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静謐の湖沼と森をめぐる北八ヶ岳“幻の難所区間”と冷温交代浴に癒やされる「夢幻の湯」|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.21

温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり!下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している小誌の連載、「下山後は湯ったりと」。
『PEAKS 2026年12月号(No.181)』では北八ヶ岳を歩き、下山後の“山直温泉”は奥蓼科温泉郷「渋御殿湯」へ。

“山直温泉”の記事・情報は
『PEAKS 2026年12月号(No.181)』の
「下山後は湯ったりと」にて!

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)

北と南で表情の異なる八ヶ岳

長野県と山梨県にまたがり、南北にいくつもの岳峰を連ねる長大な火山連峰、八ヶ岳。長野県側に位置する夏沢峠を境に「北八ヶ岳(北八ツ)」「南八ヶ岳(南八ツ)」に分けられ、北と南、それぞれ特徴的な表情をもつ。

北八ツは、苔むした森と静謐の湖沼が象徴的な優美な山容。一方、標高2,899mの八ヶ岳主峰赤岳を軸とする南八ツは、猛々しい岩稜帯がひしめく。そんなイメージが強い。

▲写真中央やや左側の鞍部の底が夏沢峠。その左(北)側が北八ヶ岳、右(南)側が南八ヶ岳。

今回歩いたのは、北八ヶ岳。北八ヶ岳ロープウェイ山頂駅前に広がる坪庭が起点。その先、北横岳山頂から大岳へと向かい双子池に出るのだが、この区間がとてもやっかい。というのは、現地の地形を国土地理院の2万5000分の1地形図では正確に読み取ることができないのだ。いわば地形図表現の限界で、個人的な所感だが地図上空白の“幻の難所区間”と呼んでいる。

さて、実際の現地は?
以下、地図と写真を見比べながら“幻の難所区間”をクローズアップし、今回歩いたコースをたどってみたい。

忽然と現れる異空間、坪庭から北横岳へ

今回のルート(下地図の青ライン)に初めて行ったのは、20年ほど前のこと。トレイルランナーの鏑木毅さんとの撮影山行(鏑木さんは走るが、筆者は歩く)だった。

先の難所区間は、地形図で見る限りアップダウンがほぼないので絶好の撮影区間だと考えていた……が、実際に現地に足を踏み入れると、鏑木さんとともにえらく驚くことになる。

とはいえ、地形図から読み取れる現地の地勢と実際のロケーションとのギャップがあまりにも大きく、逆に気に入ってしまった。そんなことから、以後、本コースに友人や家族と何度も訪れることになる。

▲「山と自然ネットワーク コンパス」で作成したルートマップ。登山計画の作成に非常に便利。

起点となる坪庭(つぼにわ)は、ゴツゴツとした奇岩が密集する溶岩台地。まるで別世界にいるかのような異空間だ。ここを散策後、いったん谷に降り、北横岳をめざして登り返す。この間、標高を上げるほど坪庭の全容を目にできる。

▲北八ヶ岳ロープウェイ。標高1,771mの山麓駅(写真左)から約7分で標高2,237mの山頂駅(写真右)へ一気に移動できる。
▲山頂駅前の草原を抜けると、約10万坪という広大な坪庭が現れる。散策路が整備されており、一周30分ほど。
▲坪庭の散策路から北横岳へと向かう分岐。この先(写真左側)、谷に下っていく。
▲写真中央やや上側の植生が変わるラインの下に谷筋が通っている。谷の向こう側に北横岳。
▲左)谷底にかかる小さな橋。右)橋を渡った先、ゴロゴロとした大きな岩場をしばらく進む。
▲岩場を抜けると、樹林帯が始まる。急登が続くので、のんびり歩きたい。
▲急登の登山道のところどころで坪庭を見渡せる。7月中旬、緑に覆われていたが、時期によっては溶岩がゴロゴロと露出する。

けっこうな急登を登り切り、道がなだらかになると北横岳ヒュッテの前に出る。ここから七ッ池に寄ってもいいが、今回はパス。再び急登を登り、標高2,472mの北横岳南峰へ。さらに進めば、ほどなく本ルート最高標高地点、標高2,480mの北横岳山頂だ。

▲左)北横岳ヒュッテ。ヒュッテ前に七ッ池への往復路がある。右)ヒュッテの先、再び急登が始まる。
▲左)北横岳南峰。残念ながら視界ゼロ。右)南峰から北横岳山頂へと続くなだらかな道。
▲左)北横岳山頂。南峰と同様、周囲は真っ白。右)山頂から始まる分岐を東へ下ると亀甲池へ。西に下る(写真)と大岳方面へ。

