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「北アルプスの貴婦人」薬師岳と奇跡の鉱石にまどろむ“夢見の湯”|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.20

温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり!下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している小誌の連載、「下山後は湯ったりと」。
『PEAKS 2026年9月号(No.180)』では、玄人好みといわれる「立山・薬師岳縦走路」を歩き、下山後の“山直温泉”は舟橋・立山天然温泉「湯めごこち」へ。

“山直温泉”の記事・情報は
『PEAKS 2026年9月号(No.180)』の
「下山後は湯ったりと」にて!

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)

縦走登山で広がる山の世界

いつかは、あの稜線の先へ。
日帰りでは決して届かぬ、あの山の向こう側へ。
そんな思いや冒険心を叶えてくれるのが、「縦走登山」(以後、縦走)だ。

「縦走:尾根伝いにいくつかの山頂を通って歩くこと」(広辞苑)
山頂を踏まずとも縦走と呼ぶが、その場合は、ロングトレッキングやロングトレイルの旅といったほうがしっくりとくる。ピークハントにこだわらない、北米で人気の山行スタイルだ。

いずれにせよ、日をまたぐ縦走は、日帰りでは到達できない山深いエリアへと足を延ばせ、夜の静寂や朝の光も体感できる。「歩く距離」と「すごす時間」が増えるほど、山の世界がぐっと広がっていく。

▲雲海に浮かぶ剱岳と立山連峰。沈む夕陽が雲に霞む。白馬山荘前より
▲白馬大池の畔、白馬大池山荘テント場での爽やかな朝。
▲夜明け前、後立山連峰の稜線が浮かび上がる。五色ヶ原山荘より。

この連載は日帰り山行が中心だが、夏休み前の今回、北アルプスの稜線を縦走したい。

周知のとおり北アルプスは、名峰ひしめく国内屈指の人気山岳エリア。わかりやすい指標として深田久弥の「日本百名山」を数えてみると15座にものぼる。

日本アルプス「日本百名山」 28座

【北アルプス 15座】
白馬岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳、剱岳、立山、薬師岳、黒部五郎岳、水晶岳、鷲羽岳、槍ヶ岳、穂高岳、常念岳、笠ヶ岳、焼岳、乗鞍岳

【中央アルプス 3座】
木曽駒ヶ岳、空木岳、恵那山

【南アルプス 10座】
甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、鳳凰三山、北岳、間ノ岳、塩見岳、悪沢岳、赤石岳、聖岳、光岳

 

北アルプスの魅力は、名岳峰の宝庫であるとともに、多彩な縦走路をアレンジできる奥深さにもある。地図上でオリジナルの縦走路を計画することも登山の醍醐味のひとつだ。

▲表・パノラマ銀座縦走コース稜線ルートの起点、燕山荘前から眺める燕岳。
▲さまざまな縦走路の拠点、上高地。梓川と雪渓を残す穂高連峰。
▲白馬岳へと続く後立山連峰の稜線。
▲左)中央アルプスの主峰、木曽駒ヶ岳山頂から宝剣岳へと続く縦走路。鞍部の青い屋根は駒ヶ岳頂上山荘。右)日本第二の高峰、南アルプスの盟主、北岳。鞍部の赤い屋根は北岳山荘。中白根山より。

静穏な時間が流れる「立山・薬師岳縦走路」

▲立山(雄山)山頂から見渡す、北アルプス最奥部。「立山・薬師岳縦走路」は、遙か先に槍の穂先をのぞかせる槍ヶ岳へと続いていく。あの稜線の先へ、ここから歩き始める。

今回歩くのは、ダイヤモンドコースの北半分にあたる「立山・薬師岳縦走路」。表銀座や槍穂高縦走といった華やかなメジャーコースとはまた違った趣があり、「玄人好みの静かな道」と評されるルートだ。

女性世界初のエベレスト登頂、七大陸最高峰全登頂など、数々の偉業を成し遂げた田部井淳子さん。彼女は、雪稜や岩峰の登攀だけでなく、登山道を歩く縦走の旅も愛した。
本コースもお気に入りのひとつで、
「室堂周辺のにぎやかさから離れ、薬師岳へと続く静かな稜線へ入っていくときの解放感は、北アルプスのなかでも特に贅沢な時間」
と、映像媒体やインタビューで語っている。

