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流れ流れて下北半島までやって来ました。本州最北端の◯◯をめぐる自転車旅 in 下北半島|アラフォー4人の野遊び日記 vol.19|PEAKS 2026年8月号

どうして下北半島に向かったのか。
どうして本州最北端をめぐる旅に出かけたのか。
紆余曲折の一部始終を、いま、赤裸々に語ろう。

文◉吉澤英晃 Text by Hideaki Yoshizawa
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
取材日:2026年5月13~15日

旅のメンバー

■オオホリ

同年代の業界人。ミヤガミと共に自転車旅を楽しんだひとり。こういう計画が好きらしい

■ミヤガミ

本誌編集長。自転車の性能が優れていたからか、意外と今回の旅を楽しんでいたひとり

■ヨシザワ

記録係。かつて自転車で日本を縦断したことがあるが、長距離サイクリングは数十年ぶり

■ウサミ

山岳カメラマン。無類の温泉好きで、素朴な野湯や雑味のないお湯をこよなく愛する

「もう埒が明かないから、とりあえず出発しよう!」

なぜ下北半島で本州最北端をめぐる自転車旅をすることになったのか。それには旅が始まるまでの一部始終を説明する必要がある。

当初は佐渡島でサイクリングと登山を行なう予定だった。しかし、天気予報の悪化を受けて、企画を立てたオオホリからLINEで行き先変更の旨が伝えられた。

それが出発予定日の2日前。それから意見を出し合って転進先を考えたが、代替案は翌日の正午をすぎても決まらない。結局、天気がもちそうな青森県で、自転車で海から岩木山に向かうシートゥーサミットをすることに決まったのは、夜の19時をすぎてからだった。

そして出発当日。オオホリが勤める会社に全員が集合したが、すぐに出発とはいかなかった。会社の近所で出発前に昼食を食べているとき、ウサミが「この予報で本当に行くの?」と言い出したのだ。

4人ともスマートフォンを取り出してあらためて天気予報を確かめてみると、明日からの2日間、青森県も雨予報に変わっていた。

「遠くまで行っても、結局天気が悪かったら意味がないですね」

ヨシザワの意見にオオホリが顔をしかめながら言葉を重ねる。

「確かにそうだけど、いまから行き先をどこに変えるの?」

するとウサミが別案を口にした。

「下北半島は天気が良さそうだよ。半島で沢登りなんてどうかな?」

しかしそれもオオホリの的を射た意見で却下されることになる。

「いまから装備を取りに帰ったら出発はいつになるのさ。下北半島まで車で10時間かかるみたいだよ。寝ずに沢登りなんてヤダよ」

「天気予報は変わるかもしれないし、岩木山に行ってみようよ」

結局、ミヤガミのこの発言で予定どおり岩木山に向けて出発することになったのだが、それも最終的には覆ることになる。

じつは岩木山は、有料道路と登山リフトを利用すると、わずか45分で頂上に立てる。この事実を知り、何時間もかけて麓から歩いて山頂に向かう行程に価値を見出だせなくなったヨシザワが、別の計画を提案したのだ。それが「本州最北端」をテーマにした旅だった。

当初の案は、本州最北端の岬から本州最北端の山に登る短い行程だった。しかし「達成感がほしい」という声を受けて、旅は本州最北端の駅、JR大湊線「下北駅」から幕を開けることとなった。

自転車4台は大荷物。分解しても車1台に収まらず、ウサミの自家用車も出して2台に分けて移動することにした

夕飯を食べた「紫波SA」。東京から545㎞。下北駅まで残り248㎞。時刻は夜の21時。サバの竜田揚げやトンテキ定食を食べて空腹を満たす
自転車旅初日の天気予報。青森以外、絶望的に天気が悪い
下北駅近くのコインパーキングで旅の準備。せっせと自転車を組み立てる
下北駅前で記念撮影。霧が立ち込めていて、かなり寒かった

本州最北端の駅「下北駅」

JR大湊線の終点は大湊駅だが、地図で見ると下北駅のほうが北にある。ということで、今回の旅はここからスタート!

