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自転車利用環境向上会議in雪国魚沼、次回は福島県いわき市へ——サイクルツーリズムが紡ぐ地域経済循環

2026年9月17日・18日の2日間、新潟県南魚沼市民会館で開かれた「第13回 自転車利用環境向上会議 in 雪国魚沼」は、主催を「ふくしま浜通りサイクルルート推進協議会」に引き継ぎ、2日間の幕を閉じた。2日目は全体会議がスタート。「①サイクルツーリズムを起点とした地域経済循環」「②自転車だけでは語れない交通と安全ー地域社会の豊かさとアクティブ・トラベルを考える」の2つのセッションに続き、2027年に愛媛県で開催される世界的自転車会議を紹介する「Velo-Cityセッション」、そして全国の先進事例を表彰するポスターセッションの表彰式を含むクロージングという構成で、正午過ぎまで議論が交わされた。

雪国だからこそ生まれる4つの実践

全体会議①「サイクルツーリズムを起点とした地域経済循環」は、アクティブトラベル研究所代表・秋田県にかほ市議会議員の本間恵子氏の進行のもと、雪国でサイクルツーリズム関連事業を手がける4名のパネリストが10分ずつ登壇。知床サイクリングサポート代表・西原重雄氏、㈱ライコン代表取締役でジャパンアルプスサイクリングプロジェクト代表の鈴木雷太氏、雪国観光圏DMO代表/㈱いせん代表取締役の井口智裕氏、八海山麓マウンテンバイクパーク代表の五十嵐哲也氏がそれぞれの取り組みを発表した。

北海道・知床の西原氏が紹介したのは「流氷ファットバイク」。オホーツク海を南下してきた流氷が知床半島にぶつかる地形を生かし、流氷の上や浜辺に打ち上がった流氷を自転車で走るツアーだ。水深20〜30cmの浜辺を選んで安全性を確保し、氷上用のスパイクタイヤを装着。マイナス15℃を下回れば中止とするなど独自の基準を設けながら、10年かけてファットバイク10台への投資を回収しつつあるという。

長野県からは鈴木雷太氏が登壇。実行委員長兼プロデューサーを務める「アルプス安曇野センチュリーライド(AACR)」は、2009年に136人でスタートし、来春の開催で25回目、延べ参加者は約35,000人に達する。鈴木氏が強調したのは「運営ではなく経営する」という視点だ。行政の補助に頼らず、1円も赤字を出さないことを大前提に、物価高で参加者が伸び悩む近年は「他責から自責へ」と発想を切り替え、コースの見直しや魅力づくりに取り組んでいるという。

地元・南魚沼の井口智裕氏は、旅館経営とあわせて18年間取り組む「雪国観光圏」の活動を紹介。新潟県5市町村と長野県栄村、群馬県みなかみ町の7市町村を「雪国文化」という一つの物語で束ね、スキー・温泉・織物・コシヒカリといった一見バラバラな地域資源をつなぎ直してきた。自身が手がける旅館「竜言」では、あえて雪を除雪せずに見せる庭や、自転車で20kmの道のりをたどってチェックインする滞在プランなど、「暮らしを体験する旅」の中に自転車を組み込む工夫を語った。

八海山麓マウンテンバイクパーク代表の五十嵐哲也氏は、スキー場のオフシーズン活用とマウンテンバイクによる地域の子どもたちの育成に力を入れる。放課後クラブ活動には現在16人の子どもが参加し、小学校でのMTB授業も展開。パーク来場者は3〜4年前の1,000人未満から2,000人超へと拡大し、全国規模のエンデューロレースも毎年開催されている。ドローン大会など自転車以外のフィールド活用にも意欲を見せた。

