が単独追走を仕掛けるなど積極的なアクションを見せる。法政大学の屋口修冶や明星大学の川野鷹らも前方へと顔を出し、濡れた路面でサバイバルな追撃戦が繰り広げられた。


京産大が仕掛けた完璧な組織的追走 託されたエース渡辺一気のアタック
この激動の展開の裏で、極めて冷静に牙を研ぎ澄ませていたのが京都産業大学だった。
序盤に形成された8名の逃げに選手を送り込めず、一時は5分近いビハインドを背負って完全に後手に回っていた京産大。しかし、約40分間の中断という予期せぬインターバルが、彼らにとって最大の反撃の好機となった。
京都産業大学を率いる秋田監督は、中断中にチームのプランを完全に再構築した。
「うちにとっては確実にプラスでした。中断中に作戦を再整理し、追走役とエース役を明確に分けました。下級生とチームメイトが脚を使い切ってでもタイム差を縮め、渡辺が勝負できる位置まで持っていく構図を作ったのです」

レース再開後、京産大のアシスト陣が凄まじい牽引を見せる。神谷啓人、井上拓海、伊東景祐、そして原田應佑がプロトンの最前列に陣取り、激しい雨のなかで凄まじいペースアップを敢行。ライバルたちにも脚を使わせる波状攻撃を仕掛け、逃げ集団とのタイム差を一気に飲み込んでいった。
井上は「タイム差を埋める役割として全力で脚を使いました」と振り返り、伊東も「他校の選手に脚を使わせる走りを意識した」と語る。仲間たちが自らを犠牲にして切り開いた道。その献身に応えるべく、残り1周半、逃げ集団を射程に捉えた勝負どころでエースの渡辺一気が満を持してアタックを放った。

「チームとして勝った」歓喜の独走フィニッシュ 高木秀彰賞とともに掴んだ栄冠
渡辺の鋭い加速に追従できた選手はいなかった。先行していた新宮を捉え、そのまま置き去りにした渡辺は、単独先頭に立ってファイナルラップを独走していく。
後方からは、力を振り絞って粘る新宮颯太、そして「後半に行ける選手が行く作戦だった」と冷静に脚を溜めていた屋口修冶(法政大学)が追撃を試みるが、勢いに乗る渡辺との差は縮まらない。


心臓破りの登坂を力強いダンシングでクリアし、群馬CSCのホームストレートにただ一人姿を現した渡辺一気。背後を振り返り、勝利を確信した渡辺は、両手を天に向かって大きく広げ、歓喜の咆哮とともにフィニッシュラインを駆け抜けた。


7秒遅れの2位には、この日最も勇敢にレースを動かし続けた新宮颯太(日本大学)が入り、ハンドルに突っ伏して悔しさを露わにした。さらに3秒差の3位には屋口修冶(法政大学)が入り、表彰台の一角を射止めた。


フィニッシュエリアでは、ずぶ濡れになりながら渡辺を出迎えた京産大のチームメイトたちが抱き合い、涙と笑顔で栄冠を分かち合った。チーム全員が役割を全うし、手繰り寄せたインカレロード制覇。この日の京都産業大学の戦いぶりは、まさにロードレースがチームスポーツであることを証明するものであり、その走りは高く評価され、大会を通じて最も輝かしい敢闘を見せたチームに贈られる「高木秀彰賞」も京都産業大学へと授与された。



なお、トラック競技とロードレースを合わせた男子総合争い(文部科学大臣杯)は、トラック競技で築いた大量リード(96点)を守り、ロードでも新宮の2位などで18点を加算して合計114点を獲得した日本大学が総合連覇を達成。総合優勝旗を掲げ、大学対抗の頂点に君臨した。