「せっかく来たんだから、恐山を観光していこう」

昨日までの関東のうだるような暑さはどこへやら。霧が立ち込める下北半島の朝は、半袖でいると腕に鳥肌が立つほど冷えていた。

全員が長袖を着て、寒さに備えて下北駅を出発した。

時刻は7時18分。

最初の目的地は恐山である。

恐山は霊場として有名だが、4人の目的地は本州最北端の湖と思われる「宇曽利山湖」だった。

ゆるやかな登りが続く山中の舗装路を、一列になって自転車を漕いでいく。たまに現れる下り坂では、小鳥の鳴き声も草木の香りもすべてを後ろに置き去りにして、ぐんぐんスピードを上げていく。

丁目石や石仏、湧水などを見つけては立ち止まり、下北半島の最高峰・釜臥山に続く専用道路に立ち入ろうとするなどして、宇曽利山湖には9時すぎに到着した。霧のかかる光景が、見ようによっては毒々しいエメラルドグリーンに染まる宇曽利山湖の景色をいっそう不気味なものに引き立てていた。

下北駅から恐山までは緩やかな登りが連続する
恐山に向かう道中で「丁目石」を発見。江戸時代の年号が掘られていた。一丁=一町で、距離は約100mとのこと
恐山に向かう道中、丁目石のほかに石仏も発見。車道がなかった時代、徒歩で恐山に向うのはかなり大変だったことだろう
山の斜面からコンコンと湧き出る「恐山冷水」。全身に浴びるのは控えて頭だけ身を清める
下北半島の最高峰「釜臥山」に続く道はまさかの通行可能期間外。ゲートに行き先を阻まれてしまった
宇曽利山湖の色は薄緑色。周囲には硫黄の臭いが立ち込めていて、いかにも地獄を連想させる雰囲気だ

本州最北端の湖「宇曽利山湖」

恐山のかつての火口にある巨大な湖。地図の位置関係から本州最北端の湖に勝手に認定。水質はpH値が3.2~3.8という強酸性だが、世界一酸に強い天然のウグイが生息している

じつは「恐山」という山はなく、これはあくまで霊場の名称。信仰の中心には「恐山菩提寺」が建ち、参拝には入山料を払う必要がある。

境内には山門や本堂と肩を並べて、無料で入れる温泉小屋が建っていた。これは、かつてこの地が湯治場だったころの名残であり、古めかしい木枠の浴槽には白濁するお湯が絶え間なく注がれている。

4人もこの湯船に体を沈めて、しばし休憩。ミヤガミとオオホリが時間を区切らなければ、ウサミとヨシザワはここで旅を終えていたかもしれない。それほど気持ちが安らぐお湯だった。

恐山にある三途の川。境内には数々の地獄があり、あの世に来てしまったような感覚に襲われる
恐山の野湯跡。高温の源泉と低温の川水をミックスさせて温度を調整するのが難しい
やっと会えたね、愛しの奪衣婆♡

恐山をあとにした一行は「薬研温泉」に向かって自転車を走らせていた。薬研温泉は本州最北端の温泉ではないが、無料で入れる「かっぱの湯」という野湯があり、温泉好きのウサミたっての希望で立ち寄ることにしたのである。

しかし、到着したかっぱの湯は閑散としていて、緑色のお湯に手を入れたウサミからは「ぬるい」という驚きの声が聞こえてきた。

それでもウサミはパンツの裾をまくり上げて湯船に入り、ジャブジャブと奥のほうへ進んで行く。

「源泉が出ていて、こっちはちょうどいい温度だよ」

ウサミの執念に動かされて、またしても湯船に浸かる4人。旅は温泉めぐりの様相を呈してきた。

薬研温泉にある「かっぱの湯」。無料で入れる混浴の露天風呂が川縁の高台に整備されている

さて、ここで4人は岐路に立たされていた。薬研温泉から本日の最終目的地「大間崎」に向かうには、ルートがふたつあった。ひとつは東の海岸線に出て反時計回りに向かうルート。もうひとつは西の海岸線に出て時計回りに向かうルート。前者のほうが起伏が少ないのでラクに走れると思われたが、ミヤガミだけは起伏が多い後者のルートを頑として譲らなかった。

理由を尋ねられると、ミヤガミは「ラクなルートを選ぶのが自分のなかで許せない」と言う。

その言葉を聞いて3人はキョトンとした顔を浮かべたが、「許せない」と言われたら仕方がない。

しかし、4人にはあまり時間が残されていなかった。時刻は12時23分。大間崎まではまだ40㎞以上もあり、またしてもミヤガミが、今度は大間崎に17時までに到着したいと言うのだ。

再び理由を尋ねられるとミヤガミは、「明るいうちにキャンプ場に着いて、夕食のシーンを撮りたいから」と説明する。

これはこれで仕事だから仕方がない。ただし、ミヤガミの願いを両方叶えることはできなかった。起伏の多い時計回りのルートを選ぶと、17時までに大間崎に到着できる見込みが薄くなる。この現実に渋々といった表情でミヤガミが折れて、結局、反時計回りに大間崎をめざすことにした。