田部井さんの原点は、小学生時代に登った故郷の那須連山(茶臼岳と朝日岳)。里山もこよなく愛し、著書『山を楽しむ』では
「あの広大な山に連なる細い山道に心から感謝の念がおきてくる。山と里と人を結ぶ一本の絆」
と記している。
そんな田部井さんの思いにも心を馳せ、「立山・薬師岳縦走路」を歩くぜいたくな時間に浸ってみたい。

▲左)「夏の北アルプス あぁ絶景! 雲上のアドベンチャー」(出演:田部井淳子、内多勝康 NHKエンタープライズ[DVD])。田部井さんとアナウンサー内多さんの親近感あふれるやりとりのなかに、縦走の魅力と厳しさが散りばめられている。本作品を見て、北アルプスへ向かった人も多いのでは。右)『山を楽しむ』(田部井淳子・著 岩波新書)。山と人、自然に対する田部井さんの温かな眼差しにあふれるエピソード満載。

縦走は旅そのもの。あの稜線の先へ

[1日目 室堂~五色ヶ原]
人々でにぎわう室堂から、雲上の花園へ

立山駅から美女平を経て、立山黒部アルペンルートの最高地点(標高2,450m)、室堂ターミナルへ。建物から一歩外へ踏み出し、ここから縦走の旅が始まる。

▲左)標高475mの立山駅から、最大斜度29度14分という立山ケーブルカーで標高977mの美女平へ。ちなみに31度18分の高尾登山鉄道が斜度全国1位。立山は惜しくも僅差の4位。中)室堂ターミナルの目の前に湧く、立山玉殿の湧水。立山最高峰・雄山直下から湧出する地下水。夏でもひんやり。右)室堂ターミナル内に掲示された最新山岳情報。出発前に要チェック。この日は五色ヶ原山荘の水場枯渇という情報があり、立山玉殿の湧水を多めにいただいた。
▲立山連峰が眼前に聳える、室堂平。観光地としても人気のスポット。

出発後、立山は割愛し、室堂平から浄土山への分岐を曲がる。
田部井さんの言葉を借りれば、室堂のにぎやかさから離れ、薬師岳へと続く静かな稜線、広大な山に連なる細い山道へと入っていく。
向かう人はまばら。途上の歴史や文化にも触れながら、静寂の道をのんびりと歩きたい。

▲「山と自然ネットワーク コンパス」で作成したルートマップ。青ラインが今回のルート。登山計画はもちろん、オリジナルの縦走プラン作成など、机上旅行を楽しむうえでもとても便利。

※立山については「日本三大霊峰の一座、立山登拝|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.9」参照。

ガレ場が続く浄土山を越え、龍王岳、鬼岳の山頂を巻き、獅子岳へ。この先の下りは、つづら折れのザレ場が続き、かなり歩きづらい。景観に目を奪われるが、滑りやすいので慎重に進む。

下り終えると、戦国武将、佐々成政(さっさなりまさ)の「さらさら越え」で知られるザラ峠に出る。徳川家康に支援を求め、厳寒期の北アルプスを踏破した日本登山史上でも快挙といわれる壮絶な山行の舞台だ。

「さらさら越え」のルートは諸説あり、ほぼ直線的に進む「立山ルート」がそのひとつ。富山から立山温泉を抜け、ザラ峠、さらに平の渡(現在の黒部湖)、針ノ木峠を越え、大町へと突き進んだ。

▲左)室堂平から浄土山へと向かう分岐。中)浄土山登山口。ガレ場の登りが始まる。右)山頂への途上、夏毛のライチョウがお出迎え。キッズには会えず。
▲左)浄土山山頂手前。稜線を辿る道は、浄土山山頂から始まる。中)鬼岳東面の下り。眼下に黒部湖。かなりガスってきた。右)獅子岳の下り。ここより上部のつづら折れ区間がとくに滑りやすい。滑落・落石、注意。
▲ザラ峠。写真右(西)側が立山温泉跡方面。「さらさら越え」の「立山ルート」は、多くの区間が現在も道なき道。

