
はじめてのテント泊登山 計画から実践まで(中編)|PEAKS 2026年9月号
PEAKS 編集部
- 2026年09月18日
INDEX
この記事は「はじめてのテント泊登山 計画から実践まで」全3回のうちの中編(フィールド実践編①パッキング〜設営)です。前編(山行計画編)はこちら、今後公開予定の後編(フィールド実践編②食事〜撤収)もあわせてご覧ください。前編では、山岳ガイド・杉本龍郎さんとともに、どんな一泊にしたいかを起点にテント泊のスタイルを選び、行動時間や標高差、天気判断まで山行計画の立て方を学びました。
写真◉加戸昭太郎 Photo by Shotaro Kato
文◉福瀧智子 Text by Tomoko Fukutaki
イラスト◉マエハラシオリ Illustration by Shiori Maehara
フィールド実践編
全装備を背負い、いざフィールド実践へ!山を知り尽くしたガイドに導かれながら、戸惑いながらもふたりが楽しそうにテント泊の基本所作をテント場で学んでいく。
抜き打ち! 出発前にちょっと確認
杉本さんの装備チェック

準備万端、いざ出発!……のその前に。事前にふたりに渡した装備リストをもとに、それぞれが用意してきた全装備を杉本さんが抜き打ちチェック。
「必要なものは人や山行によって変わりますが、“本当に使うか”を考えることが大切。おわかりのとおりすべて背負って歩くので、ひとつひとつの重さが足腰にかかるわけです」
大きな問題はなかったものの、傘や本、トランプなどは余裕があればの嗜好品扱い、バッテリー式扇風機は気温や使用時間に対して重量のデメリットが大きく、置いていくことに。快適さを足すほど荷物は増える。初めてのテント泊では、楽しみと負担のバランスを見極めることも重要だ。
吉野さんの見直しアイテム
△ 余裕があれば

テント場に水があり、下から担ぐ必要はないので水は△。本やトランプは嗜好品のため、テント泊に慣れてからにしよう
杉本さん「もって行きたくなる気持ちはわかります。本当に必要か?を考えるクセをつけましょう」
下田さんの見直しアイテム
△ 余裕があれば

× 不要

「持っていくなら晴雨兼用傘は折りたたみ式を選び、ドライシャンプーも必要量だけ小分けにしましょう」。バッテリー式扇風機や小さくならない座布団は、重さと収納性の面から、テント泊登山では不要との診断に。
TIME LINE テント泊当日の流れ 登山口到着から就寝まで
8:00 登山口到着
トイレ、登山届、装備、パックのフィッティングを確認
8:30 出発
歩き始めはゆっくり。重い荷物に体を慣らす
9:30~12:00 行動・休憩
小休止と大休憩を使い分け、水分と行動食をこまめに補給
14:00 テント場到着
受付、水場、トイレを確認し、張る場所を選ぶ
14:30 テント設営
地面、風向き、入口の向き、ペグ、張り綱を確認
15:00 テント内を整える
寝具、バックパック、靴、小物の定位置を決める。必要に応じて着替えなど
16:00 水の確保
夕食・朝食・翌日分の水を明るいうちに用意しておく
16:30 夕食準備・食事
火器の扱い、風や換気、片づけに注意
18:00 山の夜を楽しむ
温かい飲み物、読書、会話、景色を楽しむ。声と光は控えめに
19:30 翌朝準備
翌日の天気、起床時間、明日の行程を確認しておく
20:00~21:00 就寝
防寒と小物の定位置を整えて、早めに休む
STEP1 パッキングの基本
どこになにを入れる?
衣食住を背負うテント泊装備は重くかさばる。パックのどこになにを入れるかで背負いやすさ、歩きやすさが大きく変わることを知っておこう。「基本は重いものを背中側へ寄せ、寝袋など軽く大きいものはパックの下部へ。雨具や防寒着など行動中に使うものは取り出しやすい場所に入れますが、雨天時はドライバッグ(防水袋)に入れて防水処理をしておくとより安心」と杉本さん。荷物を安定させて正しく背負うことが、長時間歩行での疲労の蓄積も抑えてくれる。今回はミレー「サースフェー NX50+」で実演する。
パック内をゾーン別に考える
パッキングは重さ、使用頻度、防水性を考えてゾーン別に整理するのが基本。荷物の定位置を決めることで、背負い心地が安定し、歩行中もテント場でも迷わず取り出せるようになる。