薬研温泉から東の海岸線沿いまでは、地図上では下り基調の道が続くように思われた。しかし現実はそんなに甘くなく、実際にはペダルを漕がないと自転車が止まってしまうほぼ平坦な道が続き、幹線道路に着くころには4人の表情に疲労の色が浮かんでいた。

なかでもひときわ暗い顔をしていたのはヨシザワだった。盛んに「お尻が痛い」と訴えている。理由は定かではないが、ひとりだけ借り物の自転車に乗っていたので、10㎏近くある泊まり装備を背負ったまま硬いサドルに座り続けていることが原因と思われた。

「クッションになるものをサドルに括り付ければいいんじゃない?」

オオホリとウサミの提案を聞いて、ヨシザワがバックパックからツエルトの袋を取り出し、それを手ぬぐいでサドルの上に固定した。

「さっきより痛みがマシになったかもしれません」

しかし、その効果は一時的なものだった。「痛みは軽減されるけど座り心地がかなり悪い」と言い、元の状態に戻すことになったのだ。

それからヨシザワはペースが上がらず、次第に3人から離されていく。大間港に着くころには口数がほぼゼロになり、見るからに意気消沈といったようすだった。

ここから大間崎までは目と鼻の先。スーパーで夕飯の食材を買い、本州最北端のキャンプ場「大間崎テントサイト」には首尾よく17時すぎに到着できた。

ちなみに、このキャンプ場の近くには夕方まで食事を提供しているお店があり、少々遠くはなるが3㎞離れた大間港の周りにも飲食店がある。自炊する必要がないことを4人は買い出しをしてから初めて知ったのだった。

国道279号線沿いで立ち寄った「ちぢり浜」。波による侵食を受けた波食地形が広がり、ポットホールなどに海の生物が暮らしている
アメフラシを見つけたが、これは食べられるのだろうか……。見た目が悪いので、今回はパス!
お尻が痛くて心が折れそう(泣)

「折戸山がゴールってことでいいんじゃないかな」

2日目の朝、本州最北端の岬「大間崎」で記念撮影後、近くで朝から食事を提供している「海峡荘」でマグロ丼をいただいた。

大間と言えば、やっぱりマグロ!
じつは真ダコも名物です

昨日、4人がめぐった主な本州最北端は「湖」「岬」「キャンプ場」。めぼしいところではあと「温泉」と「山」が残っている。

このふたつの目的地はいずれも大間崎から数キロしか離れていない。昨日とは打って変わり、青空が広がった下北半島でサイクリングを楽しみながら、両方とも何事もなく立ち寄ることができた。

本州最北端? の猿を発見!
モーモーモー(今度はゆっくり遊びに来てね)

しかし、最終目的地に定めていた本州最北端の山「折戸山」から下北駅に戻る途中で事件が発生する。最後尾を走っていたヨシザワの姿がまったく見えなくなったのだ。

本州最北端の温泉郷である「下風呂温泉郷」で3人が待つこと数分後。遅れてやってきたヨシザワにオオホリが声をかけると「お尻が痛すぎて、これ以上自転車を漕げません。ここでリタイアします」と、まさかの戦線離脱宣言。

こうして紆余曲折の末に始まった自転車旅は、予想外の大ダメージをヨシザワに与えて幕を閉じることになったのだった。

まだまだあるぞ! 本州最北端の〇〇シリーズ

2日間の自転車旅でめぐった本州最北端をまとめて紹介。思い付きの計画だったが、探すといろいろ見つかった。

「折戸山」

本州最北端の山。標高119m。戦時中の観測所跡がある。山頂に続く登山道はなく、本州最北端のヤブ山でもある

「大間崎」

本州最北端の岬。水平線の向こうに北海道の陸地が確認できる。夜になると函館の街明かりが煌々と灯っていた

「ポスト」

大間崎の物産店の前で本州最北端のポストを発見。近くには本州最北端の理髪店もあり、探し出すと切りがない

「下風呂温泉郷」

本州最北端の温泉郷。室町時代から続く名湯で、足湯や源泉かけ流しの日帰り入浴施設、鉄道の史跡も楽しめる

「おおま温泉海峡保養センター」

地図上で見つけた、おそらく本州最北端の温泉。浴場がとても広く、大きな湯船で塩味がする温泉を楽しめる

「大間崎テントサイト」

本州最北端のキャンプ場。海は見えないが、無料で利用可能。キャンプサイトは火気厳禁で、自炊棟が建っている

「スナック」

大間港の街中に本州最北端のスナックが入るビルを発見。「もっと元気があるときに再訪しよう」(ヨシザワ)

※この記事はPEAKS[2026年8月号 No.179]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
※最新の情報を直接ご確認の上ご計画ください。

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