ザラ峠から登り返すと、間もなく標高約2,500mの地に広がる雲上の花園、五色ヶ原が迎えてくれる。

五色ヶ原の五色は、諸説あるが、仏教や神道の五色から転じて“多彩な色”を意味する。雪の白、空や池塘の青、溶岩台地の黒や茶、ハイマツなどの緑、そしてなによりも色鮮やかな高山植物の花々、これらが織りなす重層的な色彩美を表現したものだ。こと、色とりどりの花々は数知れない。できれば早着し、高山植物の楽園に癒やされたい。

▲鬼岳東面を越えると、五色ヶ原が前方に広がる。中央やや右の赤い屋根、五色ヶ原山荘が今日の宿。
▲五色ヶ原の短い夏を謳歌する多彩な高山植物。上段左から右に、イワギキョウ、ウサギギク、ハクサンシャクナゲ、シナノオトギリ。下段左から右に、ミヤマアキノキリンソウ、ハクサンチドリ、モミジカラマツ、ミヤマシオガマ。
▲五色ヶ原山荘のテント場。水場(枯渇の場合あり。要確認)、トイレあり。山荘から約10分。
▲五色ヶ原山荘に朝がきた。三代目ご主人の志鷹昌彦さんは五色ヶ原の生き字引で、周辺フィールドの魅力も厳しさもなんでも教えてくれた。昨年から志鷹祐亨(ゆうこう)さんが四代目ご主人となり、昌彦さんの思いを受け継いでいる。

[2日目 五色ヶ原~スゴ乗越]
北アルプスの奥座敷を一望

▲五色ヶ原を朝日が照らし、後立山連峰の稜線が少しずつ浮かび上がる。中央やや左に双耳峰の鹿島槍ヶ岳。左(北)側に五竜岳、右(南)側に尖った針ノ木岳。

朝日に輝く五色ヶ原をあとにし、スゴ乗越へ向かう。今日の行程もアップダウンをいくつか繰り返すが、それもまた縦走の醍醐味。稜線上から見渡す景観とともに、地形の変化も感じながら一歩一歩を楽しむ。

▲山荘を出て、まずは左前方に見える鳶山を目指す。穏やかな朝の高原遊歩。
▲標高を上げ、五色ヶ原山荘が小さくなるにつれ、周囲の全貌が見えてくる。左奥に剱岳、中央に立山連峰。
▲五色ヶ原に点在する池塘。左は唯一、名前のある三日月池。

最初のピーク、鳶山を越えると、北アルプスの奥座敷が眼前に広がる。黒部峡谷を挟んだ先に読売新道が敷かれた稜線が美しい赤牛岳、遙か遠くには播隆上人が開山した槍ヶ岳、さらには同上人再興の笠ヶ岳までもが見渡せる。新たな道を開いた先人たちと、いまの道を守り続ける方々へ、あらためて感謝の思い。

▲鳶山山頂付近から、富山湾、富山平野を見下ろす。
▲目の前に赤牛岳(中央左)、左右の奥に播隆上人ゆかりの槍ヶ岳と笠ヶ岳。新田次郎の小説『槍ヶ岳開山』のさまざまなシーンが頭をよぎる。
▲縦走路に沿うように流れる黒部川。
▲越中沢岳手前から振り返る。鳶山、その右奥に五色ヶ原、立山連峰。頭だけぴょこんと飛び出す剱岳がかわいらしい。

越中沢岳の先、岩ガケにわずかに刻まれた道を抜けると、前方上方にスゴ乗越小屋。上空を見上げると、雲行きが怪しい。早出早着、縦走の基本。少々ペースを上げ、小屋へと向かう。