官民連携とブランド発信——世界に向けて雪国をどう伝えるか

4名の発表を受け、コメンテーターの高橋幸博氏(㈱アーチ・ヒーロー北海道代表取締役)と宮内忍氏(日本風景街道コミュニティ サイクルツーリズム研究委員会顧問)が質疑を交わした。西原氏には行政との合意形成やヒグマ対策、レンタサイクルの車種構成について、鈴木氏にはAACRのスタート・フィニッシュ地点を2箇所に増やした理由や運営スタッフの集め方について、井口氏には酒蔵巡りサイクルツーリズムの可能性について、五十嵐氏には一般観光客の誘客策について、それぞれ具体的なやり取りが展開された。

井口氏は酒蔵ツーリズムについて「日本酒は衛生管理の厳しさや繁忙期が冬であることから、ワイナリー巡りのようにはいかない」としつつ、「雪国ならではの屋根の形や縦型の信号機など、暮らしの中の違いを見るのに自転車は非常にいい」と、雪国の日常そのものを観光資源とする視点を提示した。

コメンテーターの高橋氏は、ニセコが17年前から海外に向けて発信してきた「JAPOW(ジャパニーズパウダースノー)」というブランドを例に挙げ、地域名を前面に出すのではなく体験そのものをキーワード化して発信することの重要性を指摘。会場には台湾政府交通部の視察団13人が3年連続で訪れていることにも触れ、「なぜ3年も続けて来てもらえるのか。そうしたお客様をしっかりターゲットにしていくことが、大きなホテルのない地域にとっても大事になる」と述べ、来年度の開催地・福島県いわき市への期待も語った。

セッション①の最後に進行の本間恵子氏は、「新しい体験は必ずしも外から持ってくる必要はない。皆さんの日常の暮らしの中にある普通の出来事も、見方を変えれば海外の人にとっては珍しく、面白い体験になる」と総括。そのうえで「雪国というのは決して限られた地域ではなく、多くの地域で雪は降る。今日の話は非常に多くの地域で役立つ内容だったと思う」と結び、セッションを締めくくった。

雪国というハンデを、日常そのものを資源化する発想と、赤字を出さない事業設計によって強みへと転換する——4人の実践者の言葉からは、地域とサイクルツーリズムを長く続けていくための共通した姿勢が浮かび上がった。

自転車だけでは語れない、交通と安全のこれから

続く全体会議②のテーマは「自転車だけでは語れない交通と安全ー地域社会の豊かさとアクティブ・トラベルを考える」。自転車利用環境向上会議(JCC全国委員会)監事の三國千秋氏の進行のもと、金沢大学の南聡一郎講師、京都市の朝山勝人室長がパネリストとして登壇し、湯沢町議会議員の冨沢雅文氏がコメンテーターを務めた。

金沢大学の南聡一郎講師は、フランスの自治体モビリティ政策を紹介。AOM(モビリティ・オーソリティー)による広域交通行政や、都市交通税(財源の約50%弱を占める)を柱とした公共交通財政の仕組み、11の目標を掲げるPDM(モビリティ計画)、住民参加のコンセルタシオン制度、そしてグルノーブルの先進事例を解説した。そのうえで日本への示唆として「広域で考える」「交通モードを一体で考える」「住民参加を初期段階から組み込む」という3つのヒントを提示した。

京都市自転車政策推進室の朝山勝人室長は、「京都市自転車総合計画2031」における位置づけと、Park-PFI(公募設置管理制度)を活用して再整備した大宮交通公園の事例を紹介。再開園後の自転車安全教室は年間約1,500〜1,600名が参加する実績を上げている一方、アクセスの悪さや参加人数の伸び悩みといった課題も明かした。今後の展望として、出張型の安全教室の拡大や、行動評価指標(ルーブリック)を活用した効果検証を挙げた。

自転車の利用促進を交通全体の安全性や地域の豊かさというより広い文脈の中でどう位置づけるか、広域行政・財源・住民参加・都市公園活用といった多角的な視点から議論が交わされたセッションとなった。

世界最大の自転車都市会議「Velo-city」とは何か?