A 雨蓋内 行動食・地図・ヘッドランプなど

地図、行動食、手ぬぐい、日焼け止め、虫よけ、サングラス、トイレセット、ヘッドランプなど使用頻度の高い小物類
B パック上段 レインウエア・水筒・防寒具など

レインウエア、防寒着、ボトルなど、使用頻度が高く、また雨蓋には入らないサイズのものはパック上段に収納する
C パック中段 食料・調理器具・ファーストエイドなど

パック中段には、重さとかさがある食料、クッカー・火器類、カトラリー、ファーストエイドなどを収めよう
D パック表側 フリース・シートなど

「パッキング最後に表側へフリースやシートを入れることで、パックの形がキレイに決まる」とこだわりの杉本さん
E パック底部 テント・寝袋・着替えなど

テント場のみで使うものを下段に。今回のパックは底部が独立した2気室構造で、雨天時のテント撤収も収納が速やか
STEP2 パックのフィッティング
重い荷物を負担少なく背負う
「テント泊装備のような重い荷物を快適に長時間背負うには、パックを自分の体に正しくフィッティングすることが欠かせません」。ウエストベルトで腰骨に荷重の大部分を預けることで肩への負担が大きく減り、長い時間や距離を歩いても疲れにくくなる。さらにショルダーストラップやスタビライザーを適切に調整し、荷物を体に密着させることで歩行中や岩場・クサリ場などでの横揺れが抑えられ、体幹が安定。姿勢も保ちやすくなり、つまずきや転倒のリスク軽減にもつながる。荷物が体の一部のように感じられることが、正しいフィッティングの最大のメリットだ。

フィッティング手順
①腰で荷重を受ける

すべてのストラップをいったん緩め、パックを背負ってウエストベルトを腰骨の上へ。腰骨を包み込むように強く締め、荷重の大部分を腰で受ける。
②ショルダーを引き寄せる

両肩のショルダーベルトを下に引き、パックを背中に密着させる。「締めすぎると肩まわりが凝るので、隙間をなくす程度に」と杉本さん
③上部を軽く引き寄せる

パック上部の補助ベルト(スタビライザー)を軽く引き、荷物を体側へ寄せる。強く締めすぎず、上部の横ブレを抑える程度でOK。
④胸元を安定させる

最後に胸を圧迫しない程度に軽くチェストベルトを締め、ショルダーベルトのズレを防ぐ。バストに当たる場合はベルトの上下位置も調整しよう。
STEP3 パックの背負い方・下ろし方
重い荷物は慎重に
テント泊の荷物を詰めたパックは、日帰りや小屋泊とは重さも大きさも別物だ。春や秋、夏の高所ではさらに防寒着や寝具の厚みも増し、総重量が15kgを超えることもある。実際に歩いている最中は休憩のたびに何度もパックを背負い直すため、力任せの上げ下ろしは禁物。「前かがみのまま重いパックを力だけで持ち上げると、腰や関節を痛める原因になります」と杉本さん。中腰の状態での上げ下ろしは腰椎や肩、腕に大きな負荷がかかるため、正解はいったんヒザ(太もも)を台座にしてパックをのせ、足の筋肉を使って重さを支える背負い方・下ろし方。背負う、下ろすを安全に繰り返すことも、テント泊登山の大切な技術のひとつだ。
力任せの背負い方は、腕や背中の小さな筋肉をフル稼働させて疲れる一方。バランスも崩しやすく、よろけたり転倒するなどの二次トラブルにもつながります。
背負うとき

