
泥深き新会場で茨城CX開幕 山田駿太郎がME1逆転勝利、皆木海音は女子最速タイムでWJ制覇
Bicycle Club編集部
- 2026年09月23日
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2026-27シーズンの国内シクロクロスが東西で一斉に開幕。東日本の幕開けとなった「茨城シクロクロス」は、水戸市の新会場・沢渡川緑地公園で開催された。台風25号による順延と過酷な泥濘、そして残暑の28℃というタフなコンディションの中、男子エリート(ME1)はU23初年度の山田駿太郎(弱虫ペダルサイクリングチーム)が最終周回で劇的な逆転勝利。女子はWJ(女子ジュニア)の皆木海音(AVENTURA CYCLING)がエリート勢を凌駕する女子総合トップタイムで制した。
台風一過の新会場は“底なしの泥” 懸命の復旧作業で迎えた新シーズン開幕
泥や悪路をバイクで駆け抜け、時には担いで障害を乗り越える自転車競技「シクロクロス」。その2026-27シーズンが、いよいよ本格的な幕開けを迎えた。東日本の開幕戦として選ばれたのは、茨城県水戸市のアダストリアみとアリーナに隣接する新会場「沢渡川緑地公園」だ。
しかし、その船出は試練の連続だった。日本列島に接近した台風25号の影響により、当初9月21日(月・祝)に予定されていた第1戦は参加者およびスタッフの安全確保を最優先として中止に。翌22日(火・祝)の単日開催へとスケジュール変更を余儀なくされた。
長雨と増水に見舞われた河川敷コースは、見渡す限りの泥濘と冠水。主催の茨城シクロクロスシリーズは直前まで開催可否を慎重に協議し、当日の早朝からもスタッフ総出で冠水エリアの排水作業やコース補修、レイアウト変更に追われた。
国内シクロクロスを統括するAJOCC(一般社団法人日本シクロクロス競技主催者協会)の影山善明代表理事は、「西日本のもみじシクロクロス、そして東日本の茨城シクロクロスと、東西そろって『あけましておめでとう』ですね」と笑顔を見せる。
今シーズンは役員改選を経た影山体制の3期目のスタート。新体制となった「九州クロス」の発足や新潟での新たなシリーズ立ち上げなど、国内シクロクロス界には新たな広がりも生まれつつある。

新会場となった沢渡川緑地公園は、普段は平坦な芝主体の河川敷だが、雨水を含んだ土壌はタイヤが深々と埋まる「底なしの泥沼」。乗車可能な区間と降車して担ぐ(ランニングする)区間の見極めが勝敗を分ける極めてタフなコースレイアウトとなった。さらに日中は気温が28℃まで上昇し、9月開幕戦特有の「泥と暑さのダブルパンチ」が選手たちの体力を容赦なく奪っていった。

女子カテゴリー:体験企画から飛躍した小田島寛奈、エリートを凌駕した皆木海音
大会のオープニングレースとして行われたWU17(女子アンダー17)、WE2・WE3、MM35の混走レースで、新シーズンの東日本第1号ウイナーとなったのはWU17の小田島寛奈(W.V.OTA)だった。
小田島は昨シーズンの終盤、取手ステージで茨城シクロクロスとBOMAがタイアップして実施したシクロクロス体験企画をきっかけに競技の世界へ飛び込んだ期待の新鋭だ。自転車を購入する前でも本物のCXバイクでレースの雰囲気を体験できる取り組みからステップアップし、本格参戦初戦にして31分46秒8の快走で見事初優勝を飾った。
レース中にはサングラスが破損するアクシデントに見舞われながらも、壊れたアイウェアを片手に握りしめて重い泥を駆け抜けた小田島。「バイクは泥で重くて進まないし、担いで走ったりもして本当に大変でした。でも、すごく楽しかったです!」と、泥だらけの笑顔でシクロクロスの魅力を存分に味わった様子を語った。