Velo-cityセッションに登壇した(左から)モデレーターの小美野智紀氏、愛媛県庁の熊田翔悟氏、藤田住環境計画の藤田有佑氏

全体会議に続いておこなわれたのが、2027年に愛媛県で開催される世界最大級の自転車都市会議「Velo-city 2027 Ehime」を紹介するセッション「Velo-Cityってなんだ?〜参加者だからわかる『Velo-City2027Ehime』のかかわり方〜」だ。モデレーターを務めたのは、Velo-city 2027 Ehime 実行委員会広報アンバサダーの小美野智紀氏(株式会社ドーコン)。冒頭、小美野氏が「Velo-cityを知っている方?」と会場に問いかけると、参加者の約6割の手が挙がった。

「Velo-cityは『自転車』を冠していますが、単に自転車に乗ることだけがテーマではありません。むしろまちづくりや都市交通、環境、さらには社会的な課題解決までを議論する場です」と小美野氏は説明する。

パネリストとして登壇したのは、2016年の台北大会から参加し続ける自転車まちづくりコンサルの第一人者・藤田有佑氏(藤田住環境計画/自転車物流イノベーション協議会)と、愛媛県庁で同会議の推進を担当する熊田翔悟氏(Velo-city 2027 Ehime 実行委員会事務局)。過去大会を肌で知る2人のリアルな体験談を通じて、Velo-cityの本質が解き明かされていった。

登壇スタイルひとつ取っても、日本の学会とはまるで違う。スピーカーはソファーに深く腰掛け、足を組み、リラックスしたラフな姿勢で登壇する。「演台にパソコンを置いて原稿を読み上げるような発表は通用しません。生きた言葉でダイレクトに対話するのがVelo-city流です」と小美野氏。また、登壇者のジェンダーバランスやダイバーシティも徹底されており、男性だけのセッションは皆無で、女性や車椅子ユーザーが主体的に議論をリードする構成が求められるという。

クロージング——全国の先進事例を表彰したポスターセッション

MVP賞を受賞したふくしま浜通りサイクルルート推進協議会の事務局(福島県観光交流課)

2日間にわたる会議の締めくくりは、全国各地から自治体職員やまちづくり関係者、サイクルツーリズムの担い手たちが先進的な事例をポスター形式で発表する「ポスターセッション」の表彰式だ。参加者の投票や審査を経て選ばれた「MVP賞」「特別賞」、そして自転車利用環境向上会議(JCC全国委員会)の三國成子会長自らが選定した「会長賞」の3組が発表された。

参加者の投票によって決定される最高賞「MVP賞」に輝いたのは、ふくしま浜通りサイクルルート推進協議会による『ナショナルサイクルルート「ふくしま浜通りサイクルルート」』の取り組み。副賞として南魚沼名産のコシヒカリが贈呈された。福島県の沿岸部・浜通り地域を縦断する同ルート(愛称・浜サイ)は、東日本大震災からの復興の歩みと美しい海岸風景、地域の豊かな食や文化を肌で感じられるルートとして、2026年4月に国から「ナショナルサイクルルート(NCR)」の指定を受けたばかり。表彰台に登壇した事務局(福島県観光交流課)の担当者は、「日頃から支えてくださる関係自治体や事業者の皆様のおかげです。今回開催地となった雪国魚沼のゴールデンサイクルルートをはじめ、全国には素晴らしいルートがたくさんありますが、浜サイも負けないくらい魅力的なルートに育っています。ぜひ全国の皆様に浜通りへお越しいただきたいです」と喜びを語った。

特別賞を受賞した中央日本四県サイクルツーリズム事務局のメンバー(右)と三國会長(左)

「特別賞」を受賞したのは、新潟県・長野県・山梨県・静岡県が県境を越えて連携する中央日本四県サイクルツーリズム事務局の『「黄金KAIDOサイクルルート」の取組』。世界遺産に登録された佐渡金山(新潟県)から土肥金山(静岡県)まで、4県に点在する金山遺産や歴史ある街道、塩の道などを自転車でめぐる壮大な広域サイクルルートで、自治体の枠組みを超えたダイナミックな観光連携が高く評価された。事務局を代表して登壇した新潟県観光企画課の菊池氏は、「黄金KAIDOは本州をダイナミックに縦断・横断できる魅力的なルートです。歴史や文化を感じられる旧街道の景観はもちろん、地域のサイクルトレインや広域ツアーとも連携を進めています。4県を一気に走破するのはもちろん、まずはお近くの区間から気軽に走りに来ていただければ嬉しいです」と呼びかけた。