巨岩のジャングル“幻の難所区間”

北横岳山頂から針葉樹に囲まれた斜面をしばらく下る。そこから先、いよいよ“幻の難所区間”が始まる。

▲北横岳山頂から大岳方面へと向かう下り斜面の登山道。多少ガレているが、ここはまだ歩きやすい。

改めてルートを下の「地形図A」で確認しよう。山頂から急斜面を下り、道が平坦になると大岳山頂への分岐までアップダウンがほぼなくなる。その間、登山道の北西側は、針葉樹の森の斜面。ルート上とその南東側一帯は、起伏の少ない荒れ地。大岳山頂の周囲と南側は岩やガケだらけといった様相だが、ルートからは遠く離れている。

▲「地形図A」(「山と自然ネットワーク コンパス」にて作成)。青ラインが“幻の難所区間”。

実際に歩いてみると……、以下写真のようなロケーションが延々と続く。

▲斜面を下りきったあたりから大きな岩場が出現し、走るどころではない。北八ヶ岳も火山連峰八ヶ岳の一部であることをあらためて認識する。
▲場所によっては巨岩の壁を乗り越えてゆく。この時季、植物が繁茂し、ルートもわかりにくい。岩と岩の間にすき間があり、落とし穴のようになっている箇所もある。かなり危険。
▲巨岩の上に立ち、進路を探る。原野のなかに点在する巨岩をつなぐラビリンスのような岩石帯に緑が覆い、ルートがまったくわからない。明確なのは、前方右側に大岳ということのみ。

こんなところを走ることなど、とうてい無理。折り重なる大きな岩をいくつも乗り越え、場所によっては三点支持が必要。歩くことも、ままならない。大岳周辺の“幻の難所区間”は、まさに巨岩ひしめくジャングルだった。

最先端ツール「全国Q地図」で地形を観察

現在、地形を視覚的に把握するのに非常に便利なツールがある。2020年1月に開設された「全国Q地図」だ。この地図にはさまざまな機能があり、「MPI赤色立体地図」や「CS立体図」「陰影図」「等高線」など多彩なレイヤによる地形を画面上で閲覧できる。また地形の傾き(3D表示)を自由に変更できるので、立体的に地形を観察することも可能だ。

“幻の難所区間”を地形図と「MPI赤色立体地図」で比べてみると、以下になる。

▲左)先ほどの「地形図A」(青ラインが“幻の難所区間”)。右)左図とほぼ同エリアを俯瞰した「MPI赤色立体地図」。起伏を明確に観察できる。

上記の北横岳山頂から大岳分岐までをクローズアップした図、さらに傾斜をつけた図も見比べてみたい。

▲国土地理院地形図をベースとした「山と自然ネットワーク コンパス」の図。青ラインが北横岳から大岳分岐までのルート。
▲上図とほぼ同エリアを俯瞰した「MPI赤色立体地図」。
▲上図に傾きをつけた斜瞰図。左側の北横岳山頂から右斜め上側に延びる白いライン(尾根)が、“幻の難所区間”。俯瞰図に比べ、起伏や傾斜がより明確になる。

「MPI赤色立体地図」の斜瞰図を見ると、凸凹とした突起が断続的に続き、ルート上が岩場だらけであることがよくわかる。地形図で荒れ地や岩、崖の記号で表現されていた難所区間の南東側の台地はザラザラとしており、岩稜帯が広がっていることを表している。また、下りきった先の双子池や亀甲池の描写も特徴的でわかりやすい。

さらに先へ進もう。
大岳分岐から先、“幻の難所区間”後半部分も侮れない。
この区間は象徴的なスポットを写真で紹介したい。

▲左)大岳分岐。写真中央やや左(北)へ降り、双子池へと向かう。写真右側へ進む道は大岳山頂への往復路。右)分岐の先も岩場の下り斜面が続く。
▲左)ときにはこんな巨岩も現れる。右)ほとんど人が入っておらず、道なき道のような区間が多い。
▲天狗の露地。この周辺のみ視界が開け、前方に蓼科山を望める。が、周囲はウィルダネス。
▲八ヶ岳連峰最北に位置する蓼科山。標高2,531m。諏訪富士とも呼ばれる日本百名山の一座。天狗の露地より。
▲天狗の露地から先、再び原野に埋もれる巨岩のラビリンスを進む。