女子カテゴリーで会場に最大の衝撃を与えたのが、WJ(女子ジュニア)に出場した皆木海音(AVENTURA CYCLING)だ。
WJは小林碧(AX cyclocross team)とのマッチレースとなったが、皆木は1周目を15分50秒9、2周目を30分16秒1と、極悪コンディションの泥濘の中でもラップタイムの乱れを最小限に抑え、44分53秒4で完勝。小林に1分59秒差をつけて圧勝した。
さらに特筆すべきは、WE1(女子エリート1部)を含む全女子出走者中最速タイムを叩き出したことだ。WE1の優勝タイムはベテラン網野聡美(ウィンディー筑波シクロクロスチーム)の44分56秒2。皆木はこれを2.8秒上回る女子総合トップタイムをマークしてみせた。
乗車率がわずか2〜3割という極限のコンディションの中、勝負を決めたのは皆木の冷静なコースマネジメントだった。
「正直、タイヤのことはまだよく分からないです(笑)。今日はタイヤというより、完全にランニングレースでした。泥がすごく重くて滑るので、どのタイヤを使っても私にはコントロールが難しかったですし、それなら迷わず降りて走った方が速いと判断しました。小林選手がコーナーなどで見えていたので、絶対に離されたくないと思って走り続けました」
次戦の土浦ステージを経て、10月18日からはスイスでのトレーニングキャンプへ参加予定の皆木。シーズン最大のターゲットである全日本選手権(宮城県亘理町)に向け、視界良好の開幕ダッシュを決めた。



なお、WE1は網野聡美が貫禄の走りで優勝。2位に山﨑絵美(ボルケーノレーシング)、3位に浅見直子(SuiMe)、4位に小幡智恵子(みさかサイクル)、5位に根本亜緒(茨城CXレーシングチーム)が入った。WE2は加藤音乃(Hangover)、WE3は小菅由里(オンザロード)がそれぞれ制している。


男子エリート1部(ME1):負傷のベテラン加藤とU23初年の山田駿太郎 最終周回の一騎打ち
西日が傾き始めた16時40分、今大会のメインレースとなるメンズエリート1部(ME1)がスタートを切った。出走は32名、4周回で争われた。
スタート直後から鋭い加速でホールショットを奪い、独走態勢を築いたのはベテラン加藤健悟(臼杵レーシング)。加藤は深い泥をものともせず、1周目にこの日のファステストラップとなる11分06秒8を叩き出し、後続を大きく引き離していく。

この加藤を単独で追いかけたのが、弱虫ペダルサイクリングチームの若きエース、山田駿太郎だった。地元・茨城シクロクロスで育ち、今シーズンからU23カテゴリーへとステップアップした山田。「スタートが結構後ろのグリッドだったので、最初は本当にきつかったです。最後まで追いつけないかもしれないと思いました」と振り返る通り、序盤は加藤とのタイム差が広がっていった。



しかし、レース後半に入ると戦況が動き出す。快調に飛ばしていた加藤だったが、実は完治していない肋骨のヒビを抱えての強行出場。周回を重ねるごとに泥の重みとバイクの振動が患部に響き、痛みを抑えるために走りの切り替えを余儀なくされていた。そしてさらにはメカトラにも悩まされることとなった。
粘り強く前を追い続けた山田は、3周目に入ると目に見えて加藤との差を詰め、ついにテール・トゥ・ノーズのランニングバトルへと持ち込む。互いにバイクを押しながら泥濘を駆け抜ける息詰まるデッドヒート。そして迎えたファイナルラップ、山田が満を持して加藤をパスし、先頭へと躍り出た。


そのままリードを広げた山田は、歓声が響くフィニッシュストレートに単独で姿を現すと、力強いガッツポーズでフィニッシュラインを通過。45分43秒7のタイムで、MU23初年度にしてME1初戦優勝という最高のスタートを切った。
加藤は満身創痍となりながらも最後まで気迫の走りを貫き、1分26秒差の2位でフィニッシュ。3位には47分28秒4でベテラン生田目修(イナーメ信濃山形&大幸ハーネス)が入り、表彰台を確保。過酷を極めたレースながら、出走32名28名がフルラップ完走を果たすという熱い幕切れとなった。