会長賞を受賞した株式会社ドクターペダル代表の松澤氏(右)と三國会長(左)

自転車利用環境向上会議(JCC全国委員会)の三國成子会長が選ぶ「会長賞」には、株式会社ドクターペダルの『地域交通の課題を自転車で解決する ~交通空白時代における地域モビリティの新しい選択肢~』が選ばれた。三國会長は選定理由について、「町の自転車店が減り、直して乗るという仕組みが失われつつあるなか、彼らは『修理』という原点に着目して事業をスタートしました。さらにシェアサイクルやレンタサイクルが抱えるメンテナンスの課題を仕組みとして解決し、そこから地域の交通空白を埋める取り組みへと発展させている。その着眼点と実行力、発想の転換が素晴らしい」と絶賛した。

2021年創業のドクターペダル代表・松澤氏は、「私自身も金融機関や官公庁を経て起業しました。自転車業界の常識に縛られないからこそ、見えてきた課題があります。個人やシェアサイクルの修理からスタートし、自治体のレンタサイクル運営を手がける中で、『観光用レンタサイクルは土日祝日に利用が集中し、平日はほとんど車庫で眠っている(遊休化している)』という現実に直面しました」と創業の経緯を振り返る。その遊休車両を活用して立ち上げたのが、地域住民の日常の移動を支援する新サービス「マチペダル」だ。「地方都市の市役所では夜8時で終バスが終わってしまい、残業をすると帰宅手段がなくなるという『交通空白』が起きています。平日使われていないレンタサイクルを低価格で日常利用として住民に開放すれば、終バス後の移動の足になるかもしれない。自転車ですべてが解決するわけではありませんが、地域交通の隙間を埋める大きな一手になります」(松澤氏)

震災復興のシンボルとして全国へ発信する「ふくしま浜通り」、4県広域で新たなツーリズムを描く「黄金KAIDO」、そして観光用自転車を地域の交通インフラへと再定義する「ドクターペダル」。表彰された3事例はいずれも、自転車を単なる「乗り物」としてではなく「地域の課題を解決し、人をつなぐツール」として捉え直している点が共通していた。

次回は福島県いわき市、ふくしま浜通りサイクルルート推進協議会が主催

表彰式に続いて開催概要のまとめと閉会挨拶がおこなわれ、次期開催地への引き継ぎとして挨拶があった。第14回の開催地は福島県いわき市、主催を務めるのはMVP賞に輝いたばかりの「ふくしま浜通りサイクルルート推進協議会」だ。全体会議①のコメンテーターを務めた高橋幸博氏が触れた通り、福島県いわき市では生きのいいサイクルツーリズムの事業者による起業も相次いでいるという。雪国魚沼での2日間の議論と、全国から集まった現場の知恵・情熱は、それぞれの地域が自らの気候や暮らしを資源として編み直し、次の開催地へとバトンをつないでいく形で幕を閉じた。

第13回 自転車利用環境向上会議 in 雪国魚沼
開催日:2026年9月17日(木)・18日(金)
会場:南魚沼市民会館(新潟県南魚沼市六日町865番地)
主催:湯沢町・南魚沼市・魚沼市連携自転車活用推進協議会

ポスターセッション受賞結果
・MVP賞 ナショナルサイクルルート「ふくしま浜通りサイクルルート」(ふくしま浜通りサイクルルート推進協議会)
・特別賞 「黄金KAIDOサイクルルート」の取組(中央日本四県サイクルツーリズム事務局)
・会長賞 地域交通の課題を自転車で解決する ~交通空白時代における地域モビリティの新しい選択肢~(株式会社ドクターペダル)

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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