台座となる脚の近くにいったんパックを置く。深く沈み込み、体に引き寄せるように持ち上げる。
下ろすとき

上体を起こしたままショルダーから腕を抜き、ヒザに置く準備。前かがみになりすぎないように
一旦ヒザの上にのせてから

台座として太ももを経由させることで、腕や腰にかかる負担を軽減。
STEP4 登り下りの歩き方
小さく、ゆっくり
15kgを超えることもあるテント泊装備を背負っていると、平坦な場所が少ない登山道で荷物の重さや振られる力をいかにコントロールし、足腰への負担を抑えるかが歩き方のカギになる。理想は、骨盤の上にパックの荷重をのせ、体と荷物を一本の軸のように保って歩くこと。足元ばかり見ず3 ~ 5m先へ目線を向けるだけで、背筋が伸びて荷重が腰にのりやすい。また着地はつま先やかかとだけに頼らず、足裏全体で地面を踏む。靴のグリップを活かせて滑りにくくなるメリットも得られる。小さな歩幅でゆっくり進もう。
NGな動き
大股で歩くと荷物が上下左右に揺れ、体勢を崩したり、膝や太ももへの衝撃が増して疲労が早まる。猫背のように下を向いた前傾姿勢は、首や背中に負担がかかり、肺も圧迫されて呼吸が浅くなりやすい。また下り斜面を怖がってへっぴり腰になると足裏全体で地面を捉えにくく、靴のグリップが効かずスリップや転倒の原因になるので注意。

大股で歩かない。

下を向いて歩かない。

下りは後傾にならない。
OKな動き
段差では足をギリギリまで寄せ、真上に立ち上がるように登ると、お尻や裏ももの大きな筋肉を使いやすく疲労を抑えられる。下りはスピードを出さず小股で歩くことで、着地時のブレーキや膝への衝撃を軽減。上体を起こして下ろう。トレッキングポールは体を支えるだけでなく、後ろへ押し出すように使うと、腕の力も推進力に変えられる。

段差ギリギリまで足を寄せる。

下りは速度を抑え小股で歩く。

トレッキングポールは前へ進む力にする。
STEP5 大休憩ではパックを下ろす
短時間でも身体を緩める。
疲れているときほど「パックを下ろすのも、また背負うのも面倒……」と、そのまま立って休んでしまいがち。だが、これは完全に逆効果だと知っておこう。重いパックを背負ったままでは、胸や肩、背中が圧迫され、呼吸も血流も妨げられやすい。下ろすことで肺が広がって深い呼吸がしやすくなり、筋肉に溜まった疲労物質の分解が早まる効果も。体から荷物を切り離すことで身体の緊張がゆるみ、体幹も休ませることができる。さらに背中の汗を乾かせば、休憩中の汗冷え予防にもつながる。しっかり休むなら、面倒でもパックを下ろすこと。手間以上に、回復の効果は大きい。

STEP6 テント場の見極め
どこへ張るのが正解?
テント場に着いたら、まず受付を済ませて設営場所を探す。ここで理解しておきたいのは、テント場はたんに寝る場所ではなく、身体をしっかり休めるための場所だということ。「寝心地のいい場所を選ぶことは、翌日も元気に歩くための体力回復につながります」と杉本さん。平らで落ち着ける場所なら睡眠の質が上がり、水はけや風の影響を考えた場所なら悪天候時のリスクも減らせる。さらにトイレや水場との距離、まわりのテントとの距離感なども、テント生活の快適性や利便性に関わってくる。こうした条件のよい“一等地”を確保する最大の秘訣は、できるだけ早い時間に到着すること。設営や水の確保、夕食準備まで考え、14時ごろまでを目安に余裕をもってテント場へ入りたい。
到着したらまずは受付へ

テント場に着いたら、まずは受付を済ませよう。幕営料の支払い、利用ルールや設営場所の確認に加え、クマ出没や悪天候など、ネットでは把握できないリアルな最新情報の入手にもつながる。
どんな場所を選ぶ?
○フラットで水はけ良好