▲左)空に浮かぶ巨大なレンズ雲。天候下り坂のサインだ。右)越中沢岳山頂。「近くて遠いはスゴの小屋」と道標に書かれたアドバイス。このあと、うなずくことになる……。
▲前方に赤牛岳、中央右奥に笠ヶ岳、延々と連なる北アルプスの山並み。越中沢岳より。
▲左)小指の先で引っ掻いたような最低限の道。自然と共生する先人たちが築いてきた山の高速道路、ありがたい。右)山中にポツンと赤い屋根。見えてからが遠い、スゴ乗越小屋。

スゴ乗越のスゴは、「数合」と書く。かつて芦峅寺(あしくらじ)などの猟師が捕獲したカモシカやクマを数えた場所が、このあたりだった。「数を合わせる」作業を「数合」と呼ぶことから、スゴ乗越と呼ばれるようになったという(諸説あり)。

そんなスゴ乗越小屋では、野菜たっぷりでスパイシーな名物ネパールカレーが待っている。エネルギーを充電させていただき、ゆっくり体を休めたい。

▲左)チベット仏教の祈祷旗「タルチョ」(5色の旗)はためくスゴ乗越小屋。夜には小屋内にランプが灯る。右)スゴ乗越小屋のテント場。トイレは小屋のものを利用。水は小屋で販売。
▲予約のとれない名山岳ガイド・石原智幸さんとツアー中の真板さんと中込さんがネパールカレー充電中。このあと、一行は「ダイヤモンドコース」を全踏破し、上高地へ。また、どこかで!

[3・4日目 スゴ乗越~太郎平~折立]
静穏の道を経て、人々の行き交う太郎平へ

3日目。レンズ雲のお告げのとおり、激しい雨が夜どおし降り続けた。
一夜明け、朝も霧雨。標高3,000m近い北アルプスの稜線、夏でも肌寒い。強風が吹かないことを願いつつ、雨具をまとって歩き始める。

まずめざすのは、標高2,900mの鋭利な岩稜、北薬師岳。ここから眺める「金作谷カール」(北薬師岳から薬師岳にかけて広がる湾曲した東側斜面)は、氷河が作り出した芸術品。国の特別天然記念物にも指定されている。楽しみにしていたが、残念ながらホワイトアウト。日頃の行ないを悔やむ。

▲左)小屋を出て、霧雨のなかへ。右)間山手前で黒部峡谷を見下ろす。沢登り愛好者の憧れの地、上ノ廊下。
▲左)北薬師岳へと続く岩稜帯の稜線。お先、真っ白……。中)「金作谷カール」はいずこ? 北薬師岳山頂、眺望なし。右)薬師岳への道が白く煙る。

真っ白な稜線をひたすら進み、その艶やかでありながら気品ある山容から「北アルプスの貴婦人」と称される薬師岳へ。だが、今日の貴婦人はご機嫌斜め、いっこうに麗しい姿を見せてくれない。

一方、山頂の祠に薬師如来が祀られた本峰は、信仰と慈悲の山でもある。
かつて麓の村の人々は無病息災を願い、鉄の宝剣を携え登拝し、祠に剣を奉納したという。

深田久弥が登った時代は、宝剣の名残があったという。形のよい鉄片を持ち帰り、文鎮として愛用した、と『日本百名山』に記している。

現在、献納された宝剣は影も形もない。だが、薬師岳信仰の思いは脈々と受け継がれている。

薬師如来を祀った祠は1969(昭和44)年の落雷により崩壊するが、薬師堂再建協議会(当時)が結成され、再建。2024(令和6)年6月の開山祭では、太郎平小屋の五十嵐博文さんが中心となり、新たな日光菩薩と月光菩薩が安置された。

▲左)薬師岳絶頂に建つ、薬師堂。ここまでの無事に感謝し、この先の安全を願う。中)本縦走路の最高峰、標高2,926mの薬師岳山頂。眺望皆無。「登頂オメデトウ。下りは浮石に注意してね」の道標に救われる。右)浮石に注意し、白い闇のなかへ。

白い闇に覆われたこの道はいつ終わる……。そんな思いで歩いていると、過去の遭難事故が頭をよぎる。

1963(昭和38)年、悪天候(のちに「三八豪雪」と呼ばれる歴史的な豪雪)により発生した愛知大学山岳部の薬師岳遭難事故。13人の尊い命が奪われた悲劇だ。事後、遭難原因の検証とともに、山岳救助の体制、さらには山小屋の役割など、救助の在り方が多角的に見直される。