「僕的にはドロドロのレースが大好きなので、本当に楽しかったです!」とゴール後に満面の笑みを見せた山田。「今シーズンはU23初年度なので、まずは全日本選手権で全力を尽くすことが最大の目標です。今後は土浦やワイルドネイチャープラザへの参戦を調整しつつ、海外遠征も視野に入れています」と、学業と競技を両立させながらさらなる高みを目指す決意を語った。
靴下ランから泥沼スタックまで ヘビーマッドが生んだ悲喜こもごも
レース写真だけを見れば、まさに「底なしの沼地」とも表現できる今回の水戸ステージ。バイクもウエアも、そして顔面までもが泥で覆い尽くされるタフなコンディションは、会場のあちこちでシクロクロスならではのドラマを生み出した。
会場を最も驚かせたのは、Grupetto310の文倉慎太郎だ。激しい泥濘の中でシューズのトラブルに見舞われた文倉は、なんとシューズを脱ぎ捨て、靴下ひとつで泥坂を駆け上がる驚異の「ソックスラン」を敢行。泥水に足を沈めながらも笑顔でコースを駆け抜けるその姿は、観客やライバルたちから大きな声援と拍手を浴びていた。


さらに、重泥に足が攣ってしまい泥濘の中で身動きが取れなくなってしまった木田流星(飯能サイクルプロジェクト)や、泥濘で完全にスタックしながらもカメラに向かって絶妙なポーズを決める選手など、過酷な状況であればあるほど参加者たちの“お祭り騒ぎ”のような一体感と笑顔が際立った。
また、レースの合間には表彰台で今秋開催される「雪国オータムクロス」のPRが行われ、エントリーバウチャーが授与されるなど、全国各地のオルガナイザー同士の連携を感じさせる温かい場面もあった。



茨城シクロクロスのオーガナイザーは、会長の影山氏が一手に担っていると思われがちだが、実際には水戸ステージなど県央地区を田辺氏が、次戦土浦ステージなど県南地区を影山氏が担当し、役割を分担しながらシリーズを牽引している。
新会場での開幕戦を見事に仕切った田辺オーガナイザーの奮闘とともに、各地のシリーズでも進む運営の世代交代について、影山氏はこう語る。
「屋外イベントは、実際に開催してみないと経験が積み上がっていきません。思い立ったが吉日。レース運営に少しでも興味が湧いた方は、ぜひ各地の主催者を訪ねてほしいですね」
全日本選手権・亘理町を見据えて 次戦はJCX第1戦・土浦ステージ
レースを終えた選手たちから聞こえてきたのは、過酷なコースへの不満ではなく、極めて前向きな競技的ディスカッションだった。
「あのセクションは無理に乗るべきだったのか、それとも最初からランを選択すべきだったのか」「深い轍のインとアウト、どちらのライン取りが正しかったのか」――。
選手たちがここまでシビアに走りを振り返るのは、今季の全日本選手権が宮城県亘理町で開催されるからに他ならない。亘理のコースは雨が降れば滑りやすい粘土質の斜面が勝敗を分ける。今回の水戸で直面した「乗車と降車の境界線を見極める判断力」は、冬の大一番に向けたこれ以上ない実戦経験となったはずだ。
泥と熱気に包まれた開幕戦を終え、茨城シクロクロスは早くも次戦へと向かう。次戦は国内最高峰の「JCXシリーズ」開幕戦を兼ねる伝統の土浦ステージ(りんりんポート土浦・川口運動公園周辺特設コース)だ。水戸の泥沼を制した若き山田駿太郎や皆木海音がその勢いを維持するのか、あるいは歴戦のトッププロたちが巻き返すのか。いよいよ本格化するシクロクロスシーズンから、今季も目が離せない。
リザルト
ME1
1位 山田 駿太郎(弱虫ペダルサイクリングチーム) 45:43.7
2位 加藤 健悟(臼杵レーシング) +1:26.0
3位 生田目 修(イナーメ信濃山形&大幸ハーネス) +1:44.7
4位 今井 大悟(YAGI-TAI?) +2:15.1
5位 武田 伊織(内房レーシングクラブ) +2:48.3
※出走32名/フルラップ完走28名
WE1
1位 網野 聡美(ウィンディー筑波シクロクロスチーム) 44:56.2
2位 山﨑 絵美(ボルケーノレーシング) +4:03
3位 浅見 直子(SuiMe)
4位 小幡 智恵子(みさかサイクル)
5位 根本 亜緒(茨城CXレーシングチーム)
女子ジュニア(WJ)
1位 皆木 海音(AVENTURA CYCLING) 44:53.4(※女子総合トップタイム)
2位 小林 碧(AX cyclocross team) +1:59.0
女子アンダー17(WU17)
1位 小田島 寛奈(W.V.OTA) 31:46.8
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- 文と写真:井上和隆
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