選手・監督インタビュー
優勝:渡辺一気(京都産業大学)
「序盤は逃げに誰も送り込めず、戦略通りにいかずに後手に回ってしまう苦しい展開でした。でも、神谷、井上、伊東、チームのみんなが本当に僕を勝たせるために協力して動いてくれました。ニュートラルの中断中に作戦を再確認し、みんなが前を追ってくれたおかげで、僕は最後の勝負に集中することができました。仲間が作ってくれた最高の流れを、優勝という形で完結させることができて本当に嬉しいです」
2位:新宮颯太(日本大学)
「最初からああいう逃げ切りを狙っていました。自分がいけると思ったタイミングで仕掛けて、残り6周は単独で行こうと決めていました。雨のなか最後まで諦めずに踏み続けましたが、最後の最後で脚がなくなってしまいました。あと一歩届かず本当に悔しいですが、全力を出し切ったレースでした」
3位:屋口修冶(法政大学)
「チームのもともとの作戦として、後半に動くと決めていました。逃げとのタイム差が縮まったタイミングで飛び出しました。前半にチームメイトを前に送り込めない状況ではありましたが、後半行ける人が行くという作戦だったので、自分が行けると思って踏みました。厳しいコンディションのなかで作戦通りに走り、表彰台に乗ることができたのは良かったです」
京都産業大学・秋田監督
「うちにとっては確実にプラスの中断でした。ニュートラルの間に作戦を再整理し、追走役とエース役をより明確化しました。伊東や井上が自らの脚を使い切ってでも前とのタイム差を縮め、渡辺が勝負できる位置まで持っていくという構図が見事に機能しました。エースが、下級生や同級生の必死の頑張りに最高の結果で報いてくれました」
早稲田大学・中田コーチ(渡辺の高校時代の恩師)
「(教え子の走りに)久しぶりに泣きましたね。チームとしてやれたことが本当に素晴らしかった。全員がしっかりと脚を使って、チーム一丸となって勝ち取った見事な勝利でした」
鹿屋体育大学・山口監督
「昨日の女子と同じように、複数人を前に送り込んでレースを進めるところまではプラン通りで良かったのですが、やはり最後の一押しという部分で足りないところがありました。終盤も杉野が単独追走を仕掛けるなど選手たちは積極的に攻めてくれましたが、優勝争いに加わるにはあと一歩届きませんでした」
京都産業大学アシスト陣
- 井上拓海:「タイム差を埋めろという役割を与えられ、全力で脚を使いました。一気が追走集団へブリッジした瞬間、本当にいい展開になったと思いました」
- 神谷啓人:「何回かアタックを仕掛けようとしたのですが、自分の力不足も感じました。この悔しさを糧に、また来年優勝できるように頑張りたいです」
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伊東景祐:「自分たちのペースアップで、他校の選手たちにも脚を使わせるように意識して走りました。
チームの勝利に貢献できて良かったです」
リザルト
男子個人ロードレース(144km / 出走146名 / 完走66名)
1位 渡辺 一気(京都産業大学) 3:44’55”
2位 新宮 颯太(日本大学) +0:00’07”
3位 屋口 修冶(法政大学) +0:00’10”
4位 杉野 翔一(鹿屋体育大学) +0:00’18”
5位 川野 鷹(明星大学) +0:00’21”
6位 髙橋 駿斗(中央大学) +0:00’22”
7位 秋元 碧(明治大学) +0:00’29”
8位 中谷 友紀(日本大学) +0:00’33”
9位 野嵜 然新(明治大学) +0:00’33”
10位 井上 拓海(京都産業大学) +0:00’34”
男子ロード大学対抗成績
1位 京都産業大学 18pt
1位 日本大学 18pt
3位 法政大学 12pt
4位 明星大学 10pt
4位 明治大学 10pt
6位 鹿屋体育大学 9pt
7位 中央大学 7pt
8位 作新学院大学 2pt
8位 日本体育大学 2pt
8位 朝日大学 2pt
男子総合最終成績(文部科学大臣杯)
1位 日本大学 114pt(トラック 96pt / ロード 18pt)※男子総合優勝
2位 法政大学 71pt(トラック 59pt / ロード 12pt)
3位 中央大学 56pt(トラック 49pt / ロード 7pt)
4位 明治大学 50pt(トラック 40pt / ロード 10pt)
5位 京都産業大学 45pt(トラック 27pt / ロード 18pt)
6位 鹿屋体育大学 43pt(トラック 34pt / ロード 9pt)
7位 早稲田大学 34pt(トラック 33pt / ロード 1pt)
8位 朝日大学 19pt(トラック 17pt / ロード 2pt)
高木秀彰賞(男子):京都産業大学
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PROFILE
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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