平らで水はけのよい場所は、設営しやすく雨天時も浸水やぬかるみを防ぎやすい。雨水が集まる窪地は避けたい。
×斜面は避ける

斜面では寝ているあいだに体が低いほうへずれ、熟睡できないことがある。やむを得ない場合は足元側にパックを置いて調整を。
△木の根の凹凸も避ける

木の根や石の上にテントを張ると、マット越しでも寝心地が悪いばかりか、テント生地破損の原因にもなるので注意しよう。
△頭上にも注意する

テントの布一枚では、落枝や落石の衝撃は防げない。枯れ木や大きな枝の下、急斜面脇を避け、設営前に頭上も確認しておこう。
寝心地を左右する整地


小石や枝を取り除く30秒の整地で寝心地と安心感は大きく変わる。テント底の傷みやエアマットのパンク、浸水リスクを防ごう。テントを固定する前に中で横になってみると不快な凹凸がよくわかる。
STEP7 テント設営のポイント
「安全な家」を維持するために
山のテント場でテントを「正しく張る」ことが重要なのは、山の天気が一瞬で変化し、設営の甘さがテントの破損や倒壊、低体温などのリスクにつながるからだ。突風や強風に備えてたるみなく立てることはもちろん、外側のフライシートと内側のインナーテントが接しないようピンと張り、隙間を作ることが大切。これによって雨の浸入を防ぎ、水を弾いて換気を促す効果がある。早朝から歩いてきた疲れもあって、手を抜きそうになる山でのテント設営だが、「これくらいでいいや」という妥協が夜中のパニックを生む。くたびれていても、ペグや張り綱まで確実に固定することが、結果的に自分をいちばんラクにしてくれる。就寝前には夜間のバタつきや揺れを抑えるため張り綱のたるみを確認し、必要に応じて張り直しておくといい。今回はアライテント「SLソロ」で実演。
ペグは角度をつけて打つ
ペグはテントと逆方向へ斜めに打つと抜けにくい。硬い地面では石で確実に打ち込む。

張り綱はしっかり張る
張り綱を四方に張ることでテント全体の強度が増し、強風時の倒壊やバタつきを防げる。

フライシート下に空間を確保
フライとインナーの間に空気の層を作る。接触を防ぎ、雨水や結露の移りを抑える。

ベンチレーションを開ける
通気口を開けて湿気を逃がす。結露を防ぐため、寒い夜や雨の日でも少し開けておく。

フライシートはたるませない
フライはシワなく張ることで風を受け流し、雨水も溜まりにくい。防水・耐風性を保つ。

STEP8 テント内の定位置づくり
明るいうちに整えておく
テントの中はただ寝る場所ではなく、山でひと晩をすごすための、いわば“小さなコックピット”だ。限られたスペースだからこそ、寝袋、着替え、防寒着、ヘッドランプ、翌朝使うものなどの定位置を決めておきたい。必要な道具を暗闇でもすぐ取り出せることは、夜間のトラブルや体調不良への備えにもなる。また、濡れた靴や泥のついた道具は前室へ、濡らしたくないものはテント内へ。荷物を壁際に並べることで外からの冷気を和らげ、寝袋やマットを濡らさず保ちやすくなる。何度もテント泊をするうち自分の最適解が見つかる。整理整頓しておけば夜も落ち着いてすごせ、翌朝の撤収もスムーズだ。

散らかっていると夜間のもの探しも大変。必要なものの定位置を決め、つねに整理整頓しておくと実用的です。サンダルは靴下のまま足入れができ、つま先を保護できるタイプがオススメ。
雨天時は……

濡らしたくないものはザックカバーに包んでおく。

寝袋はシュラフカバーで覆い水濡れを防ぐ。

靴はビニール袋に入れてテント内に移動。
※この記事はPEAKS[2026年9月号 No.180]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
※最新の情報を直接ご確認の上ご計画ください。
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写真◉加戸昭太郎 Photo by Shotaro Kato
文◉福瀧智子 Text by Tomoko Fukutaki
イラスト◉マエハラシオリ Illustration by Shiori Maehara
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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