
知られざるヨーロピアンクラックをめぐる旅へ。スイス、ティチーノ地方へ行く|筆とまなざし#476
成瀬洋平
- 2026年10月02日
スイス南部、イタリアにほど近いティチーノの谷へ
カダレゼで数日登ったあと、この旅でぜひ登ってみたいと思っていたルートにトライするためにスイスのティチーノ地方へ出かけた。クロード村から車でおよそ2時間。スイスといってもオッソラの谷から山をひとつ隔てた谷であり、アルプスの主稜線よりずっと南に位置するため地理的にはイタリアといったほうが適当に思える。
山のなかの、ところによっては車一台しか通れないほどの狭く曲がった峠道を走る。点在する石造りの家々がかわいらしい。小さな村にも素朴な教会が必ずある。石造りのそれらはこの土地で生活を営む人々と自然との折り合いによって形作られた風景である。
最近のトポ(クライミングのルート集)には岩場駐車場のQRコードが載っているので便利。間違うことなくたどり着くことができた。
駐車場といってもヘアピンカーブの路肩にある空き地である。訪れる人もさほど多くはない岩場なのだろう。アプローチは明瞭で、10分とかからずに目当ての岩に到着した。
「FRATANGER」は極上のクラックルート
140度に前傾したすっきりとした壁に一本のハンドサイズのクラックが伸びている。そのクラックは上部で途切れ、左に細いクラックとなって岩棚の上の終了点へと導かれる。核心は一目瞭然で、ハンドクラックが途切れた部分だろう。長さは15メートルと短い。適当なアップルートがないので入念にストレッチして取り付いた。短く見えたクラックも、取り付きから見上げると途方もなく長く感じる。
問題ないと思っていたハンドクラックは予想より広くて消耗した。核心のムーブはほぼ予想通りだったが、それまでの疲労で遠い一手が出せずにフォール。ムーブを確認して地面に降りた。
岩場は西面なので午前中は日が当たらないが、午後になると気温が上がってきた。暑くなる前の2回目のトライで登ることができた。
ルートの名前は「FRATANGER」。ティチーノはどちらかといえばボルダリングで有名で、周りのルートもほとんどがボルトルート。クラックは数えるほどしかない。そんなティチーノの谷に隠されたいクラックは、世界中どこにあっても第一級の極上の一本だった。
知られざるヨーロピアンクラックをめぐる旅はまだ続く。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。

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