本件を契機とし1965(昭和40)年に富山県警に山岳警備隊が結成、翌1966(昭和41)年には日本初の登山条例(登山届提出条例)が富山県で制定された。また、ヘリコプターによる荷揚げの許可がおり、それまで歩荷だけに頼っていた物資輸送が大幅に効率化する。これによって、山小屋のサポート体制もより充実することとなった。

足取りが重くなるが、悲しい事故を繰り返さぬためにも、風化させてはならない。心のなかで合掌し、先を急いだ。

▲左)太郎平小屋に設置された安全祈願の鐘。悲劇が二度と起こらぬよう、鐘を鳴らし祈りたい。中)薬師岳山頂と薬師岳山荘の間、東南尾根の分岐点ピークに建つ、避難小屋とケルン。右)太郎平小屋のご主人五十嵐博文さんの兄、法政大学山岳部出身の五十嵐一晃さんの著書。太郎平小屋と周辺エリアの歴史を記録した貴重な文献。

次の休憩場所に予定している薬師岳山荘が近づくにつれ、少しずつガスが薄れてきた。山荘に着き、小屋前のテーブルでひと休み。名物白玉あんみつで、チャージ満タン! なんとも現金なもので、足取りが一気に軽くなる。来た道を振り返ると、薄い雲間に青い空。ようやく貴婦人が微笑んでくれた。

▲女将の堀井よし子さんと屈強なマスター直孜さん(ご主人)、気は優しくて力持ち&剛脚の「若」こと琢道さん(ご子息)、温かいご家族とスタッフが迎えてくれる薬師岳山荘。
▲左)山荘から薬師岳へと続く優美な稜線。右)薬師岳山荘名物、白玉あんみつ。大人気のありがたい甘味。

薬師岳山荘で元気をいただき、薬師平へ。ここは天空のお花畑……のはずだが、またもやガスに見舞われ、お花畑開店休業。やむなく先へ。

薬師峠を越え、心地よいロケーションに位置する太郎平キャンプ場を横目にさらに進めば、ほどなく本縦走最後の宿、太郎平小屋に到着する。

▲薬師岳山荘から薬師平へと向かう縦走路。再びガス。
▲太郎平キャンプ場。太郎平小屋から約10分。水場、トイレあり。

太郎平は、北アルプス人気スポットのターミナル。黒部五郎岳や三俣蓮華岳、雲ノ平や高天原、水晶岳や野口五郎岳、さらには槍穂高……西銀座や裏銀座を旅する多くの人々が行き交う。アジアの旅でいうと、タイのバンコクのような地か。

往来する人々の熱気に触れ、下界の喧噪がちらついてくる。
ベンチに腰掛け見上げると、目の前にアーベントロート。夕陽に赤く染まった山々と雲、その先にたたずむ祖母岳(ばあだけ)と祖父岳(じいだけ)が目に浮かび、なんだか、ばあちゃん、じいちゃんに「お帰り」と迎えられた思い。

あの稜線の先へと歩き、
「広大な山に連なる細い山道」は、「山と里と人を結ぶ一本の絆」
しみじみとそう感じた。
一礼し、小屋へ。
明日は下山日。山を降りれば、とっておきの山直温泉とキトキト(富山弁で「新鮮」の意)の海の幸が待っている。

▲山では貴重な生ビール片手に、太郎平の夕暮れに和む。
▲早朝の太郎平小屋。前方左に北ノ俣岳。小屋の背後に隠れた太郎山は、朝散歩に爽快なコース。
▲太郎山から見下ろす太郎平小屋。
▲折立へ向かう道。快晴無風、このうえなく心地よい。
▲下山後のごほうび。