20年前にも「全国Q地図」があったなら……。とはいえ、周辺情報の収集力と地図読みの技量不足で、お気に入りのコースがひとつ増えたと思えば、これはこれでありがたい。

ちなみに「全国Q地図」では、登山コースの下調べのための専用機能を現在作成中とのこと。今後さらに進化した図を閲覧できるのが楽しみだ。

北八ヶ岳ならではの森と湖沼、天国のような草原へ

“幻の難所区間”を抜けると、その先には北八ヶ岳を象徴する穏やかなロケーションが待っている。
山中に散りばめられた美しい湖沼をめぐり、苔むした森に入っていく。森を抜けた先には、穏やかな草原が広がり、登山道に沿って清らかな川が流れている。人に出くわすことがほとんどなく、時間までもがゆっくりと流れているよう。

少しずつ標高を下げ、天国のような区間もやがて終わりを迎える。本コースのゴール地点は、小さな駐車場とバス停のある竜源橋。ここで下界へと帰還する。

▲透き通った水をたたえる双子池雄池。大岳分岐からの下り斜面を抜けると、ロケーションが一変する。
▲双子池雌池。双子池ヒュッテを挟んで、同じような大きさ・形の双子のような池が並ぶ。
▲左)双子池から先、しっとりとした苔の原生林が広がる。右)岩に囲まれた小さな池、亀甲池。
▲左)亀甲池の先、天祥寺原の分岐を北西に向かうと、滝ノ湯川に沿うように敷かれた登山道が始まる。右)登山道のところどころで滝ノ湯川の澄んだ水が顔をのぞかせる。
▲左)クマザサのなかを縫うように走る道。クマ遭遇注意だが、シカに出会うことも。右)かわいらしいシカの親子に遭遇。残念ながらピンボケ。
▲天祥寺原から先、笹原とシラビソの幼木が織りなす別天地に最小限の道が刻まれている。

八ヶ岳の北と南の魅力を凝縮したような本コース、苦あれば楽あり。巨岩のジャングル“幻の難所区間”の先には“天国のような地”が待っている。

冷温交代浴の無限ループに浸る「夢幻の湯」

下山後に向かったのは、標高1,880mの地に湧く天下の霊場「渋御殿湯」。八ヶ岳登山のベースとして利用する登山者はもちろん、温泉通のあいだでも一目置かれている極上の温泉宿だ。

本宿に湧く湯は「渋御殿湯」と「渋長寿湯」のふたつの霊泉。泉温の異なる湯に交互に浸かれば、抜け出すことができなくなり、冷温交代浴の魅力にはまる人多数……。
※温泉の詳細は、『PEAKS 2026年12月号(No.181)』の「下山後は湯ったりと」のコーナーでお楽しみください。

▲天下の霊場、奥蓼科温泉郷「渋御殿湯」。武田信玄の隠し湯としても名高い。
▲宿泊者・部屋休憩利用者のみ入れる「東の湯」の男湯。総檜風呂の3つの浴槽がある。女湯もほぼ同様。日帰り入浴用は「西の湯」(石けんあり)。
▲昭和28年に発見された特殊噴泉「渋長寿湯」。体温よりやや低めの柔らかな湯。
▲「渋御殿湯」。ヒンヤリとした源泉をかけ流す。コップが設置され、流れる源泉の飲用可。
▲「渋御殿湯(上がり湯)」。やや熱めに加温された湯。以上3つの湯を堪能できる。

山行&温泉data

コースデータ 北八ヶ岳

コース:北八ヶ岳ロープウェイ山頂駅~坪庭分岐~北横岳ヒュッテ~北横岳南峰~北横岳~大岳分岐~双子池ヒュッテ~亀甲池~天祥寺原~竜源橋
コースタイム:約6時間
標高:2,480m
距離:約9.5km

※紹介コースは周回ルートではないので、車でアクセスする場合は、北八ヶ岳ロープウェイ駐車場と竜源橋間で回送の手配が必要。バス停があるが、便は少ないので要確認。

下山後のおすすめの温泉 奥蓼科温泉郷「渋御殿湯」

  • 長野県茅野市北山5520ー3
  • TEL.0266-67-2733
  • 入浴時間(日帰り):10:00~15:00(受付14:30ごろまで)
  • 定休日:水曜
  • 入浴料(日帰り):大人¥1,100/小人¥880(幼児¥550)
    ※日帰りは「西の湯」利用。部屋休憩(¥2,750)の場合は「東の湯」も利用可
  • 泉質:単純酸性硫黄泉
  • アクセス:北八ヶ岳ロープウェイ駐車場より車で25分
  • 公式Web:https://www.gotenyu.com/

記事・情報は
『PEAKS 2026年12月号(No.181)』の「下山後は湯ったりと」にて!

▶「山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記」一覧はこちら

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PROFILE

山本 晃市

PEAKS / 編集者・ライター

山本 晃市

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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