
冬を越える|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #64
高橋広平
- 2026年03月16日
先日、地元で新聞記者をしている知人が書いた記事に、今期の上高地の積雪量が例年になく減少しているという内容があった。わさび栽培でも有名で水どころという側面を持つ安曇野界隈、山間部の積雪減少が今後どういった影響を及ぼすのか、地元住民として山岳関係者として、これからも観測していきたいと思う。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
冬を越える
山間部の積雪量は例年になく少なくなっているが、今回はまだ雪の多かったころの3月中旬の話をしようと思う。
春に向かって暖かくなるいっぽう、高山帯はまだまだ降雪もある時期。このときはメスの越冬群の調査のために山に入っていた。季節ごとに私の探索ポイントはいくつかあり、メスの越冬群を観測できるポイントは他のポイントと比べてきつい勾配が多い。言い方を変えると雪崩が起きやすい地形ということだ。夏の登山道がすべて雪の下に埋もれ、覆い隠されている雪の斜面を自分なりに定めているルートに添い、生息域の標高まで黙々と歩を進めていく。
地形を読み、危険地帯を潜り抜けメスの越冬群がいるはずの標高へとりつくと、もともと灰色に染まっていた空からおもむろに大粒の雪が降り始めてきた。降り続けば明くる朝にはそれなりに積もりそうな勢いである。ライチョウ捜索をすぐにでも始めたい欲求をいったん置き、この日の夜を越すための天幕の設営にとりかかる。徐々にカサを増していく雪に少々の嘆息を洩らしながら、ほどよい樹林帯の平らな場所を見定めてザックを下ろす。その後、円を描くように雪を踏み慣らし、自身が動いても沈まないレベルの整地をする。さらに近くの地面をスコップでサイコロ状に切り出し、レンガの要領で交互に積み上げ、即興の暴風壁をこしらえる。そのうえでそこに天幕を貼り、本日の拠点の完成である。
人っ子ひとりいない雪原のなか、いざ探索へ。基本的にはなにもない白い世界のなかで白いバレーボールの球を探すような行為だ。ただ白いと言ってもシアンが混じったような雪の白とアンバー味のあるライチョウのそれとは違いがあるので私のなかでは難しい仕事ではない。基本は視界のとおるところをしらみ潰しに探していく。この日は勘が利いたのかほどなく5羽の埋もれた大福を捕捉するに至った。ひとしきり逢瀬の時間を楽しんだあと、拠点に戻り食事の支度をする。雪を溶かしアルファ米を戻してふりかけをかけて食べるだけなのだが、マイナス20℃級の夜を越すには温かいものが必須だ。
翌朝、天幕の中で目を覚ますと天井がやけに近い。案の定、深々と降り続けた雪が我が家を半分ほどの高さまで埋めていた。バシバシと天井を叩き圧迫していた雪を内側から弾き飛ばす。まだ薄暗いなか天幕のファスナーを開いた先にはスキーヤーならば垂涎の新雪が積もっていた。もっとも私はスキーをやらない(できない)人間なので、こりゃまいったなと深い雪に苦笑いを浮かべていた。
正直、予想以上の積雪になってしまったので、この日は安全を優先して早めに下山する方向で行動を開始した。本来ならば明け方のフォトジェニックな場面を撮りたいところだが、なおも降り続ける雪のせいで朝陽が顔を出す気配がまったくない。前日に群れを撮影するに至っていたのでノルマは達成……と帰路についてまもなく、おそらくは群れのなかの1羽と思しき子が雪の中から顔を出し、たたずんでいた。去り際の一枚と思いファインダーを覗き込み、シャッターを切った。
今回の一枚は、初期の代表作のひとつである「冬を超える」のエピソードである。ダケカンバとシラビソの樹林帯に静かにたたずむ(埋もれる)メスの一枚なのだが、このあとさらに雪の勢いが増し、なかばホワイトアウト寸前のなかを下山することになった。近年は雪が嫌と言うほど降り積もることも少なくなってきた。当時は大変な目にあったと思う反面、降るべきときにはしっかり降ってほしいと切に願う今日このごろである。

今週のアザーカット

私は登壇しませんが、ライチョウ関連イベントのお知らせです。2026年4月11日(土)に岐阜県の高山市文化会館にて「乗鞍岳・中央アルプス ライチョウ報告会」が開催されます。直近の保全活動のことを知れる機会ですので、興味のある方はチェックしてみてください。私もオーディエンスとして参加予定です。
【お知らせ】2026年1月より、月1回の更新になります。引き続き旬のライチョウの姿をお楽しみください!
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PROFILE
PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家
高橋広平
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo




