貴婦人の余韻に浸り、“夢見の湯”へ

今回の山直温泉は、富山に数ある温泉施設のなかでも、温泉の魅力とホスピタリティにとことんこだわる日帰り専用の入浴施設、舟橋・立山天然温泉「湯めごこち」。

こだわりの源は、無類の温泉好きという支配人島龍大さんの利用者目線あふれる探究心。温泉はもちろん、入浴前後のすごし方にも着目し、施設全体をアレンジしている。

こと注目したいのは、熱することでラドンを放出する「北投石」。これを湯に浸すことで、ドイツで有名な、いわゆるラドン温泉が生まれる。この施設の湯はすべて「北投石」を投入しており、疲労回復、リラックス効果があるという湯が、下山後の体に染みてゆく。
魅力はもちろんこれだけに留まらない。詳細は、『PEAKS 2026年9月号(No.180)』の連載「下山後は湯ったりと」にて。

▲下山後は「湯めごこち」で、“湯ったりと”。登山前の利用にもいい。
▲四季折々、表情を変える露天風呂。木々に囲まれた岩風呂に浸かれば、まさに夢心地。
▲左)一定期間ごとに多彩な趣向を凝らす“楽しみの湯”。中)内湯も広々。左側はジェットバスの寝湯。右)熱することでラドンを放出する「北投石」は、玉川温泉産の貴重なもの(写真提供◉湯めごこち)。
▲左)熱波師によるロウリュウも随時開催するサウナ。サウナストーンで蒸気化したアロマ水が爽快。中)水風呂。露天の脇、サウナ棟前にある。さらにサウナ棟奥に寝椅子エリア。心憎いスムーズな導線。右)岩盤浴にも「北投石」による蒸気が漂う(写真提供◉湯めごこち)。
▲左)畳でゆっくりくつろげる休憩室。ここのほか、趣向を変えた休憩室がいくつもある。全室Wi-Fiあり。中)35年以上のキャリアをもつ料理長が腕をふるう食事処一休庵(写真提供◉湯めごこち)。右)併設する駐車場内の指定スペースで車中泊できるRVパーク。タープやテーブルを車脇に設置してもストレスがない。専用トイレも隣接(写真提供◉湯めごこち)。
▲左)ボディケアやリンパトレナージ、アカスリなど、本格的な施術がうれしい「湯めごこち治療院」(写真提供◉湯めごこち)。中)インストラクターの指導のもと、岩盤の上でヨガやストレッチを行なう「岩盤ヨガ」(女性限定イベント)教室を随時開催(写真提供◉湯めごこち)。右)富山のご当地グルメや特産品が並ぶ土産処「ゆめここ屋」。

山行&温泉data

コースデータ 薬師岳縦走

コース:[1日目/約6.4km]室堂~室堂平~浄土山~獅子岳~ザラ峠~五色ヶ原山荘
[2日目/約6.1km]五色ヶ原山荘~鳶山~越中沢乗越~越中沢岳~スゴ乗越~スゴ乗越小屋
[3日目/約9.1km]スゴ乗越小屋~間山~北薬師岳~薬師岳~避難小屋~薬師岳山荘~薬師峠~太郎平小屋
[4日目/約6.4km]太郎平小屋~太郎山~太郎平~折立
コースタイム:3泊4日(1日目約5時間、2日目約5時間、3日目約6時間、4日目約3時間30分)
標高:2,926m
距離:約30km

下山後のおすすめの温泉 舟橋・立山天然温泉「湯めごこち」

  • 富山県中新川郡舟橋村古海老江256-1
  • TEL.076-464-2600
  • 入浴時間(日帰り):平日10:00~24:00(最終受付23:30)、土日祝9:00~24:00(最終受付23:30)
  • 営業期間:木曜定休(祝日の場合は営業)
  • 入浴料(日帰り):大人¥1,080/小人¥430(3歳未満無料)※会員料金あり(要問い合わせ)
  • 泉質:ナトリウム-塩化物泉
  • アクセス:立山駅周辺駐車場より車で約30分、折立より車で約1時間10分
  • 公式Web:https://www.yumegokochi.co.jp/

記事・情報は
『PEAKS 2026年9月号(No.180)』の「下山後は湯ったりと」にて!

▶「山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記」一覧はこちら

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PROFILE

山本 晃市

PEAKS / 編集者・ライター

山本 晃市

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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